八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

都議会民主党より八ッ場ダム見直しに関する申し入れ

 八ッ場ダム計画には59年の歴史があります。この間、ダム推進の大義名分となってきたのが東京を中心とした都市の水不足でした。ところが、時代状況の変化により首都圏は水余りとなり、特に東京都の水余りは顕著です。
 こうしたダム事業の実態が検証されることなく、過大な水需要予測に基づいたダム必要論が東京都からは繰り返し発信されていますが、これに対してこのほど、都議会民主党から前原政調会長に対して、「八ッ場ダム建設の見直しに関する申し入れ」が行われました。
 http://www.togikai-minsyuto.jp/news/post_465.html
 
 都議会では、2009年の選挙で民主党が初めて第一党となりましたが、その後、民主党議員の離脱があり、与野党勢力は拮抗しています。
 八ッ場ダムの関係都県の知事はすべて自民党の支持を受けており、各県議会はどこも自民党が圧倒的多数を維持していますので、民主党政権追い落としのための「ダム推進の大合唱」という状況です。その中で、唯一、「八ッ場ダム反対」の声が大きいのが都議会です(*)。今回の都議会民主党の申し入れは、過大な水需要予測に基づいた東京都の「ダム推進」の主張が実態にそぐわず、民意を反映したものではないことを示しています。
*現在、都議会議員数は125名。民主党50名、与党の自民党38名、公明党23名、その他、共産党8名、生活者ネット3名、無所属系3名となっています。

 都議会民主党のホームページより、申し入れ書全文を転載します。

 平成23年9月26日

民主党政策調査会長 前 原 誠 司 殿
                                 
都議会民主党幹事長  山下 太郎
都議会民主党政策調査会長 酒井 大史

 八ツ場ダム建設の見直しに関する申し入れ

 一昨年8月の総選挙において、政権交代の原動力となった我が党のマニフェストは、様々な毀誉褒貶があるが、その中で打ち出された「無駄な公共事業の削減」の原則と、その代表的な事例としての「八ツ場ダム建設中止」の方針は、些かの揺るぎもなく的確で妥当なものである。

 八ツ場ダムは、利根川流域の治水面で他の施策に比べ効果がほとんどなく、利水面では関係6都県の水余りのため必要がなく、吾妻川流域の発電量を大幅に減少させ、脆弱な地質である周辺地域の地滑り等の災害の危険性を高める、まさに不要な事業の典型である。

 我々は、ダムの建設を求める側の主張の内容、理由、根拠についても誠実に調査、分析しているが、残念ながら納得しうるものが示されていない。

 その典型が、去る9月13日、「八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場」において、国土交通省関東地方整備局から示された検証結果の案である。

 関東地方整備局、関係6都県、関係市町村という「八ッ場ダム建設の事業者」によって行われたこの検証は、「予断を持たずに」客観的・科学的に検証を行うはずであったものが、実際には、検証の前提となる水需要の過大な予測が見直されていない、八ツ場ダムによる治水効果が過大評価されている、静岡県の富士川河口部から導水するなど現実性のない代替案と比較している、など極めて不誠実な、検証の名に値しないものであった。

 本来、まず利水について、各利水予定者が八ッ場ダムに求めている水量が本当に妥当なのか、その根拠となる水需要の予測が実績や実態を踏まえたものであるかどうかを検証しなければならない。ところが、今回の作業では、この水需要予測の妥当性については全く検証が行われず、各利水予定者が要求する水量をそのまま積み上げ、その水量を確保するための利水代替案と比較することのみが行われた。

 東京都においては、都全体の水道の一日最大配水量は1992年度からほぼ減少の一途を辿り、92年度の617万?から2010年度には490万?になり、18年間に127万?、二割も減っている。都は水需要の急速な減少により、今は大量の余裕水源を抱えるようになっている。これは節水型機器の普及などにより、一人当たりの水量が減少してきたからであり、節水型機器の普及はこれからも続き、人口も今後減少していく見込みであることから、今後も増加傾向に転ずることは考え難い。

