「愛媛・肱川のダム放流で問われる国・自治体の対応」(日経BP)

 表記の記事は、図らずも、ダムによる洪水調節がいかに難しいかを示唆しています。
 河道整備が遅れているので、中小規模洪水向きに変更したということですが、肱川ではダム偏重の河川行政が行われ、河道整備が後回しにされてきました。現在、肱川では鹿野川ダムの改造工事、山鳥坂ダムの建設工事が行われています。肱川の河川行政そのものを根本から見直す必要があります。

 
◆2018年8月1日 日経BP
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00372/073100037/?n_cid=nbpnxt_twbn
ー2018年7月列島縦断豪雨 「中小洪水対応」の操作規則、マニュアル通りの放流は適切だったか
 愛媛・肱川のダム放流で問われる国・自治体の対応(前編)ー

                     三ケ尻 智晴=日経 xTECH/日経コンストラクション

 愛媛県南西部を流れる肱川では、西日本豪雨で上流の野村ダムが緊急放流を実施し、西予市で広範囲にわたる浸水被害が発生した。その下流にある鹿野川ダムでも緊急放流し、大洲市で大規模な氾濫が起こった。ダムを管理する国土交通省は規則に従った放流だと主張するが、果たしてそれは適切な対応だったのか。

 規則通りに放流したと主張する国土交通省に対し、流域住民の間からは批判の声も出ている。万一ダムが決壊すれば被害は桁違いなので、緊急放流がやむを得なかったことは間違いない。ただ、もう少し被害を軽減するような放流の仕方はなかったのか――。こんな疑問を抱いている人は多い。

 いくら規則に忠実に従って放流しても、その規則自体が現状に即した最適なものでなかったら、適切に対応したとは言えない。

 ダムの操作規則では、それぞれの地域の河川整備状況や関係機関との協議などを踏まえて放流パターンを定めている。実は、鹿野川ダムと野村ダムは共に、中小規模の洪水による被害の軽減に重点を置いた規則を採用しているのだ。現行の規則を制定したのは1996年で、それ以前は大規模な洪水を想定していた。

堤防整備が遅れている地域を守る操作
 中小規模の洪水を対象としたのは、肱川下流域では堤防が未整備の地域や計画高水位に対応していない区間が多いからだ。洪水を調節する際の放流量をある程度減らして、堤防の整備が進んでいない箇所の被害を抑える必要がある。

 ただし、放流量を減らせばダムが満杯になりやすい。ダムが満杯に近づくと、水をためすぎてダムが制御できなくなるのを防ぐために、流入量と同じ量を排出する「異常洪水時防災操作」と呼ぶ緊急放流を実施しなくてはならない。

 鹿野川ダムの下流域では放流量が毎秒600m3を超えると浸水被害が発生し始める。そこで、鹿野川ダムでは現在、流入量が毎秒600m3になるまでは流入分をそのまま放流。それを超えたらダムに水をためる操作を開始して、放流量を毎秒600m3で一定に保つようにしている。下流の被害を抑えながらダムの容量を残す操作規則だ。

 96年の改定前は、ため始めの流入量は毎秒600m3で同じだが、その後は一定の割合で放流量を増加させていた。そのため、中小規模の洪水でも下流で頻繁に被害が出ていた。

「操作規則のパターン分けは難しい」
 鹿野川ダムでは今回、7月7日午前2時30分に流入量が毎秒600m3を超えたため、規則に従って洪水貯留操作を開始して放流量をしばらく毎秒600m3に抑えた。

 その後、午前6時に1時間当たりの流域平均雨量が最大の47mmになったことで、ダムの水位が急激に上昇。午前7時35分に緊急放流を開始した。これで放流量が一気に増え、午前8時43分には最大となる毎秒3742m3に達した。大洲市内では午前8時40分から浸水が始まっている。

  記録的な豪雨になることは事前に十分、予測できたはずだ。にもかかわらず、鹿野川ダムや野村ダムでは従来通り、中小規模洪水対応の規則に沿って操作したのはなぜか。

 国交省水管理・国土保全局治水課の豊口佳之事業監理室長は「操作規則を雨量の予測の規模によっていくつかパターン分けして用意することは難しい」と説明する。

 鹿野川ダムでは事前に多めに放流すると一部の地域で浸水が始まるので、避難に影響を及ぼす恐れがあるという。下流の避難時間を確保できる現行の操作は、大規模な洪水に対しても効果的だとしている。

 ただ、ダムの下流域の住民の間では、緊急放流開始後の急激な河川水位の上昇に戸惑った人も少なくない。避難指示が出ていながら避難をしなかった人は多いが、それは必ずしも避難時間が足りなかったからではない。放流量の急激な変化を抑えるような運用をしていれば、住民の避難行動の取り方が変わっていた可能性もある。

