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水道民営化についての論考記事と宮城県の動き

 水道民営化の道を開く水道法改正案は今国会では見送りになりましたが、水道民営化の問題を詳しく検討した論考記事が発信されています。
 また、水道改正法の成立を見越して、宮城県企業局は、公共施設等運営権(コンセッション)方式による上水と下水および工業用水の3水道事業の長期包括官民連携共同運営の導入を考えています。VFM( Value For Money)は民営化によるコスト縮減効果の現在価値ですが、これを166億-386億円と試算しています。捕らぬ狸の皮算用ではないでしょうか。

 これらの記事をお伝えします。

◆2018年7月17日 建設通信新聞
https://www.kensetsunews.com/archives/215645
ー宮城県/改正水道法成立後に公告/上工下水公共施設等運営権アドバイザー/VFM 最大386億ー

 宮城県企業局は、公共施設等運営権(コンセッション)方式による上水と下水および工業用水の3水道事業の長期包括官民連携共同運「みやぎ型方式」の導入に向けて、今国会で審議中の水道法改正案が可決された場合、早期にアドバイザリー業務の発注手続きを開始する考えだ。選定方式は公募型プロポーザルを軸に検討している。9月に委託先を特定して契約する。12月に実施方針を公表し、2019年6月に事業者の公募を開始する。約1年かけて優先交渉権者を特定する。20年10月に運営権を設定、21年度の事業開始を目指す。 県の水道3事業は人口減少や企業撤退、節水意識の高まりなどにより収入が減少しているほか、施設の老朽化に伴う改築更新費用の増大が予測されることから、コンセッション方式により3事業の管理運営を一体的に民間に委託しつつ、水道事業者としての立場を県が維持することで公共サービスとしての信頼性を保ちながら、民間のノウハウを最大限に活用して経営基盤の強化を図る。

 対象は、大崎広域水道と仙南・仙塩広域水道、仙台圏工業用水道など計9事業で、事業範囲は、施設の運転・維持管理・修繕および機械・電気設備の改築(土木建築のみを対象とした改築は除く)。

 事業期間は20年間の長期に設定する考えで、VFM(バリュー・フォー・マネー)は166億-386億円と試算している。

 水道法改正案には、自治体がコンセッション方式により公共施設の運営権を民間事業者に設定可能とすることなどが盛り込まれている。

◆2018年7月17日 毎日新聞 Texts by サンデー毎日
https://mainichi.jp/sunday/articles/20180715/org/00m/040/001000d
ー水道民営化 衝撃の正体 料金の大幅値上げや水道事業の大規模統合もー

 水道は〈国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないもの〉と、水道法2条1項にある。今、水道事業の“民営化”を促進する法改正が、実現しそうな情勢だ。しかし、水道に詳しい専門家からは、不安と懸念がジャブジャブ噴出している。

 サッカーW杯の日本代表が成田空港に降り立った7月5日、衆院本会議で「水道法改正案」が可決した。ニュースの扱いが小さかったのは、翌日のオウム真理教元代表ら7人の死刑執行、それに西日本豪雨と重なったためだろう。法案は参院に送付され、22日までの会期中に成立が確実視されていたが、「予期せぬ大雨災害があったため、どうなるか分からない」(厚生労働省関係者)という情勢だ。

 水道法が改正されると何がどう変わるのか。厚労省の資料には、水道施設の所有権は市町村に残したまま〈運営権を民間事業者に設定できる方式を創設〉などとある。「コンセッション事業」または「上下分離型」と呼ばれ、国内では前例がない。建設省で下水道行政に携わった経験がある、元大和総研主席研究員の椿本祐弘氏によれば、「いわゆる“民営化”の一類型だ」。

 国が水道事業の民営化を後押しするのは、現状への危機感がある。高度成長期に整備された水道管は更新が間に合っていない。法定耐用年数の40年を超す老朽水道管の比率は全国平均で2006年度末に6%だったが、16年度末には14・8%に跳ね上がった。6月の大阪北部地震では、高槻市など3カ所で老朽管が損傷して周囲が水浸しになっている。更新率は年0・75%にすぎず、このペースだと全てを更新するのに130年以上かかる計算だ。

