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改正水道法めぐり、全国各紙の論調比較

 水道民営化について各紙の論調を比較した記事をYahoo!ニュースが取り上げています。
 タイトルに「多くの地方紙が危機感表明」とあります。群馬県の地元紙、上毛新聞は政府の方針と対立することはあまりありませんが、改正水道法については識者の厳しい見解が年末に掲載されました。参考までに、その記事も転載します。
 

◆2019年1月10日 NEWS SOCRA
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190110-00010000-socra-pol
ー【論調比較・”水道民営化”】 多くの地方紙が危機感表明ー

コンセッション方式評価は日経と河北
 経営環境が悪化する水道事業の基盤強化を目指す水道法の改正案が先の臨時国会で成立した。自治体が水道事業の運営を民間企業に委託する「コンセッション方式」を促進するのが柱だ。ただ、実質的な民営化とされるだけに、料金値上げ、サービス低下や災害時の対応など不安の声は根強い。

 新聞の論調も、全国紙、地方紙を通じて慎重な声が強いが、地元自治体の「積極度」の違いを反映し、極めて慎重、前向きなど受け止めに差がある。

 老朽化、少子化、財政難が重なり自治体の水道事業のコスト負担は年々増えており、現状でも水道事業者約の3割が赤字経営だ。人口減少で利用量は2000年をピークに減り続け、2065年には2000年の60%程度に減ると予測されるのに加え、40年の法定耐用年数を超える水道管の割合は2016年時点でも15%に達する。震度6強程度の地震に耐えられる「耐震適合率」も4割に満たない。収入は減る一方、かかるお金はどんどん増えていくわけだ。

 こうした状況に対応するため、改正法は2本柱の対応を打ち出した。一つが、都道府県が中心となって自治体の広域連携を推進すること。施設の集約、職員の削減など効率化を進める狙いだ。ただ、それだけではコスト削減に限界があり、また、各事業者間の経営効率の違い、料金格差を平準化していくのは容易ではない。

 そして第2の柱が、民間資金活用による社会資本整備(PFI)の一つであるコンセッション方式の導入促進だ。改正法の大きな争点になった同方式は、水道にかかわる施設は自治体が所有したままで、管理運営を、期間を決めて民間企業に任せるもの。政府は、自治体が料金の枠組みを条例で定め、国の立ち入り調査権も規定しているとして、問題はないと説明する。だが、営利企業に任せるだけに、水道の品質や料金など不安は尽きない。世界をみると、1984年に同方式で民営化されたパリ市では料金が3.5倍に跳ね上がったため、25年で公営に戻った。オランダの非政府組織の調査では、水質や料金などを理由に、2000~2016年の間に少なくとも世界33カ国の267都市で、水道事業が再び公営化されており、日本は世界の流れに逆行する格好だ。

 こうした問題を抱え、また、入管法改正と同様、審議時間不足も指摘されるとあって、改正法成立に前後して掲載された全国紙、地方紙の社説は慎重な論調が目立つ。

 各紙が共通して指摘するのは、<水道は生命にかかわるもっとも重要なインフラだ>(朝日12月6日、https://digital.asahi.com/articles/DA3S13799840.html?ref=editorial_backnumber)ということ。また、当然に各紙とも、水道事業が困難な状況にあることも踏まえ、<広域連携の推進は不可避だと言えよう>(読売8日、https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20181207-OYT1T50109.html)という点で、ほぼ一致する。

 一方、コンセッション方式には、<施設の更新など安全対策を「人質」に値上げを要求された場合、自治体は拒否できるだろうか。大災害などの際に本当に民間会社が責任を持って事業を継続するかについても懸念される>(毎日2日、https://mainichi.jp/articles/20181202/ddm/005/070/012000c)など問題の指摘が目立ち、日ごろ、安倍晋三政権支持の論調が目立つ産経(7日、https://www.sankei.com/column/news/181207/clm1812070002-n1.html)が<そもそも自治体が赤字に悩む地域に民間企業が名乗りを上げるだろうか。参入した民間企業が過度の利潤の追求に走れば、料金の高騰と水質低下を招く恐れもある>、同じく読売も<いったん民間に委託されれば、その地域の住民は基本的に、他からは水の供給を受けられない。それだけに、導入にあたっては、国や自治体が事業内容を厳しくチェックすることが大切である>と、かなり慎重な姿勢だ。

 これらに対し前向きに評価するのが日経(7日、https://www.nikkei.com/article/DGXKZO38655250X01C18A2EA1000/)で、<法改正を受けて、市町村や県による水道改革に弾みがつくことを期待したい。……「民」の知恵を生かすことで、漏水検知にセンサーを取り入れるなど、行政にはマネのできない新機軸の導入が期待できる。公営事業につきものの単年度主義から解放され、水道管の更新など長期計画も立てやすくなる>と、期待を表明している。

 地域の身近なテーマだから、地方紙の論調もチェックしておこう。広域連携が必要、または有効な選択肢との認識は、ほぼ全紙に共通するが、コンセッション方式には疑問が強い。

 そもそも過疎地を抱えるところが多いから、<人口が少なく、採算の見通しが立たない過疎地が切り捨てられることはないのか>(北海道新聞4日、https://www.hokkaido-np.co.jp/article/254334
)などと警戒。<利益が出ていない自治体の水道事業に民間が参入するとは思えない>(鹿児島県・南日本新聞4日、https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=99363)、<採算重視の民間経営に水道事業はなじむのか>(秋田魁新報6日、https://www.sakigake.jp/news/article/20181206AK0013/)、<地域の独占企業となるだけに値上げの懸念も強い>(福井新聞7日、https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/754732)と、不安の声が目立つ。

