八ッ場ダム検証に関するパブリックコメント

2011年11月4日

 国土交通省関東地方整備局は八ッ場ダム検証(「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」)に関するパブリックコメント(パブコメ)の募集を本日締め切りました。

 同局のホームページには、昨日11月3日現在のパブコメを整理したものがアップされています。↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000046087.pdf

 八ッ場あしたの会が本日送付したパブコメを以下に転載します。

●【全体意見】ー「予断を持った恣意的な検証」
 民主党政権におけるダム検証は、国交省の「今後の治水のあり方を考える有識者会議」の中間とりまとめ(2010年9月27日)の冒頭にあるように、
「我が国は、現在、人口減少、少子高齢化、莫大な財政赤字という、三つの大きな不安要因に直面しており、このような我が国の現状を踏まえれば、税金の使い道を大きく変えていかなければならないという認識のもと」、『できるだけダムにたよらない治水』への政策転換を進める」ことが目的とされている。しかし、これまでに行われてきた関東地方整備局による検証は、科学性、客観性が著しく欠如しており、国民の期待を大きく裏切るものである。
 今回の検証では、八ッ場ダムによってもたらされる自然や景観、地域の破壊といった負の側面が取り上げられておらず、地すべり等の危険性についての検証も極めて不十分なものである。
 八ッ場ダム事業を進めてきた関東地方整備局が検討主体となっている今回の検証は、当初からその客観性に疑問が投げかけられてきた。そうした中で、危惧されたように予断を持った恣意的な検証が行われたことは、同局に対する国民の一層の不信を増すものでしかない。

●「利水予定者の水需給計画を容認」(第4章3 p4-78)
 東京都をはじめとする利水予定者は、現実と乖離した水需給計画に基づいて八ッ場ダムによって開発される予定の水量が必要だと主張している。
 八ッ場ダム事業における利水の検証では、水需要の実態と東京都などの予測が大きく乖離していることを踏まえ、各利水予定者の水需給計画を審査しなければならないはずである。ところが、今回の検証では、関東地方整備局は利水予定者の水需給計画をそのまま容認して、その要求水量を確保する利水代替案との比較しか行なっていない。検証の中で水需給計画について行ったことは、水道施設設計指針など、水需給計画の作成の元になった指針・計画に沿っているかどうかの確認だけであり、利水の必要性についての本来の検証は全く行われていない。

●「水需要の実績と乖離した予測を容認」(第4章3 p4-79~121)
 東京都水道の一日最大配水量は1992年度 617万?/日から減少の一途を辿り、2010年度には490万?/日まで低下している。ところが、都の予測では2010年度600万?/日へと大きく増加することになっている。
 このような架空予測から八ッ場ダムの必要量が算出されているが、今回の検証作業ではこの架空予測がそのまま容認されている。

●「利水予定者の保有水源の意図的な過小評価を容認」(第4章3 p4-79~121)
 東京都など各利水予定者は保有水源を過小評価しているが、今回の検証ではこうした問題がそのまま容認されている。たとえば、東京都は多摩地域の地下水約40万?/日を正規の水道水源としてカウントしていない。
 多摩地域の地下水は水道で実際に長年使われてきたもので、今後とも利用可能な水源であるが、都の水需給計画では保有水源から落とされている。地下水は地域住民にとって安全で良質な水源であり、地盤沈下がおさまっている現状では、地下水を切り捨てる水政策は改める必要があるが、今回の検証ではこの点についての検証が一切行われていない。

●「現実性のない利水代替案との比較」(第4章3 p4-156~160、178)
 八ッ場ダムの開発水量は22.209?/秒(日量192万?)であるが、今回の検証作業ではその必要性を検証することなく、八ッ場ダムと同じ水量を確保するための四つの非現実的な利水代替案との比較で八ッ場ダムが最適だという結論に至っている。利水代替案の中には静岡県の富士川河口部から導水することを中心とする案まであるが、富士川から利根川までの導水は現実にはあり得ない話である。この利水代替案の費用は八ッ場ダムの約20倍にもなっており、八ッ場ダム案が有利という結論に導くための予断を持った検証と受け止めざるをえない。

●「過大な目標洪水流量の設定(1)」(第4章2 p4-9~10)
 治水対策案は、河川整備計画で想定している治水安全度と同程度の目標を達成することを基本として立案することになっている。利根川水系では河川整備計画が未策定であるので、今回の検証で関東地方整備局は河川整備計画相当の目標流量を17,000?/秒(八斗島地点)とした。しかし、この値は八斗島地点の洪水流量の実績と比べると、著しく過大である。利根川の最近60年間の最大観測流量は1998年の9,220?/秒(ダム調節量を加算した推定流量は9,960?/秒)であり、17,000?/秒はその1.7~1.8倍にもなる。

