東京新聞が一面と特報部で補助ダムを中心に、ダム検証の問題を大きく取り上げました。補助ダムとは、国の補助金が建設費の7割を占める道府県営のダムを指します。
八ッ場ダム、川辺川ダムなどの国直轄のダムの陰に隠れているものの、これらの補助ダムが全国で推進されていることも大きな問題です。
◆2012年11月24日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012112490070328.html
-公共事業削減 対象83ダム 中止は15 民主、相次ぎ転換ー
民主党政権が「脱ダム」方針の下に進めてきたダム検証で、本体工事に入っていない検証対象の国や道府県の八十三事業のうち、中止を決めたのはわずか十五事業にとどまっていることが分かった。
政権交代後、無駄な公共事業の削減を目指す目玉政策だったが、推進の判断が相次ぎ、ダム利権が温存される結果となっている。
八十三事業のうち、国土交通省や独立行政法人水資源機構が事業主体なのは三十事業。このうち熊本県・七滝ダムと群馬県・吾妻川上流総合開発に続き、今月に入り長野県・戸草ダムが中止となった。いずれも調査や地元説明の段階だった。
逆に、北海道・サンルダムや福井県・足羽川ダムなど四事業が推進となり、残る二十三事業が検証中だ。
一方、道府県が事業主体だが国が建設費の約七割を負担する「補助ダム」は五十三事業あり、九県の十二事業が中止に。田中康夫・元長野県知事の「脱ダム宣言」で休止していた黒沢生活貯水池など続行の見通しがなかった事業の中止が目立つ。
補助ダムは道府県の検証結果を国の有識者会議に諮り、国は中止か推進を判断する。十七道府県が「推進が妥当」とした事業のうち、有識者会議が判断を保留しているのは島根県の二事業で、二十三事業は追認した。十八事業は検証が続く。
検証の対象となったダムの総事業費は約五兆円に及び、中止分は約四千五百億円。事業費四千六百億円の八割が投じられた群馬県・八ッ場(やんば)ダムなど事業費の多くが既に支出された事業もある。
ダム検証の行方について国交省治水課は「いつまでに終えられるかは分からない」としている。
公共事業問題に詳しい五十嵐敬喜法政大教授は「衆院選後、もし自民党政権に戻れば、ダム検証が中止されたり、中止の事業が復活される可能性もある。
不要なダムを造り続けてよいのか。このままでは膨大な借金とダムの残骸が積み上げられていく。真剣に考える必要がある」と話す。
◆2012年11月24日 東京新聞特報部
-道府県ダム 強行次々 官僚 補助金漬けで支配 民主 目玉政策なぜ腰砕け
コンクリートから人へ」の理念は完全に消えたのか-。必要性や費用に見合った効果があるかどうかの疑問が消えないのに、民主党政権の検証をすり抜けたダム事業が各地で強行されている。「脱ダム」方針はなぜ腰砕けになったのか。道府県ダムとは名ばかりで、実際には約七割を国が負担して全国で造られる「補助ダム」事業から考えた。(林啓太)
長崎の石木 利水・治水効果に疑問
長崎県川棚町岩屋郷。石木川の清流が流れる扇状地に、稲刈り後の田んぼが広がる。
「初夏には川辺にゲンジボタルが乱舞する。そんな自然を壊してダムを造ろうとしている」
石木ダム建設絶対反対同盟の岩下和雄・連絡委員(65)はダムの水没地となる一体を指した。
計画では、長さ二百三十四メートル、高さ五十五メートルのコンクリートの壁が山間に築かれ、里山の風景を分断する。
計画は一九六二年に持ち上がり、七五年に国が事業採択し、地元ぐるみの反対運動は半世紀に及ぶ。八二年に測量を強制的に実施。県警機動隊が座り込む住民を排除して負傷者を出した。「踏みとどまる住民には、こんな場所に嫁は来ない、などと揺さぶった」
かつて六十世帯に上った反対同盟も十三世帯に減った。二〇〇九年十一月、県は土地の強制収用に必要な石木ダム事業の認定を国に申請。県はダム検証も行ったが、「推進が妥当」と判断。国土交通省も今年六月、事業の継続を容認した。
県と川棚町の西隣にある佐世保市の共同事業で、県の町口浩・河川課長は「石木川の本流の川棚川は約二十年前の大雨で氾濫し、住宅に浸水の被害が出た」と治水の必要性を説明する。
だが、川棚川の流量を調べた京都大の今本博健名誉教授(河川工学)は「石木ダムがあろうがなかろうが、氾濫は治まらない。堤防の活用など、もっと安上がりな対策はある」と指摘する。
