長野県の浅川ダムは、八ッ場ダムと同様、ダム予定地の地質が問題視されてきたダム事業です。
田中康夫知事の「脱ダム宣言」で中止が決まった浅川ダムは、自民党が支持した村井知事の登場により復活し、昨年3月、本体工事に着工しました。昨夏の知事選で民主党の支援を受けた現在の阿部知事も浅川ダムを見直すことはなく、9月13日にはコンクリート打設が始まりましたが、ここにきてようやく本格的な地質調査を行うことになりました。
関連記事を転載します。
◆2011年10月1日 信濃毎日新聞社説
http://www.shinmai.co.jp/news/20111001/KT110930ETI090009000.html
-浅川断層調査 阿部県政が試されるー
阿部守一知事が、建設の進む県営浅川ダム直下にある断層について掘削調査を行う方針を明らかにした。
建設地は地滑り地帯と断層に囲まれている。地震でダムが壊れるのでは、といった安全性を疑問視する声は強い。公金支出の差し止めを求める住民訴訟も起きている。
住民の不安に応えようとする姿勢は評価できる。本来なら、工事を始める前にやっておくべき調査である。形式的な内容で終わらせてはならない。透明度の高い検証作業にし、住民への説明を尽くすことが求められる。
ダム本体の下にある断層は、浅川の流れに沿って西側を走っている。調査は上流の断層で実施し、建設に支障がある活断層かどうかを判断する。県は、専門家による現場確認と評価を経て、今月下旬にも結果を公表する。
専門家の顔触れが一つのポイントになる。浅川ダムの建設を容認してきた識者を起用すれば、これまでの検証結果の追認にとどまる可能性が高まる。客観的に判断できるメンバーを選び、会合はすべて公開するべきだ。
浅川ダム計画は、田中康夫元知事の「脱ダム宣言」で2002年に中止された。同知事が組織した「治水・利水ダム等検討委員会」は、ダムを造るのなら地質の再調査が必要と指摘していた。が、村井仁前知事は07年、新たな調査は行わないまま「穴あきダム」の建設に踏み切った。
阿部知事は、昨年の知事選で「安全性と経緯を自分自身で把握し判断する」と述べていた。にもかかわらず、やはり再調査はせず、就任3カ月足らずで建設継続を決めた。県政を安定させるため、推進派が多数を占める県会に配慮したのだろう。
掘削調査を決めたのは、東日本大震災が発生し、地震や安全性に対する県民の意識が高まったためという。二転三転してきたダム問題に、阿部県政としてどう臨むのか。ようやくスタート地点に立ったと言っていい。
県はこれまで、住民の再三にわたる再調査の要請に応じてこなかった。不信感をぬぐうには、情報公開を徹底し、説明責任を果たすほかない。
さまざまな意見に耳を傾け、丁寧に合意形成を図る手法は、リニア中央新幹線の建設、県短大の四年制化など、他の課題への対応にも欠かせない。
既定路線にとらわれず、阿部知事らしい県政を敷いていけるか。姿勢が試される。
◆2011年9月30日 中日新聞長野版
http://www.chunichi.co.jp/article/nagano/20110930/CK2011093002000122.html
-断層掘削調査に着手 浅川ダム建設現場ー
県議会9月定例会は29日、一般質問3日目の質疑を行い、7氏が登壇した。県営浅川ダム事業(長野市)の建設現場で断層が露出した問題で、阿部守一知事は安全性を再確認するために掘削調査を行っていることを明らかにした。ダム建設に支障はないとの立場だが「不安を感じている方もいる」と説明し、専門家に確認してもらった上で10月下旬をめどに結果を公表する意向だ。
露出したのは「F-V断層」と呼ばれ、1999年に見つかった。県建設部はその後の調査で「ダム建設に支障となる活断層ではない」と結論付けている。
石坂氏は「安全性の検証をしないまま建設を進めていいのかと、不安と疑問がある」とただした。これに対し阿部知事は、東日本大震災の発生にも触れ「着工後も基礎岩盤や断層などについて安全性を確認しているが、説明責任を果たすために安全性の再確認を行う」と述べた。
県建設部によると、掘削による調査は中立性や客観性を確保するため、浅川ダム計画に携わったことがない専門家に依頼する。結果の報告では、工事中に撮影した断層の写真なども公開する方針だ。
ダム事業は昨年3月から本体工事が始まり、今月中旬からはダム本体にコンクリートを流し込むなど工事が本格化している。この断層をめぐっては、建設中止を求めて住民訴訟を起こしている市民団体が8月末、詳細調査の実施を目的に長野地裁に証拠保全を申請。地裁は、コンクリート工事が始まる前の今月上旬に現地視察を行っている。 (妹尾聡太)
(写真)浅川ダム建設現場で露出した「F-V断層」。右上から左下にかけて断層面が線のように走っている=長野市で