利根川・江戸川有識者会議への要請書

2012年9月26日

 利根川流域市民委員会より、昨日開かれた利根川・江戸川有識者会議へ2つの要請書が提出されました。
 これらの要請書の全文を転載します。

 2012年9月25日
 利根川・江戸川有識者会議 委員 各位

 利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(1)
 (計画策定の基本的な事項について)

 利根川流域市民委員会
 共同代表 佐野郷美(利根川江戸川流域ネットワーク)
 嶋津暉之(水源開発問題全国連絡会)
 浜田篤信(霞ヶ浦導水事業を考える県民会議) 
                      
 利根川水系河川整備計画は、流域住民の安全を真に守ることができ、且つ、環境にも十分に配慮した計画が策定されなくてばなりません。そのためには、利根川の将来のあり方について流域住民の意見を反映できるように、時間をかけて議論を進めることが必要であり、それが1997年河川法改正の本旨です。決して拙速で利根川水系河川整備計画を策定してはなりません。河川法改正の本旨に立ち返って利根川水系河川整備計画について公正且つ民主的な計画策定作業が行われるよう、利根川・江戸川有識者会議の各委員が下記のことに取り組まれることを要請いたします。

(1) 利根川・江戸川有識者会議は公正な審議が行えるように委員及び座長を選定するとともに、民主的な運営を行うこと

 淀川水系流域委員会の方式【参考1】を基本として、利根川・江戸川有識者会議について次の改善を要請します。

① 現在の利根川・江戸川有識者会議の委員は、一部の委員を除き、関東地方整備局が選定したものであるため、関東地方整備局の意向に沿った委員が多数を占め、偏った構成になっていると考えられるので、改めて民主的に委員を選定し直し、公正な審議が行えるようにすること。

② 利根川・江戸川有識者会議の現座長は、ダム推進論者として新聞や公式の場でしばしば自説を主張してきている。昨年11月4日に開かれた「八ッ場ダム検証の学識経験者意見聴取の場」(本有識者会議の委員で構成)では、検証報告に疑問を呈した委員に対して「○〇さんの意見は、そのまま意見として。あまり極端なアジ的なあれも、今ここではやらないように」と恫喝したり、「もうほじくり返すような議論はいい加減にしてくれというのが私の個人的な意見」と、ダム検証の意味自体を否定する発言をしている(同会議の議事録より)。ダム検証の意味を理解せず、自説を主張して偏った議事運営をした現座長は公平な審議を進めるうえで相応しくないので、人選し直すこと。

③ 有識者会議は淀川水系流域委員会に倣って、傍聴者が意見書を提出し、意見を述べることができるようにし、さらに意見陳述者と有識者会議委員との間で相互の議論ができるようにすること。

④ 有識者会議の事務局は、河川管理者と一線を画し、委員の活発な議論を支援し、その意思を尊重する中立的な立場で民間団体が行うこと。

(2)流域住民の安全を真に守ることができ、且つ、環境にも十分に配慮した利根川水系河川整備計画が策定されるように、流域住民との議論を積み重ねていくこと

 利根川水系河川整備計画は、流域住民の安全を真に守ることができ、環境にも十分な配慮をしたものが策定されなければなりません。その目的を達成するためには下記の3点を踏まえることが必要です。利根川・江戸川有識者会議として、関東地方整備局に対し、この3点を踏まえた整備計画策定作業への取り組みを求めることを要請します。

① 今回の利根川水系河川整備計画の策定作業は、藤村修官房長官の裁定により、計画策定が八ッ場ダム本体工事の予算執行の条件となったことにより、急きょ進められることになったものであるが、八ッ場ダムの事業推進のために河川整備計画が拙速に策定されるならば、それは本末転倒であると言わざるを得ない。

② 利根川水系河川整備計画は、流域住民の生命と財産を洪水の氾濫から真に守ることができ、且つ、利根川水系の環境の改善をも視野に入れたものが策定されなければならない。そのためには、流域のそれぞれの状況について知見を有する住民の意見が反映されるよう、流域住民を交えた議論を積み重ねていくことが必要である。さらに、机上の議論で終わらぬよう、流域住民との現地共同調査を行うことも必要である。

