絶滅が危惧されているニホンウナギの稚魚の流通を透明化するため、さる16日、国内の流通業者などが協議会を設立しました。12月からシラスウナギを採捕した日付や数量、国産か海外産かを明記した「産地証明書」を発行すると、各メディアが報じています。
流通経路が明らかにされることで、密猟や密輸が排除されることが期待される一方で、証明書は協議会に参加する会員の自己申告とのことで、透明化にはまだ課題が残されているようです。
関連記事を転載します。
◆2018年11月16日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37855520W8A111C1QM8000/
ーウナギ稚魚の取引透明化へ 新団体が「産地証明書」発行ー
ニホンウナギの稚魚「シラスウナギ」の適切な取引を目指し、全国の流通業者や関係団体などが参加する新組織が16日、発足した。稚魚の流通業者が集まり、全国組織を設立するのは今回が初めて。不漁で高騰する稚魚は密輸や密漁が社会問題になっている。取り扱い情報を共有し、適正な取引を経たと認定した稚魚に「産地証明書」を発行。資源管理の強化につなげる。
新しい団体は日本シラスウナギ取扱者協議会(東京・港)。稚魚の採捕や卸、貿易に関わる全国の大手企業や団体が加盟する。
産地の証明書は日本でシラスウナギ漁が解禁される12月から発行する。取れた量や時期、場所などの情報を加盟するメンバーから集めて新団体が集約。適切なルートを経由したかどうかを判断する。密漁などの違法性がないとみなした稚魚に産地や漁獲時期を示した証明書を発行。養殖業者は流通経路を把握でき、不法なルートで流れる稚魚の調達を防ぐことができる。
代表には全国淡水魚荷受組合連合会(東京・港)の鈴木治会長が就任した。鈴木代表は同日の会見で「業界自ら正しい情報を発信し、ウナギ産業を守り発展させたい」と抱負を述べた。
日本は世界最大のウナギ消費国。年々減少する資源を守るため、養殖池へのシラスウナギの池入れ数量を制限するなどの管理を行っている。ただ稚魚は「白いダイヤ」ともいわれ、不漁だった今春は一時1キロあたり400万円と過去最高値圏まで高騰。密漁や密輸が後を絶たない。
ウナギ専門店が加盟する全国鰻蒲焼商組合連合会(東京・中央)の三田俊介理事長は「稚魚の透明性を欠く流通は、業界全体にダーティーな影響を与えかねない。安心して食文化を楽しんでもらうため、業界全体で力を合わせることが課題」と話した。
◆2018年11月17日 静岡新聞
http://www.at-s.com/news/article/economy/shizuoka/566968.html
ーウナギ稚魚に証明書、流通透明化へ協議会 静岡県など14問屋ー
密漁や密輸、闇取引などの不正が指摘される絶滅危惧種ニホンウナギの稚魚の流通透明化を図る「日本シラスウナギ取扱者協議会」が16日、都内で発足した。本県や鹿児島、宮崎県など養鰻(ようまん)業が盛んな5県の問屋14社が加入し、売買する稚魚の情報を記した証明書を発給して不正な取引や漁獲を排除する。
証明書には稚魚が水揚げされた場所の国内か国外の区別、納入日、数量を記載する。会員の問屋が取り扱う稚魚の合計数量は、国内流通の約3割。養鰻業者の全国組織「全日本持続的養鰻機構」は同証明書のない稚魚を購入しない方向で検討を進めているため、協議会に加入する問屋の数は今後増えるとみられる。
一方、証明書への記載は各会員の自己申告によるため、取引や漁獲の正当性の担保には課題も残る。都道府県など細かな漁場の特定にも踏み込めず、発起人の森山喬司副会長は「まずは第一歩を踏み出したということ。動きながら改善できるところは考えたい」と話した。
水産庁によると、2017年に池入れされた稚魚のうち、輸入量を引いた国内採捕量は15・5トン。一方、採捕者が報告した稚魚の漁獲量は8・4トンで、残りの未報告分は不正な漁獲や流通で池入れされた可能性が指摘されている。同協議会は12月中旬にも証明書の発給を開始する方針。
