八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

国交省、肱川上流ダムの緊急放流についての検証委員会立ち上げ

 7月の西日本豪雨では、愛媛県を流れる肱川流域で上流のダムを緊急放流した7日朝、大きな水害が発生しました。野村ダムの放流で5人、鹿野川ダムの放流で3人、あわせて8人の住民が犠牲になったとされています。
 ダム事業に多額の予算を投入する国交省は、ダムによる治水効果を過大にアピールする一方で、ダムの治水限界、ダムによる危険性について周知する努力を、これまで殆どしてきませんでした。
 NHKニュースによれば、両ダムを管理する国交省四国地方整備局は、水害発生4日後の11日に記者会見を開き、「下流域の被害は予想されていたが、想定外の雨量で、放流はやむをえなかった。住民への情報周知については適切だった」などと説明しました。

 一方、大水害への初動の遅れが各方面から批判を浴びた官邸では、同じ11日に菅官房長官の記者会見で、自治体による避難情報の発信等について見直すため、検討会を設置すると表明。13日に愛媛県の被災地を訪問した安倍首相は、ダムの操作について徹底的に検証すると表明。(7/12,14付け 毎日新聞) 16日に被災地を視察した石井国土交通大臣は、学識者らを含む第三者委員会を設け、有効な住民への周知方法の検証や効果的なダム操作方法の技術的考察などを行うと表明しました。(7/16付け愛媛新聞)

 こうした政治的な動きを受けた国交省の対応は迅速でした。
 17日、国交省本省と四国地方整備局が同時発表したプレスリリースです。

◆平成30年7月17日 国土交通省水管理・国土保全局
「野村ダム・鹿野川ダムの操作に関わる情報提供等に関する検証等の場を設置します。」
http://www.skr.mlit.go.jp/pres/new/i1320/180717-1.pdf

 上記のプレスリリースによれば、すでにこの時点で、第三者委員会の委員は次のように決定していました。

 「第三者委員会」と言いながら、ダムの放流を行った国交省がみずから委員に入っているだけでなく、事務局も国交省が担当するとされています。改正河川法の趣旨からすれば、流域住民、特に水害の被災者の意見が委員会に反映される仕組みが必要です。プレスリリースを見ると、傍聴は20人のみ可能ですが、「検証等の場における言論への批判、可否の表明、拍手などをしないこと」、「傍聴者の方の持ち込んだ資料の配付は行わないこと」など、厳しい規制があります。情報公開、市民参加を打ち出した、1997年の改正河川法を踏まえた淀川水系流域流域委員会とはかけ離れた姿勢であり、淀川水系流域委員会よりはるかに後退した利根川・江戸川有識者会議よりさらに後退しています。八ッ場ダムの可否が争点となった利根川・江戸川有識者会議は、民主党政権時代に再開され、旗色が悪くなった国交省関東地方整備局が2013年3月に突然打ち切ってしまいましたが、有識者委員にダムに反対する委員が加わり、傍聴希望者はすべて傍聴可能でした。傍聴者の意見書を会場でマスコミ等に配布することも認められていました。

 肱川では、緊急放流で問題となった二基のダムを管理する国交省四国地方整備局が、さらに支流の河辺川に山鳥坂ダムを建設すべく、ダム事業を進めています。山鳥坂ダムの完成予定は2026年度です。河辺川は小川のような小さな川で、集水面積は肘川流域の僅か5.4%しかありません。たとえ山鳥坂ダムが完成していたとしても、今回の水害を防ぐことはできませんでしたが、国交省は肱川の治水予算の大半を山鳥坂ダム事業に投じてきました。しかし、こうした問題が委員会で俎上に乗る可能性は殆どありません。