③ 利根川は全国で流域面積が最も広い水系で、大きな支川をいくつも抱えているので、上述のように、流域住民の意見を反映させるために然るべき手順を踏めば、河川整備計画の策定には数年以上の年数を要するものであるから、そのことを踏まえ、議論に必要な時間をかけて策定作業を進める必要がある。

(3)前回の利根川水系河川整備計画の策定作業との齟齬を糾明すること

 利根川水系河川整備計画の策定作業は2006年11月から開始されましたが、2008年5月23日の合同有識者会議の後、突然中断されました。この有識者会議の終わりに、関東地方整備局柏木才助河川部長が「きょうの御議論を踏まえまして、次回にはまた御議論いただくもとになります整備計画のたたき台をお示し」(議事録より)すると言明したにもかかわらず、その後、関東地方整備局は一方的に策定作業を中断しました。
 国交省は政権交代によるダム見直しを理由に挙げているようですが、政権交代は2009年9月で、その約1年半後のことであり、整備計画策定作業の中断とは何の関係もありません。関東地方整備局の思惑で一方的に策定作業が中断されたのです。
 さらに、当時、関東地方整備局が示した利根川水系河川整備計画のメニューと、昨年の八ッ場ダム事業の検証で前提とした整備計画の枠組みは大きく変わっています。当時示されたメニューに対して公聴会およびパブリックコメントが行われ、有識者会議が意見を述べたにもかかわらず、関東地方整備局は何の理由を示すこともなく、そのメニューを反故にしてしまいました。
そのように、2008年5月までの約束とメニューを一方的に反故にした関東地方整備局の責任は重大です。
 このことに関して、利根川・江戸川有識者会議として、関東地方整備局に対して、次のとおり、前回の利根川水系河川整備計画の策定作業との齟齬を糾明することを要請します。

① 2008年5月23日の合同有識者会議の終わりに、関東地方整備局柏木河川部長が次回には整備計画のたたき台を示すと言明したにかかわらず、その後、約束をなぜ反故にしたのか。政権交代はその約1年半後のことで、理由にはならないので、真の理由を明らかにすること。

② 2006年11月からの策定作業で関東地方整備局が示した河川整備計画のメニューでは、本川の治水安全度は1/50、八斗島地点のダム調節後の目標流量は13,000?/秒で、調節前の目標流量は約15,000?/秒であった。ところが、昨年、関東地方整備局が八ッ場ダムの検証で前提とした利根川河川整備計画の枠組みでは、治水安全度は1/70~1/80、ダム調節後の目標流量は14,000?/秒、調節前の目標流量は17,000?/秒であった。すなわち、治水安全度は1/50から1/70~1/80に、ダム調節前の目標流量は約15,000?/秒から17,000?/秒に、さらにダム等による洪水調節量が約2,000?/秒から3,000?/秒に引き上げられた。
 関東地方整備局が2006年11月に示した利根川河川整備計画のメニューを上記のとおり、大きく変えた理由を明らかにすること。

③ 上記のとおり、関東地方整備局が公に示し、公聴会やパブリックコメントを行い、有識者会議の意見を聴いた河川整備計画のメニューを何の説明もなく、変えることは社会常識からしても許されないことであるので、関東地方整備局としてその責任を明確にすること

(4) 流域住民の意見を反映させる方法の確立
 
(2)で述べたように、利根川水系河川整備計画の策定は流域住民の意見を十分に反映させることが必須の条件です。
 ついては、利根川江戸川有識者会議として、関東地方整備局に対し、下記のとおり、流域住民の意見の反映について次の4点への取り組みを求めることを要請します。

① 2006年12月に関東地方整備局が言明した「整備計画原案を示し、有識者会議、関係住民等の意見をきいて整備計画修正案をつくり、それを何回か実施して計画をつくる。」【参考2】の約束を守り、関係住民の意見聴取を1回限りで終わらせることなく、繰り返し実施すること。