 ところが、東京都水道局は、2010年度に一日最大配水量が600万?まで増えるという、実績を全く無視した架空の予測を行っている。この架空の予測を見直せば、新規の水源を求める必要はなくなり、当然、八ッ場ダムは利水面で不要であると判断されるはずである。

 この東京都の予測は2003年12月に行ったもので、使用データ自体は1986年~2000年までの25年~10年以上前のものであり、最近の水需要実績データに基づいて予測のやり直しを行えば、予測値が大きく低下することは必至である。

 ところが、昨年6月には東京都水道の水需要予測のやり直しを求める請願が都議会で可決されたにもかかわらず、東京都水道局は都議会の判断を無視し、未だに古い過大な予測に固執している。都議会民主党は、東京都に対し、直ちに最新の水需要予測の結果を採用することを要求し続けている。

 今回の国土交通省関東地方整備局の検証も、都のこうした過大な水需要予測を基にした利水要求を前提にしているのである。

 今回示された利水代替案も非現実的なもので、その一つは静岡県の富士川河口部から導水することを中心とする案である。富士川から東京まで導水するという壮大なこの代替案の場合、費用は1兆3千億円にもなった。このような案との比較で八ッ場ダムが最適だと説明されても、比較すること自体が空しいと言わざるを得ない。

 八ッ場ダムが大渇水が来た時のために必要だという意見も説得力がない。八ッ場ダムは、渇水が起こることがある夏期は利水容量が2500万?しかなく、完成しても利根川水系ダム全体の夏期利水容量は僅か5%程度しか増えない。渇水時の状況は、八ッ場ダムが建設されてもさほど改善されない。

 また、今回の検証において、治水面でも八ッ場ダム案が代替案より費用が格段に安く最適案だとされているが、これも、八ッ場ダムの治水効果を従来の数字より大幅に大きくしたことによるものであり、恣意的な評価であると言わざるを得ない。

 更に、電力供給に関しては、八ッ場ダムに群馬県営の発電所が併設されるため、電力事情を改善するためにも八ッ場ダムが必要だとの意見があるが、これも、重要な前提を見落とした誤った認識である。

 ダム建設予定の吾妻川には、流れ込み式の水力発電所が古くから数多くあり発電が行われている。八ツ場ダムができると、ダムに水を貯めるために、現在、水力発電所に送られている水の大半を吾妻川に戻さなければならず、発電量が大幅に減少する。この減少量は年平均22,400万kW時になるとの試算がある。そのため、国交省は東京電力に数百億円といわれる減電補償金を支払うことが必要である。

これに対し、八ッ場ダム併設の発電所の計画発電量は年平均4,100万kW時であり、失われる発電量の約5分の1に過ぎない。

ここに改めて、民主党政権が、八ツ場ダム建設事業の是非について、ダムの建設主体ではなく第三者による真に客観的・科学的な、利水面、治水面をはじめとする総合的な検証を実施し、最終的な判断を下すことを要請する。 以上

—転載終わり—

 以下、関連記事です。

◆2011年9月26日 朝日新聞政治面
http://www.asahi.com/politics/update/0926/TKY201109260555.html

 建設の是非について国土交通省関東地方整備局で検証が進んでいる八ツ場(やんば)ダム(群馬県)について、前田武志国土交通相は26日、馬淵澄夫氏と大畠章宏氏の歴代国交相が今秋までに建設するかどうかを決めるとしてきたことについて、「それは前任者までの話。東日本大震災を踏まえ、なるべく早く結論を出したい」と述べ、判断の時期がずれ込む可能性を示唆した。10月の早い時期に現地を視察する方針も明らかにした。

 石原慎太郎・東京都知事や大沢正明・群馬県知事らからダムの早期完成の申し入れを受けた後、記者団の質問に答えた。また、都議会民主党は同日、八ツ場ダムを「不要な事業の典型」と指摘。建設主体の同省関東地方整備局ではなく、第三者が検証するよう前原誠司政調会長に申し入れた。