 一般に国交省による「検証」委員会では、事務局を務める国交省が「事務局案」を作成し、委員会で「事務局案」の方向性が批判されることは殆どなく、検証結果は国交省の考える通りとなります。
 今回の委員会には「有識者」として、愛媛大学の関係者が二名選ばれていますが、被災地を視察した鈴木幸一名誉教授は「ダムの決壊を防ぐため放流は適切だった」、「建設途中の堤防がすべて越流し被害が出たことなどから、ハード面での整備を急ぐべきと指摘」し、森脇亮教授は「『伝えたこと』と『伝わったこと』は違う。情報をどのように受け手側が捉えたか検証する必要がある」と述べており(7/19付けテレビ愛媛)、国交省の責任回避と問題の矮小化のために選出されたことが露呈してしまっています。
 22日付の読売新聞では、鈴木名誉教授が「住民の意見を聴く場も設けたい」と語っているということですが、単なるガス抜きではなく、真摯に住民の意見を聞く意思があるのでしょうか? 第一回の委員会は即座に開催されましたが、第二回の委員会がいつ開催されるかは不明です。

 現在の国交省による治水計画では、机上で想定した大雨による洪水をダムで防ぐことになっています。想定外の大雨になると、今回のように満水になったダムから緊急放流を行わなければなりませんが、ダムの下流はダムによって守られることになっているため、ダムが治水機能を失うと、一気に危険にさらされます。
 今回の水害を踏まえて、利権を守るダム事業にへだたったこれまでの国の治水対策を根本的に見直し、河川改修や堤防強化を重視し、流域全体で洪水を逃し、人命を犠牲にしない治水対策への転換を目指さなければ、犠牲は繰り返されることになります。

 野村ダムと鹿野川ダムの放流問題については、放流当時の流入量と放流量のグラフと解説を以下のページに掲載しています。 
「ダムがあるために避難の時間が失われた(肱川の水害)」

 野村ダムと鹿野川ダムの放流問題に関する関連記事はこちらに掲載しています。
「野村ダムと鹿野川ダムの放流による肱川の水害(その3)」

◆2018年7月22日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/national/20180722-OYT1T50025.html
ーダム放流、国「ルール通り」住民「計画性ない」ー

 西日本豪雨で、愛媛県の二つのダムで行われた緊急放流について、ダムを管理する国が当時の対応を検証する委員会を設置した。放流量が通常の大雨時の約6倍に増えた結果、下流の河川では氾濫が発生し、8人が死亡した。国は「ルールに基づいた措置だった」とするが、住民からは放流の方法や情報提供の改善を求める声が出ている。

 検証の対象となったのは、愛媛県南部を流れる肱川ひじかわ水系の野村ダム(西予せいよ市、有効貯水容量1270万トン)と鹿野川かのがわダム(大洲おおず市、同2980万トン)。

 国土交通省四国地方整備局によると、二つのダムでは豪雨に備えて4日から事前放流を行い、通常の約1・5倍の貯水が可能になっていた。だが、7日に入っていずれのダムも水位が限界に近づき、水があふれ出る恐れが出たため、流入する量とほぼ同じ量の水を放流する「異常洪水時防災操作」を実施した。

 野村ダムでは、責任者が7日午前2時半、西予市に防災操作を実施する可能性があると伝え、同市は同5時10分に避難指示を出した。防災操作は同6時20分に始まった。

 鹿野川ダムでも、7日午前5時10分、下流の大洲市に同様の連絡を行い、同市は同7時半に避難指示を発令。防災操作は同7時35分から行われた。

 1秒間の放流量は野村ダムで1797トン、鹿野川ダムで3742トンに上り、いずれも7日午前0時時点の約6倍に達した。肱川水系では水位が急上昇し、氾濫が発生。西予市野村町で5人、大洲市で3人が死亡した。

 19日に大洲市で開かれた検証委員会の初会合では、同整備局が防災操作の経緯などを説明した。それぞれのダムについて事前に定めた計画に基づいて、流入量や水位に応じた適切な放流量を決めており、住民への周知についても、防災操作の1時間以上前に警報のサイレンを鳴らしたという。

