八ッ場あしたの会では、八ッ場ダム事業の中止はダム中止後のダム予定地域の人々の生活再建を支援するための法整備とセットで実施する必要があると訴えてきました。政権交代直後、国土交通大臣に就任した前原誠司氏(現・政調会長)は、次の国会に法案を提出するべく指示を出したものの官僚のボイコットで実現しなかったとされます。
こうした状況に危機感を持った民主党の国会議員らが2010年、議連をつくり、昨年9月、試案を公表しました。
昨年暮れ、前田国交大臣は「八ッ場ダム建設再開」を表明しましたが、民主党はマニフェストを覆すこの決定に反発。野田政権は国交大臣と民主党の対立を調整するために、八ッ場ダム本体工事の予算計上を政府として認める代わりに、予算執行の条件の一つとして「生活再建支援法案の次期国会提出」を提示しました。
現在、八ッ場ダムの本体工事は、予算は計上されたものの、執行はどうなるかわからない状態です。八ッ場ダム事業の継続を目指す国交省は、予算の執行条件を早々にクリアすべく、昨年のうちに省内に法案作りの作業チームを立ち上げました。この法案は、川辺川ダム予定地をモデルとしてつくられることになっています。
ダム中止後の生活再建支援法」は、長年のダム計画で犠牲になってきた水没予定地の人々を救済するのが本来の趣旨ですが、法案がどのようなものになるかはまだ不明です。川辺川ダム予定地を抱える熊本県では、法案の行方が注目され、県内版で報道されています。
川辺川ダム予定地の五木村では、法整備を待たずに独自に地域活性化を目指す動きや、熊本県の支援の動きもあります。民主党の2009年マニフェストの筆頭に掲げられた八ッ場ダムと川辺川ダムですが、それぞれの水没予定地は別々の道を歩んでいます。
以下の記事でも取り上げら
れている民主党議連の生活再建支援法案は、こちらのページに掲載しています。
https://yamba-net.org/wp/modules/saisei/index.php?content_id=5
◆2012年2月11日
http://kumanichi.com/feature/kawabegawa/kiji/20120211001.shtml
-五木村の声どう反映 生活再建法案、検討大詰めー
国の川辺川ダム建設中止表明を受けて地域再生を模索している五木村をモデルに、ダム事業中止に伴う地元の生活再建を支援する特別措置法(生活再建法)案が今国会に提出される。
国土交通省は民主党議連がまとめた法案の要綱を参考に、3月上旬の閣議決定を目指している。ダムに翻弄[ほんろう]されてきた村の実情を反映した実効的な法案になるのかが問われている。(原大祐、臼杵大介)
要綱は、八ツ場ダム(群馬県)建設に反対する民主党の議連(会長・川内博史衆院議員)が熊本県などの意見も踏まえ昨年10月に策定した。
政府と同党が同12月、八ツ場ダム建設再開で合意するにあたって、生活再建法案の国会提出を条件の一つとしたことから、前田武志国交相が要綱を参考に法整備を急ぐ考えを示していた。
●後退「あり得ない」
要綱は、ダム事業中止の際、建設予定地があった地域を「特定地域」に指定。都道府県が市町村と地域住民の意見を聴き、振興計画をまとめるよう定めている。
具体的には(1)必要なインフラ整備などの継続(2)国が買収した用地の自治体への無償使用、地域住民への優先売却(3)非移住者への生活再建支援金の支給などが盛り込まれている。
川内会長は「大臣が議連要綱を法案の『たたき台』にすると言った以上、内容が後退することはあり得ない」と強調。国交省も特定地域の指定や振興計画の作成などは要綱を踏襲する方針だ。
ただ、法案の中身は検討段階。財務省や総務省などと協議を進めている国交省内には「議連要綱には丸のみできない部分もある」という声もある。
特に扱いに苦慮しているのが、非移住者への支援金。「薬害など生命に関わる賠償とは性格が違う。既存の法令との関係性も検討する必要がある」と国交省水政課は慎重だ。
これに対し、五木村の和田拓也村長は「村全体がダムの影響を受けている。非移住者だけでなく、特定地域内のすべての住民を支援すべきだ」と、要綱にも異議を唱える。村では、ほとんどの住民が立ち退きに応じ、非移住者は1人という事情があるからだ。
●「財政措置」注視
和田村長が期待するのは、水没予定だった一帯(約244ヘクタール)の利活用を促す措置だ。現状は河川法で「河川予定地」に指定されているため、水の流れを阻害するコンクリート製の工作物の建設は原則認められていない。
新法によって河川法の規制が外れれば、学校や公共施設の整備が可能になる。さらに、「(予定地の98%を占める)国有地が無償で使えれば、大変ありがたい」と和田村長。
一方、国と村とともに現行制度を活用した村の振興策を協議してきた県は、新法の財政措置がどうなるのかを注視している。
