八ッ場あしたの会では、前田国交大臣、前原政調会長へ「八ッ場ダム事業の最終判断に向けての要請書」を提出しました。
要請書の全文を転載します。
2011年12月8日
国土交通大臣 前田武志 様
八ッ場あしたの会
代表世話人 野田知佑ほか
八ッ場ダム事業の最終判断に向けての要請書
前田大臣におかれましては、常日頃から国民の安全と国土の保全に尽力されていることに感謝申し上げます。
さて、2009年9月に八ッ場ダム事業中止をマニフェストの重要項目に掲げた民主党が政権与党となり、ダム事業の見直しに取り組んできましたが、さる12月2日の大臣会見では、年内には八ッ場ダム事業に関する最終的な判断を下すことを明言されました。
八ッ場ダム事業をめぐっては、関東地方整備局、今後の治水対策のあり方に関する有識者会議、国交省事務次官らによるタスクフォースでの審議・検証が行われ、パブリックコメントを募るなどの材料収集が実施されてきましたが、八ッ場ダム事業は多くの問題を抱えており、建設の是非を判断するに足りうる十分な検証が行われたのかは、甚だ疑問が残るところです。
八ッ場ダム事業についての最終判断をされるにあたり、将来に禍根を残さぬためにも今一度、下記の点にご留意いただきたく、意見申し上げます。
記
1. 八ッ場ダム事業の科学的な検証が行われていないこと
八ッ場ダム事業の検証にあたっては、複数の有識者会議で検証が行われました。しかし、事業主体である関東地方整備局が示した検討報告について、十分な検討・議論をすることなく、その原案を追認するに留まっています。学識経験者意見聴取の場、事業評価監視委員会に至っては、資料を読んでいるかすら怪しい質疑が繰り返され、また、重要な検討事項である地質の専門家が不在のまま審議がなされました。事業評価監視委員会では重要な審議事項であるはずの費用対効果について、従来の2倍もの数値(6.3)の根拠を問う議論も全くなされず、「専門的検討は学識経験者意見聴取の場でやっている」という有識者としての責務を放棄する発言をした上で、関東地方整備局による検討報告にお墨付きを与えたという有様であり、実質的な議論・検討がなされたとは到底言えません。
12月1日の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」においても、ダムサイトや代替地を含む貯水池周辺部の地盤は安全と言えるのか、流域住民の安全を守るため実効力のある利根川の治水はどうするべきか、水需要縮小の時代において新規ダムが必要なのかといった、本質的な問題に切り込む掘り下げた議論は皆無でした。報道を見る限り、12月7日の有識者会議での大震災や浅間山噴火を踏まえた検討も、自然災害を過小評価した検討に終始しています。
「ダム検証のあり方を問う科学者の会」や民主党国土交通部門会議八ッ場ダム問題分科会、民主党国会議員有志らが検証についての疑義を呈しているという事実が、検証の不十分さを物語っていると言わざるを得ません。
2. 民意は八ッ場ダムを望んでいないこと
今秋、関東地方整備局による検討報告(素案)に関して公聴会ならびにパブリックコメントが実施されました。利根川流域四会場で開催された公聴会においては、東京都、千葉県、茨城県からの意見発表者は全て八ッ場ダム反対の立場を表明し、ダム建設予定地を抱える地元群馬県からの意見発表者も6割以上がダム反対の意見表明でした。
パブリックコメントでは5,963件の意見が集まりましたが、公募意見の96%にあたる5,738件の意見が自民党埼玉県連による“やらせ”であったことが12月6日の新聞報道で明らかになっています。しかし膨大な報告書を読んで意見を寄せたそれ以外の220件あまりの意見では、反対意見が圧倒的多数を占めています。こうしたやらせをしなければ八ッ場ダム事業が必要であるという流域住民の声を演出できなかったということ自体、民意は八ッ場ダムを望んでいないことの表われであることは明らかです。