●「過大な目標洪水流量の設定(2)」(第4章2 p4-9~10)
 利根川水系河川整備計画の策定作業が開始された2006~08年度の段階(その後、理由不明のまま、策定作業を中断)で関東地方整備局が示した目標洪水流量(八斗島地点)は50年に1回の洪水であって、河道対応流量は13,000?/秒であった。今回の検証では目標洪水流量が70~80年に1回の洪水に引き上げられて17,000?/秒になり、河道対応流量は14,000?/秒となった。2006~08年度段階の目標洪水流量は当時の公開資料には記されていないが、当時の委託調査報告書では約15,000?/秒と書かれており、今回の目標洪水流量は約2,000?/秒も引き上げられたことになる。この目標洪水流量の引き上げによって、治水における八ッ場ダムの必要性が強調されているのであるが、その科学的根拠は明らかにされていない。

●「過大な目標洪水流量の設定(3)」(第4章2 p4-9~10)
 今回の検証では利根川の目標洪水流量(八斗島地点)17,000?/秒、河道対応流量14,000?/秒で、その差3000?/秒を調節するため、既設ダム、八ッ場ダム、ダム事業再編、烏川河道内調節地の4点が示されている。しかし、利根川水系河川整備計画の策定作業が開始された2006~08年度の段階で関東地方整備局が示した案では、同じ4点による調節量は約2,000?/秒であった(約2000?/秒の根拠は前述のとおり)。なぜ、同じ4点による洪水調節であるのに、調節量が約2,000?/秒から3,000?/秒へ増えるのか、その科学的根拠が示されていない。

●「八ッ場ダムの治水効果の過大評価」(第4章2 p4-20~21)
 今回の検証で示された八ッ場ダムの治水効果は、従来の値より格段に大きい数字であるが、その科学的根拠が示されていない。治水代替案の費用が跳ね上がるように、八ッ場ダムの効果を大きく引き上げるという数字の意図的な操作が行われたと考えられる。
 従来、八ッ場ダムの削減効果は基本高水流量22,000?/秒(八斗島地点)に対して平均600?/秒とされてきた。22,000?/秒に対する削減率は2.7%である。ところが、今回の検証では、八斗島地点17,000?/秒に対する八ッ場ダムの削減効果が平均1,176?/秒と、削減率は6.9%になり、従来の2.7%の2.6倍にもなっている。
 このように今まで関東地方整備局が公表してきた数字が大きく変わったのであるが、従来の八ッ場ダムの効果の数字は何であったのか、なぜ今回、数字が大きく変わったのかについての説明は皆無である。

●「治水計画の数字の操作」(第4章2p4-71~74)
八ッ場ダムの治水効果を従来の値よりはるかに大きくしたことにより、八ッ場ダムに代わる治水代替案は費用が嵩んで、八ッ場ダムよりはるかに高額となり、八ッ場ダムが最適案として選択されるという結論に至っている。八ッ場ダムの治水残事業費700億円に対して、代替案の中で最小の費用は河道掘削案の1,700億円であり、八ッ場ダム案より1,000億円も高くなっている。
 なお、支出済みの費用も含めた八ッ場ダムの治水分の全事業費は約2,400億円であり、四つの代替案の費用はいずれもそれを下回っている。このことは、八ッ場ダム計画を策定する前段階で関東地方整備局が他の治水代替案を真摯に検討していれば、八ッ場ダムが治水上必要なかったことを物語っている。

●「河川法の規定を逸脱」(第4章2p4-71~74)
 今回の検証によって利根川水系河川整備計画の内容が定められつつある。しかし、河川整備計画の策定は関係住民の意見を聴くなど、入念な手続きを踏むことが河川法により定められている。
 実際、利根川河川整備計画の策定作業が開始された2006年度の段階では、その手続きが始められていた。ところが、その後、理由不明のまま、策定作業が中断され、今回の検証で関東地方整備局の判断だけで整備計画の内容が決められようしている。今回の意見聴取は八ッ場ダムに関してだけの形式的なものであり、河川法が求める入念な手続きとは異質のものである。関東地方整備局が河川法の規定を逸脱して、必要な手続きを踏むことなく利根川水系河川整備計画の内容を決めることは看過できない問題である。