 そこで民間企業の参入によって経営を効率化し、施設の更新を急ぐという理屈なのだが、一口に民営化と言っても、いろいろな類型がある。椿本氏は政府が水道法改正で促進しようとする上下分離型には批判的だ。

「運営権を得た民間企業は、収益に直結しにくい設備投資の負担にはどうしても消極的になる。結果的に老朽管の更新が滞ると危惧しています。そもそもインフラの保有と運営は密接不可分で、上下分離型はうまくいかない。海外の水道や鉄道事業の民営化事例から明らかです」

 仏パリ市は1980年代、水道事業の一部を複数の民間企業に委ねる上下分離型に切り替えたが、工事の責任をめぐって委託業者間で対立するなどし、2010年に再公営化。米アトランタ市などでも類似事例があるほか、上下分離型民営化をした英国鉄は、事故が多発するなどサービス低下が著しかった。一方、日本では新生JRが線路や駅舎など設備を所有するとともに、列車の運行など運営権を持つ“上下一体型”で民営化した。椿本氏はこの方法が正しいという。

「人口減が顕著になり水道需要は減る中、老朽管の更新費用を捻出するには、小規模な市町村の水道事業を統合し、広域化する必要がある。それをした上で、上下一体型民営化を検討すべきです。水道法改正案は上下分離型という失敗の多い方式を推す点で、私は全く賛同できません」

 国連本部経済社会局のテクニカルアドバイザーを務め、水環境問題に詳しい吉村和就(かずなり)氏によれば、水道民営化の議論が急浮上したきっかけは、麻生太郎財務相の発言だという。13年4月、米ワシントンでの講演で「(日本の)水道は全て国営もしくは市営、町営でできていて、こういったものを全て民営化します」(原文ママ)と言い切った。発言が報じられると、吉村氏には「水メジャー」と呼ばれる海外の水道事業大手や、国内の総合商社から「問い合わせが殺到した」という。

 吉村氏は今、老朽化した浄水場の更新を検討する秋田市の委員会で委員長を務めている。

「操業してから約70年たち、装置も還暦を過ぎています。更新すると約190億円もかかるという試算がありますが、そんな多額の支出は市議会を通らない。水道法改正案に基づくコンセッション事業などの官民連携方式にすれば、市の負担はかなり少なくて済みそうです」

 同様のケースは全国にあり、法改正を契機に民営化は広まりそうだとする。しかし、もろ手を上げて賛成しているのではない。

「水道法改正案には、水道事業の運営を担う民間企業に対するチェック機関を定めていません。制度設計の不備であり、大きな問題が起きる。チェック機関の設置を定めないと、コチャバンバと同じようなことが起きかねない」(吉村氏)

災害時の給水協定が働かない!?

 コチャバンバとは南米ボリビアの都市名。2000年、水道料金が3〜4倍に跳ね上がったことに市民が反発、大規模な抗議運動に発展した。国連開発計画の報告書によれば、都市機能が4日にわたって麻痺(まひ)し、6人が死亡した。料金値上げを強行したのは、公営水道を買収した英ロンドンに本社がある民間企業。コチャバンバ以外でもフィリピンや南アフリカなどで、水道事業を民営化したところ、サービス低下や料金高騰が起きたという。結果、15年までに世界235の民営水道事業が再公営化されている。吉村氏は「民営化は避けられない」としながらも、民間企業に対するチェック機関の必要性を訴える。

「英国では、サービスや料金の調査をする機関、水質などを監視する機関、それら両機関を監視する機関の三つを設けた。『民間企業は必ず悪いことをするから、それをチェックする』という考えです。日本も同様の機関を設けるべきです。水道事業のOBばかりを委員に選ばず、法律や会計の専門家なども入れ、原子力ムラならぬ『水道ムラ』にしない工夫が必要です」(同)