◆2018年11月16日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201811/CK2018111602000279.html
ーウナギ稚魚に産地証明 卸業者ら協議会設立 採捕場所など明記ー
絶滅危惧種に指定されているニホンウナギの稚魚シラスウナギの流通透明化のため、国内の流通業者などが十二月から、シラスウナギを採捕した日付や数量、国産か海外産かを明記した「産地証明書」を発行することが分かった。新設する「日本シラスウナギ取扱者協議会」の加入業者に義務付ける。 (飯田樹与)
協議会は、十二月から始まる採捕シーズンに間に合うよう十六日午後に東京都内で設立総会を開き、正式に発足。発起人は、シラスウナギの流通に関わる全国淡水魚荷受組合連合会や日本鰻(うなぎ)輸入組合、卸業者など十五団体・業者。設立総会後、その他の団体、業者にも広く加入を呼び掛ける。
加入業者には「産地証明書」の発行を義務付け、証明書がなければ稚魚を養殖業者に卸せないようにする。十二月から順次、解禁される今シーズンの採捕分から適用するという。
国内外で採捕されたシラスウナギは、問屋や漁協、輸入商社などさまざまなルートで国内の養殖業者の池に入るが、報告された採捕量と養殖池に入る量に差があることから、不正流通や密輸、密漁が横行している可能性が指摘される。資源管理の上でも、シラスウナギの流通透明化を求める声は国際的に高まっている。
今回の協議会設立に関わっている日本鰻輸入組合の森山喬司理事長は「流通の適正化に向けた第一歩。取扱業者全員が入ることを考えている」と強調した。
国内の養殖業者をまとめる全日本持続的養鰻(ようまん)機構も設立を歓迎。池入れの際、産地証明書を要求するよう養殖業者に求めていくという。同機構の会長を務める静岡うなぎ漁協(静岡県吉田町)の白石嘉男組合長は「協議会の設立で、少しでも流通が分かりやすくなれば良い」と期待した。
<ニホンウナギ> 稚魚シラスウナギの漁獲量が減少し、2014年に国際自然保護連合により絶滅危惧種に指定された。既にワシントン条約の規制対象となっているヨーロッパウナギと同様に、国際取引を規制すべきか議論されている。
◆2018年11月16日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181116/k10011713391000.html
ーウナギ稚魚 業界が産地証明書発行へ 流通の適正化目指すー
絶滅のおそれが指摘されているニホンウナギについて、養殖に使われる稚魚のシラスウナギの密漁や密輸が横行していると指摘されていることから、稚魚を取り扱う業界が産地の証明書を発行して流通の適正化を目指すことになりました。
ウナギの稚魚は、河口などで採られたものが業者を通じて養殖業者に売られていますが、野生生物の保護をはかるワシントン条約の事務局は、5月に公表した調査で、高値での取り引きを背景に日本の養殖場に入った稚魚の57%から69%に密漁や密輸などのおそれがあると指摘しています。
こうした状況を改善しようと、稚魚の取り扱い業者が協議会を設立し、設立総会に招かれた水産庁の保科正樹増殖推進部長は「流通の不透明性の問題がある中、この取り組みを通じてウナギの食文化を残してほしい」とあいさつしました。
協議会は、全国の取扱量の8割を占める大手10社が加盟する見通しで、来月から産地証明書を発行し、証明書のない稚魚は養殖場が受け入れない仕組みを作るほか、加盟する業者も100社ほどを目標に増やしたいとしています。
一方で、今回の証明書は「国産」か「外国産」かを記すにとどまっているため、効果は限定的だという声も上がっています。
協議会の発起人代表の森山喬司さんは「流通が不透明になる原因はいろいろあるため、すぐ改善するものではないが、一歩一歩改善していきたい」と話しています。