八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

川原湯温泉の現状伝える記事

◆2011年11月10日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20111110ddlk10010113000c.html

 -八ッ場ダム建設:水没予定地、川原湯温泉で初の移転 山木館、代替地で上棟式 /群馬ー

 ◇「検証結果、待ってられない」
 八ッ場ダム(長野原町)水没予定地の川原湯温泉街で約350年の歴史を刻んできた老舗旅館「山木館」が9日、移転代替地で上棟式を行った。13年春に新しい旅館が完成予定で、同温泉街の旅館では初の移転になる見通し。ダムは建設の是非を巡り国が検証を進めているが、14代目の樋田洋二さん(64)は「検証結果を待っていたら、いつ再建できるか分からない」と考え、移転を決めた。【奥山はるな】

 この日は、柱などの基本構造が完成した自宅部分で上棟式を行った。白木の香りが漂う中、工事関係者ら10人が建物の四方を木づちでたたく「四方固めの儀」を執り行って工事の安全を祈った。自宅に続いて隣接する旅館の基礎工事に取りかかるという。

 移転は、紆余(うよ)曲折を経て決断した。現在の山木館は、古き良き温泉街のたたずまいを残す木造の宿で、裏手にはムササビの現れる林が広がる。妻文子さん(63)は「この美しい場所を水没させたくない」と感じていたが、07年6月、移転代替地の分譲が始まると「いよいよ移るしかない」と心を決め、08年に土地を購入した。

 ところが、設計事務所と話を進めていた09年9月、ダム中止を掲げた民主党政権が発足。中止になればダム湖を前提にした設計は変更する必要があり、移転準備は中断した。しかし、温泉街の衰退は進むばかりで、政権交代前に7軒あった旅館は2軒が休業に追い込まれた。山木館も宿泊客の予約が減り、電話で「まだ営業していますか」と聞かれるようになったという。

 検証作業が長引く中、洋二さんは「我々も還暦を過ぎた。これ以上は待てない」と文子さんを説得。ダムの検証作業の結論を待たずに昨年12月、設計事務所と契約を結んだ。

 移転代替地は山を切り開いて造られた平地で、真新しい住宅が建ち並ぶが、まだ観光施設や土産物店はなく、温泉街のイメージとはほど遠い。文子さんは「果たして旅館経営が成り立つのか分からないが、もう後戻りはできない」と話している。

◆2011年11月15日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581111150001

 -川原湯 漏れる不満ー

 八ツ場ダムができれば水没する長野原町の川原湯地区で14日、住民代表によるダム対策委員会が開かれた。造るかどうかの最終判断は年内とされるが、八ツ場ダム工事事務所では今後の見通しを答えられず、国に対し住民から不満が漏れた。

 「暦の上では、立冬を過ぎた。いつ大臣のところにいくのか」

 対策委の委員長で、老舗旅館・山木館を営む樋田洋二さん(64)は、国交省の出先機関の八ツ場ダム工事事務所の幹部に静かに問いかけた。最終判断時期について、前田武志国交相が10月の県内視察で年内と示唆するまで、歴代の国交相は「今秋」としてきた。樋田さんの問いかけは、再検証の遅れを意識したものだ。

 事務所幹部は、今月4日まで募集したパブリックコメント(国民の意見)が約5千件にのぼることを紹介。「整理が追いついていないが、大臣は『来年度予算に反映』と知事らに約束した。事務方も遅れることがないよう努力している」と理解を求めた。

 その後も住民代表から今後の本省や整備局の手続きについての質問があったが、幹部は「情報がない」「聞いていない」と繰り返すばかりだった。

 関東地方整備局が6~8日に実施した関係住民の意見聴取では、流域の51人が参加。県内では川原湯地区の国交省施設で、出身者も入れて町民5人を含む10人が意見を述べたが、川原湯の住民は参加しなかった。

 「沈黙」した背景には、民主党政権や国交省に対する根強い不信感がある。この日の対策委でも、買収が進まず整備が遅れている道路について「生活再建が進められない」と事務所職員に詰め寄る場面もあった。

 10月7日には、観光客や地元住民に親しまれてきた共同浴場「笹湯(ささ・ゆ)」も閉鎖された。町史によると、江戸時代の開設。1952年に現在地に移り、木造平屋の質素な建物が人気だった。

 旅館主の多くは代替地での再開を検討してきた。だが、長引く再検証でどれだけ再開できるか不透明だ。

 整備局は関係住民の意見聴取の内容をホームページで公表した。朝日新聞の集計では、発表者51人のうち、ダム建設に反対・見直し派が約6割を占め、推進派は約3割だった。整備局によると、居住地は埼玉20人、東京13人、群馬11人、千葉6人、茨城1人。60歳代以上が68%、50歳代が17%を占めた。(小林誠一)

(写真)閉鎖された共同浴場「笹湯」=長野原町川原湯