今朝の東京新聞の政治面に、久しぶりに八ッ場ダム関連の記事が掲載されていました。。利根川水系河川整備計画の策定が八ッ場ダム本体工事の予算執行の条件であり、整備計画の策定が見通せない状況にあることを伝えています。
利根川水系の河川整備計画には、流域の数多くの河川事業を位置付けなければなりません。前田国交大臣は国会において、八ッ場ダム本体工事の早期着工のために、早急に利根川水系河川整備計画を策定する考えを述べていますが、河川整備計画の策定は八ッ場ダム本体工事予算執行の引き換え条件としてのみ実施されるものではありません。
この記事の中では、「整備計画の策定作業が政権交代で止まっていたと国交省の担当者が指摘」と書かれていますが、国交省の担当者の指摘は事実ではありません。利根川水系河川整備計画の策定作業は、2008年5月の有識者会議の後、ストップしました。理由は不明ですが、関東地方整備局の何らかの思惑でストップしたもので、2009年9月の政権交代のせいにするのは無理があります。
また、この記事では、「本体工事の凍結が続けば、しわ寄せは建設予定地の住民が受ける」と書かれていますが、本体工事にすぐに着工したとしてもダムの完成には7年を要します。また、ダムが完成したとしても、八ッ場ダムを地域振興の核にするという発想は、観光シーズンに水位を28メートル以上下げることが定められてる八ッ場ダムの運用や水質の悪さを考えれば、実現の可能性が乏しいと言わざるをえません。凍結が続いても続かなくても、地元は八ッ場ダム事業のしわ寄せを受け続けるというのが実状で、本体工事に着工することで地元への責務を果たすという考えは、ダム事業の恩恵を受ける人々にとって都合の良い解釈にすぎません。
◆2012年3月25日 東京新聞朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2012032502000042.html
-八ツ場ダム 地元にしわ寄せ!? 河川整備計画手つかずでー
政府が民主党マニフェストの公約を撤回し、建設再開を決定した八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)をめぐり、政府・民主党が確認したダム本体工事着工の条件の実行が停滞している。建設再開の条件にした利根川水系の河川整備計画の策定は、現在もめどが立たないまま。「マニフェスト違反」を取り繕った約束さえ守れない可能性が出てきた。 (中根政人)
八ッ場ダムをめぐっては昨年末、地元自治体などの要望を踏まえて建設を再開したい前田武志国土交通相と、政権交代直後の国交相として建設凍結を主導した民主党の前原誠司政調会長が対立。藤村修官房長官が仲裁役として「官房長官裁定」を提示し、混乱を収拾させた。
裁定内容は(1)利根川水系の河川整備計画を早急に策定し、ダム建設の根拠となった目標流量を再検証する(2)建設を中止した場合の建設予定地の生活再建に向けた法案をまとめ、通常国会に提出する-の二点が柱。政府は実行を条件に、二〇一二年度予算案に本体工事費を計上した。
建設再開方針は、マニフェスト重視を求め、消費税率引き上げに反対する党内勢力を刺激し、野田佳彦首相が出席して党の増税案を決めた昨年末の党会合が紛糾。反対派がダム問題を持ち出し「マニフェスト違反を繰り返すべきではない」と抵抗したため、首相が「裁定の条件が完了しない限りは本体工事の予算を執行しない」と宣言した経緯もある。
だが、この首相の“公約”が結果的に身動きを取れなくする事態を引き起こしている。生活再建法案は国会提出にこぎ着けたが、河川整備計画の策定は全く見通せないのだ。
整備計画は、〇六年から国交省の有識者会議で策定への取り組みが始まったものの、政権交代前の〇八年五月を最後に作業が中断している。
前田国交相は作業再開に意欲を示すが、反対派は建設に慎重な専門家の起用を求めており、具体的なスケジュールは明らかにしていない。国交省の担当者は「国の治水政策見直しを掲げた民主党が与党となった影響で、作業が止まっていた」と指摘。マニフェストが掲げた根本的な政策が足かせになっている実態も見え隠れする。
このままでは一二年度予算が成立しても執行できず、本体工事の凍結が続けば、しわ寄せは建設予定地の住民が受ける。凍結前より地元の状況が悪化するようなら本末転倒だ。