八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

2012年総選挙 八ッ場ダムに関する各政党の公開アンケート結果についての当会の見解

2012年12月7日

 八ッ場あしたの会では、11月22日に各政党本部に対して、八ッ場ダムに関する公開アンケートを送付しました。回答結果はこちらのページに掲載しています。
八ッ場ダムに関する公開アンケートに対する各政党の回答結果(2012年総選挙)

 今回のアンケートでは、7日現在までに8政党(民主党、自民党、日本未来の党、みんなの党、日本共産党、社民党、国民新党、日本新党)から回答をいただきました。選挙戦の慌ただしい中、回答を寄せて下さったすべての政党に感謝します。
 八ッ場ダム予定地を抱える群馬県から三名が立候補している日本維新の会からは、現時点でまだ回答が送られてきていません。

 八ッ場ダム事業は2009年の総選挙後に発足した民主党政権により、本体工事が凍結されましたが、2011年12月、政府が本体工事の再開を決定しました。しかし民主党政権は、八ッ場ダムの本体工事は八ッ場ダム計画の上位計画である利根川水系河川整備計画が未策定な状況では予算執行できないとしてきたため、本体工事は今も着工されていません。

 この間、八ッ場ダム事業については、ダム予定地域の衰退、関連事業の行き詰まり、ダム湛水による地すべりの危険性など、数多くの問題が指摘されてきました。今回の公開アンケートにより、八ッ場ダム事業が抱える問題について、また、利根川水系河川整備計画について、各政党の考えがおおよそ判明しました。

 当会では、2005年の総選挙の時から、国政選挙のたびに各政党へ公開アンケートを実施してきました。これらの回答結果は、今回の回答結果の末尾に掲載したリンク先でご覧いただくことができます。

【八ッ場ダム事業への各党の基本姿勢】
 この間、八ッ場ダム賛成、反対の立場で姿勢が変わらなかったのは、賛成の自民党と反対の日本共産党、社民党です。
 今回のアンケートでも、自民党は「八ッ場ダムは治水・利水面で利根川流域住民に役立つ施設である」「本体工事に早急に着手するべき。」と答えました。
 「本体工事に早急に着手するべき」と回答したのは、自民党のみで、「本体工事を中止するべき」と答えたのは、日本共産党、社民党、新党日本、そして11月27日に発足した日本未来の党でした。
 八ッ場ダムの本体工事の着工に反対するこの四政党は、八ッ場ダム事業における関連事業の行き詰まり、ダム湛水の危険性を指摘し、ダム事業を中止して、ダム事業とは切り離した生活再建策、地域振興策が必要とする立場であることを明確にしました。

 自民党とこれら四党の中間に位置するのが民主党、みんなの党、国民新党です。民主党は「「利水、治水の面で八ッ場ダムは役に立つという意見と、効果が乏しく必要性がないという意見が党内にある。後者の意見が多数である。」と、昨年12月の民主党の状況をそのまま記述しています。
 みんなの党は、「八ッ場ダム計画の上位計画である利根川水系の河川整備計画に八ッ場ダム事業を位置づけられていない現状では、本体工事着工の是非は判断できない。」とし、国民新党も態度を保留しています。
 みんなの党は、2010年には「本体工事を継続すべき」と回答しており、今回の回答は同党の変化を示しています。2010年の参院選でみんなの党から立候補した上野宏史氏は、八ッ場ダムの関連事業を受注している群馬県の土建業者を支持基盤としていることが知られています。当選後、上野氏は一貫して八ッ場ダム推進の立場で活動してきましたが、今年になって、みんなの党から日本維新の会へ移籍し、今回の総選挙では、群馬一区と共に北関東比例ブロックの名簿登載一位として重複立候補しています。

【八ッ場ダム事業の工期延長の可能性について】
 八ッ場ダム事業は関連事業が肥大化し、道路、鉄道の付け替え、住民の移転代替地の整備等の完了のメドが立っていません。計画変更(工期延長、事業費増額)の可能性について、自民党のみは「八ッ場ダムは現在の計画どおり2015年度に完成させるべきである。」と答えています。国土交通省は本体工事着工からダム完成まで約7年を要するとしており、この試算に基づけば八ッ場ダムの完成は2020年度以降となります。関連事業の肥大化と事業の遅延は、自民党政権下でつくられた机上の計画がもともと孕んでいた問題です。2015年度の完成は関連事業の遅延状況を無視したものと言わざるをえません。今後、自民党が政権に復帰し、八ッ場ダム事業が継続する場合、工期の延長、事業費の増額により、八ッ場ダム事業は一層混沌とした状況になることが予想されます。

【八ッ場ダムの必要性について】
 「八ッ場ダムは治水・利水面で利根川流域住民に役立つ施設である。」と回答したのは、自民党と国民新党でした。
 民主党は、党内の大多数が八ッ場ダムの必要性はないという意見であると、党の実状を記述しています。民主党政権下で実施された国交省の八ッ場ダム検証は、河川官僚と推進派の有識者によって客観性、科学性の乏しいものとなり、「八ッ場ダム建設継続妥当」という結論を無理やり導き出しました。今回の民主党の回答は、八ッ場ダムの検証が民主党内でも評価されておらず、「八ッ場ダム継続妥当」とする検証結果に多くの同党議員が納得していなかったこと、国交省が民主党の意向を無視して八ッ場ダムを推進したことに対して、民主党が政権党として力を発揮できなかったことを示しています。
 みんなの党は「より中立性の高い専門家機関をつくり、再検証すべき。」と回答しており、この回答から、民主党政権におけるダム検証が中立性の乏しい、ダム推進にへだたったものであったという認識を示しています。