② 1997年河川法改正の国会答弁【参考3】「(関係住民の意見を)言いっ放し、聞きっ放しというのでは全く意味がない」、「まさにその河川整備計画に関係住民の皆さん方の意向が反映をしていくというふうに考えております。」に沿って、関係住民の意見を確実に反映できる方法を実施すること。

③ 具体的には、淀川水系流域委員会の提言により実施された「公聴会を円卓方式の『対話集会』【参考4】とし、河川管理者と流域住民などとが公開で討議、討論を行う」方式を実施すること。

④ 関係住民の合理的な意見を反映するにあたり、1997年河川法改正の国会答弁【参考5】「住民の皆さんの御意見、地方の御意見が反映できるように、そういう形で整備計画の案の段階でお諮りをして議論をいただく」「基本方針で定めた中ではこの整備計画がどうしてもできないということになれば、またこの基本方針のあり方についても再度検討をする」を尊重し、河川整備基本方針に縛られずに検討すること。

 参考資料

【参考1】 淀川水系流域委員会の民主的な委員選定と運営

 淀川水系流域委員会(学識経験者の意見を聴く場)は人選から運営まできわめて民主的に行われてきている。淀川水系流域委員会の設置に当たって、準備会議が設置され、その準備会議が下記のとおり、委員候補の選定を行うとともに、委員会の運営の方向性を示し、この答申にそって淀川水系流域委員会の運営が行われてきた。まもなく、第四次の淀川水系流域委員会が発足するが、この発足にあたって、委員候補推薦委員会が設置されて委員の人選が行われており、基本路線は引き継がれている。

 「淀川水系流域委員会のあり方について」答申  平成13年1月11日
淀川水系流域委員会準備会議
○淀川水系流域委員会委員候補の選定
・委員候補のリスト作成にあたって、準備会議委員や河川管理者の推薦に加え、公募を行った。
・学識経験者の範囲として、大学の教員、研究所の研究員といった従来型の範囲に加え、地域の特性に詳しい者を新たに加えた。
・改正河川法の趣旨を踏まえ、河川事業に関わる専門の範囲を従来よりも幅広くとらえ、治水、利水、環境の分野から選定した。
・広く国民的な議論を行うために、経済、法律を専門とする者、マスコミの経験者等も選定した。
○住民意見の聴取方針
・住民の意見が寄せられるのを待つだけではなく、河川利用の現場に赴くなどして、より積極的に意見を聴取することとする。
・多様な意見聴取方法を取り入れ、できるだけ、広範囲に多様な住民の意見を聴取することとする。
○庶務
・河川管理者と一線を画し、流域委員会委員の意思を積極的に支援する中立的立場で民間企業が行うこととする。

【参考2】 利根川水系河川整備計画の策定について関東地方整備局が言明したこと

 関東地方整備局は第2回利根川・江戸川有識者会議で下記の議事録のとおり、有識者会議、関係住民等の意見を繰り返し聞いて整備計画をつくることを言明した。

 第2回利根川・江戸川有識者会議(2006年12月18日)の議事録(4~5ページ)
 「事務局:髙橋河川計画課長
 それから、河川整備計画の原案をそういった意見を踏まえてつくらせていただこうと思っておりまして、また、その河川整備計画の原案につきましては、全体の意見を取りまとめて整理させていただいた上で、その後の有識者会議になろうかと思いますが、そこの段階でお示しさせていただければと思っております。その段階におきまして、また関係住民の方々にもインターネット等での意見募集、それから公聴会、そういったものを開かせていただいて、再度意見をいただいて、また、その整備計画の原案を修正させていただく。で、また修正したものにつきましても、再度ご提示させていただいて、また学識の先生方、それから関係住民の方々からご意見をいただくと、そういったことを何回か実施させていただきまして河川整備の案を取りまとめていきたいと思っております。」 

【参考3】 河川整備計画策定への関係住民の意見反映は国会の質疑で約束されたこと

 1997年の河川法改正に当たり、関係住民の意見反映について当時の尾田栄章河川局長は下記の議事録のとおり、国会の質疑で「河川管理者は河川整備計画に関係住民の意見を反映させる責務がある」と答弁した。