 これに対し、住民からは不満の声が上がる。

 自宅が2階まで浸水し、ボートで救出された大洲市内の60歳代の男性は「今までにない雨量なのに、従来の規則通り対応したと言われても納得できない。もっと計画的に放流はできなかったのか」と憤る。西予市の60歳代の男性は「大雨の音がすごく、サイレンは聞こえなかった。いつも通りの時間に起きたら膝下まで水が来ており、あと10分遅ければ危なかった」と話した。

 検証委員会のメンバーの鈴木幸一・愛媛大名誉教授(河川工学)は、「ダムは満杯になった時点で放流しないと壊れる。防災操作はすべきだったが、その方法に改善できる点がないかは検証が必要だ。住民の意見を聴く場も設けたい」と語った。

◆2018年7月20日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180720/ddn/002/040/032000c
ー西日本豪雨 ダム放流、流域疑念 愛媛・肱川氾濫、切迫感めぐり溝 検証開始ー

  記録的な豪雨でダムの大規模な放流後に肱川(ひじかわ)が氾濫し、住宅の浸水被害や死者が出た愛媛県。流域の同県大洲市や西予市では「放流は適切だったのか」「もっと早く逃げられたのでは」との疑念が渦巻く。批判は根強く、専門家が加わった国土交通省の検証が19日、始まった。

 鹿野川(かのがわ)ダムの放流後に約4600世帯が浸水し、大洲市内では4人が死亡。愛媛大の鈴木幸一名誉教授(河川工学)と同大大学院の森脇亮教授(防災情報)は肱川の堤防を視察した。上流側の野村ダムのある西予市でも被害が生じ、二つのダムを検証するためだ。

 7日朝、流域は緊迫していた。「あっという間に水かさが増した」と大洲市肱川町名荷谷の飲食店店主、岩田良一さん(60)は振り返る。サイレンで高台に避難したが、30分もしないうちに川があふれ出した。「二つのダムを放流したら危険なのは分かるはず。これは人災だ」と憤る。

2018年7月7日の鹿野川ダムの状況
 四国地方整備局によると、事前放流で総貯水量の4割超の余裕を持たせていた鹿野川ダムが満水に近づき、流入量とほぼ同量を放流する「異常洪水時防災操作」を始めたのは7日午前7時35分。だが、大洲市から避難指示が出たのはわずか5分前だった。

 ダム側は大洲市に5時10分から計3回、操作の可能性を伝えていた。2回目の6時20分には「7時半ごろに操作する」と見通しを伝え、30分後には、鹿野川ダムで毎秒6000トン(立方メートル)、野村ダムでも2000トンを放流する見込みと知らせたという。市は「6000トンが途方もない数字で、慎重に様子をみた」と釈明。7時過ぎに川の水位が8メートルを超える予測が出て指示を決断したが、8時50分には、2時間前まで毎秒約600立方メートルだった放流量は、一気に6倍に増え、濁流が家屋をのみ込んだ。

 野村ダムでは大規模放流の約1時間前の5時10分には西予市野村町地区に避難指示が出された。だが各戸にある防災無線の放送は3回だけで、屋外放送も雨音でかき消され、気付かなかった住民は少なくない。

 視察後の会議で森脇教授は「『伝えた』と『伝わった』は違う。住民が理解しやすい伝え方を考えていく必要がある」と訴えた。鈴木名誉教授は「異常な豪雨に対してダム操作をどうすべきか検討していく必要がある」と指摘した。

 国交省はこれまで「ダムの操作はルールに従って実施した」との見解を繰り返していた。この日は同局の渡辺健二・河川管理課長が「技術的にどんな対応ができるのか、もっと切迫感を持って危険を住民に伝えられたのではないか、課題として検証していきたい」と明言した。【中川祐一、藤河匠、山田毅】

