八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

上湯原代替地と長野原地区代替地、安全対策の対象から除外

 このほど情報開示された国交省資料により、八ッ場ダム事業で安全対策を行うとしていた水没住民の移転代替地5箇所のうち、2箇所の安全対策は実施しないことが明らかになりました。
 安全対策の対象外となったのは、上湯原代替地と長野原代替地です。この結果、現時点で行う代替地の安全対策箇所は川原湯地区にある打越代替地の3箇所のみとなりました。

代替地計画
 八ッ場ダム事業では、水没住民の移転代替地をダム湖予定地の周りに整備する代替地計画が進められてきました。
 水没予定地にあった各集落の代替地を背後の山に“ずり上げる”代替地計画は、もともと平らな土地のない山の中腹に広大な宅地を用意するため、山を掘削し、沢を埋め立てる大規模な造成工事が必要でした。2017年3月末の国交省資料によれば、代替地の整備予定面積は34.2ヘクタールに上ります。

 代替地の谷埋め盛り土は、場所によっては深度が30メートル以上ある高盛り土です。ダム完成後、ダム湖に水を貯め、水位を上下させてもダム湖周辺に影響がないよう安全を確保することは、八ッ場ダム事業における今後の最重要課題の一つです。

繰り返される安全対策の変更
 湛水に備えて行われる地すべり対策と代替地の安全対策について、国交省の説明は何度も変更されてきました。以下の表は、地すべり対策と代替地の安全対策の変遷をまとめたものです。黄色で塗ってあるのが対象から外れた箇所です。


 国交省は2011年の八ッ場ダムの検証において、地すべり対策と代替地の安全対策の工事費の試算結果を示しました。
 2016年の八ッ場ダム基本計画変更では、地すべり対策と代替地の安全対策を八ッ場ダム事業の増額要因に挙げる説明資料を作成しました。この時点で、地すべり対策箇所は2011年の検証時の10箇所から5箇所に半減していました(対策済みの横壁の小倉を除く)。

 一方、代替地の安全対策の対象は5箇所と、2016年と2011年では変化がありませんでした。
 2016年の説明資料(↓)で代替地の安全対策の基準とされた宅地造成等規制法は、阪神・淡路大震災など相次ぐ巨大地震の際、大規模に谷を埋めた盛土造成地で崩落等が多発したことから2006年度に改正されたものです。

下=2016年の八ッ場ダム基本計画変更の際の国交省の説明資料より

なぜ対策不要とされたのか?
 その後、国交省からは代替地の安全対策について新たな情報は発表されていませんが、2017年になって対象箇所が5箇所から3箇所に減らされていることをこのほど確認しました。その根拠資料が、今回開示された「H26八ッ場ダム貯水池周辺地盤性状検討業務報告書」です。データも含めて1万2千ページにもなる資料です。以下の文字列をクリックしていただくと、開示資料の中で、安全対策箇所を減らした根拠資料のファイルが開きます。

 https://yamba-net.org/wp/wp-content/uploads/2018/02/REPORT03.pdf
 「H26八ッ場ダム貯水池周辺地盤性状検討業務報告書」REPORT03

 開示資料を読むと、上湯原代替地が安全対策の対象外となったのは、宅地造成等規制法に基づく耐震基準ではなく、より安全基準度の緩い河川砂防技術基準を採用した結果であることがわかります。この採用基準の変更により、安全計算で想定する地震力(水平震度)が半分になってしまいました。
写真右=上湯原代替地と背後の金鶏山。

 開示資料Ⅱ-160ページより
 

 上湯原代替地で宅地造成等規制法を採用しなかったのは、上図で「河川管理用地」と書かれている赤い区画にグランピング施設(豪華なキャンプ場)が整備されることになり、住宅地として利用されないからであるということです。
 しかし、将来、宅地で使われることもあり得るのですから、そのような場合も想定した安全対策を講じておくべきではないでしょうか。安全な代替地をつくるのだという気構えが感じられません。

 現地では地質調査が今も行われています。
 上湯原代替地の山側にはJR吾妻線の線路と擁壁があり、その山側には住宅があります。

写真下=上湯原代替地の「河川管理用地」。今もボーリング調査が行われている(写真右上)。
2018年1月30日撮影。

 
 上湯原地区とともに代替地の安全対策不要となった「長野原地区③」について、開示資料では、安定計算の結果、許容値を満足するため、対策は不要と判断するとしています。

写真=JR長野原草津口駅前の長野原駅前大橋より上流側の「長野原地区③」を望む。2018年2月17日撮影

 これは盛土材の土質定数を見直したことによるものです。しかし、安定計算の結果(常時満水位の地震時)は1.029で、許容値1.00に対してぎりぎりの値です。これで本当に対策無しにして大丈夫なのでしょうか。

 2016年計画変更の際には、専門家への聴取や現地調査、安定計算の結果、対策必要と判断された筈ですが、どうして判断が変更されたのでしょうか?
 八ッ場ダム事業は地すべり対策と代替地の安全対策の費用を極力減らして、他の用途に回す事情があるように思われてなりません。

現時点での国交省の回答
 代替地の安全対策について、堀越けいにん衆院議員(立憲民主党)と国交省の間でやり取りがあったとのことです。堀越事務所によれば、国交省の回答の概要は以下の通りです。

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【国交省回答】
 代替地の安全対策については2016年12月の基本計画変更後も専門家の意見を聴きながら調査検討を進めてきました。その結果、川原湯地区の3箇所は押さえ盛土工等を行うこととし、川原湯地区の1箇所(上湯原)は対策不要としました。
 対策を行う3箇所の費用については、現在施工中であり、各工事の精算ができないことからお示しできません。工期は平成31年度です。
 現時点で施工中の代替地地区の斜面の盛土造成箇所は、川原湯地区3箇所、横壁地区の東・中村地区1箇所、小倉地区1箇所の各5箇所です。
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【参考記事】「2017年12月群馬県議会における質疑(代替地の安全対策など)」
      https://yamba-net.org/wp/40734/