国交省関東地方整備局が11月30日に本省に報告した八ッ場ダムの検証結果を翌日12月1日、わずか2時間の会議で了承した有識者会議が12月7日、再び開催されました。
7日の会議では、東日本大震災を踏まえて各委員が八ッ場ダムについて意見を述べることになっていましたが、浅間山の噴火があろうと、大地震が起ころうと、八ッ場ダムは問題ないとの安易な結論で終了しました。
今回の会議のベースになった資料は、国土交通事務次官をトップとする国交省のタスクフォースによって収集されました。9月に前田大臣がタスクフォースを設置するとアナウンスしましたが、その後、タスクフォースがどのような作業を行ってきたのかは伏せられたままでした。
有識者会議の事務方は国交省の河川計画課が務めます。有識者会議の中川博次座長は河川計画課の操り人形といわれ、結論も河川計画課の作文によるものとされます。
有識者の名簿は以下の通りです。会議は毎回非公開で、議事録は何ヶ月もたたなければ公表されません。公表された議事録でも、発言者の名前が伏せられています。どの委員が官僚におもねり、国民の利益に反する発言をしているかは巧妙に隠され、責任を問われることのない仕組みになっています。
http://p.tl/Vw2B
座長 中川博次京都大学名誉教授
委員
宇野尚雄岐阜大学名誉教授
三本木健治明海大学名誉教授
鈴木雅一東京大学大学院農学生命科学研究科教授
田中淳東京大学大学院
情報学環総合防災情報研究センター長・教授
辻本哲郎名古屋大学大学院工学研究科教授
道上正規鳥取大学名誉教授
森田朗東京大学公共政策大学院教授
山田正中央大学理工学部教授 (敬称略、五十音順)
◆第21回 今後の治水対策のあり方に関する有識者会議 配布資料一覧2011年12月8日(木) 河川計画課
http://p.tl/YpZc
★12月1日の有識者会議については、こちらに関連記事を転載しています。
http://p.tl/STbB
◆2011年12月7日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581112070001
-有識者会議 再検証機能せずー
八ツ場ダム再検証は7日、国土交通省の「今後の治水のあり方に関する有識者会議」(座長=中川博次・京大名誉教授、9人)が開かれ、ヤマ場を迎える。有識者会議は機能したのか。1年余の再検証を振り返ると、おざなりな印象を受ける。
7日の有識者会議は、大震災や浅間山噴火を踏まえた検討が、最大の議題だ。昨年10月に始まった同省関東地方整備局による検討では、こうした視点が盛り込まれていないからだ。
有識者会議は、前原誠司国交相時代の2009年11月に設けられた。委員は河川や防災の第一人者。「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるのが狙いだ。
だが実際は「事業主体の国交省による再検証の枠組みを決めただけ」との批判が学界から出ている。1日の約2時間の初会合では意見が出たが、関東地方整備局の「建設継続が妥当」との検討報告をあっさり了承した。
その整備局の報告に「お墨付き」を与えたのが、事業評価監視委員会(委員長=家田仁・東大大学院教授、12人)だ。11月29日の会合で、地元住民が事業実施と地域再建に協力してきたことなどを理由に、整備局の方針を認めた。
監視委は「始まったら止まらない」公共事業を再評価するため、国が1998年度に始めた。関東整備局の場合、学者10人と商工団体幹部、雑誌編集長が委員。当日は半数が欠席し、意見はメールでも集めた。
学者は1人を除き、河川が専門ではない。委員長は「専門的検討は有識者会議でやっている」と発言。整備局が資料を公開済みの初歩的な問題について、質問を繰り返す委員もいた。
では、その整備局の有識者会議は、どうだったか。
メンバーは、利根川水系の河川整備計画をつくるために2006年に設置された「利根川・江戸川有識者会議」(座長=宮村忠・関東学院大教授、13人)。河川の専門家と流域の地元紙幹部がおよそ半数ずつだ。
11月4日に1回だけあった会合で、4人の委員は発言せず、整備局の説明も含めて約2時間で終わった。
治水・利水の問題点指摘も出たが、宮村座長が「これまで苦労した水没地域の人たちのことを思うと、今更ほじくり返すようなことはいかがか」と発言。議論は深まらなかった。
こうした現状に、批判は強い。全国の学者138人による「ダム検証のあり方を問う科学者の会」共同代表の今本博健・京大教授(河川工学)は「民主党への政権交代で治水理念の転換が進むと思われたが、官僚が『そうさせまい』とわなを仕掛け、有識者会議がはまった。科学的検証なしにダムが造られれば、次世代に負の遺産を残す」と指摘する。(小林誠一)
◆2011年12月8日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20111207-OYT8T01272.htm
