2011年12月31日
八ッ場ダム本体工事予算計上をめぐる民主党と国交省の対立が年末までもつれこんだため、藤村官房長官は12月21日、予算計上の条件を前原政調会長と前田国交大臣に提示しました(官房長官裁定案)。
一つは利根川水系河川整備計画の策定とその目標流量の検証です。もう一つは次期通常国会への「ダム中止後の生活再建支援法案」の上程です。
生活再建支援法案については、前原政調会長が国交大臣当時、法案策定を指示したにも関わらず、河川官僚のボイコットによって放置されてきました。ダム中止を前提とした法整備が実現すれば、ダム予定地の人々がダム計画に依存せざるをえない状況が解消され、ダム事業推進に支障を来たすからだと言われています。
この法律に関してはすでに、民主党の「八ッ場ダム等の地元住民の生活再建を考える議員連盟」が衆議院法制局とともに作成した法案があって、政策調査会に提案されています。以下に、民主党の議連による生活再建支援法の試案と解説を載せています。
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https://yamba-net.org/wp/modules/saisei/index.php?content_id=5
この試案は、八ッ場ダム等の地元住民の生活再建、地域振興について真剣に考えて作成されたものですが、国交省が今回、法案策定作業を始めたのは、八ッ場ダムの本体工事予算の計上のための条件をクリアするためです。
本来は、「できるだけダムによらない治水」を追及するという民主党政権の政策の中で、真っ先に取り組まなければならなかったこの作業を後回しにしたことは、八ッ場ダム予定地の人々の民主党政権に対する不信を決定的にするもので、ダム建設を目指す河川官僚が政権交代後も河川行政の実権を握っていることを示すものでした。国交省が八ッ場ダムの本体工事の予算計上と引き換えにようやく生活再建支援法の策定作業を持ち出してきた経緯を見ると、この組織が地元住民のことなど眼中にないことがよくわかります。
ダム中止の可能性が高まっている川辺川ダム予定地の五木村では、生活再建支援法が適用される可能性がありますが、こうした国交省の体質はダム予定地ではよく知られていますので、早くも現地からは懸念の声があがっています。
1990年代の長良川河口堰の建設にあたり、当時、国交省は広範な反対運動の意見を取り入れる形で、河川法の改正に踏み切りました。1997年に改正された河川法には「環境への配慮」、「住民参加」の理念が盛り込まれることになり、河川行政の改革が進むことが期待されました。しかし結果的には、いずれの理念も実現していません。「環境への配慮」は、これを口実とした新たな無駄な公共事業を生み出すこととなり、「住民参加」は八ッ場ダム検証における公聴会やパブリックコメントを見ても、形式に過ぎないことがわかります。
今回の国交省主導による「生活再建支援法策定」の動きも、国交省の体質や官僚主導の実態が変わらない限り、ダム予定地の住民の真の生活再建に資するものとなるかは大いに疑問です。
◆2011年12月28日 時事通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111228-00000070-jij-pol
-生活再建法案、国会提出へ=八ツ場ダム建設の条件―国交省ー
国土交通省は28日、民主党政権下で再検証の対象となったダムについて、事業が途中で中止された場合の地域の生活再建支援法案を来年の次期通常国会に提出する方針を固めた。
既に水管理・国土保全局内にプロジェクトチーム(PT)を設置し、法案策定に取り組んでいる。
同法案の国会提出は、事業継続の是非が注目された八ツ場ダム(群馬県長野原町)の建設を再開する条件として、藤村修官房長官が前田武志国交相に提示。同ダム再開には反対した民主党の前原誠司政調会長も、以前から制定を求めていた。
ダム事業には通常、水没予定地の住民の移転先となる代替地の造成、周辺道路や鉄道の付け替え工事など、地元住民に対する生活再建事業が含まれている。検証によってダム建設が途中で中止される場合、こうした事業が滞る可能性もあり、法案にはその対応策などが盛り込まれる見通し。
◆2011年12月30日 熊本日日新聞 2011年12月30日
http://kumanichi.com/feature/kawabegawa/kiji/20111230001.shtml
-生活補償法の法制化が再浮上 五木村、期待と不信感ー
川辺川ダムの水没予定地を抱える五木村の生活再建を支援する法案づくりがようやく本格化する。前原誠司国土交通相(当時)が国会提出を表明しながら2年以上“放置”されてきたが、凍結中の八ツ場ダム(群馬県)建設の再開条件として法制化が再浮上。ダム20+ 件建設を進める代わりに、ダムを止めた場合の法整備が動きだすという皮肉な
結果となった。(原大祐)
「川辺川ダムで五木村に随分と迷惑をかけてきた。県と村と真摯[しんし]な話し合いの中で、村の生活再建案を練っている。それらを参考に法案を早急に練るよう指示した」
八ツ場ダム建設費を含む12年度政府予算案を決定した24日の閣議後の会見。前田武志国交相は、五木村の生活再建策をモデルにした法案の次期国会提出をあらためて約束した。
ここに至るまでは曲折があった。前原国交相(当時)が川辺川ダム建設中止に伴い、五木村への補償制度を創設する法案の国会提出を明言したのは09年9月。しかし、前原氏退任後、2人の後任大臣は政局の混乱などを理由に法案提出を見送ってきた。
●官房長官「裁定」
一方、民主党の衆院選向けマニフェスト(政権公約)で川辺川ダムとともに中止をうたった八ツ場ダムは建設に向けた動きが続いていた。
国と熊本県、五木村で中止を前提にした村の生活再建策に向けた協議が進む川辺川ダムと違い、八ツ場ダムは流域6都県の猛反発を受けた国交省が建設是非を再検証。11月には同省関東地方整備局が「事業継続が妥当」と結論づけた。
これに民主党内の公約堅持派が反発。なかでも党政調会長となった前原氏は「私が指示した地元の生活再建のスキーム(枠組み)をいまだに作ってない」と国交省を痛烈に批判。「政権公約に関わる話であり、政治的な判断が必要」と、八ツ場ダム建設に前向きな前田国交相の頭越しで、藤村修官房長官に判断を求めた。官房長官は政府予算案がまとまる直前の22日、八ツ場ダム建設再開の条件として、前原氏が主張するダム中止時の生活再建法案の次期国会提出など明記した「裁定」を前原氏に提示。前原氏は最終的に政府判断を容認した。
一方、思惑通りに建設再開に持ち込んだ国交省も、生活再建法案は“予定外”だった。それまで同省は「法律がなくても、県と五木村との合意を基に村の再建を進めている」(水政課)と消極的な発言を繰り返していた。一転して「裁定を踏まえて粛々と進める」としつつ、五木村を取り巻く状況の情報収集に着手した。
●「公約破りの繕い」
補償法案を求め続けてきた五木村の和田拓也村長の心境も複雑だ。「法案ができれば、村の再建への国の財政支援が拡大される可能性はある」との期待はある。ただ、急きょ浮上した経緯に「政権公約を破ったことを取り繕いたいだけだ」との不信感もぬぐえない。
村は27日、18年度までの村の再建計画を公表した。法制化が進まない6月に、村、国、県が交わした合意に基づき策定した計画だ。総事業費は約200億円。ダム建設を進めるための水源地域対策特別 措置法(水特法)と、特定多目的ダム法(特ダム法)の事業も含まれる。
和田村長は「生活補償法で特ダム、水特二つの法の事業が継続できるようにするのは最低限の話。国交省以外が絡む問題も多い。省庁の垣根を超えて、ダム計画で社会構造を大きく変えられた村への補償をどうするのか、考えてもらいたい」と、国に厳しい目を向けている。