●「流水の正常な機能の維持の検証の虚構(1)」(第4章4 p4-212~215)
 八ッ場ダムの目的の一つである「流水の正常な機能の維持」とは、吾妻川の流量を毎秒2.4?以上に維持するためのものである。吾妻川の晴天時の流量が現在、少ないのは、東京電力の松谷発電所が流量のほとんどを取水しているからである。
 2012年3月末に松谷発電所は水利権の更新時期を迎える。近年は発電用水利権の「ガイドライン」(「発電水利権の期間更新時における河川維持流量の確保について」建設省河川局)により、水利権更新の際に河川維持流量の放流が義務づけられるようになっているので、2012年度以降は松谷発電所の水利権更新に伴って、吾妻川の晴天時の流量が増加することになる。ガイドラインの維持流量の数字には幅があるが、通常はその最大値が使われるので、松谷発電所は取水堰から2.1?/秒の河川維持流量の放流が義務付けられようになる。これにより、現在の吾妻川の減水状態は解消されるので、八ッ場ダムの「流水の正常な機能の維持」の目的は喪失する。

●「流水の正常な機能の維持の検証の虚構(2)」(第4章4 p4-212~215)
 上述のとおり、現在の吾妻川の減水状態は、松谷発電所の水利権更新に伴い、2012年度以降は解消されるので、「流水の正常な機能の維持」の目的そのものが喪失する。したがって、「流水の正常な機能の維持」の目的について検証することは無意味である。今回の検証ではダム案も含めて6ケースの比較が行われているが、そのうち、「発電ガイドライン放流」案の費用がゼロになっているのは上記のことを意味している。水利権更新に伴って、「発電ガイドライン放流」案に自動的になるのだから、この問題について関東地方整備局が行っている検証は無意味である。

●「地すべり問題と代替地安全問題―今回の点検では不十分(1)」(第4章1p4-2~4-4)
八ッ場ダム予定地は地質が脆弱であるため、ダムができて湛水し、水位を人為的に大きく上下させると、貯水池周辺で地すべりが誘発される危険性が指摘されている。また、代替地の中には民間の宅地造成では例のない超高盛り土の代替地があり、その安全性に疑問が投げかけられている。地すべり誘発の危険性が指摘され、代替地の安全性へ疑問が提起されているので、今回の検証作業の中で点検が行われ、追加の地すべり対策工8カ所(工費109.7億円)、代替地の安全対策工5カ所(39.5億円)が必要となった。しかし、この点検はわずか半年程度の作業によるものであり、地質ボーリング調査などに基づく本格的な点検を行えば、対策必要箇所が増え、対策の内容も追加されて対策工事費が大幅に増額されることが予想される。

●「地すべり問題と代替地安全問題―今回の点検では不十分(2)」(第4章1p4-2~4-4)
 奈良県の大滝ダム(事業者:国土交通省)は2002年8月にダム堤体が完成したが、試験湛水中に白屋地区で地割れが発生し、38戸が全戸移転した。その後も大滝地区と迫地区で地すべりの危険性が判明し、2013年3月末完成を目処に対策工事が延々と行われている。
 この追加工事費は308億円(白屋地区の移転補償費を含む)にもなっている。この大滝ダムの例から見て、八ッ場ダムができた場合の地すべり対策工事費は今回の点検結果よりさらに膨らむ可能性が高い。また、代替地の安全性については2010年度に国土交通省による安定計算にミスが判明し、さらに、盛り土内の地下水を見込まないなど、計算方法の基本的な問題点も指摘されている。地すべり対策、代替地安全対策は事業を進めてきた国土交通省ではなく、第三者機関による検証が必要である。

●「代替地の整備費用の大半がダム事業費に上乗せされることは必至」(第4章1p4-2)
 代替地の整備費用は八ッ場ダムの事業費の枠外になっており、2009年度までの支出額は約95億円であると記されている。他のダム事業の代替地は農地等を転用して造成するので、造成費用はさほど嵩まず、分譲収益で概ね対応できる範囲にとどまるが、八ッ場ダムの場合は山の斜面への造成など、地形条件の悪い中で代替地を造成しているので、整備費用が非常に高額になっている。八ッ場ダム代替地の分譲価格は周辺地価に比べてひどく高いが、分譲収益はせいぜい20億円(134世帯×100坪×15万円/坪≒20億円)である。代替地はまだ造成中であるので、整備費用は今後増額され、分譲収益で対応できない分、100億円程度がダム事業費に上乗せされることは必至である。