 「衆議院建設委員会-12号 平成09年5月9日
○尾田政府委員 先生御指摘のとおり、言いっ放し、聞きっ放しというのでは全く意味がないというふうに考えておりまして、具体の河川整備計画の案を策定する段階で、十二分に案を策定するために、案の案、原案の案、そういう意味では原案でございますが、これを御提示をいたしまして、それについて御意見をいただく、その上で必要なものについては修正をするという形で考えておりますので、まさにその河川整備計画に関係住民の皆さん方の意向が反映をしていくというふうに考えております。」

【参考4】 淀川水系河川整備計画の策定における住民参加

 淀川水系流域委員会は、1997年の河川法改正の本旨「河川整備計画への関係住民の意見反映」を具体化する方法を検討し、次の提言を行い、この提言に沿った取り組みがされてきた。

 淀川水系流域委員会「住民参加部会」の提言   2003年4月21日 
「河川管理者に対する河川整備計画策定時における一般意見の聴取反映方法について」
(2)対話集会もしくは対話討論会(ワークショップ等)の考え方
この公聴会は円卓方式の「対話集会」もしくは「対話討論会」とし、河川管理者と参加住民、住民組織、地域組織などとが委員会と同様に公開で討議、討論を行い、議事録などは全て公開されるべきである。

【参考5】 基本方針のあり方についても再度検討するという国会答弁

「衆議院建設委員会-12号 平成09年5月7日
○尾田政府委員(河川局長) そして、この河川整備基本方針に従いまして、ダムをどこにつくるか、どこに堤防をつくるか、そういう個別の事項につきましては、すべて河川整備計画の中で定めます。この河川整備計画については、まさに住民の皆さんの御意見、地方の御意見が反映できるように、そういう形で整備計画の案の段階でお諮りをして議論をいただくということを考えておるわけでございます。
 そういう意味合いで、基本方針で定めた中ではこの整備計画がどうしてもできないということになれば、またこの基本方針のあり方についても再度検討をする、そういう仕組みを考えておるわけでございまして、この河川整備基本方針に住民意見の反映の手続がないということをもって住民意見の反映がされていないという御批判は当たらないと私は考えておるところでございます。」

利根川流域市民委員会 賛同団体一覧      2012年9月23日現在 34団体(順不同)

利根川・江戸川流域ネットワーク
水源開発問題全国連絡会
利根川の水と緑を守る取手連絡会 
霞ヶ浦導水事業を考える県民会議 
八ッ場あしたの会 
八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会 
八ッ場ダムをストップさせる群馬の会
八ッ場ダムをストップさせる千葉の会
八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会 
八ッ場ダムをストップさせる茨城の会
八ッ場ダムをストップさせる東京の会
ムダなダムをストップさせる栃木の会
渡良瀬遊水池を守る利根川流域住民協議会 
首都圏のダム問題を考える市民と議員の会
霞ヶ浦・北浦をよくする市民連絡会議
思川開発事業を考える流域の会
ダム反対鹿沼市民協議会 
栃木の水を守る連絡協議会
高崎の水を考える会
千葉県自然保護連合 
千葉の干潟を守る会
藤川をきれいにする会
市川緑の市民フォーラム 
耕さない田んぼの会
東京市民オンブズマン
渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 
水道事業を考える土浦市民の会 
スーパー堤防問題を考える協議会
スーパー堤防・街づくりを考える会 
希望社会研究所
STOP八ッ場ダム・市民ネット
那珂川ウォーターネットワーク鶴亀隊  
アサザ基金
全水道関東地方本部

                    
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 2012年9月25日
 利根川・江戸川有識者会議 委員 各位

 利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(2)
   (治水安全度と目標流量について)

 利根川流域市民委員会
 共同代表 佐野郷美(利根川江戸川流域ネットワーク)
 嶋津暉之(水源開発問題全国連絡会)
 浜田篤信(霞ヶ浦導水事業を考える県民会議) 
      
