八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

アメリカのダム撤去

2011年9月21日

 米国では、1990年代に「ダム建設の時代は終わった」として、河川行政はダム撤去を大きな目標に掲げるようになりました。

 これまで米国では、1,000基近くのダムが撤去されてきましたが、それらは撤去が容易な比較的小型のダムでした。現在、ワシントン州で始まったエルワダムとグラインズキャニオンダムの撤去は、これまでに例のない大規模な試みであることから内外から関心を集めており、国内では毎日ニュースが流れているとのことです。

 ナショナル・ジオグラフィック日本語版に簡潔なレポートが掲載されています。↓
 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110902-00000001-natiogeo-int

 わが国でも、川辺川ダムの反対運動でダム問題への関心が高い熊本県で、荒瀬ダム(球磨川)の撤去が来年の春に始まります。ダム撤去はダム建設に匹敵する技術が求められ、土木業界からも注目されています。地域を破壊するダム建設から、地域を再生するダム撤去へ、時代は大きく動いています。

 荒瀬ダムと川辺川ダムの現場から、両国のダム撤去の最新情報がブログで発信されています。

 エルワ川の二つのダム撤去、カウントダウン
 http://kumagawa-yatusirokai.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-5873.html

 荒瀬ダムの撤去まで、あと7カ月
 http://kumagawa-yatusirokai.cocolog-nifty.com/blog/

 未来を目指して動き出しているこれらのケースとくらべた時、半世紀以上前のダム計画にがんじがらめになっている利根川流域(首都圏)の前時代性が浮き彫りになります。八ッ場ダム事業が続く限り、水没予定地の人々の苦悩、地元と下流域住民の対立の構図、行政への不信が消えることはありません。

*「アメリカのダム撤去」続報です。

2011年9月27日  提供:ナショナルジオグラフィック
http://news.ameba.jp/20110927-376/

 -米最大のダム撤去計画、解体作業始まるー

 アメリカ西海岸、ワシントン州のオリンピック半島を流れるエルワ川で、アメリカ史上最大規模のダム撤去工事がいよいよ始まった。エルワダムとグラインズキャニオンダムは、いずれも地元の製紙工場への電力供給を目的として建設されたが、現在は役目を終えている。

 撤去計画は河川流域の生態系回復に主眼が置かれており、政府をはじめ各界の有力者からも支持を受けている。投入資金は総額およそ3億5100万ドル(約270億円)。今後3年をかけてエルワ川の河口近くのダム2基を撤去し、100年ぶりにサケの遡上を復活させる。

 アメリカ国内には現在8万基のダムが存在する。その多くは老朽化している上、ダム湖底に堆積する大量の沈泥のため、本来の役割を急速に失いつつある。さらに、エルワ川をはじめ魚道が未整備のダムが、魚の遡上をシャットアウトしているケースもある。今回の撤去作業直前にカウントしてみたところ、ダムの手前にいたサケはわずか72匹だった。もちろん、そこから上流へ遡ることはできない。

 環境保護を唱える人々は、ダムを撤去してさまざまな種類のサケが遡上するようになれば、内陸部にまで豊富な栄養分がもたらされ、豊かな自然環境が戻ると期待している。

 エルワダムが建設されたのは1913年。以前から先住民が暮らす一帯は、「あまりに多くのサケが遡上したため、群れの上を歩いて対岸まで渡ることができた」という言い伝えが残っている。ダム解体着工を祝い、先住民たちが伝統の踊りを披露する催しが開かれ、政府高官やワシントン州選出の上下院議員をはじめ、ワシントン州知事、俳優、元プロスポーツ選手など、そうそうたる顔ぶれが集まった。

 ワシントン州に拠点を置くNGO「アメリカンリバーズ」の代表ボブ・アービン氏は席上で次のように語った。「四半世紀前にダムの撤去を訴えたときは、急進的な環境保護主義者の常軌を逸した考えとしてまともに取り合ってはもらえなかった。だが今や時代の流れは変わった。川の本来の姿を取り戻すことが、自然環境はもちろん我々の生活にとってもどれほど大切か、人々は気付き始めたのだ」。

 1927年建設のグラインズキャニオンダムは、エルワダムよりも十数キロ上流に位置し、堤高は約64メートル。エルワダムに先行して沈泥の除去作業が始まっている。

 2つのダムを同時に撤去すると、川の流速が急激に増して、長い年月をかけてダム湖に堆積した1800万立方メートルを超す大量の沈泥が流れ出すおそれがある。

 「Los Angeles Times」紙が伝える専門家の話では、川がかつての姿を取り戻すまでに30年程度かかるという。しかし、それが実現すれば、再びサケの遡上に賑わう光景が復活するだろう。現在エルワ川で産卵するサケは約3000匹と推定され、範囲も上流部の10キロ足らずに限られている。30年後にはオリンピック国立公園を流れる約100キロで、30万匹ものサケが泳ぎ回ると期待されている。

 アービン氏らは、今回の撤去が契機となって、アメリカ国内にある他のダムでも同様のプロジェクトが進むことを願っている。最近では学者や一般市民からも支持する声は増えてきているが、資金調達は依然として困難だという。

 エルワ川の事例でも、議会がダム撤去を承認してから予算の割り当てと事業計画の策定が実現するまでに、20年もの歳月が費やされた。ダム撤去を支持する動きは今後さらに加速すると予想されるが、この問題点を解決しない限り計画実現は難航することになるだろう。

Brian Clark Howard for National Geographic news

(写真)撤去作業が始まったワシントン州のエルワダム。 Photograph by Mark Johnson