●「八ッ場ダム事業を再開しても、完成は2018年度末よりさらに延長」(第4章1p4-5)
 ダム本体工事に着手した場合、完成までの期間が87カ月(7年3カ月)と記されている。仮に2011年秋の後、再開した場合は八ッ場ダムの完成時期は現計画の2015年度末から3年延びて2018年度末となる。
 一般に工期の遅れは政権交代の中止方針が原因であるかのように受け取られているが、実際は付替鉄道、付替国道の工事の遅れが原因である。ダムサイト予定地を現鉄道、現国道が通っているため、付替鉄道、付替国道が完成して現鉄道、現国道を廃止しないと、ダム本体の本格的な掘削工事を始めることができない。
 付替鉄道、付替国道は政権交代以後も従前どおりの工事を継続してきた。計画では2011年3月末完成予定であったが、いまだに完成せず、付替鉄道は新駅付近の用地買収が難航し、あと3年以上はかかるとされている。この用地買収が完了しなければ、八ッ場ダムの工期は2018年度末よりさらに延長されることになる。

●「八ッ場ダムの費用対効果の計算の虚構(1)」(第5章1p5-1~3)
 八ッ場ダムの費用便益比の新計算値は6.3となり、1を大きく上回っているが、この便益の計算は全くの虚構である。洪水調節の便益計算ではまず、①八ッ場ダムがないケースと、②八ッ場ダムがあるケースについて洪水規模をいろいろ変えて洪水氾濫計算を行い、氾濫で失われる資産額を計算する。次に①と②の氾濫被害額の差を八ッ場ダムによる氾濫被害軽減額として、それから一定の計算ルールで八ッ場ダムの洪水軽減便益が求められている。しかし、ここで算出された氾濫被害額は現実と乖離している。

●「八ッ場ダムの費用対効果の計算の虚構(2)」(第5章1p5-1~3)
 情報公開請求で得た洪水調節便益の計算根拠資料から計算すると、八ッ場ダムがないケースでは、50年に1回の規模の洪水まで考えた場合の利根川流域の氾濫被害額は年平均で6,788億円にもなる(八ッ場ダムがあっても5,693億円)。毎年平均で7,000億円近い洪水被害額が発生するという想定は現実にはあり得ない。
 一方、「水害統計」(国交省が毎年、全国各地の水害報告を集約して発行)によれば、利根川全体の1961~2007年の47年間における年平均被害額の実績値は181億円(現在価値への換算額)である。今回の検証の計算による被害想定額は実績の38倍にもなっており、八ッ場ダムの洪水調節便益はそのように現実から乖離した数字から算出されており、意味のない数字である。

●「八ッ場ダムの費用対効果の計算の虚構(3)」(第5章2p5-4~5)
流水の正常な機能の維持に関する便益は、仮想的市場評価法という方法で、「現状では、吾妻峡における流量が 2.4m3/s 以下となる日数が、一年に概ね100 日程度あって岩の露出が増え、渓谷らしい水の流れが見られなくなる。年間を通じ川の流量が 2.4m3/s 以上とするために、あなたはいくら負担するか]というアンケート調査から求められている。しかし、吾妻渓谷に八ッ場ダムが建設されれば、渓谷の上流部は水没してしまう。さらに、残る渓谷の中下流部も八ッ場ダムで洪水調節を行うようになると、下久保ダム直下にある三波石峡のように洪水が渓谷の岩肌を洗うことがなくなり、岩肌に草木やコケが生えて景観がひどく悪化することは確実である。
 八ッ場ダムの建設が吾妻渓谷に大きなダメージを与えることは避けられないことであるにもかかわらず、そのことに一切触れず、八ッ場ダムができると吾妻渓谷の景観が改善されるかのようなアンケートを配布する調査手法は欺瞞である。

●「八ッ場ダムの費用対効果の計算の虚構(4)」(第5章2p5-4~5)
流水の正常な機能の維持に関する便益には基本的な問題がある。先に述べたように、現在の吾妻渓谷の減水状態は2012年度以降は解消される。2011年度末に松谷発電所の水利権は更新を迎え、更新後は発電用水利権の「ガイドライン」(「発電水利権の期間更新時における河川維持流量の確保について」建設省河川局)により、河川維持流量の放流が義務づけられる。それにより、現在の吾妻渓谷の減水状態が解消されるので、八ッ場ダムの目的「流水の正常な機能の維持」そのものが喪失する。したがって、その便益はもともと存在しないものである。以上の事実を伝えようとしない関東地方整備局は国民を欺いていると言わざるを得ない。

