産経新聞インタビュー

2011年11月14日

 先日、毎日新聞に八ッ場ダムに賛成・反対の立場の学者のインタビュー記事が載りましたが、今度は産経新聞に同様のインタビュー記事が掲載されました。
 毎日新聞でダム賛成の立場としてインタビューに答えたのは宮村忠氏ですが、宮村氏と共に現在のダム行政に肯定的な学者として行政に重用されているのが産経新聞で取り上げられている虫明功臣東京大学名誉教授です。

 群馬県議会における八ッ場ダム対策特別委員会でも、宮村氏、虫明氏は自民党の要請を受けて八ッ場ダムの必要性を訴えました。県議会では十分な発言時間がありましたが、内容はインタビュー記事で答えていることとあまりかわりません。国交省のダム推進にお墨付きを与えるだけの「有識者」といえましょう。

◆2011年11月11日 産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111111/plc11111108030006-n5.htm

 -「八ツ場ダム」 藤岡明房氏、虫明功臣氏ー

 すでに3千億円以上の事業費を投入しながら、民主党のマニフェストに従って一昨年から、本体工事を前に建設が凍結されている八ツ場(やんば)ダム(群馬県)。国土交通省関東地方整備局が9月、コストなどの観点から「建設が最も望ましい」との検証結果を報告し、事業費を一部負担している利根川流域1都5県の知事も建設再開を求めている中、国の判断が注目されている。工事再開の是非について、東京大名誉教授の虫明功臣氏と、立正大教授の藤岡明房氏に見解を聞いた。


≪藤岡明房氏≫

費用膨らむ恐れ大きい

--検証結果をどうみる?

「予定通り総事業費が4600億円で収まるに越したことはないが、本体工事が手つかずの中、周辺工事のみで3500億円を使っており、費用はさらに膨らむ恐れが大きい。その際、流域6都県の負担も増加することになる」

時間をかけすぎだ

--このダム計画は昭和27年に始まり、半世紀以上かかっている

「最大の問題は時間をかけすぎていることだ。時間を浪費することで費用も増大しがちな上、ダムは完成しないことには便益が発生しない。本来、もっと早くダム本体工事に取りかかるべきだった」

--民主党がマニフェストに従って建設を凍結したことの評価は

「マニフェスト策定の段階でもっと慎重に検討すべきだった。止めた結果として、2年間をムダにしてしまった。建設か中止か、どちらかに決めることが大事で、凍結が一番よくない状態だ」

算出方法に疑問

--本当にあと1千億円強で完成するのか疑問の声がある

「国交省は本当に正しい費用の計算をしているのだろうか。工事開始後に増額修正される可能性が高く、事前に国会審議などでクギを刺しておく必要がある」

--八ツ場ダムは当初、総事業費は2110億円とされていた

「それが平成16年に突然、4600億円に増額されたが、非常に問題だ。すでに『27年度完成』となっているダム基本計画の変更は必至で、その際に事業費が2~3割増える可能性は高い」

--20年に「地盤が強固なことが分かった」としてダム底面までの掘り下げを15メートル減らすとした

「現地付近は地盤が比較的弱い地域のはずで、疑問だ。費用が膨らんだ大滝ダム(奈良県)のように、本体工事開始後に地滑り対策などで追加工事が必要になることは十分考えられる」

--前田武志国交相は年末までに建設の可否を決める方針で、その前に総事業費を精査すべきでは

「本来それが必要だが、国交省としては『4600億円でできます』としか言わないだろう。その言質を取った上でゴーサインを出すしかない。責任の所在は明確にしておく必要がある」

--工事を再開しても完成までに7年以上かかるとされている

「期間が長引けばなおさら、予定の費用で足りるとは思えない。『造り始めたら止められない』という、よく使われるせりふがまた繰り返されるのではないか」

--費用対効果の検証次第では建設をやめたほうがいいのか

「追加でかかる費用が便益を上回る可能性があり、その場合は建設しないほうがいいということになる。その見極めが重要で、精査する必要がある」(溝上健良)


≪虫明功臣氏≫

洪水・利水対策で必要

--検証結果をどう評価する?

「これまでも八ツ場ダムの建設をやめる理由はまったくないと考えており、今回正式な手続きに沿ってそのことが立証された。コスト面でも八ツ場ダムは、代替案に比べ最も有利であり、早急な建設再開が望まれる」

--治水面で八ツ場ダムはなぜ必要なのか

「利根川は江戸時代に物資を運ぶ船を通すため、いくつかの支川を一本化して銚子へつないだ。このため、低平地の流路が著しく伸び、流量が本川に集中し洪水氾濫の危険性が高まった。以来、堤防を造り、遊水地も設け、平野部での対策を進めてきたが、それでも洪水対策としては十分ではなかった。戦後のカスリーン台風大水害後に、上流部にダム群を造り洪水流量を調節する手段が登場した。その一つが八ツ場ダムになる」

堤防だけでは不十分

--堤防だけでは十分な治水対策は取れないのか

「堤防を高くすると、破堤したときに氾濫のエネルギーが大きくなり、被害が大きくなる。地盤や地震の問題から切れない堤防を造るのは難しいし、破堤しない高規格堤防は時間とお金がかかる。つまり、堤防の強化だけでは対応できないから、遊水地を造り、上流にダムを造ることが有効な手段となる。利根川上流の3つの大きな支流域の中でダムがないのは、吾妻川流域だけで、ここへの八ツ場ダム建設によって上流域での洪水調節態勢が整うことになる」

--利水面から水は十分に足りており、八ツ場ダムは必要ないとの声もある

「たまたま近年大きな水不足はないが、首都圏の利水安全度は全国的に見て低い。地下水利用に伴う地盤沈下が現在も関東平野北部で進行している。地下水から河川水利用に転換するためにも、八ツ場ダムは必要だ」

--コスト面で八ツ場ダムの総工費が膨らむという見方もある

「地滑り対策などの費用が必要かもしれないが、想定し必要金額をはじいている。それほど膨らまないのではないかと考える」

--今後、どう治水対策を進めていくべきか

「今回の検証がよかったのは、これからの治水対策のメニューが出てきたことだ。八ツ場ダムを建設するのは当然だが、それだけで利根川の治水が終わるわけではない。今回出た代替案は地球温暖化への対応など、将来の治水対策に生かせるものである」

当事者意識で対応を

--これまでの民主政権の対応についてはどう考えているのか

「批判は大いに結構だが、利根川の治水・利水問題の現状を正確に把握し、当事者意識をもって対応してほしかった」(森本昌彦)

【プロフィル】藤岡明房

ふじおか・あきふさ 昭和23年、東京都生まれ。63歳。東大大学院経済学研究科博士課程満期退学。敬愛大教授を経て、平成17年に立正大教授。専門は環境経済学。約20年間「イミダス」の財政分野を執筆している。著書に「図解 小学 校で習った算数で『経済』がスッキリわかる!」など。

【プロフィル】虫明功臣

むしあけ・かつみ 昭和17年、岡山県生まれ。69歳。東大工学部を卒業後、東大大学院工学系研究科修士課程を修了。東大工学部助手、東大生産技術研究所助教授などを経て、教授。専門は水文・水資源工学で、水文・水資源学会長などを務めた。共著に「水環境の保全と再生」など。