治水「合わせ技」時代
 過去の豪雨災害でも、ダムの放流が適切だったか問われたケースはある。

 2003年8月の台風10号では、北海道平取町の沙流(さる)川にある二風谷(にぶたに)ダムが大雨であふれそうになり、ダムを管理する国土交通省北海道開発局はダムの水を放流。その結果、沙流川の支流が逆流し、下流の門別町(現日高町)の約55ヘクタールが冠水して床上浸水などの被害が出た。

 住民らが損害賠償を求めた訴訟では、放流前に支流の水門を閉じるべきだったかが争点になった。住民側は「水門を閉じずに避難勧告より約50分早く職員を避難させたことが逆流の原因」と主張。国側は「被害予測は難しかった」と反論したが、1審・札幌地裁、2審・同高裁ともに国の責任を認め、約3190万円の支払いを命じた。

 ただ、水害とダム管理との因果関係が裁判で認められる例はまれだ。2011年7月の新潟・福島豪雨では、福島県金山町の住民らが、只見(ただみ)川流域の発電用ダムの土砂を適切に除去していなかったことが水害を招いたと電力会社を訴えた。福島地裁会津若松支部は「土砂除去などで水害を回避する義務がある」と指摘したが、水害との因果関係は認めなかった。

 過失の有無にかかわらず、想定を上回る雨に対してダムの貯水機能に限界があることは確かだ。京都大防災研究所の角哲也教授(河川工学)は「ダムは限られた容量で洪水のピークをカットし、洪水のひどさを低減させるのが役割だ。無限に水をためて、全ての洪水を防げるわけではない」と指摘する。地球温暖化が進み、今後も異常豪雨の頻発が予想される中、川底の土砂除去や河道の拡大、遊水池設置、早期の住民避難などの「合わせ技」の重要性が増している。

 今回の豪雨で、京都府南丹市の日吉ダムも満水となり、国交省淀川河川事務所は7日午前、異常洪水時防災操作に切り替えた。13年9月の台風18号でも同じ操作をした。その時は下流の京都市嵐山地区で桂川があふれて約10ヘクタールが浸水し、旅館などの観光施設が打撃を受けた。これを機に同省は14年度から桂川の緊急治水対策を始め、これまで河川に堆積(たいせき)した土砂72万立方メートルを除去したという。同事務所は「緊急対策の結果、嵐山地区の水位を50センチ下げることができ、豪雨による被害を大幅に減らせた」と分析する。【阿部周一、渡辺諒】

◆2018年7月19日 朝日新聞愛媛版
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180719-00000157-asahi-soci
ーダム緊急放流、5人死亡 国交省、情報伝達の課題認めるー

  死傷者や家屋の浸水が相次いだ愛媛県の1級河川・肱(ひじ)川の二つのダムの緊急放流について、国土交通省は19日、有識者を交えた検証作業を始めた。同省は情報伝達に課題があったと認め、放流の操作を含めて改善する方針を示した。

 対象は西予市の野村ダムと大洲市の鹿野川ダム。ともに7日朝に満水に近づき、国交省は流入量をそのまま放流する緊急的な「異常洪水時防災操作」を実施した。直前にサイレンや広報車で警告し、両市が避難指示を出したが、西予市で5人が死亡するなど被害が相次いだ。

 「情報を伝えたことと、伝わったことは違う」。この日の検証会議で、森脇亮・愛媛大防災情報研究センター長は指摘した。自治体などに伝える文書にダムへの流入量などは書かれていたが、「その量でどの程度の被害につながるか、イメージを共有できていたのか」と疑問を呈し、「住民が理解しやすいものか考え、他のダムでも参考になる検証にするべきだ」と話した。

 西予市や県側の課題も浮かんでいる。市が昨年5月に配った総合防災マップや手引に、緊急放流による氾濫(はんらん)の恐れや、放流を知らせるサイレンの解説はない。野村ダムの下流域を管理する県も、ダムがあるため安全として、浸水の想定を一切していなかった。(大川洋輔、竹野内崇宏)