貯水量は五百四十八万トンと、佐世保市の水道水を補う計画だ。市水道局の寺松正悟主事は「市が安定的に配水できる水量が現状で足りない」と話すが、市民団体「石木川まもり隊」の松本美智恵代表は「水需要も市の人口の減少に伴い、減っている」と反論する。
それでも県がダム建設に突っ走るのはなぜか。
水源開発問題全国連絡会(東京)の嶋津暉之・共同代表は「補助ダム事業は、国交省官僚の地方支配の『くさび』だ。脱ダムの方針をひっくり返してでも公共事業を続けたいのだろう」と語る。
事業主体こそ地方だが、治水のための事業費の半額を国交省が負担するほか、地方負担分の一部も地方交付税で埋め合わせる。官僚が補助金の金づるを握り、一方、公共事業が欲しい地方とが組む構図だ。利水の目的があれば厚生労働省の補助も出る。石木ダムの場合は、総事業費約二百八十五億円のうち、補助金は計約百五十億円と半額以上だ。
野放図なばらまき再び
全国有数の鮎の漁場の環境を損なう恐れがある最上小国川ダム(山形県最上町)も、県の検証を経て推進が決まった事業の一つ。治水のみが目的で総事業費約六十四億円のうち三十八億円を国交省が負担する。県は先月、ダム本体の工事用の道路の整備に着手した。
ダムは下部に穴が開いていて、水は大雨の時にだけ溜め、ふだん穴を通って流れる構造。県河川課鈴木崇主幹は「ダムの影響で川の濁りの濃度に多少の違いが出るが、魚類の生態に問題はない」とするが、地元の小国川漁協は「鮎が食べる藻類に悪影響が出る」と反発している。
草島進一・山形県議は「浸水の恐れがあるのは、下流の赤倉温泉の約四十棟のみ。付近の川底を掘るなどすれば安い費用で対策を施せる」と主張し、県の強引なやり方をこう批判する。
「県がダム事業の評価を依頼した有識者の会議はダムの推進派ばかりで、ダムありきの話に終始した。河川工学の専門家が一人もおらず、客観的な議論ができたとは到底思えない」
補助ダムの五十三事業を検証した結果、中止は十二事業で、推進が二十三事業に上る。〇九年十月、当時の前原誠司国交相が補助金を出すかどうかは「予算の範囲内で国が優先順位を判断する」と明言した。
なぜ建設に歯止めをかけられなかったのか。
「県などが補助ダムの予算を付ければ、国は補助金を出さなければならない、という自民党時代からの法解釈に結局、縛られたままだった」と指摘するのは、ジャーナリストの政野淳子氏だ。
国交省の官僚が地方に出向し、土木事業を推進させているのも自民党時代のまま。山形県の県土整備部長も、長崎県の土木部長も国交省の出身者だ。民主政権が政治主張する知力も覚悟も欠いていたという。
草島県議は「補助ダムの建設について最終的に判断する知事に国交省の役人がベッタリ付いている。ダム推進の考え方を吹き込まれるのも仕方がない」と話す。
明治大の西川伸一教授(政治学)も「脱ダムの失敗は、官僚との『間合い』の取り方に失敗したからだ。鳩山政権では極端な『反官僚』を打ち出し、能力のある人材を抜擢して政策実現の手足とする、という発想を欠いていた」と続ける。
「国政は停滞し、その反動で以後の政権は官僚の言いなりになっていった。有権者に『改革なんてできない』という印象を与えてしまった民主党の責任は重い」
国交省にはこんな推計もある。今のペースでダムなどの公共事業を続けた場合、三七年度には維持管理・更新費が新規の投資の資金を食い潰すというのだ。既存の施設の更新に、六〇年度までの五十年間に総額約百九十兆円が必要だが、三十兆円が足りなくなる。
自民時代と変わらず 「末路は財政破綻」
そんな中、民主党政権は公共事業費を抑える努力はしてきた。政府の公共事業費の当初予算は十二年度に四・六兆円と、政権の発足前の〇九年度と比べて、二・五兆円圧縮された。
ところが東日本大震災を契機に、野放図な公共事業のばらまきが息を吹き返しつつある。衆院選で政権の奪回を目指す自民党は、災害に強い国造りを掲げ、今後の十年間で約二百兆円を投じ、ダムや道路、橋などを整備する方針を掲げている。
法政大の五十嵐敬喜教授は、公共事業の復活に警鐘を鳴らす。「維持管理もできない無駄なダムを造るのをやめないと。ダムや道路を造り続ける、その先に待ち構えているのは、悲惨な財政破綻です」
デスクメモ
ダムは新しく造るどころか、海外では壊す時代に入っている。人口減や節水家電で水が余り、巨費の割りに治水効果も低い。一方で、どれほどの生態系を破壊してきたものか。最上小国川は東北有数の鮎の聖地だ。福島などの清流が汚染されたため釣り人も増えた。もうコンクリートの壁は要らない。(呂)