今夏の台風による甚大な被害は、ダムに偏重した河川行政、防災対策が最近急増している集中豪雨に対抗できていないことを露呈しました。
以下の記事では、ダムでは防げない都市型水害を取り上げています。
◆2011年9月30日 日本経済新聞
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-豪雨対策、費用との闘い 都は540億円で巨大地下貯水池ー
地域再生 震災が問う(4)
今夏の台風12、15号の豪雨で全国各地で避難指示・勧告が出たのは記憶に新しい。名古屋市は人口の半数近い109万人が対象になり、川沿いの20ヘクタールが浸水した。東京では今夏、避難指示・勧告こそ出なかったが、8月26日の大雨で127棟の浸水と48カ所の道路冠水被害が発生した。土木工事に膨大な費用と時間をかけても都市型水害は根絶できない。
■都、貯水に540億円
(写真)8月26日の大雨で冠水した羽田空港トンネル(東京都大田区)
杉並、中野の両区に延びる「和田弥生幹線」と呼ぶ大トンネルがある。といっても自動車道ではない。神田川周辺の地下50メートルにある直径8.5メートル、長さ2.2キロメートルのコンクリート管。大雨で下水道からあふれた水をためておく施設だ。都が総事業費540億円と16年の歳月をかけて2007年に完成した。
「都市型水害を防ぐには、地下を利用するしかない」。元都の下水道局長で、現在は下水道を管理運営する東京都下水道サービスの前田正博社長はこう話す。農地の宅地化が進んだ1970年代後半から「神田川は立て続けに暴れるようになった」。河川周辺の用地を確保できず、河川の幅を広げる治水対策は難しい。
このため雨水をためる調整池を公園の下に造ったり、地下にトンネルを掘ったりし始めた。現在、これらの施設は東京の地下に約500カ所あり、合計でおよそ東京ドーム1杯分ほど雨水をためられるという。
だが、これだけの地下施設を整備してもゲリラ豪雨にはかなわない。2005年9月の台風では23区内の約6000棟が浸水。07年9月には台風で世田谷区などで避難勧告が出て39棟が浸水した。
都によると、地下施設を備えて1時間あたり50ミリの降雨に耐えられる地域は、都内全域の62%にとどまる。都はこの割合を毎年1%ずつ高めているが、このペースでは100%にするのに40年かかる。費用は毎年約250億円が必要になる見通しだ。1時間50ミリを超えるゲリラ豪雨も増えており費用対効果をつかみにくい。どこまで洪水対策に費用をかけるか都は悩む。
■大阪、ダムを断念
防災対策に巨費を投じられる自治体は少ない。各地の自治体はある程度の洪水被害は避けられないとみて、いかに費用を軽減するかに軸足を置き始めた。
大阪府は1月、108億円かかる槙尾川ダム(和泉市)の建設を中止し、80億円程度に抑えられる河川改修に切り替える方針を打ち出した。河川改修だけでは、「30年に1度の雨」とされる1時間65ミリの大雨が降った場合、川沿いの1キロメートルにわたって民家が床下浸水する。それでも府は「守るものは守るが、ある程度の被害はやむを得ない」との認識を表明。これまでの「一滴も水をあふれさせない」という治水対策の発想を大きく転換した。
洪水が発生した場合の避難対策として民間に協力を求める自治体も相次いでいる。熊本県と熊本市などは市中心部の老舗デパートや商業ビルを「避難ビル」に指定し、川が氾濫したときの買い物客や観光客の避難場所にする。千葉県市川市はショッピングセンターと、洪水発生時に避難拠点とする協定を結んだ。
異常気象による豪雨が増えるなかでは、堤防や貯水トンネルの設備だけに依存することはかえって危険ともいえる。日ごろの避難訓練など住民の理解や積極的な協力を得られるかが防災のカギを握る。