◆2018年7月19日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3316789019072018CC1000/
ー豪雨ダム放流の検証始まる 国「適切」、住民に怒り ー

 西日本を襲った記録的な豪雨で、容量を超えそうになったダムで行われた緊急的な放流について、国土交通省は19日、住民への周知方法などが適切だったかどうかの検証を始めた。愛媛県内の2ダムで放流後に下流の川が氾濫し、住民計9人が死亡した。国交省は「放流は適切だった」としているが、住民の言葉には怒りと諦めがにじむ。

 検証委員に選ばれた河川工学の専門家らが19日、浸水被害の大きかった愛媛県大洲市や西予市を視察。その後に開いた第1回会合で、四国地方整備局の担当者らがダムの豪雨対応を説明した。愛媛大大学院の森脇亮教授は「(放流の)情報を受け手側がどう捉えたのかしっかり検証していく必要がある」と強調した。

 検証対象となった野村ダム(西予市)と鹿野川ダム(大洲市)は7日朝、流入量とほぼ同量を放流する「異常洪水時防災操作」を実施。両ダムは事前放流で水位を下げて大雨に備えていたが、流域の雨量が計画を1~2割上回り、ダム決壊の恐れが強まった。

 野村ダムは7日午前2時半に所長が西予市側に放流の可能性を伝えた。放流開始予定時刻がいつ伝達されたかに関する国側と市側の説明は食い違っているが、連絡を受けた市は同5時10分に防災行政無線を通じて住民に避難を指示。同6時20分に放流が始まった。

 鹿野川ダムも同5時10分に所長が大洲市に放流可能性を伝達。市は同7時半に住民に避難を指示し、その5分後に放流が始まった。

 放流量は降雨による流入量を超えることはないが、野村ダムで最大毎秒1797トン、鹿野川ダムで同3742トンに達した。いずれも氾濫しないとされる「安全放流量」の約6倍だった。

 放流によって下流の肱川水系は一気に増水。西予市野村地区の中心部で堤防が決壊し、約650戸が浸水、住民5人が死亡した。鹿野川ダムのある大洲市も肱川が氾濫し、約2800戸が浸水、住民4人が死亡した。

 国交省治水課の担当者は「放流の操作は操作規則に基づき適切だった」としたうえで「避難時間を確保し、ピーク流量の減少にもつなげられた」と説明する。

 だが住民の思いは複雑だ。大洲市東大洲地区の大原美佐子さん(83)は「満水になる前に水を流して空きをもっとつくっておけばよかったのに」と憤る。自宅の1階は7日朝、あっという間の増水で水没。身動きが取れないままクーラーのない2階で2日間を過ごし、避難所に移った。土壁が崩壊した自宅は住めそうにないという。

 接客業の長田千穂さん(40)もアパート1階の部屋が水没したが「あれだけ降ったのだからしょうがない。現場の職員だけではどうしようもなかったのかもしれない」と諦めの表情。経営する自動車部品店が浸水した中山龍太郎さん(80)は、過去にも地域で洪水があったとして「当時の職員がもういないからノウハウも受け継がれていなかったのだろう」と泥だらけの店内を片付けながら、淡々と話した。

◆2018年7月19日 テレビ愛媛
http://www.ebc.co.jp/news/data/index.asp?sn=5743
ー肱川被害で専門家が現地で検証ー

