八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

豪雨が来たら気をつけたい。専門家が選ぶ「危険なダム ワースト10」

 ダム問題を熱心に取り上げているジャーナリストの横田一さんの記事です。
 「危険なダム ワースト10」の2番目に八ッ場ダムが、5番目に同じ利根川水系の下久保ダムが挙げられています。いずれも地すべりの危険性が注目されています。

◆2018年8月30日 ハーバー・ビジネス・オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180830-00173708-hbolz-soci
ー豪雨が来たら気をつけたい。専門家が選ぶ「危険なダム ワースト10」ー

  西日本豪雨災害で、“想定外”の豪雨があったとして上流のダムが大量放流、下流域に大きな被害を出した。再び“想定外”の豪雨があった場合、大量放流や決壊の可能性のあるダムは全国に数多く存在した!

 今回作成したランキングは、今本博健氏(京都大学名誉教授)、嶋津暉之氏(水源開発問題全国連絡会共同代表)、嘉田由紀子氏(前滋賀県知事、環境社会学者)らの評価を基に編集部で作成した。

◆ワースト10~7位には堆砂でダム湖の体をなしてない例も

 まずは10位から見ていこう。危険なダム10位に選ばれたのは、和歌山県の殿山ダムだ。

10位 殿山ダム(和歌山県田辺市)

 関西電力の発電用ダム。’90年と’97年の水害で被害を受けた住民が、利水優先でほぼ満水だったのが原因ではと損害賠償訴訟を起こしたが、住民側が敗訴。管理者の運用が適切だったかは不明のままで、同様の水害が再び起こることが危惧されている。

 続いて9位。

9位 只見川水系のダム(福島県大沼郡)

 只見川流域にある4つの発電用ダム(本名・上田・宮下・片門ダム)は、ダムの堆砂が原因で洪水被害が出たとして、’11年の新潟福島豪雨災害の被災者から訴訟を起こされた。裁判は被災者側が敗訴したが、堆砂の問題や浚渫の遅れなどの問題は放置されたままだ。

 8位になったのはすでに洪水被害の前歴があるダムに新設されたダムが水害リスクが増してしまったというシロモノだ。

8位 平瀬ダム(山口県岩国市)

 錦帯橋のかかる清流・錦川に建設中の治水と利水のための多目的ダム(総事業費740億円)。既設の菅野ダムが’05年に洪水被害を拡大させた前例があり、さらに平瀬ダムの新規建設で水害のリスクが増大。森林整備や河川改修などの治水対策も後回しに…

7位 二風谷ダム・平取ダム(北海道沙流郡)

 100年間にたまると予測した土砂が5年でたまり、あと10年で埋まるとされているのが、北海道平取町の沙流川水系に建設された「二風谷ダム」(’97年完成)。

 堆砂で洪水調整機能をほぼ喪失、下流の洪水被害増大を招くのは必至。しかし北海道開発局(国交省の現地組織)は上流に平取ダム計画を推進。同じ問題が発生するのは確実だ。

◆西日本豪雨で高梁川水系の大被害最大の原因!?

 続いて6~3位まで見ていこう。6位になったのは、長崎県の石木ダムだ。

6位 石木ダム(長崎県彼杵郡)

 川棚川水系の石木川に計画されているダム(事業費285億円)。目的は洪水調整と水道用水供給と流水の機能維持だが、激しい反対運動で’75年の事業採択から40年以上たっても着工に至らず、その間に水需要減少で利水の必要性が喪失、治水効果も極めて限定的。ダム建設が優先され、堤防補強や浚渫などの治水対策が遅れている。

 水没予定地の住民らが座り込みで工事に抵抗するも、周囲の山々はどんどん削られている状況だ。

 5位は首都圏への影響も予想される群馬県の下久保ダムだ。

5位 下久保ダム(群馬県藤岡市・埼玉県児玉郡)

 利根川水系神流川に’68年に完成した重力式コンクリートダムで、独立行政法人・水資源機構が管理。八ッ場ダムと同程度の大規模ダムであり、建設地が地すべり頻発地域であることも共通している。

 土砂大量流入・急激な放水・ダム決壊のリスクを抱え、想定外の豪雨で下流域の首都圏人口密集地帯に甚大な被害が出る恐れがある。

 4位は西日本豪雨で死者を出した肘川水系で建設中のダムだ。

4位 山鳥坂ダム(愛媛県大洲市)

 西日本豪雨で野村ダムと鹿野川ダムからの大量放水による死者が出た肘川水系で建設中のダム(事業費850億円)。利水と治水のための多目的ダムだったが、治水専用に計画変更。

 肘川水系ではダム建設ばかりが優先され、下流域の堤防補強や浚渫など、安価で即効性のある治水対策は後回しの状況が続いている。

 そしていよいよワースト3。ここにランクインしたのは、西日本豪雨で高梁川水系の大被害最大の原因という可能性も指摘されている、岡山県の新成羽川ダムだ。

3位 新成羽川ダム(岡山県高梁市)

 倉敷市真備町地区など西日本豪雨で大きな被害を出した高梁川流域(水系)で最大規模のダム。高梁川支流の成羽川に位置する発電用ダムで中国電力が管理しているが、’72年の大水害でも「ダムからの大量放水が原因」として訴訟にまで発展。治水よりも利水を優先した電力会社が事前放水を十分に行わず、ダムをほぼ満杯状態にしていたのではないかと問題になった。

 今回も同じ過ちを繰り返した可能性が取り沙汰されている。

◆ワースト1になってしまったダムは……?

 2位になったのは、「無駄なダム」として有名になった八ツ場ダムがランクイン。

2位 八ッ場ダム(群馬県吾妻郡)

 事業費4600億円(国民総負担額約1兆円)で「日本一無駄で危険なダム」として民主党政権時代にいったん中止となったが工事を再開、安倍政権下で工事が着々と進む。

 しかし予定地一帯は地盤が不安定で地滑りが起きる恐れがあり、過去には浅間山大噴火も起きている。大規模な土砂崩れや噴火による土石流でダム決壊や大量放流が起こり、下流域の東京周辺に甚大な被害をもたらす可能性もある。

 そして、悲しいことに1位になってしまった危険なダムはここだ!

1位 天ヶ瀬ダム(京都府宇治市)

 ’64年、淀川上流に建設された高さ73mのアーチ式コンクリートダム。国内にはダム自身の重力で水圧に耐える重力式コンクリートダムが多いが、アーチ状に張り出した構造を利用し両岸で支える「アーチ式」の天ヶ瀬ダムはコンクリートが少なくて済む一方、両岸の地盤崩壊などによるダム決壊のリスクがある。

 決壊した場合、人口密集地帯である下流域の京都府・大阪府での被害は、西日本豪雨災害をはるかに超える規模になるのは確実。

 もちろん、何事もなければそれでいいし、いたずらに恐怖を煽るのは良くないと思う。しかし、再び“想定外”の豪雨があった場合、大量放流や決壊の可能性があることを下流域住民は心に留めておき、備えをきちんとしておいたほうがよいだろう。

取材・文・撮影/横田 一 写真/足立力也 時事通信社