半世紀もの間、ダム建設に抗い、ふるさとを守り続けてきた人々。美しい里山に暮らす13世帯をめぐるドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」が全国各地で好評上映中です。
今後の上映情報と、金沢での上映に先立って、地元紙に掲載された映画監督のインタビュー記事をお伝えします。
★ほたるの川のまもりびと公式サイトより
https://hotaruriver.net/theaters/
〈関東・甲信越〉
自主上映 埼玉 ぱる★てらす 2018年12月11日(火)
劇場 埼玉 深谷シネマ 2018年11月25日(日)~12月8日(土)
自主上映 千葉 もりんぴあこうづ もりもりホール 成田市 2019年2月2日(土)
自主上映 山梨 南アルプス市地域防災交流センター 2018年12月8日(土)
自主上映 東京 2019アースビジョン多摩 パルテノン多摩小ホール 2019年2月16日(土)
〈中部・北陸〉
自主上映 愛知 新城文化会館 大会議室 2019年1月20日(日)
劇場 石川 シネモンド 金沢 2018年11月24日(土)~12月7日(金)
〈近畿〉
劇場 京都 京都シネマ 2018年12月15日(土)~12月28日(金)
劇場 大阪 第七芸術劇場 2019年1月
〈九州・沖縄〉
自主上映 長崎 活水女子学園東山キャンパス 2018年12月7日(金)
自主上映 長崎 波佐見町総合文化会館 小ホール 2018年12月8日(土)
自主上映 長崎 諫早市社会福祉会館 3階中会議室 2018年12月2日(日)
自主上映 長崎 大村市郡地区公民館 2018年11月23日(金・祝)
劇場 福岡 大洋映画劇場 2018年11月23日(金)~未定
◆2018年11月17日 中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/bunka/list/201811/CK2018111702000202.html
ー里山の暮らし「賛成」 映画・ほたるの川のまもりびとー
長崎県などが計画する石木ダム建設で水没予定地となった同県川棚町川原(こうばる)地区は十三世帯五十四人が暮らす自然と棚田が広がる地域。その豊かな暮らしを丹念に追ったドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」が二十四日から金沢市のシネモンドで上映される。大手広告会社・博報堂でCMプランナーだった山田英治監督(49)が目指したのは、ダムの賛否ではなく「小さな暮らし賛成の映画」。思いを聞いた。 (聞き手・松岡等)
金沢・シネモンドで24日から上映 山田英治監督に聞く
-きっかけは。
二〇一五年春に初めて知人からダム問題について聞いた時、今の日本で強制的に住民を排除してダムを建設するなんて本当? って思った。実際に見に行くと、石木川ってまるで小川。地区も小さな里山で、そこに高さ五十五メートルものダムがぼーんとつくられる計画を聞き、驚いた。
反対運動というと怖い人たちというイメージがあるけれど、話してみると普通のおじちゃんだったり、自分のパパ友、ママ友のような人たち。ごみごみした東京に住む僕からすれば、移住したいほどの理想のコミュニティーがあった。ダムで家も棚田もお墓もなくなってしまうかもしれない。
治水と利水という根拠も怪しかった。人口減なのに、水需要が今後ぐーっと回復する計画。流域面積を考えると治水にどれだけ効果があるのか専門家も疑問視している。半世紀前の高度経済成長期にできた計画なのに、修正するとか、住民と話し合いの機会もない。
そんな不条理な中で、古き良き地域社会が失われるって何なのか。カメラを回して話をうかがいながら、涙があふれ、この不条理を止めるにはどういう手段があるのだろうと考え、帰りの飛行機の中ですぐ企画書を書いた。手法としては、豊かな暮らしをちゃんと伝えるドキュメンタリー映画が一番適しているんじゃないかと。
その年の秋から一年間、生活の中に入らせていただいた。住民はこれが映画になるの? っていう反応だった。ダムに反対する思いを撮ってほしいのにというのが基本だったし。でも、ダム問題の不条理を伝えるには、子どもを保育園に連れて行ったり、ご飯の用意をしたり、息子の就職のことで悩んだりする、そのかけがえのない毎日を伝えることだと思った。魅力的で、すてきな暮らしを伝えることで、それが失われる不条理さに、見る人が気づいてくれるんじゃないかと。
で、毎回、住民の人と話して、まあ毎晩、飲むわけです(笑い)。家に泊まらせてもらいながら。スタッフは皆、ほぼ東京で商業広告をやっているメンバー。満員電車に乗って仕事している暮らしをしている人間からすると、川原に行くのが楽しくて。「有給休暇とって大変だね」って言われるけど、むしろ楽しみに行っているというような。鳥の声がサラウンドで聞こえ、魚のいる川で泳ぎもした。見た人にも「山田監督の夏休みを見ているようだった」と言われた。(笑い)
-大手広告会社からの転身だ。
コピーライター、CMプランナーとして二十五年間、ビール、家電、車…、ありとあらゆる商品を売るCMを作ってきた。東京電力のCMも。しかし東日本大震災が起き、もう商業広告をやっている場合じゃないなという思いがあった。買いたいと思っていない人にまで物を買わせる仕事はさんざんやったし、僕はもういいな、伝えなきゃいけないことを伝えようと。
震災直後にCMが公共広告機構のものに差し替えられ、仕事がなくなった時、被災地に通って、復興の支援団体やNPOのコマーシャルを飛び込み営業で作らせてもらう仕事をした。当事者、支援者の思いを生のドキュメントで伝えることには力があると感じた。インタビューもたくさんしたし、相手との距離感とか、話の引き出し方とか、そういうスキルは学んでいたはずで、初めてのドキュメンタリー映画にもすっと入れたのかもしれない。
リーマン・ショック以降、これから企業は変わる、大企業もソーシャルな部分を取り込まなきゃいけなくなると思っていた。実際、大企業は今、変わりつつある。そうした流れの中で作った映画と思っている。僕は「社会の広告」として撮ったつもり。
-民主党政権時は脱ダムが叫ばれたが、揺り戻しのように公共事業が進む。
政治的なことは見えないし、推測でしかない。建設会社と政治家の関係に思うことはあっても、実際のところは分からない。ダム反対か賛成かを映画で判断するのではなく、小さな暮らし賛成の映画、豊かな暮らしをみんないいよねって思ってくれるような映画にしたかった。推進も反対もフィフティフィフティで考える素材にしてもらいたい。
ただ、石木ダムには国の税金が入っていて、長崎県以外の人にも関係ない話ではない。僕たちの身近には公共事業はあるのだし、チェックしなきゃいけない。そういうことも感じてもらえれば。
やまだ・えいじ 早稲田大政経学部卒後、博報堂にコピーライターとして入社。CMプランナーとして数々のテレビCMを制作。2000年から映画制作を始め「鍵がない」(つぐみ、大森南朋出演)で劇場デビュー。脚本家として「中学生日記」に参加。2011年の東日本大震災後はソーシャル・クリエイティブ・プロデューサーとして社会的テーマについての広報やコンテンツ開発、自治体のブランド戦略を担当。18年3月に退職。東京都目黒区在住。