自民党県連から大量に提出されたこれらのパブリックコメントに関しては、意見の雛形作成に県議会事務局が関わり、雛形用紙の配布に埼玉県議会事務局の封筒を使用し、自民党埼玉県連によるノルマ100人の意見提出先も議会事務局政策調査課となっているなど、埼玉県が関与した疑いが極めて強いと考えられます。こうしたパブリックコメントのあり方を看過してよいのでしょうか。
3. 八ッ場ダム事業に左右されない生活再建支援策を講じること
八ッ場ダム事業の大きな罪の一つは、半世紀以上、水没予定地を翻弄し、犠牲を強い続けてきたことにあります。政権交代以降、ダム反対から容認に転じた歴史を持つ水没予定地では緊張状態が生じましたが、これは、そもそもダム建設と生活再建策、地域振興策がセットで考えられていることに起因しています。ダム事業による生活再建、地域振興は行き詰まりを見せており、ダム事業が継続されたとしても、生活再建、地域振興には明るい見通しが立っていません。ダム予定地や代替地の地盤の危険性、奈良県の大滝ダム同様、更なる工期の延長、事業費の増額が専門家らによって指摘される中、水没予定地で不安の声や真実を知りたいとの声が上がっていることを踏まえれば、これ以上、地元の人々に苦悩を負わせることのないよう、八ッ場ダム事業に左右されない生活再建支援策を策定することが急務です。
12月2日の大臣会見におかれまして、前田大臣は、「人間の命を第一」とする社会資本整備が重要であり、八ッ場ダム事業の判断にあたってもこの視点を重視するとの認識を示されました。ダム予定地の安全性の根拠や浅間山の噴火、想定外の豪雨の影響が不明瞭なままでは、ダム予定地をはじめ流域全体の人間の命が危険に晒されることになります。ダム事業推進という結論が先にある科学的な根拠を欠いた検証が行われたことを踏まえれば、八ッ場ダム事業の継続という選択肢は消失しています。
人間の命を第一とする社会資本整備を優先していただき、将来の世代に禍根を残すことのない賢明な判断を前田大臣がなされることを、心より願っております。
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2011年12月8日
民主党政策調査会長 前原誠司 様
八ッ場あしたの会
代表世話人 野田知佑ほか
民主党としての八ッ場ダム事業判断に向けての要望書
前原政調会長におかれましては、常日頃から次世代に負担のない国家運営を目指して尽力しておられることに感謝申し上げます。
さて、2009年9月に八ッ場ダム事業中止をマニフェストの重要項目に掲げた民主党が政権与党となり、ダム事業の見直しに取り組んできましたが、前田武志国土交通大臣は去る12月2日の大臣会見で、年内には八ッ場ダム事業に関する最終的な判断を下すことを明言されました。政権交代以降、八ッ場ダム事業をめぐっては、関東地方整備局、今後の治水対策のあり方に関する有識者会議、国交省事務次官らによるタスクフォースでの審議・検証が行われ、パブリックコメントを募るなど最終判断のための材料収集が行われてきましたが、八ッ場ダム事業は多くの問題を抱えており、建設の是非を判断するに足りうる十分な検証が行われたのかは、甚だ疑問が残るところです。
前原政調会長は、八ッ場ダム事業について民主党内でよく理解しておられるお一人と存じます。引き続き高いご見識をお持ちいただきたく、私どもが八ッ場ダム事業をめぐる問題としてお伝えしたい点を下記にしたためます。
記
1.八ッ場ダム事業の科学的な検証が行われていないこと