 肱川の氾濫で甚大な被害が出たことを受け、ダムの放流や住民への情報伝達が適切だったか検証する会議の初めての会合が行われ、堤防の整備などを急ぐ必要性が指摘されました。今回の豪雨では肱川流域の野村ダムと鹿野川ダムが安全とされる基準のおよそ6倍の放水をしたあと肱川が氾濫し、流域の大洲市や西予市野村町であわせて9人が亡くなる大きな被害となりました。これを受けダムを管理する国土交通省四国地方整備局は、ダムの放流や住民への情報伝達が適切だったか第三者の専門家を交えた検証の場を設置。きょう、メンバーの愛媛大学の教授らが大洲市の東大洲地区を視察しました。視察後、鈴木名誉教授はダムの決壊を防ぐため放流は適切だったとしつつも、建設途中の堤防がすべて越流し被害が出たことなどから、ハード面での整備を急ぐべきと指摘しました。また愛媛大学の森脇教授も「『伝えたこと』と『伝わったこと』は違う。情報をどのように受け手側が捉えたか検証する必要がある」とし、さらに自治体の職員や住民が放流量の増加が被害につながるときちんと理解していたのかなど直接アンケートなどをとって検証すべきとしました。今後は地元自治体を交えて検証を本格化させる考えです。

◆2018年7月16日 愛媛新聞
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201807160086
ー国交相、豪雨視察で表明  肱川氾濫でダム操作を第三者委検証へー

  石井啓一国土交通相は16日、西日本豪雨で被災した愛媛県宇和島市と大洲市を視察後、氾濫した肱川にある鹿野川、野村両ダムの放流の操作について、学識者らを含む第三者委員会を設け、有効な住民への周知方法の検証や効果的なダム操作方法の技術的考察などを行うと表明した。初会合を近く開催予定。

 肱川流域の西予、大洲両市では氾濫によって犠牲者や浸水被害が出た。国交省四国地方整備局の説明では、野村ダムの安全とされる放流量毎秒300トンに対し、最大放流量は基準の約6倍に達した。鹿野川ダムの安全とされる放流量毎秒600トンに対し、最大放流量は基準の約6倍。石井国交相は「操作規則に従い、適切に操作を行った」としているが、住民らからは「操作が不適切だったのではないか」との指摘もある。

 宇和島市吉田町では、国道56号のり面崩壊箇所や玉津港海岸土砂崩落箇所などを訪れた。吉田三間商工会館で岡原文彰・宇和島市長と面会し、道路や公共土木施設の早期復旧に向けた人的・財政支援などを求める緊急要望書を受け取った。

 大洲市では、大洲河川国道事務所で二宮隆久・大洲市長、管家一夫・西予市長、稲本隆寿・内子町長と意見交換。緊急災害対策派遣隊を激励した後、東大洲の肱川水系の被災箇所を訪れた。 

◆2018年7月16日 産経新聞
https://www.sankei.com/affairs/news/180716/afr1807160019-n1.html
ー愛媛・肱川ダムの放水増で検証委設置 国交相表明、近く初会合ー

  石井啓一国土交通相は16日、西日本豪雨で氾濫した愛媛県・肱川(ひじかわ)にある2つのダムの放水量を増やした操作に関し、有識者委員会を設けて是非を検証すると表明した。近く初会合を開く。視察先の同県大洲市(おおずし)で、記者団に対し「改善すべき点があれば速やかに改善し、住民にも情報公開する」と述べた。

 肱川流域の大洲、西予(せいよ)両市では氾濫による住宅浸水などで犠牲者が出た。ダムを管理する国交省四国地方整備局は2つのうち、鹿野川(かのがわ)ダムで安全とされる基準の6倍に当たる量を放水。被害拡大を招いたとの指摘が住民から出ている。

 石井氏は「規則に従い適切に操作したが、経験のない異常豪雨であったことを踏まえ、住民周知の在り方や効果的なダムの操作方法について検証する」と強調した。

◆2018年7月14日 毎日新聞愛媛版
https://mainichi.jp/articles/20180714/ddm/002/040/076000c
ー西日本豪雨 ダム操作の検証、安倍首相が表明 愛媛視察ー

  安倍晋三首相は13日、西日本豪雨で被災した愛媛県を視察した。豪雨時に放水量を増やした肱川(ひじかわ)上流の野村ダム(同県西予市)の操作について、「国土交通省において徹底的に検証し、改善すべき点があれば速やかに改善する」と表明した。視察先の宇和島市で記者団に語った。