【ダム中止後の法整備について】
 八ッ場ダムに反対する政党と自民党の回答が唯一一致したのが「ダム中止後の法整備」についての質問5です。自民党、日本未来の党、日本共産党、社民党、新党日本は、「国会に提出された法案は不十分であるので、ダム事業中止後の法案を新たに作り、国会に提出する。」としています。
 同様の質問は、2009年の公開アンケートでも実施しているのですが、この時、自民党は、「ダムが中止になった場合でも、現在の法律で対応可能」と回答しました。八ッ場ダムをはじめとするダム事業を推進してきた自民党は、これまでダム中止後の法整備には消極的でした。
 わが国では、ダム事業における地域振興、補償は法律で保障されていますが、一旦始まったダム事業の中止後、ダム予定地への手当は法律で保障されていません。長期化するダム事業により、地域本来の経済や生活が破壊されるダム予定地では、ダム事業の犠牲になりながら、ダム事業の継続を求めざるをえないという悲惨な状況が見られます。今後、自民党には、公開アンケートの回答通りに実行することが求められます。

 
【ダム予定地域の地域振興と生活再建】
 八ッ場ダム事業による地域振興と生活再建で問題ないと答えたのは自民党のみでした。八ッ場ダムに反対する四党だけでなく、民主党、みんなの党も「八ッ場ダムの生活再建関連事業は行き詰まっており、ダム事業とは切り離した真の生活再建、地域振興策を図る必要がある。」と回答しています。
 実際、八ッ場ダム予定地では、巨額な税金を投入して道路、鉄道の付け替え、水没予定地住民の移転代替地の整備などの工事が進められてきましたが、多くの住民がダム事業による地域振興に見切りをつけて転出し、地元がダムを受け入れた1985年からすでに27年経た現在、地域は衰退の一途を辿っています。当初、八ッ場ダムは2000年度に完成することになっており、1990年代にはダム事業による地域振興が実現している筈でした。自民党は地元にダム事業による地域振興を説いてきており、現在もダム湖観光による地域振興をアピールしていますが、約束は事実上反故にされています。

【ダム湛水による地すべり等の危険性について】
 八ッ場ダム予定地は地質が軟弱であることが知られていますが、自民党政権下では最低限の安全対策しか計画されませんでした。民主党政権下では国交省が新たに地すべり等の安全対策を提示しており、自民党はこれらの安全対策を実施すれば問題ないと回答しています。
 民主党は、「本体工事の是非はともかくとしても、地質調査についても説明責任がある。不断の調査を進めて、きちんと検証すべき。」と回答しており、昨年のダム検証による安全対策で十分だという認識ではないようです。
 八ッ場ダム建設についての態度を保留しているみんなの党、国民新党も、「ダム湛水による危険性がないよう、改めて十分な地質調査を実施して対策を講じた後に本体工事に着工するべきである。」としており、現在の国交省の安全対策について、十分であるという意見ではありませんでした。
 八ッ場ダムの本体工事着工に反対する四政党は、「地すべり等のリスクを回避するためには、新たに膨大な予算を必要とし、またダム湖予定地周辺住民にも多大な犠牲を強いる可能性があるので、ダム本体工事に着工するべきではない。」と回答しており、本体工事の着工に反対する理由の一つが、危険性の問題であることを明らかにしています。

【利根川水系河川整備計画の策定】
 この質問でも、現在の国交省の整備計画の策定のあり方について、問題ないとしているのは自民党のみでした。民主党、日本未来の党、みんなの党、日本共産党、社民党、新党日本の6政党は、「本川のみの整備計画を進めるのではなく、水系全体の整備計画を策定するべきである。」、「有識者会議やパブリックコメントの反対意見を尊重すべきである。」と回答しています。
 国交省は利根川本川のみの整備計画策定を進めようとしており、有識者会議やパブリックコメントの反対意見を整備計画に反映する考えがありません。八ッ場ダム計画を利根川水系河川整備計画に組み込むためには、科学的な根拠に基づいた反対意見を取り入れるわけにはいかず、強引な手法をとっているのですが、国交省のやり方については、6政党が批判的な意見であることがわかりました。

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 今回の公開アンケートでは、回答した8政党のうち、自民党のみが八ッ場ダム推進の姿勢を鮮明にしました。しかし、自民党は総選挙で政権復帰するといわれ、また公開アンケートで回答を送ってきていない公明党、日本維新の会は、総選挙後、自民党との連立に前向きです。
 今回の回答を見る限り、自民党はこれまでの経緯から、ダム事業を今さら止められず、危険性、工期の延長、事業費の増額など様々な問題には目をつぶって、本体工事に突き進もうとしているようです。取り返しのつかない負の遺産を残さぬために、政治がまともに機能する時が来るのは、いつのことでしょうか。