 国交省では、放流のパターン分けについては否定するものの、今後、大規模洪水にもある程度対応できるように、操作規則の見直しを検討する。

一部で柔軟な対応も
 なお、国交省は今回のダム操作について、必ずしも杓子定規の放流ではなく、一部で柔軟に対応した。

 多目的ダムでは通常、豪雨が予想される際には、できるだけダムにためられる容量を増やすため、事前に利水用に保持していた水を排出する「予備放流」を実施する。今回、鹿野川ダムでは、規則が定める予備放流水位よりも3.6m低い位置まで放流した。

 さらに、規則で定めるダムの最高水位を0.63m超えて貯水することで、緊急放流時の放流量を特別に流入量よりも最大で毎秒400m3程度少なくした。こうした対応によって鹿野川ダムは今回、5時間にわたって水をためることができた。これは、避難のために確保できた時間だ。

 「下流の避難時間を少しでも伸ばせたのではないか」と国交省四国地方整備局河川管理課の清水敦司河川保全専門官は話す。

2018年8月2日 日経BP
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00372/072700036/
ー避難指示は大量放流の5分前、生かせなかったホットライン 愛媛・肱川のダム放流で問われる国・自治体の対応(後編)ー

 西日本豪雨で愛媛県の肱川流域に位置する大洲市では、上流の鹿野川ダムが緊急放流した影響で大規模な浸水が発生し、住民4人が死亡した。市は、緊急放流の2時間半前からその可能性を把握していながら判断を先送り。市が住民に避難指示を発令したのは緊急放流のわずか5分前だった。

 鹿野川ダムが満水に近づき、流入量とほぼ同量を緊急で放流し始めたのは7月7日午前7時35分。その後、放流量が急激に増加し、午前8時40分から大洲市内で浸水が始まった。

 鹿野川ダムを管理する国土交通省は、サイレンや警報車でダムの放流を肱川沿岸部の住民に知らせた。一方で、市内全域に避難指示を発令したのは大洲市だ。

 国交省が設置した両ダムの操作に関する有識者と関係機関による検証委員会では、ダム管理所と市の情報共有や、市民への情報伝達が適切だったかが主要なテーマとなった。

伝えても伝わっていない
 鹿野川ダムの管理所は、7月7日の午前4時15分から緊急放流を開始する7時35分まで5回にわたり、ダムの操作に関して大洲市にファクスで通知した。さらに、午前5時10分から3回、市長との間のホットライン(直通電話)で緊急放流の可能性を伝えた。2回目の午前6時20分のホットラインでは緊急放流の予定時刻を連絡し、3回目の6時50分には最大放流量の見込みも示していた。

 ところが、最大で毎秒6000m3放流するとの情報をホットラインで得ていた大洲市は、大きすぎる数字にどのように対応していいのか分からず、しばらく様子をみる判断をした。

 その後、緊急放流の5分前になって避難指示を出したが、住民に対してダムの放流に関する情報は発信していなかった。そのため多くの住民は、放流の影響で肱川の水位が急激に上昇することを認識していなかった可能性がある。

 これまで、ダムや河川の管理者から市町村への情報伝達はファクスに頼ることが多かった。しかし、豪雨の際の混乱時には、情報が担当者に伝わらないことも起こり得る。そこで、情報を素早く確実に伝達するため、全国でホットラインの構築が進められている。

 愛媛県の肱川でも、国と県、市町村が2016年3月に協議会を設立し、大規模氾濫に備えた減災対策を検討してきた。その一環でホットラインの導入も進めたが、大洲市では十分に生かされなかった。

 検証委員会の委員を務める愛媛大学大学院理工学研究科の森脇亮教授は「現行の制度で伝えられる流量の数字だけでは、川の水位や被害がどうなるのかを理解しにくい」と情報伝達の問題点を指摘する。

聞こえない避難指示
 一方、鹿野川ダムよりも上流にある野村ダムでは、西予市とのホットラインを6回活用。西予市は緊急放流が始まる午前6時10分より1時間以上前に避難指示を発令した。

 しかし、各戸に配置している防災無線や屋外のスピーカーで避難指示を知らせる放送は、数十分おきに3回しか実施しなかった。放送の回数は各自治体の判断に任されている。検証委員会では、雨音などで聞こえなかった住民がいる可能性が指摘された。

 国交省四国地方整備局河川管理課の渡邊健二課長は「市の職員や住民が危険を想定できるような切迫感のある情報を国が提供していたら、もっと避難を促せた可能性がある」と話す。7月7日に大洲市で約4万5000人に避難指示を発令したものの、実際に避難した人は1500人程度にとどまった。

 今後、避難した人が多かった地域と少なかった地域で情報の伝わり方を比較したり、住民の意見を取り入れたりして、国から市、市から住民への情報伝達の改善を進める。