●堆砂計画の点検の虚構(第4章1p4-6~8)
 今回の検証では、八ッ場ダムの堆砂容量1750万?の点検が行われ、結局、この数字が妥当という結論に至っている。しかし、その点検に使った既設ダムの堆砂データは、開示資料によれば、霧降ダム(群馬)、湯川ダム(長野)、菅平ダム(長野)のデータで、いずれも、総貯水容量250~350万?の小さなダムである。このようにひどく小さいダムの堆砂データから八ッ場ダムの堆砂量を求めるのは無理があり、非科学的な点検が行われていると言わざるをえない。
 利根川水系の大きな既設ダムの堆砂実績と比べると、八ッ場ダムの堆砂見込み量は明らかに過小である。例えば、八ッ場ダムと同規模の下久保ダムの2006年度までの堆砂量実績は流域面積1㎞2あたり年平均677?であるが、八ッ場ダムの堆砂見込み量は247?であって、約1/3しかない。堆砂容量は100年を見込んでいるが、八ッ場ダムがもしできたとしても、計画よりかなり早い速度で堆砂容量が埋まり、利水・治水機能が低下していくことは確実である。

●「主要な段階でのパブリックコメントが行われていない」(1-8)
 ダム事業検討の手順や手法を定めた「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」(以下、再評価実施要領細目)では、「情報公開、意見聴取の進め方」として「主要な段階でパブリックコメントを行い、広く意見を募集する」とある。これは、公共事業の検証にあたり、国民、関係住民の意見を反映させるために重要な民主主義の手続きであるが、関東地方整備局は「検討報告書」をまとめるにあたり、その過程でパブリックコメント、公聴会などの手続きは一切行っていない。関東地方整備局が行ったことは検証結果を決める直前の最終段階での意見聴取であり、これではそれらの意見が検証結果に反映される余地はほとんどなく、形だけの意見聴取でしかない。これは、「再評価実施要領細目」で定められた主要な段階におけるパブリックコメント実施という本来の趣旨から逸脱するものである。

●「情報公開がきわめて不十分」(1-8)
 情報公開についてもきわめて不十分である。「検討の場及び幹事会」、「学識経験者の意見聴取」などは開催直前まで日程の告知がされず、生活を抱える一般国民の傍聴・参加を著しく困難にしている。また、これらの傍聴は別紙での中継映像での傍聴であり、情報公開の最低水準のものでしかない。また、国会議員がダム検証における複数の根拠資料の提供を求めても資料提供には1ヶ月以上を要するなど、関東地方整備局は資料公開についての真摯な姿勢が欠如している。こうした関東地方整備局の姿勢が国民の厳しい批判にさらされていることを認識されたい。

●「環境面の検証が行われていない」(3-6,7,9)
 検討報告書で「環境」について触れているのは、3.2.8における「環境に関する手続き」のみである。環境アセスメント法施行前に定められた手続きを踏んでいるという説明のみで、名勝・吾妻渓谷の上流部が水没するという取り返しのつかない負の側面が取り上げられていないこと一つを見ても、「環境」面での検証を行ったとは言い難い。
 
 ダム事業における「環境保全」が記述されているが、現地では植物の保全施設において植物が枯れたり、小動物の住処を提供する目的で設置されたエコスタックに小動物が生息しない、などの実態がしばしば見られる。
 また「猛禽類の保全」も謳われているが、生態系の頂点にあるイヌワシが丸岩の営巣地を放棄したこと、営巣地付近にカメラを設置したことにより敏感な猛禽類が営巣を放棄した事例も知られている。

 ダム予定地周辺は貴重な自然と文化財の宝庫である。これらの「調査」と「記録保存」が記述されているが、自然と文化財はダム予定地にあってかけがえのない価値あるものであることを考えれば、「調査」と「記録保存」によっても自然と文化の破壊を補うことはできない。
 ダム水没予定地に位置する川原湯温泉は800年の歴史を誇るかけがえのない文化遺産であり、観光資源である。代替地における川原湯温泉の再興が模索されているが、地形条件、人口減少すべての面において見通しが非常に暗いといわざるをえない状況にある。
 水没予定地の自然、文化の破壊は、コスト重視の今回の検証では一切省みられていない。ダム本体工事の着工は、現地の自然、地域社会をさらに破壊し、取り返しのつかない負の遺産を後の世代に押しつけるものである。