八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

川原湯温泉の振興策についての日経記事

 日経新聞が川原湯温泉の観光振興への取り組みを取り上げています。
 八ッ場ダム事業では、水没五地区それぞれに地域振興施設を作ることになっています。地域経済の核であった川原湯温泉の観光振興は、八ッ場ダム事業における「生活再建」の重要な課題です。

 しかし、長いダム事業の過程で、川原湯温泉は衰退し、人口も減少しました。ダム計画を受け入れる前、201世帯だった川原湯地区で、地区内に残っているのは今では40世帯足らずです。
 水没地区の地域振興施設の建設費用は、八ッ場ダムの受益者とされる利根川流域都県が負担しますが、施設完成後の運営は地元が担うことになります。当初の地元への説明では、運営費用も関係都県が負担するということでしたが、運営主体となる筈だった水源地域振興公社の構想は現在ではなかったことになっています。
(写真右=昨年、代替地へ移転した川原湯神社と砂防ダム。写真右下にJR吾妻線の川原湯温泉駅がある。)

 人口減少と高齢化に苦しむ川原湯地区では、将来への不安から、地域振興の方策がなかなか決まらず、長野原町が跡見学園女子大の篠原准教授と連携して、川原湯の振興策に取り組むことになりました。
 川原湯地区の水没住民が移転した打越代替地は、八ッ場ダムの本体工事現場に隣接しており、ダム湛水に備え、安全対策のための擁壁工事などが始まっています。山の中腹に造成された代替地は、30~50メートルの沢埋め盛り土と切り土からなっており、ダム湛水によって地盤が不安定化する懸念があります。
 以下の記事では触れられていませんが、代替地の安全性の確保なしに、観光振興は成り立ちません。

◆2018年2月23日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27254520S8A220C1L60000/
ー長野原町、八ツ場ダム観光振興で官民結束 温泉も集客ー

 八ツ場ダムの建設が進む群馬県長野原町で、ダムを中心とした観光振興が盛り上がっている。2017年11月には酒屋や旅館を営む町民と行政、ダムを建設する国が一体となり「チームやんば」を結成。提携する女子大のアイデアも生かしながら独自のスイーツの商品化や、ダムや高台に移転した川原湯温泉の集客力向上策を次々と発案している。町全体で地域活性化を目指す。

 昨年11月、長野原町で開かれた報告会。川原湯温泉協会会長の樋田省三さんが中心となり、チームやんばの結成が宣言された。メンバーには旅館の経営者のほか、道の駅や酒造会社など町民が参加。町役場の職員や、国土交通省のダム工事事務所職員も参加した。

 チームの結成のきっかけとなったのが、跡見学園女子大学(東京・文京)の学生が町内で実施した宿泊研修だ。町内に大学の研修所があることをきっかけに、長野原町は16年に跡見女子大と相互協力に関する包括協定を結んだ。昨年8~9月に、観光コミュニティ学部の学生が町を訪れ、観光活性化に向けたプランを考案した。

 チームやんばでは、女子大生のアイデアを膨らませながら観光振興策に取り組んでいる。1つが新たな商品・サービスの開発だ。地元の酒蔵である浅間酒造(同町)の酒かすを使ったアイスクリームを考案し跡見女子大の学生も試食会に参加した。町内の洋菓子店とも連携して試作を重ねており、旅館や道の駅での提供を目指している。

 もう1つがダムや川原湯温泉の集客力向上策だ。ダム工事事務所は事前予約が必要ない短時間の見学ツアー「ぷらっとやんば」を開いている。17年は夏季の土日限定で開催したが、18年度からは平日も開催する予定だ。

 チームやんばなどのアイデアで、ツアーを案内する女性コンシェルジュのヘルメットは従来の白1色からピンクや青など7色に増やした。若者もツアーに気軽に参加できるよう、コンシェルジュの制服もカジュアルなものに変更する考えだ。

 ツアーに参加するともらえる「ダムカード」に特典をつけた。旅館や道の駅で提示することで、温泉の成分を使った入浴剤がもらえるほか、ソフトクリームなどが割り引きになる。「ダムカードの利用も増加すると見込まれる」と町企画政策課の中村剛課長は話す。

 川原湯温泉近くには、新たな観光名所として、樹氷のオブジェも設置した。冬季限定で、夜間のダムツアーなどの際に公開している。川原湯温泉のイメージに統一感を出すブランド化も進めていく。八ツ場の「八」をかたどったロゴを作り、タオルなどにデザインする。各旅館でもロゴを作り、浴衣やお土産にデザインすることを検討している。中村課長は「観光振興の取り組みを通じ、初めて町が一つになっている気がする」と話す。

 町の東部にある八ツ場ダムの建設計画は1952年に発表された。その後は民主党政権時代の建設中止など曲折を経て、2019年度の完成が予定されている。ダムによって水没する地域の町民の生活再建など、完成後も町に課せられた課題は多い。

 町は少子高齢化による人口減少にも悩まされている。1950年代には8000人を超えていた町の人口は、現在は約5700人まで減った。流入人口を増やすためにも、ダム観光を中心とした町のアピールは必須だ。

 萩原睦男町長は「オール長野原で観光振興に取り組みたい」と話す。ダム建設によって水没した川原湯地域などに比べ、ダムから離れた南西部の北軽井沢地域などではダム問題への関心が薄いとされる。チームやんばには北軽井沢の観光協会も参加し、町が一体となった課題解決に取り組んでいる。(前橋支局 木村祐太)