安易な「想定外」に疑問=地理学者、小野有五・北大名誉教授(毎日新聞)

 北海道各地のダム問題に取り組んできた地理学者、小野有五・北海道大学名誉教授による、7月の西日本豪雨に関するメディア時評が毎日新聞の昨日の紙面に掲載されました。

 岡山県・小田川の高梁川合流点の氾濫の危険性、愛媛県・肱川のダム偏重の河川行政の危うさは以前から指摘されてきたことでした。今回の小田川と肱川の水害は、氾濫防止のために必要な治水対策を怠ってきた河川行政の瑕疵によるものと言っても過言ではありません。

この時評で言及されている毎日新聞の7月11日の記事も参考までに転載します。

◆2018年8月16日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180816/ddm/005/070/015000c
ーメディア時評 安易な「想定外」に疑問=小野有五・北海道大名誉教授ー

 西日本豪雨災害の死者・行方不明者は合わせて230人以上にも及んだ。台風の雨ではなく、同じ場所に豪雨を降らせ続ける線状降水帯が各地で形成されて広範囲に被害をもたらすという、これまでにない災害であった。数日間で1カ月の降雨量を超すような大雨が降っていたため、数十年に1度レベルの大災害が予測され、7月6日には相次いで各地に「大雨特別警報」が出された。しかし、この警報の意味は自治体や地域住民に的確に伝わっていたであろうか。

 刻々、水位が上昇する洪水時には新聞は役に立たず、画像で状況を把握できるテレビが最も頼りになるメディアであるはずだが、今回の報道にも大きな問題があった。6日夜のNHKの全国ニュースでは京都・嵐山の渡月橋の中継映像が何度も映されたが、広島、岡山両県については同じ映像が繰り返し映されるだけで、アナウンサーが原稿を読む姿の画面が多かった。これではテレビ報道の利点がない。同夜のテレビ朝日「報道ステーション」が各地にリポーターを出し、きめ細かく現地の映像を見せていたのとは大差があった。しかし岡山県倉敷市真備町の小田川や、愛媛県の肱(ひじ)川(かわ)の氾濫の危険性については、6日夜の時点ではほとんど報道されなかったのが残念でならない。

 メディアの役割は、起きた災害の報道だけなのだろうか。合流点で水が流れにくい小田川の危険性は、以前から指摘されていた。肱川の氾濫は、野村ダムからの緊急放流によるものであり、急激な水位上昇を引き起こすダム放流による氾濫は全国で何度も起きている。2003年の北海道・沙流川の二風谷ダム放流による氾濫では、住民訴訟で住民側が勝訴した。肱川でも河川管理者の責任は、メディアがもっと厳しく追及すべきであろう。7月10日の毎日新聞は「想定外」の被害拡大という見出しの下、大雨特別警報の発令された時間帯と、小田川と肱川の氾濫が起きた時刻との関係を明確に報道した。確かに大雨は記録破りだったが、安易に「想定外」という言葉は使ってほしくないのである。(北海道支社発行紙面を基に論評)

◆2018年7月11日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180711/ddm/003/040/090000c
ークローズアップ2018 西日本豪雨 水位高い本流、支流をせき止め「バックウオーター」 川の地形、氾濫招くー

 西日本を中心とした記録的な豪雨に伴う河川の急速な増水は、各地で氾濫と浸水被害を引き起こし、大勢の人命が失われることになった。過去にも同じような被害に遭っていた地域があり、これまでの治水対策や住民避難のあり方の課題を突きつけられた形だ。

 河川の氾濫で多数の犠牲者が出た岡山県倉敷市真備町地区では、水位が高まった高梁川が支流の小田川の流れをせき止める「バックウオーター現象」が起き、小田川の決壊につながった可能性がある。

 国土交通省によると、小田川は高梁川との合流地点の手前3・4キロ付近などで決壊。合流できなかった小田川の水がたまったり、逆流したりしたためとみられる。この地区は二つの河川に挟まれ水の逃げ場がなく、面積の約27%にあたる約12平方キロが水没した。