 全国の自治体は地震や水害の際、被災地に出向き、無償で給水する協定を結んでいるが、民営化されれば円滑に実施できない恐れもあるという。

 総合商社に長く勤めた、資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は、4月に廃止された主要農作物種子法(種子法)と水道法改正は同じ構図だと指摘する。

「種子法は都道府県にコメなどの原種の開発を義務付け、安価な種子を提供してきました。同法の廃止によって、外資を含め民間企業が種子市場に参入し、じわりじわりとコメは値上がりしていくと思います。同じ構図で自治体が担っていた水道を民間企業に開放すれば、国の予算投入が減り、水道料金が上がる可能性が高い。安倍政治の典型的な危険な政策です」

 国民の日常生活に直結する水道なのに世間の関心が低すぎやしないか。(本誌・谷道健太)

◆2018年7月24日 毎日新聞 東京夕刊
https://mainichi.jp/articles/20180724/dde/012/010/004000c
ー特集ワイド 水道民営化は必要か 料金高騰、水質悪化…海外で失敗例続出 運営業者監視にも限界 安倍政権は推進、識者ら懸念ー

 政府はなぜ、水道事業の民営化を後押しするのか。22日に閉会した国会で水道法改正案は成立せず、継続審議になったが、秋の臨時国会で再び審議される見通しだ。実は、民営化は海外で失敗例が相次いでいる。本当に必要なのか検証した。【井田純】

 水道は日々の暮らしに必要不可欠なインフラだ。まずは改正案について整理したい。

 水道事業は自治体や広域事務組合といった公的機関が担っているが、水需要の減少、施設の老朽化など課題は山積する。そこで、水道の基盤を強化するため、より多くの市町村による広域連携を図る仕組みが改正案に盛り込まれている。

 これだけなら誰もが賛成しそうだが、論議を呼んでいるのは「官民連携の推進」を目的にした条文だ。水道施設の所有権を公的機関に残したまま、運営権を民間事業者に売却できる「コンセッション方式」導入を促している。コンセッションは「譲歩」「授与された権利」などを意味し、転じて、国などが森林や鉱山の所有権を持ったまま、伐採、採掘の権利を民間に売却する仕組みを指す。

 厚生労働省水道課の説明はこうだ。「水道事業経営は全国的に厳しいが、一方で水道管などの施設更新も必要。コンセッション方式は、全ての自治体に求めるわけでなく、民間活力導入で効果が出そうなところに促す内容です」

 これに対し、海外の水道民営化事例を数多く調査してきたNPO法人「アジア太平洋資料センター」(PARC)共同代表の内田聖子さんは警鐘を鳴らす。「施設老朽化などの課題は厚労省の言う通りです。しかし、改正案は料金値上げをどうチェックするか、議会がどう関与するかなどの重要な点を全て自治体に丸投げしています」

 水道民営化をめぐる最も悲惨な事例として知られるのが南米ボリビアだ。世界銀行が同国への融資条件として、第3の都市コチャバンバの水道民営化を要求。1999年に米国企業に事業が売却されると、水道料金は倍以上に跳ね上がった。市民が激しく抗議し、軍隊が出動、200人近い死傷者を出した。結局、米企業は撤退し、公営に戻った。

 アジアでは90年代以降、マニラ、ジャカルタなどで水道が民営化されたが、料金引き上げや水質の問題が発生。住民が再公営化を求める運動を起こし、裁判などを通じた闘いは今も続いている。内田さんは「一度民営化されると、元に戻すのはきわめて難しく、時間がかかります」と指摘する。

 「日本の水道民営化政策は『周回遅れのトップランナー』とでも言うべき内容です。官民挙げてとんちんかんなお祭り騒ぎを繰り広げている」。痛烈に批判するのは、拓殖大教授(森林政策)の関良基さん。2015年刊行の共著「社会的共通資本としての水」で「水道民営化の悪夢」を論じている。

