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「水道事業広域化」が本格化、日本の「安くて安全でおいしい水」は守れるのか?

 臨時国会で水道法改正案が参議院で審議されます。
 ダム事業を進める国土交通省や関係都県はいまだに水需要が右肩上がりに増え続けるという予測を立てていますが、全国の水道事業では、以下の記事にも書かれているように、「水道使用量は人口減少と節水機器の普及で2000年をピークに減少し、40年後には今より4割減ると予測されている。収入が減り、施設の維持コストが膨らめば、当然ながら水道料金にはね返る。」という状況です。
 水道法の改正が企図しているのは、一つは水道民営化への道を開くこと、もう一つは水道の広域化を進めることです。水道の広域化はすでに香川県で進められています。

◆2018年10月26日 ビジネス+IT
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181026-00035606-biz_plus-bus_all&p=1
ー「水道事業広域化」が本格化、日本の「安くて安全でおいしい水」は守れるのか?ー

 人口減少時代を迎え、地方自治体による水道事業広域化の動きが加速してきた。需要の低迷と高度経済成長期に整備した施設の老朽化で将来、大幅な料金値上げが避けられないばかりか、経営悪化で事業を維持できない市町村が相次ぎそうなためだ。厚生労働省はこのままだと日本が誇る「安くて安全でおいしい水」が守れなくなるとして、水道事業の広域化を柱とする水道法改正を目指している。奈良県立大地域創造学部の下山朗教授(地方財政論)は「料金引き上げを抑え、事業運営を安定させるため、広域化の必要性が高まっている」とみている。

●香川県でほぼ全県規模の組織が全国初登場
 大きな川がなく、雨が少ない瀬戸内海式気候の香川県。大昔から水不足に苦しめられた歴史を持ち、渇水になるたびに取水制限を繰り返してきたが、ほぼ全県規模の広域水道企業団が新たに生まれ、4月から県内市町の水道事業を引き継いで事業に入った。

 企業団に参加したのは香川県と高松市、丸亀市など県内16市町。岡山県から取水している離島部の直島町を除く全市町が加わった組織で、事実上の1県1水道体制を実現したのは全国初になる。

 香川県内の水道料金は家庭用20立方メートルで月約2,600〜4,200円だが、各市町が単独運営を続ければ、人口減少による需要減退で将来、大幅な値上げに踏み切らざるを得ない。しかも、40年の法定耐用年数を超過した管路が2015年度で全体の17.6%を占め、更新には膨大な費用が必要だ。

 企業団は当面、各市町で異なる料金体系を引き継ぎ、2028年度から月2,900円程度に統一する方針。一部地域には値上げとなるものの、全体で単独運営より1割ほど安くなり、中長期的にはさらに圧縮できるという。さらに、71ある浄水場を38に順次統合するほか、10年間に1,300億円を投じて設備更新や耐震化も進める。

 企業団は「状況を考えると広域化してコスト削減するしかない。市町数が他県より少なく、水に敏感な県民性が統合に幸いして県の呼びかけに各市町がついてきてくれた」と振り返る。

●財政基盤が弱く、単独運営では大幅値上げが必至
 水道は事業主体の大半が市町村で、全国に約1,300の事業者がある。うち、約950を給水人口5万人未満の小規模事業者が占め、電気、都市ガスなど他のインフラと違って財政基盤が弱い。

 全国の事業者が抱える有利子負債は計約8兆円に達し、年間収入の3倍に及ぶ。独立採算でありながら、全体の3割は赤字に陥り、市町村が補填している。将来、経営破たんに陥る事業者が相次いでもおかしくない状況だ。

 管路の老朽化が進んでいるのは香川県だけでない。全国の法定耐用年数を超えた管路の比率は2015年度で13.6%。10年間で7.6ポイントも上昇した。今のペースで管路を更新すれば、終了までに130年以上かかる。

 しかも、水道使用量は人口減少と節水機器の普及で2000年をピークに減少し、40年後には今より4割減ると予測されている。収入が減り、施設の維持コストが膨らめば、当然ながら水道料金にはね返る。

