八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

被災地住民の生活再建のための現制度はきわめて不十分

 西日本豪雨は平成最悪の土砂災害と浸水被害をもたらしました。
 災害から約一ケ月が経過し、被災地住民の生活再建が大きな課題となりますが、被災者の生活再建のためのわが国の制度はきわめて不十分なものです。
 国による被災者支援の柱である「被災者生活再建支援法」は、阪神淡路大震災(1995年)を経験したコープこうべが全国の生協とともに署名運動を行うなどして、1998年にようやく制定されました。被災者への支援額が最大300万円であるなど不十分であることから、6野党・会派が支援金の上限引き上げや対象拡大などを盛り込んだ改正案を国会に提出していますが、与党は審議に消極的です。
 
 以下の記事では、各地の被災地住民が直面している複雑な問題が取り上げられています。

◆2018年8月6日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180806/ddm/003/040/160000c
ークローズアップ2018 西日本豪雨1カ月 再建か転居か、苦悩ー

 平成最悪の土砂災害と浸水被害をもたらした西日本豪雨は、最初の大雨特別警報が発表されてから6日で1カ月を迎えた。被災地の復興には住宅の再建とコミュニティーの維持が欠かせないが、被災者一人一人にのしかかる負担をどう軽減するか。土砂災害や河川氾濫があった場所で、これからも安心して暮らしていけるのか。かつてない規模の広域水害は、これまでの災害でも問われた課題を同時に噴出させている。

  ◆土砂災害

住宅補強や砂防、負担増
 「怖いからもうここには住めん」。土砂災害で甚大な被害を受けた広島市安芸区矢野東7の梅河(うめごう)団地で7月末、17年前から暮らしていた女性(74)の家が撤去され、同居する娘(51)がつぶやいた。周辺では5人が死亡し女性の家も全壊。女性は2階にいて助かったが、1階にいた娘は落下した天井で腰を打ち重傷を負った。2人は地区外のアパートに移り住むことにした。

 斜面にある団地の背後には山が迫る。広島県は土砂災害防止法に基づく「土砂災害特別警戒区域」に指定するため、地元向け説明会を今月開く予定だった。手続きは止まり、指定範囲の見直しも含めて検討中だ。

 被災者生活再建支援法は住宅全壊などには最大300万円を支給。災害救助法は半壊でも要件を満たせば修繕費の一部が賄えるが、特別警戒区域内では家屋構造の強化などが必要で、被災した住民の負担が増える可能性がある。

 安芸区は7月末から職員が2班に分かれ、避難所にいる住民から住宅再建の意向を調査している。市は結果を踏まえて復興計画を進める方針だ。同じ土地に住み続けるには新たな砂防設備などの対策が前提で、予算確保に向けた国や県との協議は始まったばかりだが、町内会長の尾崎喜代志さん(83)は「いっぺん流れた場所には家を建てるな、と昔から言う。同じ場所に建てる人がいるのか」と懸念する。

 東日本大震災の津波被災地などでは住民から自治体が土地を買い上げ、高台や内陸にまとまって移る「防災集団移転」が進められた。広島市内の被災地は丘陵を宅地開発した場所が多く、用地確保などの問題から集団移転は現実的ではない。市住宅政策課の担当者は「半年以上たたないと計画は見えてこない」と話す。

 砂防ダムの決壊で死者15人、行方不明1人となっている同県坂町小屋浦地区。復興の歩みはいきなり壁に突き当たった。町が公営住宅82戸への入居希望者を募ると、申し込みが228件と殺到。より多く入居できるよう親族や知人との「ルームシェア」を求めると、「他人と一緒に住みたくない」などと辞退が相次いだ。県は仮設住宅の建設を進めており、坂町で入居が可能になるのは9月上旬以降。1カ月以上先だが、吉田隆行町長は「復旧に拍車がかかる」と期待する。町は人口約1万3000人で、県内で面積が3番目に小さい。人口流出が過疎化を加速させる危機感があり、吉田町長は「50年、100年先を見通した町の復興プランを作りたい」と話す。