-八ッ場再検証 国交省「問題なし」報告 有識者会議に民主会議、一部議員反発ー
八ッ場ダム(長野原町)再検証を巡り、国土交通省は7日、東日本大震災を踏まえた新たな検証結果を、「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」に報告し、大規模な豪雨・洪水、地震、火山噴火などが起きても、ダム本体が破壊されるなど、致命的な問題は生じないと指摘した。
「建設継続が妥当」というこれまでの検証結果を打ち消す内容ではないが、民主党側には、検証やり直しを求める動きもあり、前田国交相は難しい決断を迫られそうだ。
有識者会議に提出された報告書は、国交省事務次官をトップとする作業チームが、火山や地震の専門家8人に意見を聞くなどしてまとめた。
「豪雨・洪水」に関しては、想定以上の洪水が発生した場合、八ッ場ダムの排水施設が壊れる可能性を認めたが、過去の事例から本体の安全性や貯水機能は損なわれないと指摘。「大規模地震」では、コンクリート製ダムの決壊事例は、過去にないとした。浅間山噴火による泥流についても、貯水量を事前に減らせば、ダムで泥流を受け止めることが可能と説明した。
国交省関東地方整備局が実施した八ツ場ダム再検証のパブリックコメント(国民の意見)に対し、埼玉県からの応募が96%を占めた問題で、前田武志国交相は6日、「パブコメの結果だけで結論を出すわけではない」と述べ、正当性に問題はないとの認識を示した。
◇
パブコメ応募者延べ5963人のうち、埼玉が5738人にのぼる一方、地元の群馬は49人で、ダム見直し派からは「やらせでは」との声が上がっていた。
その後、埼玉県からの応募の大半は、同県議会の推進派でつくる議員連盟が書式を整えた用紙によるものと判明。議連の佐久間実会長は取材に「県民に必要なダムだと考え、広く賛同を呼びかけた」と話した。
パブコメは、個人情報を修整した上で、全応募者分を整備局のホームページで公開している。
◆2011年12月8日 上毛新聞
http://www.jomo-news.co.jp/news/a/2011/12/08/news01.htm
-八ツ場ダム検証の全工程終了 国交相、年内に最終判断ー
八ツ場ダム建設の是非を決める検証で、国土交通省の有識者会議が7日、都内で開かれ、東日本大震災を踏まえた審議を行い、昨年10月から1年かけた検証の全工程が終了した。
前田武志国交相が近く建設の是非を最終判断する。これまでの検証で「建設継続が妥当」との対応方針案が示された。
一方、ダム見直し派の市民団体は検証手法を批判して建設中止を訴え、2年前の衆院選で中止を掲げた民主党も党内で検証の問題点を指摘する意見書をまとめている。
有識者会議には水工学などの研究者ら委員9人と前田氏ら政務三役が出席。国交省の事務次官らでつくる専門チームが東日本大震災から得た教訓や大規模噴火などによるダムへの影響をまとめた資料を提出した。
浅間山の大規模噴火の影響については、天明の噴火(1783年)で発生した泥流の高さが50メートル程度とダムの堤体(116メートル)の半分で、泥流の量も1億トン程度とダムの総貯水量より少ないことから、ダムの貯水位を下げれば泥流の大半は「捕捉される」と説明。泥流の流入でダムが破壊されることもないとした。
委員からは「巨大災害が起きた時のシミュレーションをつくっておくべきだ」「ダムがどの時点で壊れるのかという視点も必要」などの意見が出た。
前田氏は会議の最後に「八ツ場ダムの問題で残るプロセスは今までの検証を踏まえ、政府の責任で結論をつけること。民主党の議論も見守る。いよいよその時期が迫ってきた」と述べた。
検証は有識者会議が定めた手順に基づき、国交省関東地方整備局を検討主体に実施。整備局はダム案とダムを建設しない代替案をコスト、実現性などで比べ、ダム案が「最も有利」とする総合評価に基づき、11月末に「建設継続が妥当」とする対応方針案を国交省に報告。
有識者会議は1日の前回審議で検証手順が適切だったと認めた。前田氏は年内に最終判断し、来年度政府予算案に反映させる考えを示している。
これまで有識者会議を通過した全国の直轄・補助ダム24事業のうち、国交省が対応方針を決めた19事業(継続13・中止6)はすべて検討主体が報告した案と同じ結論となっている。
一方、ダム見直しを求める市民団体はダム建設を進めてきた整備局が検証作業を主導している点などを「ダム建設ありきの検証」と批判している。
◆2011年12月8日 朝日新聞群馬版
http://p.tl/o6-J
-有識者会議 大災害踏まえ協議 具体的言及少なくー
八ツ場ダムの再検証で、国土交通省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(座長=中川博次・京大名誉教授、9人)が7日、開かれた。「建設継続」を認めた前回1日の会議を踏まえ、大震災や浅間山噴火対策について検討した。
前田国交相は、国交省としての検討は終了との考えを示している。民主党執行部と協議し、年内に建設是非を最終判断する。