五木村が昨年末に公表した村再建計画には、ダム事業を進めるための水源地域対策特別措置法(水特法)の補助率かさ上げを活用した事業も含まれる。
県川辺川ダム総合対策課は「新法が成立し、振興計画が動きだすまで時間がかかる。その上、新法に水特法並みの措置(補助率かさ上げ)が盛り込まれず、再建計画に支障が出ては困る」とくぎを刺す。
国交省は今月中旬にも省案をまとめ、関係府省と詰めの協議に入る。ただ、地元との事前協議は予定されていない。和田村長は「五木村をモデルにするのなら、法案づくりの段階で地元の声を聴くべきだ」と訴えている。
(写真)国と県、五木村の3者合意に基づいて策定した村再建計画で、水没予定地の活用について説明する和田拓也村長=昨年12月27日、同村役場
(写真)五木村をモデルにした生活再建を支援する特別措置法案を国会に提出する方針を表明する前田武志国交相=昨年12月22日、東京・霞が関の国交省
◆2012年2月10日 読売新聞熊本版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kumamoto/news/20120210-OYT8T00049.htm
-ダム中止の補償法案「中身分からず」ー
通常国会への提出方針受け、五木村議会が対応協議
ダム事業の中止に伴う補償法案について、国土交通省が通常国会への提出方針を示していることを受け、五木村議会は9日、ダム対策特別委員会を開き、対応を協議した。法案はこれまで二度にわたって国会への提出が見送られた経緯があり、議員からは「法案の中身が分からない」など不満の声が上がった。
補償法案は2009年9月、当時の前原国交相が川辺川ダム建設中止を表明した際、水没予定地を抱える五木村の生活再建をモデルに策定する考えを示した。国交省によると、「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案」(仮称)として3月上旬の閣議決定を目指し、中身を詰めている段階という。
ダム対策特別委には、村議10人と執行部から和田拓也村長らが出席。議員からは「特措法案はダムを中止するための法案。村の再建は現行法で進めてもらうべきだ」「ダム中止を受け入れていない村の立場では特措法は必要ない」など厳しい意見が出された。
和田村長は「国交省から法案に関する話は何も来ていない」と話した。
◆2012年2月7日 朝日新聞熊本版
http://mytown.asahi.com/kumamoto/news.php?k_id=44000001202070003
-五木村振興へ即戦力ー
ダム問題で疲弊した五木村の再建に一役買ってもらおうと、村が初めて公募した任期付き職員に大学院の社会人コースで学ぶ2人が先月、採用された。即戦力として専門知識や豊かな経験を村づくりに生かすことになる。和田拓也村長は「周囲の職員にも刺激を与えて」と期待を込める。
民主党政権が表明した川辺川ダム建設計画の中止を受けて村は昨年、国・県との間で現行の予算制度を活用して村の振興を図ることに合意。これに伴い、村が事務職と技術職で専門的な知識・経験がある人材を求めたところ、全国から11人の応募があった。
1月4日付で採用されたのは九州大大学院生の山本高久さん(41)=島根県隠岐の島町出身=と、熊本大大学院生の持田美沙子さん(49)=八代市出身。山本さんはふるさと振興課、持田さんは建設課に配属された。任期は3年。
山本さんは青年海外協力隊員としてグアテマラに派遣されたのを皮切りに、主に中南米諸国で農業などの技術指導に携わってきた。神戸市内で会社員として働いていたころ、阪神大震災で被災したのが原点。ボランティアに助けられた経験から、助ける側に意気を感じ、東日本大震災後は宮城県で支援活動をした。
持田さんは1級建築士の資格があり、住宅メーカーに勤めていた。県立大生だった約30年前、ダム問題に絡む村民の調査に加わり、昨年も熊本大などによる全世帯を対象にした聞き取り調査に参加。「村との縁を感じた」と言う。子ども2人が成人し、子育てが一段落したこともあって今回手を挙げた。
山本さんは「地方が元気になる手助けをしたかった」。長く発展途上国の暮らしぶりに接し、五木村を流れる川辺川の清らかさは「世界に誇れる。もっとアピールしていい」。寒いのは苦手らしいが、「子どもたちの環境学習にも適している」と話す。
持田さんは昨年の調査で、単身か2人暮らしの高齢者の世帯が6割を超え、コミュニティーの維持が難しくなっている実態を知った。「買い物など不便さはあるけれど、村には土地そのものの良さが残っていると思う」と言い、山里の魅力を見つめ直すつもりだ。 (貞松慎二郎)
【写真】役場前にある「五木の子守娘」像の前に立つ山本さんと持田さん=五木村