 関東地方整備局は5月25日から6月23日にかけて、「利根川・江戸川において今後20~30年間で目指す安全の水準に対する意見募集」を行いました。利根川水系河川整備計画の策定のために関東地方整備局がつくった新案「治水安全度1/70~1/80、洪水目標流量17,000?/秒(八斗島地点)についてのパブリックコメントです。
 しかし、この数字は、2006年11月に利根川水系河川整備計画の策定作業が開始された時に関東地方整備局が示し、パブコメや公聴会で意見を求めたメニューの数字「治水安全度1/50、洪水目標流量約15,000?/秒」とは大きく違っており、何ら合理的な理由を示すことなく、勝手に整備計画の前提条件を変えることは到底許されることではありません。
 なぜそのように不可解なことをするのか、そこに、八ッ場ダムなどの大規模河川事業を推進しようとする関東地方整備局の意図があると言わざるを得ません。
 したがって、関東地方整備局が示した治水安全度と目標流量の案は、単に数字の多寡ではなく、このような背景も踏まえて吟味しなければなりません。
以下、今回の治水安全度のパブコメに対する当市民委員会の意見を記しますので、利根川・江戸川有識者会議の各委員におかれましては、下記の意見を参考にして、科学的な審議をされることを要請いたします。

(1) 治水安全度についてのパブコメの狙い
① 今回のパブコメは治水安全度1/70~1/80について意見を求めたものです。治水安全度だけを切り離して聞けば、一般には治水安全度は高い方がベターだと思うでしょうから、今回のパブコメは一般の人々の心理を利用して1/70~1/80への賛意を得てしまおうというものです。治水安全度1/70~1/80を得るためにはどのような河川施設が必要で、どの程度の費用がかかり、さらに環境への影響がどうなのかを同時に示さなければ、適正な判断ができないにもかかわらず、それらを一切示さずに治水安全度のみのパブコメを行うのはアンフェアなやり方であると言わざるを得ません。

② 関東地方整備局の狙いは、治水安全度1/70~1/80に賛意があることをもって、それと一体的に書かれている治水目標流量(八斗島地点)17,000 ?/秒も賛意が得られたとし、そのことによって、17,000 ?/秒を前提として位置づけられている八ッ場ダム事業などを河川整備計画に盛り込めるようにすることにあると推測されます。パブコメの治水安全度の話がいつのまにか、八ッ場ダムなどの大規模河川事業につながるようになっているのです。

(2) 治水安全度1/70~1/80=治水目標流量17,000 ?/秒の非科学性
① 関東地方整備局は、治水安全度1/70~1/80は治水目標流量17,000 ?/秒に相当するとしていますが、そのことに科学的な根拠はなく、正しくはもっと小さい流量です。17,000 ?/秒は国交省が基本高水流量の算出に使用した同じ洪水流出計算モデル(貯留関数法)で求めたものですが、このモデル自体が問題です。日本学術会議のお墨付きを得たとしていますが、学術会議はこのモデルが持つ基本的な問題を説明することができませんでした。すなわち、昭和22年洪水をこのモデルで再現計算すると、21,100?/秒になるが、実績流量の推定値は最大で見て17,000?/秒(実際は15,000?/秒程度)であり、なぜ4,000?/秒以上という大きな差が生じるのか、学術会議は合理的な説明ができませんでした。

② 国交省が、治水安全度1/70~1/80は治水目標流量17,000 ?/秒に相当する根拠は、雨量確率を流量確率に置き換える総合確率法という方法ですが、これは科学性が疑われている計算手法です。学術会議での議論でも、「総合確率法は学術的な研究成果に基づくものなのか。ある生起確率に基づく降水量とそのときの時空間分布については学術的な検討が十分なされていない。総合確率法の中で平均を取るということは降雨の時空間分布が等確率であることを前提とする。そうしてよい理屈があるか。科学的に明らかになっていない仮定を前提とする手法に対して、学術会議が合理的であると回答してよいのか。」(第5回分科会の議事録)と、根本的な疑問が投げかけられました。そして、総合確率法で用いた洪水流出計算モデルは昭和22年洪水の再現計算と同じモデルですから、①で指摘した問題が総合確率法の結果にも当てはまります。実績よりかなり過大な値が算出されているのです。