 肱川が氾濫した西予市では5人が死亡しており、首相は「ダムが決壊するかもしれないという切迫した状況の中で、ルールに沿って対応したと報告を受けているが、さまざまな声があることも承知している」とも述べた。これに先立ち、首相は西予市の浸水した現場を訪れ、黙とうをささげた。

 政府は同日、被災した58自治体に総額約350億円の普通交付税を、繰り上げて17日に交付することを決めた。今年度予算から予備費約20億円を当面の被災地対応に充てることも閣議決定した。【野間口陽】

◆2018年7月12日 毎日新聞政治面
https://mainichi.jp/articles/20180712/ddm/002/040/093000c
ー避難指示、基準見直しへ 年内に新指針 「災害発生前に」目指すー

  政府は、西日本豪雨で河川の氾濫後に避難指示が発令されたり、発令後も住民が逃げ遅れて被害が拡大したりしたことを踏まえ、避難指示や避難勧告に関するガイドラインを見直す方針を固めた。有識者や関係省庁の防災担当者などで作る検討会を設置し、自治体が災害発生前からちゅうちょせず避難指示・勧告を発令できるよう判断基準の見直しを図る。年内に新ガイドラインを策定する方針だ。

 菅義偉官房長官は11日の記者会見で「従来とは桁違いの豪雨被害が繰り返し発生している。気象庁が発表する防災気象情報と自治体の避難情報の連携なども含め、検証していく必要がある」と述べ、災害時の住民避難や特別警報など気象情報提供のあり方を見直す考えを示した。

 現行のガイドラインは、各市町村に災害時の避難指示・勧告を行う際の判断基準などを示し、各市町村に発令基準を策定するよう求めている。避難指示や勧告をいつ出すかは、市町村長の判断に委ねられている。今回の豪雨では、岐阜県関市で河川の氾濫後に避難指示が出たほか、岡山県倉敷市などでは避難指示が出ても自宅にとどまって孤立する住民が続出した。

 新たに設置する検討会では、本格的な災害が起きる前段階で自治体が避難指示や勧告を発令し、住民の避難を徹底するよう対応策を協議する。政府内では、市町村長だけでなく、都道府県知事も発令できるようにする案も浮上している。【川辺和将】

◆2018年7月11日 NHK 19時33分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180711/k10011528881000.html
ー愛媛 ダム放流「下流域の被害は予想もやむをえず」ー

愛媛県大洲市や西予市に甚大な被害をもたらした「肱川」の氾濫について、川の上流にあるダムを管理する国土交通省四国地方整備局の担当者らが会見を開き、「下流域の被害は予想されていたが、想定外の雨量で、放流はやむをえなかった。住民への情報周知については適切だった」などと説明しました。

愛媛県の大洲市と西予市では今月7日、2つの市を流れる「肱川」が氾濫したことで、広い範囲にわたって住宅などが浸水し、逃げ遅れや土砂崩れなどで9人が犠牲になるなど、甚大な被害をもたらしました。

11日は肱川の上流にある「野村ダム」と「鹿野川ダム」を管理している国土交通省四国地方整備局の担当者らが会見を開き、ダムの放流の操作や住民への周知について説明しました。

それによりますと、豪雨の影響でダムがいっぱいになったため、2つのダムでは入ってきた水の量と同じ量を放流する異例の措置を取ったということです。

このうち、鹿野川ダムでは一時、安全な放流の基準の6倍に当たる毎秒およそ3700トンを放流したということです。

このため下流域に被害が出ることは予想できていたということで、3台の車両や流域に設置されているスピーカーなどを使って、住民に注意を促していたと説明しました。

四国地方整備局の担当者は「下流域の被害は予想されていたが、想定外の雨量で、ダムの容量がいっぱいになり、放流はやむをえなかった。住民への情報の周知は適切だったと思う」と話しています。