 国交省が原因の分析のために設置した調査委員会は10日、小田川左岸の決壊現場を視察した。委員の岡山大の前野詩朗教授(河川工学)は取材に、小田川の支流・高馬川にも決壊の跡が確認されたとし、バックウオーター現象がドミノ倒しのように起き、高馬川から決壊が始まった可能性があるとの見解を示した。

 早稲田大の関根正人教授(河川工学)は「全国的に同じ構造の河川はたくさんあり、どこで起きてもおかしくはない」と語る。

 国交省岡山河川事務所によると、高梁川と小田川の合流付近では、1972年や76年にも大規模な浸水があった。国は合流点を約5キロ下流に移し、川の流れをスムーズにする付け替え工事を計画。来年度から着工する予定だった。同河川事務所の担当者は「工事が間に合っていれば、被害を少なくすることができたかもしれない」と話す。

 愛媛県の西予市と大洲市では計9人が犠牲になった。うち少なくとも7人は両市を流れる肱川(ひじかわ)の氾濫で亡くなった。肱川上流域にある野村ダム(西予市)では7日早朝、降り続く雨の影響で貯水量が100%に近づき、直前と比べて最大約4倍の水が放水された。

 国交省四国地方整備局などによると、野村ダムでは6日午後は流入量がおおむね毎秒250立方メートルで推移していたが、7日未明に500立方メートル、同日午前6時には1074立方メートルに達した。貯水率は同5時20分に100%に達し、その5分前に下流域に放水量を増やすサイレンを鳴らした。同6時20分から流入分とほぼ同じ量の水を放流する「異常洪水時防災操作」を始め、大量の放水をした。

 西予市は上流域の水位が氾濫危険水位を超えた上、ダムが放水量を急増させることを受け、午前5時10分に野村町地区に避難指示を出した。同整備局は取材に「事前に西予市野村支所長に連絡し、警戒を促すサイレンも鳴らすなど、規則に基づき適切な対応を取った」と説明。石井啓一国交相は10日の記者会見で「避難活動につながるよう洪水前から西予市に情報提供しており、適切な対応だった」とした。【高橋祐貴、山崎征克、後藤豪、花牟礼紀仁】

「決断遅れた」避難課題
 急速で広範囲に及んだ河川の氾濫は、住民避難の課題も浮き彫りにした。

 「『ひどいことにはならないだろう』という安易な考えから、避難の決断ができなかった」。岡山県倉敷市真備町地区にある2階建ての自宅の1階が浸水し、ボートで救出された女性(62)は取材に「軽く考えていた」と何度も繰り返した。

 同地区で浸水被害の大きかった小田川北側の地域に避難指示が発令されたのは、7日午前1時半。女性は1時過ぎ、自宅前の道路を確認したところ異常がなかったため1階で就寝した。3時ごろに床上浸水に気付き、2階で救助を待ったという。

 低地が広がる真備町地区では、災害に備えて市が指定した避難所24カ所のほとんどが、ハザードマップで洪水や土砂災害の危険がある場所にある。今回、19カ所は開設を断念。受け入れ態勢の整った3カ所を開設したが、想定以上の人が押し寄せ混乱した避難所もあった。

 一方、愛媛県西予市では野村ダムの約3キロ下流にある野村町地区で肱川が氾濫。複数の住民の証言によると、7日午前6時半ごろから肱川の水位が急上昇。川の近くに住む70代男性によると、6時ごろは護岸を越えていなかったが、7時には1階の天井付近、7時半ごろには2階に達した。

 市は各戸配備の防災無線や地域の放送などで避難指示を伝えたが、「強い雨で放送が聞こえなかった」という住民の証言もあり、一部では消防団員が直接起こして回ったという。川沿いに住む男性(70)は「ダムができて36年になるが、こんな氾濫は初めて。放水量が多過ぎる」と憤るが、「みんなダムがあって安心し過ぎていた」と話す。

 河川氾濫への備えとしてはハザードマップの活用が言われるが、埼玉大の田中規夫教授(河川工学)は「数年間、災害を経験していない地域では必要性が認識されにくい。既存のマップを基に、個人の避難行動を時系列で整理する『マイ・タイムライン』を作るなど、住民目線の工夫が必要だ」と語る。【林田奈々、中川祐一、最上和喜】