八ッ場ダム事業の検証にあたっては、複数の有識者会議で検証が行われました。しかし、事業主体である関東地方整備局が示した検討報告について十分な検討・議論をすることなく、その原案を追認するに留まっています。学識経験者意見聴取の場、事業評価監視委員会に至っては、資料を読んでいるかすら怪しい質疑が繰り返され、また、重要な検討事項である地質の専門家が不在のまま審議がなされました。事業評価監視委員会では、重要な審議事項であるはずの費用対効果について、従来の2倍もの数値(6.3)の根拠を問う議論も全くなされず、「専門的検討は学識経験者意見聴取の場でしている」という有識者としての責務を放棄する発言をした上で、関東地方整備局による検討報告にお墨付きを与えたという有様であり、実質的な議論・検討がなされたとは到底言えません。
12月1日の国土交通省「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」においても、根拠が示されずにダムサイトや代替地を含む貯水池の地盤は安全と言えるのか、流域住民の安全を守るために必要な利根川の治水はどうあるべきか、水需要縮小の時代において新規ダムが必要なのかといった、本質的な問題に切り込む掘り下げた議論は皆無でした。報道を見る限り、12月7日の有識者会議での大震災や浅間山噴火を踏まえた検討も自然災害を過小評価した検討に終始しています。
2.民意は八ッ場ダムを望んでいないこと
今秋、関東地方整備局による検討報告(素案)に関して公聴会ならびにパブリックコメントが実施されました。利根川流域四会場で開催された公聴会においては、東京都、千葉県、茨城県からの意見発表者は全て八ッ場ダム反対の立場を表明し、ダム建設予定地を抱える地元群馬県からの意見発表者も6割以上がダム反対の意見表明でした。
パブリックコメントでは5,963件の意見が集まりましたが、公募意見の96%にあたる5,738件の意見が埼玉県の八ッ場ダム推進議連によるやらせであったことが12月6日の新聞報道で明らかになっています。しかし、膨大な報告書を読んで意見を寄せたそれ以外の220件あまりの意見では、反対意見が圧倒的多数を占めています。そもそもこうしたやらせをしなければ八ッ場ダム事業が必要であるという流域住民の声を演出できなかったということ自体、民意が八ッ場ダムを望んでいないことの表われであることは明らかです。
自民党県連から大量に提出されたこれらのパブリックコメントに関しては、意見の雛形作成に県議会事務局が関わり、雛形用紙の配布に埼玉県議会事務局の封筒を使用し、自民党埼玉県連によるノルマ100人の意見提出先も議会事務局政策調査課となっているなど、埼玉県が関与した疑いが極めて強いと考えられます。こうしたパブリックコメントのあり方を看過してよいのでしょうか。
3.八ッ場ダム事業に左右されない生活再建支援策を講じること
八ッ場ダム事業の大きな罪の一つは、半世紀以上、水没予定地を翻弄し、犠牲を強い続けてきたことです。政権交代以降、ダム反対から容認に転じた歴史を持つ水没予定地では緊張状態が生じましたが、これは、そもそもダム建設と生活再建策、地域振興策がセットで考えられていることに起因しています。ダム事業による生活再建、地域振興は行き詰まりを見せており、ダム事業が継続されたとしても、生活再建、地域振興には明るい見通しが立っていません。ダム予定地や代替地の地盤の危険性が専門家らによって指摘される中、水没予定地で不安の声や真実を知りたいとの声が上がっていることを踏まえれば、これ以上、地元の人々に苦悩を負わせることのないよう、八ッ場ダム事業に左右されない生活再建支援策を策定することが急務です。
前原政調会長におかれましては、次世代に負担を残さない国家運営を目指し奔走されてきたことと存じます。八ッ場ダム予定地の安全性の根拠や浅間山の噴火、想定外の豪雨の影響が不明瞭なままでは、ダム予定地をはじめ流域全体の人々の命が危険に晒されることになります。ダム事業推進という結論が先にある科学的な根拠を欠いた検証が行われたことを踏まえれば、前原政調会長が日頃ご見解を示されておりますとおり、八ッ場ダム事業継続の選択肢は消失しています。
将来の世代に禍根を残すことのなきよう、民主党政権としての八ッ場ダム事業中止のご英断を、今一度、心より御願い申し上げます。