 関さんの分析では、先に紹介した途上国だけでなく、欧米でも再公営化の流れは顕著だ。「84年に民営化されたパリでは、翌年から約25年間のインフレ率が約70%なのに水道料金は265%アップ。10年に再公営化されました」。住民投票の末、13年までに再公営化されたベルリンでは、事業会社から買い戻すために12億ユーロ(1500億円)以上を要した。80年代にサッチャー政権下で世界に先駆け、国営だった水道事業を民営化した英国でも、各種世論調査では6〜7割の市民が再国営化を望んでいるという。英国に本部を置く調査機関の15年の報告によると、水道再公営化は00〜15年の間に世界37カ国の235カ所にのぼる。

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2018/07/24/20180724dde001010008000p/8.jpg?1(写真)マニラでは水道事業の民営化後、水道料金が引き上げられたため、井戸で水をくむ子どもたちの行列ができた=2003年8月、井田純撮影

 途上国、先進国の双方でこうした事例が目立つのはなぜか。関さんは、電気などと異なる水道インフラゆえの特性を指摘する。「電気は一つの送電網を複数の電力会社が利用できます。一方、水道管は水を流しすぎると破裂する恐れがあり、必然的に1社が独占する形にならざるを得ない」。だから、料金やサービスに関する競争原理が働かず、民営化のメリットはないというのだ。

 では、国や自治体が運営権を持つ業者への監視を強化すればいいのでは? この問いに、関さんは英国の「失敗例」をもとに説明する。水道民営化後の公共性を担保するために英国では、水質監視、料金監視、住民からの苦情受け付け−−の3機関が設置された。「ところが、運営業者は帳簿上の赤字を膨らませて収益はタックスヘイブン(租税回避地)に隠しました。水道管更新などの設備投資を逃れたのです」。結果、水道料金は3倍に高騰、水道管の老朽化による漏水も増大したという。

 関さんは言う。「利潤を追求するのが民間企業の論理です。独占で競争がないので、企業はもうけを膨らませるため帳簿をごまかし、役所はそれを見破ろうとする。双方の側にそのコストがかかり、最終的なツケは納税者に回ってくる。だったら、最初から水道事業でもうけようと考えない自治体がそのまま事業を続ける方がいい」

 水道事業の民営化は、12年12月に民主党(当時)から政権を奪取した安倍晋三政権下で政策課題として浮上した。

 13年4月17日、安倍首相が議長を務める「産業競争力会議」で配布された資料に「上下水道について(中略)コンセッションに係る制度運用体制を構築」の文言がある。この資料をまとめたのは、同会議民間議員の竹中平蔵氏。小泉純一郎政権で経済財政担当相、総務相などを歴任、現在はパソナグループ取締役会長を務めている。

 この2日後、同会議にも出席した麻生太郎・副総理兼財務相は米シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)で講演し、質疑応答で水道事業を「すべて民営化します」と大見えを切った。水道法改正案は22日閉会の国会で継続審議になったが、成立した改正PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)では、水道事業にコンセッション方式を導入する自治体に、地方債の利息に関する特例措置を設けるなど「民営化後押し」の方向があらわになっている。

 前出の関さんは、学校法人・加計学園問題などを引き合いに、規制緩和に代表される安倍政権の新自由主義的政策に疑問を呈している。「規制緩和で政権に近い人たちが利権を得るとすれば、インドネシア、フィリピン型のクローニー(縁故)資本主義と同じです」。かつての東南アジアの強権的指導者が、自分の取り巻きや政権を支える外国企業に国の財産や公営事業を渡していく構造だ。「フィリピンの森林はコンセッションで荒廃してしまいました。日本の水道にも同様の危惧があります」

 では、水道事業の理想的なあり方は? 関さんはこう話す。「再公営化後のパリでは、議員のほか環境NPO、消費者、水道局の労働者、水道に関わる業者などそれぞれの代表が水道局理事会のメンバーとして運営にあたる仕組みができて、料金も下がりました。日本も、これまでのような『官営』でなく、社会的共通資本という意味の『公営』の水道を考えるべきではないでしょうか」