③ しかし、日本学術会議は上述の基本的な矛盾、根本的な疑問に答えることなく、国交省の計算を追認しました。高度な専門家集団であるはずの日本学術会議は、その本来の役割を放棄したと言わざるを得ません。

④ 国交省は過大な流量を算出する流出計算モデルと、科学性が疑問視される総合確率法で1/70~1/80は治水目標流量17,000 ?/sに相当するとしていますが、科学的な計算法があります。それは、実績流量のデータそのものから確率計算を行うもので、これを流量確率法といいます。利根川の八斗島地点の実績流量(国交省が観測流量にダム調節量を加算した流量)を使って、流量確率法で1/80の流量を求めると、統計手法によって計算結果が異なりますが、平均をとると、約13,000?/秒になり、17,000?/秒は明らかに過大です。

(3) 目標流量をどう考えるべきか
① 治水計画は基本的に過去の洪水の再来に備えるように策定されるべきで、一級水系の直轄区間の河川整備計画は近年最大の実績流量を目標流量としていることが少なくありません。たとえば、多摩川の場合は昭和49年の実績流量4,500?/秒(石原地点)を目標流量としています。利根川の場合は、昭和20年代前半(戦争直後で森林が荒廃していた時期)を除いて、最近60年間の実績を見ると、その最大洪水流量は1998年の約10,000?/秒(八斗島地点)です。利根川の目標流量はそれに余裕を見た13,000~14,000?/秒とすれば十分です。過大な目標流量を設定して、八ッ場ダム等の不要な大規模河川施設を推進して巨額の河川予算を浪費することはもうやめるべきです。

(4)想定を超える洪水への対応を!
① 昨年の東日本大震災を踏まえれば、設定した目標流量を超える未曽有の洪水が来る可能性は皆無ではありません。その時に壊滅的な被害を受けないようにするための対策を河川整備計画に位置づけることが必要です。そもそも、今回のパブコメのように、治水安全度を先に決める河川整備計画の策定方法は、その治水安全度に見合う洪水までは安全を保証するが、それを超えた洪水が来れば、アウトになるという考え方ですから、そのようなやり方自体をやめるべきです。想定を超える洪水が来ても、壊滅的な被害を受けないようにする対策を推進する河川整備計画を策定しなければなりません。

② 未曽有の洪水が来た時への基本的な対策は堤防を耐越水堤防に強化することです。未曽有の洪水が来ればダムは満杯になって洪水調節機能を失うし、堤防は計画高水位の洪水までに対してしか強度が保証されていないから、破堤するかもしれません。一挙に破堤すれば、流域住民の多くの生命が失われてしまうことになります。そのようにならないようにするために、越水しても簡単には破堤することがない堤防への強化を図り、同時に避難を速やかに行える避難体制を確立することが必要です。

③ 越水しても簡単には破堤することがない耐越水堤防の技術として、比較的安価なハイブリッド堤防が開発されてきていますので、その技術を用いれば、利根川の堤防の主要部分を耐越水堤防に改良することは可能です。

(5) まとめ
① 以上述べたとおり、利根川水系河川整備計画の策定において治水安全度を設定して、それに相当する目標流量を机上の計算で算出する方法をやめるべきです。この方法をとると、必ず過大な目標流量が設定され、八ッ場ダムなどの不要な大規模河川施設の建設を位置づけるものになってしまいます。治水安全度という考え方を改め、目標流量は多摩川のように近年最大の実績流量またはそれに多少の余裕を見た流量とすべきです。利根川の場合は13,000~14,000?/秒も見れば十分です。そして、万が一、その目標流量を超える未曽有の洪水が来た時に壊滅的な被害を受けないように、耐越水堤防への強化をすみやかに進める河川整備計画を策定すべきです。

② 利根川水系河川整備計画は八ッ場ダム等の大規模河川施設の推進を自己目的化したものではなく、本当に流域住民の生命を守ることができるものが策定されなければなりません。関東地方整備局は利根川流域の住民の安全を守るために何が本当に必要なのかを流域住民と十分に議論する場を設けるべきです。

 追記 利根川流域市民委員会の賛同団体34団体の名簿は「利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(1)(計画策定の基本的な事項について)」の末尾をご覧ください。