 新日本有限責任監査法人、水の安全保障戦略機構事務局の推計では、福岡県みやこ町で20立方メートル当たりの月額料金が2015年の4,370円から2040年に2万2,239円にはね上がるなど、ほとんどの市町村で大幅な料金値上げが予測されている。

 このため、政府は広域化を柱の1つとした水道法改正案を国会に提出した。法案は7月に衆議院で可決されたが、参議院で継続審議となっている。次の臨時国会で可決されれば、衆議院に送られて成立する見通しだ。

 厚労省水道課は「水道事業はまさに危機的な状況といわざるを得ない。この苦境を脱するには、事業を広域化するのが最善策だ」と強調する。

●徳島、千葉、広島でも広域化を模索する動き
 香川県以外でも広域化に向けて動き出した市町村がある。徳島県では同じ旧吉野川から取水する鳴門市と北島町が水道事業広域化協議会設立準備会を立ち上げた。鳴門市の浄水場は完成から41年、北島町は36年が過ぎ、ともに建て替え時期を迎えているからだ。

 広域化の結論は2018年度中に出す予定だが、共同で新しい浄水場を整備する方向で協議が進んでいる。鳴門市水道事業課は「安全な水を安定して供給できるよう北島町とよく話し合いたい」と述べた。

 徳島県は水道事業の一本化を目指す県水道ビジョンの策定を進めている。県内1水道を最終目標とするが、9月のビジョン策定検討委員会で「まずは県内を3ブロックに分け、広域化を検討すべき」との意見があり、段階を踏んで広域化を図ることも視野に入れている。

 千葉県は木更津、富津、君津、袖ケ浦の4市と2019年度、かずさ水道広域連合企業団(仮称)を設立、水道用水の供給から家庭や事業所への給水までを一本化する。浄水場、配水池、ポンプ場計123カ所のうち、9カ所を廃止する方針。

 広島県は水道事業の統合を目指して4月、知事と県内市町長による検討組織を設置した。各市町がこのまま単独運営を続けると、10年以内に半数が赤字に転落し、3割が資金ショートすると予測しているからだ。

障害となるのは料金や施設整備の格差
 しかし、実際に広域化に向けて動き始めている市町村は全体の2割程度にすぎない。厚労省水道課は事業者間で料金格差が大きいことが原因の1つとみている。新日本有限責任監査法人などの調査では、2015年度で最も安い長野県下諏訪町が20立方メートル当たり月750円なのに対し、最も高い青森県深浦町は6,588円に上る。

 料金格差が広域化を混乱させた例がある。2016年に埼玉県秩父市など1市4町の水道事業を統合した秩父広域市町村圏組合は、発足から1年もたたずに小鹿野町が「出資債」と呼ばれる負担金を拒否した。負担要請が急すぎるという理由だったが、小鹿野町の水道料金が他の4市町より安く、住民に広域化への不満があったという。

 小鹿野町は町長が交代し、2018年度分から出資債負担に同意しているが、料金格差が存在する中での広域化の難しさを物語る例といえる。大阪府では府内1水道実現に向け、大阪市と府の広域水道企業団の統合が模索されたが、大阪市議会が2013年、議案を否決した。障害になったのは大阪市の水道料金が安いことだった。

 広域化を阻む壁は、料金格差だけでなく、施設整備の格差や意見集約の難しさ、広域化に対する住民の不安などが挙げられる。下山教授は「都道府県が適切に介在し、市町村間の調整役になるとともに、住民に対して料金などの将来見通しを提示し、丁寧に説明することが求められる」と指摘する。

 橋や公営住宅、体育館など他の公共施設も今後、老朽化が進み、施設の維持で市町村の財政がパンクしそうな状況。市町村が単独であらゆる公共施設を維持してきたフルセット行政が限界に来ていることは否定できない。

「市町村と住民が行政サービスや公共施設の優先順位をしっかりと意識し、選別していく必要がある」と下山教授。インフラ維持の問題はもはや先送りできない。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)