八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

政府答弁から明らかになった八ッ場ダム治水検証の虚構

2012年3月14日

 塩川鉄也衆議院議員が3月1日に「八ッ場ダムの治水効果の検証に関する質問主意書」を提出し、それに対する政府答弁書が3月9日に出ました。

 衆議院のホームページには、現時点では質問主意書のみ掲載されています。(答弁書は後ほど掲載される予定です。)

http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm
「国土交通省の八ッ場ダム治水効果の検証に関する質問主意書」
 
 この質問主意書と答弁書によって、昨年暮れ、政府が八ッ場ダム本体工事再開を決定した際の根拠となった八ッ場ダムの治水の検証がきわめて恣意的に行われ、代替案の意図的な切り捨てが行われたことが明らかになりました。
 今回の政府答弁書によって明らかになったことを以下に整理しました。

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 八ッ場ダムの治水検証の虚構―恣意的な計算で代替案の切り捨て

1 治水面における八ッ場ダムの検証
 八ッ場ダムの検証では八ッ場ダムと四つの治水代替案の費用比較で、八ッ場ダムが選択されている。
         
表1 八ッ場ダムと四つの治水代替案との費用比較
〔完成までに要する費用〕
① 八ッ場ダム残事業費(治水分)           約700億円
      【全事業費(治水分】         【約2,400億円】〔注〕
② 河道掘削                     約1,700億円
③ 渡良瀬遊水地越流堤改築+河道掘削         約1,800億円
④ 利根川直轄区間上流部新規遊水地+河道掘削     約2,000億円
⑤ 流域対策(宅地かさ上げ等)+河道掘削       約1,700億円
〔注〕検証結果案には記載されていない。

2 八ッ場ダムの検証では8洪水を対象
 報告書4.2.2.5では「八斗島地点の流量が洪水調節施設がない場合に17,000?/秒となるように雨量を引き伸ばし、・・・・・、『八ッ場ダムを含む治水対策案』で対象としている洪水調節施設の効果量を計算すると下表のとおりになる。」として、次表の8洪水の計算結果が示されている。
 同表は、八ッ場ダムも含めた洪水調節施設により、河道分担量(B)が河道目標流量(河道整備で達成される流下能力)14,000?/秒をほぼ下回っていることを示し〔注〕、8洪水のいずれにおいても八ッ場ダムによる洪水調節が必要であることを示唆するものとなっている。
〔注〕昭和34年洪水は160?/秒超過しているが、問題にされていない。

 このように「八ッ場ダムを含む治水対策案」については8洪水の計算を行っているのであるから、当然のことながら、八ッ場ダムの代替案もこの8洪水の効果を計算したうえで、総合的な評価がされたものと受け取られていた。

3 治水代替案の前提となったのは8洪水のうち、昭和34年洪水のみ(はじめて明らかに)
 ところが、八ッ場ダム代替案の費用の計算は、上記の8洪水ではなく、その中で代替案の費用が最も高くなる昭和34年8月洪水のみを対象としていることが明らかになった。
 塩川鉄也衆議院議員が平成24年3月1日に提出した質問主意書に次のように書かれている。
 「国土交通省の担当者は、レクチャーの場で、八斗島上流の洪水調節施設のうち八ッ場ダムがない場合に、S34・8・12洪水の「河道分担流量(洪水調節施設全施設完成時)(B)」に対応する数値が、15,800?/Sであることを明らかにするとともに、その数値から14,000?/Sを差し引いた数値が、八ッ場ダムを含まない四つの治水案の八ッ場ダムに替わる代替洪水調節施設の洪水調節量にあたることを明らかにした。」

4 国土交通省の計算でも代替案が必要とされるのは8洪水のうちの2洪水に過ぎない。
 この質問主意書では8洪水の全部について、八ッ場ダムがない場合の「河道分担量(洪水調節施設全施設完成時)」などの数字を明らかにすることを政府に求めた。政府答弁書で示された数字を整理したのが次の表2である。

 上表の河道分担流量(B)から河道目標流量1,4000?/秒を差し引いた値(F)が代替案の対応必要流量になる。(答弁書では14,000?/秒を差し引いて代替案の対応必要流量を求めるやり方を否定しているが、これは都合が悪いから、否定しているだけであり、この計算に何の問題もない。)
 Fの値を見ると、代替案が必要なのは8洪水のうち、2洪水だけである。その他の6洪水はマイナスかまたはかなり小さい値であり(240?/秒)〔注〕、代替策そのものが不要である。
〔注〕昭和34年8月洪水では八ッ場ダムを含む対策案でも、河道分担流量(B)は14,160? /秒で、14,000?/秒を160?/秒上回っている。そのことが問題にされていないことから考えて、昭和57年9月洪水の代替案の対応必要流量(F)240?/秒は代替案がほとんど不要なレベルであると判断される。
 以上のとおり、八ッ場ダムの検証で対象とした8洪水のうち、計算上、代替案が必要とされるのは、わずかに2洪水にすぎない。
表2の計算は洪水調節施設がない場合に八斗島地点の流量が17,000?/秒になるように引き伸ばしたものであって、この17,000?/秒が起きる確率は国土交通省によれば、1/70~1/80である。
 1/70~1/80の8洪水のうち、代替案が必要であるのは2洪水だけであるから、代替案が必要な洪水が来る確率は1/70~1/80よりかなり小さい。すなわち、ほとんど来る可能性がない洪水において八ッ場ダムの代替案が必要とされているにすぎないのである。

5 8洪水の平均で見れば、代替案は八ッ場ダム案よりはるかに安上がり
 表2で、八ッ場ダム代替案の対応必要流量がマイナスになった5洪水はその値をゼロとして、8洪水の対応必要流量の平均をとると、396?/秒である。この平均値に対応する代替案ならば、その費用は国土交通省が示した費用よりはるかに少額となる。
 国土交通省によれば、
四つの治水代替案の中で費用最小の案は河道掘削で、費用は1,700億円、
代替案の対応必要流量は昭和34年洪水の1,760?/秒である。

 したがって、代替案の費用が対応必要流量に比例すると仮定すれば、
8洪水の平均396?/秒に対応するために必要な河道掘削の費用は
 1,700億円×(396?/秒÷1,760?/秒) =383億円
八ッ場ダムの治水残事業費は700億円であるから、代替案の方がはるかに安上がりとなる。
 八ッ場ダムを選択する理由は消失する。

6 ギャンブル的な治水対策からの脱却を!
 治水対策は効果が確実なものが選択されなければならない。ところが、4で述べたように、、八ッ場ダムの代替案が必要とされるのは、国土交通省の計算対象8洪水のうち、2洪水に過ぎない。それ以外の6洪水は代替案がまったく不要か、ほとんど不要である。すなわち、6洪水は八ッ場ダムを必要としない。
 国交省の計算は洪水流量を実績の2倍程度まで引伸ばす机上の計算上での話であるが、その机上の計算でも、八ッ場ダムを必要とする洪水が来るのは8洪水のうち、2洪水にすぎない。
 治水対策は不確実性が高く、ギャンブル的なものではなく、治水効果が確実に見込まれるものが選択されなければならない。
 将来はつくりすぎた社会資本の維持管理費・更新費が次第に増加して、新規の社会資本投資が年々縮小せざるを得なくなっていくのであるから、治水効果がギャンブル的な八ッ場ダムではなく、利根川流域の住民の生命と財産を確実に守ることができる治水対策が選択されなければならない。