栃木県から茨城県に流れる一級河川・那珂川は、関東地方では数少なくなった、豊かな漁業資源で知られる川です。この那珂川流域の漁協が霞ヶ浦導水事業による被害を防ぎたいと工事差し止めを求める控訴審において、さる3月30日、東京高裁で和解協議が行われ、高裁から和解案(最終案)が示されました。
漁協側と国がこの和解案を受け入れれば、4月27日の口頭弁論で和解が成立することになります。
那珂川はアユの漁獲高で日本一になることが多い天然アユのメッカです。
霞ケ浦導水事業とは、霞ケ浦と那珂川、利根川を総延長約45キロの地下トンネルで結ぶことにより、茨城県、千葉県、東京都、埼玉県の都市用水を開発することなどを目的としています。首都圏においても、都市用水の需要が減少の一途を辿り、水余りが年々顕著になって今すが、国交省関東地方整備局は八ッ場ダムと同様、霞ケ浦導水事業を強行してきました。現段階の総事業費は約1900億円です。
〇国交省関東地方整備局 霞ケ浦導水事業の概要
http://www.ktr.mlit.go.jp/dousui/index0001.html
〇水源開発問題全国連絡会 「霞ケ浦導水事業の控訴審が大詰めに 那珂川の漁業被害が焦点」
http://suigenren.jp/news/2018/02/27/9754/
関連記事を転載します。
◆2018年3月31日 毎日新聞茨城版
http://mainichi.jp/articles/20180331/ddl/k08/040/133000c
ー霞ケ浦導水・那珂取水口建設差し止め訴訟 和解案を高裁が提示 原告側、応じる姿勢ー
国が進める霞ケ浦導水事業を巡り、茨城、栃木両県の漁協が環境悪化の懸念から那珂川の取水口建設工事を差し止めるよう求めた訴訟で、東京高裁(都築政則裁判長)は30日、和解案を示した。アユがふ化する毎年10~1月末は夜間取水しないよう求め、その間に本格運用の方法を決めるため漁協の意見を聞く場を設けるよう国に求めた。原告側は応じる姿勢を見せており、早ければ4月27日にも和解が成立する。【山下智恵】
同事業は、水質浄化や渇水対策を目的に、霞ケ浦と那珂川、利根川を総延長約45キロの地下トンネルで結ぶもので、利根川との導水路や那珂取水口のポンプ場(那珂機場)は既に完成している。
和解案は「那珂川水系での漁業への影響に配慮し、漁協の意見を尊重する」と明記し、本格的な運用方法について漁協の意見を聞く場を毎年7月に開くよう国土交通省関東地方整備局に求めた。
運用方法を決めるまでは、毎年10~1月末、午後6時~午前8時の14時間、アユの稚魚への影響が懸念される那珂川で取水しない。また霞ケ浦からの「逆送水」は少量の試験送水にとどめ、同川の水質変化を調査するほか、同川に生息するアユやサケ、同水系の涸沼に生息するシジミを定期的にモニタリングするよう国に求めた。
原告側弁護団の丸山幸司弁護士は「当面、事業に対してさまざまな制約を付けたうえ、漁業被害がないと主張する国に対して、漁業者の意見を尊重するよう認めたのも評価できる。前向きに検討できる内容」と話した。
一方、同局は「和解協議中であり、具体的コメントは差し控えたい」としている。
1審・水戸地裁判決(2015年7月)は「漁獲量が減少する具体的危険があるとまでは言えない」として請求を棄却している。
◆2018年3月31日 下野新聞
http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20180331/3011880
ー霞ケ浦導水訴訟で高裁が和解案 「意見交換の場」など提案、回答に期限もー
栃木・茨城両県の漁連・漁協5団体が国に霞ケ浦導水事業の那珂川取水口建設差し止めを求めた住民訴訟控訴審の7回目の和解協議が30日、東京高裁(都築政則(つづきまさのり)裁判長)で開かれた。漁協側弁護団によると、高裁は、事業が本格運用されるまで国と漁協側との意見交換の場を設けることを柱とする和解案を示した。また原告、被告双方に対し、受け入れるかどうか4月25日までの返答を求めたという。双方が受け入れれば、次回口頭弁論の27日に和解が成立する。
弁護団によると、和解案は国が事業を行う上で漁業への影響に配慮し、各漁協の意見を尊重することを目的として明記。アユ、サケ、ヤマトシジミなど水産資源8種への悪影響を防ぐため、設備を本格運用するまでは漁協側との意見交換の場を設けるよう求めた。
意見交換の場は非公開とし、年1回、原則7月に開くことを提案。本格運用の時期には触れていないが、漁協側の意見を聞いた上で国が判断することを想定しているとみられる。
また和解案は、本格運用までは取水を制限するなどして事業を行うことなどを求めた。稚アユの取水口吸い込みを防ぐため、毎年10~1月の夜間取水停止を提案。国に少量の試験送水(霞ケ浦から那珂川への逆送水)を行って、水質などの定期的なモニタリング調査をするよう示した。
高裁は和解案の意図について「漁業被害が生じない仕組みをつくることが重要」と述べたという。
漁協側弁護団代表の谷萩陽一(やはぎよういち)弁護士は協議後、「高裁も双方の意見を相当聞き、かなり踏み込んだ案になった」と話した。
◆2018年3月31日 茨城新聞
http://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15224233057885
ー霞ケ浦導水訴訟で和解案 東京高裁 国が水質調査へー
霞ケ浦導水事業で那珂川と涸沼周辺の生態系が破壊され漁業権が侵害されるとして、流域の4漁協と栃木県の漁連が国に那珂川取水口(水戸市)の建設差し止めを求めた訴訟の和解協議が30日、東京高裁であり、都築政則裁判長が和解案を示した。漁協側弁護団によると、事業の本格運用まで国と漁協側の意見交換の場を設けることなどを柱としている。受け入れるかどうか、双方に4月25日までの回答を求めた、
和解案では、アユなどの漁業に大きな影響を与えないよう、国が定期的に水質をモニタリング調査し、取水の時期や時間を制限して事業を試験的に実施、本格運用までの間、漁協側と意見交換する協議会を設けるとしている。
協議会の開催は毎年7月に加え、申し入れに応じて招集することも可能とするほか、有識者でつくる専門委員会を置くことができるとしている。
漁協側弁護団によると、この日、都築裁判長は「国側から最大限の譲歩を得られたと思っている」と強調したという。漁協側には「仮に敗訴となったら何も残らない。組合が(国を)監視し、(那珂川や涸沼を)守っていくことが大事だ」と和解を促した、
次回期日は4月27日。同25日までに和解案に回答するよう双方に求めた。
協議の後、谷萩陽一弁護団長は「相当程度こちらの目的を達し得るもの」と評価した。国土交通省関東地方整備局は「和解協議中であり、具体的にコメントすることは差し控えたい」とした。
控訴審で漁協側は、ふ化したばかりのアユの吸い込み防止策で、国が示す10、11月の夜間取水停止では不十分と主張。霞ヶ浦から那珂川への「逆送水」で、涸沼のシジミにかぴ臭が移る恐れがあると訴えた、国は「12月に取水制限すれば足りる」と反論。かび臭物質は海水などで希釈されると主張してきた。
事業は霞ヶ浦の水質浄化や首都圏への水の安定供給が目的で、1984年に着工。2010年に中断したが、事業検証の結果、14年に継続が決まった。