下流では急激に増水 周知方法に疑問の声も
愛媛県大洲市では、市内を流れる肱川が氾濫し、住宅が浸水するなどして4人が犠牲になりました。

川の上流にある鹿野川ダムからは一時、基準の量の6倍の水が放流され、その後、急激に川が増水したということで、流域の人たちからは放流の周知などが適切だったのか疑問の声も出ています。

愛媛県大洲市では、市内を流れる肱川が氾濫して広い範囲にわたって住宅が浸水するなどして、4人が死亡したほか、合わせて4600棟の住宅に被害が出ました。

肱川の上流には、野村ダムと鹿野川ダムの2つのダムがあり、流域の住民によりますと、今月7日の朝、ダムの放流のあと川が急激に増水して、水があふれたと証言しています。

このうち、鹿野川ダムの1キロほど下流にある大洲市肱川町の下鹿野川地区に住む出水清志さん(61)は、7日の午前8時すぎに「水が来るぞ」という近所の人からの連絡で、初めて川に水が押し寄せていることに気づいたということです。

その後、隣の建物の屋根に避難したということですが、出水さんが午前8時23分に撮影した写真では、高さ4メートルほどの自宅の2階まで水につかり、一帯が水没している様子が確認できます。

出水さんは「あっという間に水があふれていった。大量の水を放流するという周知があったかどうか覚えていないぐらいで、水没するなんて思いもしなかった」と話していました。

同じ地区に住む、橋本福矩さん(77)は午前8時ごろ、自宅に向かって津波のように押し寄せる水を見て、慌てて2階に逃げたということです。

橋本さんが午前8時44分に撮影した写真では、家の前のカーブミラーがほぼ水につかっている様子が確認できます。

ダムを管理する国土交通省四国地方整備局では、3台の車両や流域に設置されているスピーカーなどをつかって、住民に注意を促していたということです。しかし、橋本さんは「ダムの放流で起きた水害であることは明らかだと思う。自然災害はしかたないし、ダムの放流もやむをえないことだったとしても、住民への情報の伝え方はもっとやり方があったのではないか。人の命を軽視しているとしか思えない」と話しています。

また、地元の消防団の金野昭一さん(50)は「これは天災ではなく、人災だという住民も多い。行政にはきちんと検証をしてほしい」と話していました。

一方、大洲市は整備局からダム放流の連絡を受け、防災行政無線で住民に急な川の増水などに注意するよう呼びかけたとしています。大洲市役所肱川支所の篠原雅人支所長は「資料も流されていて、現段階では当時、どのような対応を行ったか詳細に答えられないが、今後、住民への情報提供の在り方を含め検証したい」と話しています。

専門家「ダムは避難の時間稼ぐ施設」
河川工学が専門の北海道大学大学院の山田朋人准教授によりますと、ダムは洪水の被害を軽減させ、下流の住民が避難する時間を確保する点で大きな効果があるとしたうえで、今回のように、貯められる量を超える雨が降った場合、ダムに流入した量と同じ量を放流するのは一般的な対応だとしています。

そのうえで、大雨で放流する場合には、下流の住民への情報伝達を徹底することが重要だと指摘しています。

具体的には、雨が強まっている時間帯は、情報が住民にうまく伝わらないことがあるため、国や自治体はサイレンや防災行政無線、インターネットなど、多角的に情報提供を行う必要があるとしています。

一方、情報の受け手側の住民は、川の水位が急激に上昇することを想定し、情報を積極的に入手して避難などの行動につなげてほしいとしています。

山田准教授は「今回のような豪雨では、ダムだけで洪水を防ぐのは難しく、むしろダムは避難のための時間を稼ぐ施設だという認識を持つ必要がある。ダムや川の水位の情報はホームページなどで入手することができるため、流域の住民は日ごろから情報に接して、いざという時に役立ててほしい」と話していました。