 神戸大の塩崎賢明名誉教授(住宅政策)は「被災者生活再建支援法の支給額は少なすぎる。せめて全壊で500万円は必要で、東日本大震災を機に見直すべきだった」と苦言。毎年のように大規模災害が発生する現状から「危険な場所に宅地を造成させないよう行政が誘導すべきだ。住まないことが一番の防災」と強調する。【村瀬優子、李英浩】

◆河川氾濫

堤防改修長期化/人口流出を懸念
 河川の氾濫による被災地では浸水世帯が多数に上り、河川改修も時間がかかるため復興は容易ではない。

 地区の約3割が水没した岡山県倉敷市真備(まび)町地区では約8900世帯のうち約4600世帯が浸水した。両親と妻、子どもの計6人で暮らす会社員の片岡仁司さん(57)は自宅が2階まで水没し、市外の親戚宅に身を寄せる。「両親は高齢で子どももいつか家を離れるだろう。高いお金をかけて維持する必要があるのか……。ここで暮らし続けるのも怖い」。再建にかかる負担を心配しつつ、安心と安全を求める。

 市は地区の住宅約2100棟を一括して「全壊」と判定し罹災(りさい)証明書の早期発行に努める。県は市内に仮設住宅200戸を用意し、みなし仮設住宅の借り上げ条件を緩和したが、仮設、みなし仮設とも入居期限は原則2年。被災者はその後、自宅を再建するか選択を迫られる。

 過去の水害では被災者の帰還を促すため、被災者生活再建支援法に上乗せする形で独自に支援する自治体があった。2015年の関東・東北豪雨で茨城県常総市は市内で家を建てる場合、全壊世帯に100万円、家屋流失世帯に200万円を支給。今回も復旧・復興が長期化すれば、被災自治体は対応を迫られそうだ。

 一方、壊れた堤防に土のうを積む応急復旧は既に終了し、台風シーズンを前に最低限の備えは整った。本格的な堤防改修は10月にも始まる。今回の豪雨では高梁川の水位が上昇し、合流する小田川がせき止められる「バックウオーター現象」が起きたとされ、小田川の流れをスムーズにするために河道付け替えの必要がある。地元は早期完成を求めるが、計画では10年かかる見通しだ。

 肱川(ひじかわ)の氾濫で5人が死亡した愛媛県西予市野村町地区。国は7月7日朝、約2キロ上流にある野村ダムで過去最大規模の放流を実施し、川はあふれた。はりやマッサージの治療院と電器店を営んでいた井神玲子さん(64)は、店が約2メートル床上浸水。修理に数百万円が必要で、電器店は閉め治療院だけ続けることにした。「氾濫が二度と起きないようにしてほしい」と望む。【高橋祐貴、源馬のぞみ、山口知】

今も避難所に3600人
 3日現在で11府県約2万3000人への避難指示が続き、約3600人が避難所に身を寄せる。生活再建への道のりはいまだ険しい。毎日新聞の集計で、15府県で221人が死亡し、3県で11人が行方不明となっている。総務省消防庁によると、避難者は、岡山県2297人、広島県979人、愛媛県350人など。

 住宅被害は同庁のまとめで、全壊が5236棟に達した。仮設住宅は広島県169戸、岡山県252戸、愛媛県170戸の建設が予定され、一部で着工した。みなし仮設住宅は広島県358戸、岡山県2140戸、愛媛県18戸の入居が決定。公営住宅の無償提供も広島県292戸、愛媛県98戸が決まった。

 最大26万3000戸だった断水は1540戸に減少した。一方、農業被害や観光など地元経済への影響は全容が見えず、災害ごみの処理も大きな課題だ。

 ボランティアは厚生労働省のまとめで、7月末時点で延べ12万2000人以上が活動した。被害が甚大な岡山、広島、愛媛3県を中心に今も人手が求められている。【藤顕一郎、津久井達、花澤葵】