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日吉ダムの貯水限界

 西日本各地で豪雨による甚大な被害が発生しています。これを機に、「国土強靱(きょうじん)化が政府の予算編成の焦点に浮上してきた。」と、今朝の日経新聞が報じています。
 わが国の治水対策は、治水効果を発揮するまでに巨額の税金と長い歳月を要するインフラ施設への投資が優先されてきました。安倍政権における「国土強靭化」の掛け声の下、巨大ダムやスーパー堤防事業がこれまでにも増して推進されてきましたが、今回の水害を踏まえて、ダムの功罪を検証し、今後の治水対策に活かす必要があります。

 今回の水害では、ダム計画の想定を超える雨量のせいで、大雨の中、上流のダムが放流を行うケースがいくつもありました。ダムは満水になると、ダム堤体から水が溢れて堤体左右の山の取り付け部分が水で削られて「決壊」にいたらないよう、ダムを守るために「ただし書き操作」という名の緊急放流を行います。京都府にある日吉ダムでは、貯水限界を超えて7月6日午後2時から放流を始めたと報道されています。

 日吉ダムは洪水調節と、京都・大坂・兵庫の水道用水開発のために水資源機構が1998年に桂川中流部に建設した多目的ダムです。総貯水容量が6600万㎥、洪水調節容量が4200万㎥もある大規模なダムですが、今回の大雨では満水になって洪水調節機能が失われてしまいました。
(右図:水資源機構 日吉ダム公式サイトより) http://www.water.go.jp/kansai/hiyoshi/

 ダムの運用データをネットで見ることができますので、日吉ダムについて流入量と放流量のグラフを描いてみました。日吉ダムは第一波の洪水に対しては洪水調節を行えましたが、第二波の洪水に対しては無力であったことがわかります。
(ダム流入量・放流量の出典:リアルタイムダム諸量一覧表)

 関連記事を転載します。

◆2018年7月6日 共同通信
https://this.kiji.is/387914424717493345?c=39546741839462401
ー日吉ダム放流で京都市が避難指示 下流周辺地区にー

 京都市は6日午後6時30分、日吉ダム放流に伴い「避難指示(緊急)」を発令した。
 対象地域は以下のとおり(避難場所は変更なし)
 下京区(大内、七条、西大路、七条第三)
 南区(上鳥羽、久世、九条塔南、祥栄、吉祥院、祥豊、唐橋)
 右京区(西院第一、西京極、葛野)
 西京区(松尾、桂川、桂徳、桂東、川岡東、樫原)
 伏見区(久我、久我の杜、横大路、竹田、住吉、板橋、下鳥羽、羽束師、淀、淀南、納所、南浜、藤森)

◆2018年7月6日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASL76677TL76PTIL046.html
ー京都・嵐山の桂川、増水に注意呼びかけ 上流でダム放流ー

  「桂川沿いの危険性が高い。長時間の降雨で堤防は弱くなっている。細心の注意をしてほしい」

特集:列島各地で大雨
 国土交通省近畿地方整備局の中込淳・河川部長は6日夕、緊急会見を開き、京都府を流れる桂川上流にある日吉ダム(同府南丹市)の貯水量がほぼ満杯となり、放流量が毎秒約1千トンとなっていると明らかにした。放流量が上がれば、桂川の水位がさらに上昇するため、下流域の住民らに注意するよう訴えた。

 その桂川にかかる京都・嵐山の観光名所、渡月橋(約150メートル)。雨の影響で5日午後から通行止めが続いているほか、桂川に近づかないよう、規制線も張られている。一時水位が下がった6日朝、近くの温泉旅館「嵐山辨慶(べんけい)」の前には流されてきた小魚もあちこちにいた。清掃していた川越美也(みや)さん(72)は「水がこんなところまでくるなんて」と驚いていた。

 京都では増水によるとみられる死者も出た。京都府警によると、同府亀岡市畑野町千ケ畑の大路次川(おおろじがわ)で、水没している車が6日未明に見つかり、消防団員が約1・5キロ下流で遺体を発見。亀岡市の瀧上さち江さん(52)と確認された。瀧上さんは、車で亀岡市の実家に向かう途中で濁流に巻き込まれたとみられる。

 京都市左京区吉田神楽岡町では6日午後2時半ごろ、住宅裏の斜面が高さ約10メートル、幅約20メートルにわたり崩落。石や樹木が住宅にぶつかり、窓ガラスを割って土砂が屋内に入った。近くに住む男子大学生(23)は「こんなことは初めて。避難も考えなければ」。

◆2018年7月9日 毎日放送
https://www.mbs.jp/news/kansainews/20180709/GE000000000000023440.shtml
ー5年前は氾濫の嵐山…被害が抑えられたのはなぜ?ー

  観光地の嵐山を流れる桂川では一時、氾濫の恐れがありましたが大きな被害は出ませんでした。5年前の台風被害で一帯が浸水しましたが、その後の対策が今回実を結んだともいわれています。

 大雨の影響で一時、水が堤防を越えた桂川では「5年前の教訓」が生かされていました。

 Q.お店に浸水被害は?
 「なかったです。やっぱり5年前の方がひどかったですよね」

 2013年の台風18号では上流の日吉ダムで放流が行われたことなどにより、堤防が決壊して桂川が氾濫。土産物店などが被害を受けました。

 「(5年前は)その灯籠の電気がつくところまでは(水が)きていましたね」
 Q.今回はそんなに?
 「全然。大丈夫でした」

 今回の大雨では、日吉ダムでこれまで20年間一度も開けたことがなかった「非常用ゲート」を開放。通常の6倍もの水が桂川に流されました。

 「ピークを迎えてそのときにはダムに貯める量がなくなってたので、入ってくる水の量と同じ量を(川に)流すことになりました」(日吉ダム管理所 今井敬三所長)

 にもかかわらず、5年前より被害が抑えられたのはなぜだったのか。淀川河川事務所によりますと、桂川では5年前の被害を受け、渡月橋の近くで川底のゴミや土砂を撤去していたほか、水をせきとめていた井堰をとりはらい、川を流れやすくしていたのです。川底の土砂の撤去により水深も深くなっていたため、大量の放水でも氾濫を防ぐことができたといいます。

 一方、徳島県三好市では土砂崩れにより道路が寸断され、43世帯201人が孤立しています。今のところ、けが人などはいないということです。自然災害が多発する中、その教訓をどう生かしていくのかが問われています。