有識者会議では、宿利正史事務次官を長とするタスクフォースが、集めた資料を提出した。
防災や地震、火山の専門家計8人に意見を聴いた結果が報告されたが、八ツ場ダムを建設した場合の具体的言及は少なかった。過去の災害分析でも、大規模豪雨の場合に八ツ場ダムから水が越える可能性を指摘しながら、「これまでの被災を見る限り、土砂流出を除けば安全性を損なった事例は確認されていない」といった記述だ。
委員は、河川や防災といった専門家の立場から約1時間半議論。鈴木雅一・東大大学院教授(森林科学)は「ダムや堤防をつくっても大災害では水はあふれる。震災を踏まえた対応を」と国交省に求めた。
前田国交相は会議終了に際し、「深い議論をいただいた。党の議論も見守った上で政府の責任で決める」と述べた。(小林誠一)
◆2011年12月8日 東京新聞 総合面
-八ッ場是非大詰め 「一方的」検証に不信ー
中止か継続か-。政治に翻弄(ほんろう)された八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)建設の是非をめぐる問題が大詰めを迎えている。国土交通省は七日、「建設継続が妥当」との結論で検証を終了、前田武志国交相は年内に最終決断を下す方針。だがこれまでの検証では、推進派の一方通行の主張に国交省側も加勢。さらには、意見公募でも推進派側の「やらせ」が本紙の調査で発覚した。「八ッ場ダム中止」が政権交代の象徴だった民主党。ダム問題をどうのみこんでいくのだろうか。 (伊藤弘喜)
■ 恣意的
「地元を思うと、ほじくり返すような議論はいいかげんにしてくれというのが個人的な意見だ」
八ッ場ダム検証の一環で、国交省関東地方整備局が十一月四日に開いた学識経験者の意見聴取。座長の宮村忠・関東学院名誉教授はこう発言、ダム反対派を強くけん制した。
終了後、傍聴していた「八ッ場ダムをストップさせる東京の会」の深沢洋子さんは「議論を封じる司会だ」と宮村氏に抗議。フリージャーナリストのまさのあつこさんも「ほじくり返すべき論点はたくさんある。示威的な采配だ」と憤った。
■ お飾り
「国交省の意のままに動くお飾り」。水問題研究家の嶋津暉之さんが、晃批判するのが国交相の諮問機関「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」だ。
河川工学や土木の専門から九人で構成するこの会議は、民主党の「ダム建設中止」に待ったをかけるため、国交省主導で全国のダム事業を検証する枠組みをつくった。個々の検証が適切に行われたかも確認する。
しかし、これまで審議した二十のダムの中で、事業の継続や中止について国交省の案を覆したことは皆無。
それでも、批判的な意見を述べた議員は少なからずいた。ダムの利水面の根拠となる水需要予測で鈴木雅一・東大大学院教授は、人口減少、経済停滞などを踏まえ「予想が大きすぎて、ものすごく不思議でおかしい」と疑問を呈したが、事務局は算出手続きの正しさを強調、議論は深まらなかった。
他のダムを審議した過去の会議でも同様のやりとりが繰り返された。本来、この会議はダムに頼らない治水を考えるために発足。学識経験者の意見聴取に参加した委員の1人、岡本雅美・元日本大教授は「脱ダムは世界的な流れ。ダムや堤防を前提にした寡占や利水のパラダイム(思考枠組み)がと割れている。国交省だけで取り組める問題ではなく、検証はそこを問うべきだった」と疑問を呈する。
■ 薄い関心
最初から「ダム建設ありき」の検証に対し、民主党内の関心は以外に薄い。計六回開かれた八ッ場ダム問題分科会の参加議員は毎回、十五人前後にとどまった。
それでも分科会は、有識者鍵が関東地方整備局に検証を委ねた点を「利害を共にしない機関が検証すべきだった」と指摘するなど、検証は公平性に欠けるとして十六項目の意見をまとめた。
民主党は八日の政調役員会で問うの意見として正式に決める。しかし、「建設継続が妥当」との結論で検証を終えた同省側と、八ッ場ダム中止を表明した当時の国交相、前原誠司政調会長ら党執行部がどの程度対峙できるのか。党内からも「検証を批判すれば検証の枠組みをつくった過去の政務三役の責任が問われかねない」と危ぶむ声も聞こえる。
■2011年12月9日 日経BPネット
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/news/20111209/555958/?P=1
-浅間山噴火しても八ツ場ダムは破壊せず、国交省ー
想定した災害を超えるような豪雨や地震、火山噴火、土砂移動が起こっても、八ツ場ダム本体に致命的な損傷が生じるなどの問題はない――。
国土交通省は12月7日、八ツ場ダムの再検証で「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(座長:中川博次・京都大学名誉教授)を開催し、東日本大震災での教訓を踏まえた知見からなる報告書を提出した。 (以下略)