八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

上信自動車道はいつ完成するのか?

2012年12月18日

 先週、渋川市の金井東裏遺跡で古墳時代の甲(よろい)を着装した人骨が出土したニュースが大きくクローズアップされました。報道では「世紀の大発見」とも書かれ、公開日の12日には全国から2600人を超える見学者が現場を訪れたということです。
 けれども人骨は、14日には現場から搬出されました。これは、出土品を保存、研究する為でもありますが、この発掘現場が道路建設予定地であり、現場での保存が不可能であるからでもあります。

 予定されている道路建設とは、上信自動車道のことです。群馬県のホームページでは上信自動車道について、「渋川市(関越自動車道渋川伊香保インターチェンジ)を起点とし、長野県東御市(上信越自動車道東部湯の丸インターチェンジ)まで、総延長約80キロメートルの本県広域的ネットワークを形成するための重要路線」と謳っており、約45万人の観光客増が見込まれるとされ、ルート上には八ッ場ダム予定地があることから、現地では八ッ場ダムへの観光道路だという説明もあったようです。
http://www.pref.gunma.jp/07/j07500005.html
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000057709.pdf

 今回、古墳時代の人骨が出土した遺跡があるのは、上信自動車道の金井バイパス区間です。金井バイパスは約1キロメートル、幅10.5メートル。朝夕の通勤時に混雑する金井交差点を迂回するため、移動時間が短縮できるとされています。

 上信自動車道は、吾妻川に沿って渋川市から最上流の嬬恋村へさかのぼるルートを通ることになっています。現在、この区間には国道と県道が通っています。吾妻川の左岸の国道は日向道(ひなたみち)、右岸の県道は日陰道(ひかげみち)と呼ばれてきました。朝夕、信号で車が混雑する時もありますが、人口減少、観光客の減少により渋滞は以前よりかなり減っており、将来的にはほとんど解消されるとみられます。

 渋川市の上流側で現在開通しているのは、八ッ場ダム予定地の八ッ場バイパス10.8キロメートル区間のみです。八ッ場バイパスは吾妻川に沿って走る現在の国道が八ッ場ダムで水没する予定であるため、ダムの補償事業として国とダム事業の関係都県の負担金で工事が行われてきました。
 八ッ場ダム予定地は地質がもろく、上信自動車道の八ッ場バイパスの工事では、2008年12月にトンネルの落盤事故で作業員が死亡し、2010年の暫定開通後も落石事故が二件発生しています。山側の法面に地すべり対策を施した場所や、対策のために道路が迂回している場所もあります。

      落石箇所(川原畑地区)
     

     赤茶けた酸性土壌の国道法面に並ぶアンカーボルト。(川原畑地区)
     

     地すべり対策と地すべり計(林地区)
     

 八ッ場バイパスは現在、連続雨量120ミリメートルに達すると閉鎖されることになっています。八ッ場バイパスは現在は国の管理下にありますが、完成後は群馬県が管理することになります。脆弱なライフラインは今後、時間が経過するにつれて維持管理費が嵩むことが予想されることから、群馬県議会では県の管理になる前に、安全性を十分に確認してほしいとの意見も出ています。   

 上信自動車道ではこのほか、下流側から渋川西バイパス、金井バイパス、川島バイパス、祖母島(うばしま)~箱島バイパス、吾妻西バイパス区間が事業化されています。このうち、渋川西バイパスは国交省が、金井バイパスから上流の区間は群馬県が事業主体となっています。
 事業に関わっている国土交通省高崎河川国道事務所と群馬県渋川土木事務所、中之条土木事務所に事業の進捗状況について問い合わせたところ、上信自動車道の全線開通については、今のところ未定とのことです。
 それぞれの区間についての進捗状況は以下の通りです。

○渋川西バイパス・・・約5キロメートル区間。現道拡幅区間は平成22年度より工事着手。新設区間は設計中。
 http://www.ktr.mlit.go.jp/takasaki/shibukawa-nishi-bypass.html

○金井バイパス・・・約1キロメートル。用地買収率は総面積の56%。平成27年度完成予定。今年始まった発掘調査による遅延の予定はない。 
 http://p.tl/423z

○川島バイパス・・・約2.2キロメートル。用地買収は金井バイパスよりは遅れており工事未着手だが、平成28年度までに全線開通予定。
 http://p.tl/Azgo

○祖母島~箱島バイパス・・・約4キロメートル。平成23年度工事着手。平成29年度までに全線開通予定。
 http://p.tl/oI5b

○祖母島~箱島バイパスから吾妻西バイパスの区間・・・事業化されていない。

○吾妻西バイパス・・・約7キロメートル。用地買収が一部で始まったところ。工事未着手。完成は未定。
 http://p.tl/8pJQ

○八ッ場バイパス・・・10.8キロメートル。平成22年度より暫定開通。吾妻渓谷の下流側で、JR線と交差する地点は踏切となっている。
 http://www.pref.gunma.jp/06/h5200018.html

○八ッ場バイパスより上流側・・・事業化されていない。

 上信自動車道は総延長約80キロメートルのうち、暫定開通は10.8キロメートル(八ッ場バイパス区間)、事業化区間が20キロメートル弱、残り50キロメートルは事業化されていません。
 国土交通省のデータによれば、わが国では2030年以降、既存のインフラの整備費用が嵩み、新規事業を実施するのが困難な時代がやってくるとのことです。上信自動車道は、どこまで造るのでしょうか?