 中でも神戸新聞は、12月に入って2回にわたって取り上げ、<再公営化が世界の潮流となっている。「失敗した政策をなぜ今」と疑問の声が高まるのは当然といえる。……そもそも運営に悩む日本の中山間地域などは災害も多くて利益が出ず、民間参入自体が考えにくい。国にまず求められるのは、地域で水道を守るための自助努力への支援だ>(3日、https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201812/0011871443.shtml)と指摘。世界的水メジャー企業で既に下水道事業を日本で請け負っている仏ヴェオリアの日本法人社員が内閣府に、政策調査員として派遣されていたことにも言及し<利害関係者が政策に関わっていたとすれば、公平性に疑念が生じる。誰のために法改正を急ぐのか>(7日、https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201812/0011882862.shtml)と書くなど、批判のトーンが極めて強い。

 新潟日報(6日、http://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20181206436917.html)も民営化に対して<料金高騰や災害時の対応を懸念する声も強い>と指摘したうえで、<時には効率を度外視しても水を送る必要がある水道事業は、災害時の対応を含め民営化には向いていない>と断じている。

 ちなみに、兵庫県では改正法成立を受け会見した久元喜造神戸市長が、同方式を採用しない方針を明言。新潟では県議会が9月定例会で改正法案に反対する意見書を、自民党も含めた賛成多数で可決している。こうした自治体や議会の動きが、地元紙の論調に影響を与えたのかもしれない。
 
 一方、改正法に理解を示したのが、コンセッション方式を検討中の宮城県の地元紙の河北新報(6日、https://www.kahoku.co.jp/editorial/20181206_01.html)だ。<水道事業の経営効率化のためにはコンセッション方式は有効な選択肢となり得る>と、他の地方紙に比べ、前向きな評価を示す。もちろん、料金や水質に<不安が残る>として丁寧な説明も求めるなど、慎重な対応の必要を指摘しているが、宮城県が同方式により20年間で335億~546億円の経費削減が見込まれるとの試算を示していることを紹介し、基本的に前向きな姿勢を示している。

 このほか、自治体の監視が行き届くかという問題もある。<政府は、海外の例を踏まえ、自治体が条例で料金に上限を設け、企業へのモニタリング調査を実施するとしたが、職員が減る中で十分な対応ができるかは疑問だ>(愛媛新聞7日、https://www.ehime-np.co.jp/article/news201812070013)、<運営権を手放した自治体には専門的な知見を持つ職員がいなくなり、監督責任を果たせない恐れがある>(北海道新聞)、<民間委託で専門職員が少なくなれば自治体から運営のノウハウが失われ、(災害時などに)十分な対応がとれなくなる恐れが出てくる>(京都新聞6日、https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20181206_4.html)、<長期契約を結んだ場合、自治体は運営のノウハウを失い、企業に従わざるを得なくなるとの専門家の指摘もある>(山陽新聞6日、http://www.sanyonews.jp/article/834006/1/?rct=shasetsu)など、多くの地方紙がマンパワー、ノウハウの喪失への懸念を指摘している。

 いずれにせよ、改正法は成立したが、新たな仕組みをどう使うか、また使わないか、自治体が問われることになり、<自治体と住民が問題意識を共有し、水道事業の将来像を考える出発点としたい>(朝日)という指摘は全国共通の思いだろう。

◆2018年12月29日 上毛新聞 視点 オピニオン
https://www.jomo-news.co.jp/feature/shiten/103210
ー改正水道法 「民営化ありき」避けよー

  12月6日、改正水道法が衆議院本会議で可決され成立した。これにより、現在各自治体(あるいは広域連合)の水道局によって運営される水道事業に民間企業が参入することが容易になった。

 今回の法改正の目的はコンセッションによる運営権の民間譲渡を通し、事業運営の効率化を目指すもので、料金収入の減少や設備の老朽化に悩む水道事業の活性化に向けた起爆剤としての役割が期待されている。しかし、これに対しては時期尚早としてさまざまな反対意見が出されている。

 一般に民営化とは政府が所有・運営する事業を全て民間に移行するものと認識されている。もちろん、この認識に間違いはないが、本来の民営化とはこうした政府から民間への所有権・運営権の移転から民間委託や民間資金の調達等を含む幅広い概念からなる。

 これまで水道事業をめぐっては、指定管理者制度等を活用し、浄水場や導水管ならびに給水管をはじめとする水道施設や水質検査、検針、修繕工事に至るまで民間が広く関与してきた(包括的民間委託と呼ぶ)。すなわち「水道事業の民営化」は、既に多くの自治体で実施済みである。

 では、なぜ今になって水道事業の民営化が非難されるのか。それは今回の法改正の目玉としてコンセッションが含まれている点にある。

 コンセッションとは、従来政府が持っていた事業の運営権を民間に期間を定めて委託するもので、契約期間は通常、数十年の長期に及ぶ。コンセッションは指定管理者制度とは異なり、料金の決定、サービスの内容、人材の雇用など運営全般について全て民間が担い、政府は一切関与しない。

 空港ではこれと同様の形で民間への運営委託がすすめられており、仙台空港を筆頭に現在五つの空港でコンセッションによる民間委託が実施されている。

 水道事業は原則市町村区単位で運営されてきたため、サービスの供給範囲は広くなかった。また、サイドビジネスの展開も限定的で、例えば広域による複数一括での委託により、規模のメリットを生かしたさまざまな「水ビジネス」の出現が期待できる。

 ただ、そうした効果が期待できるのは一部の自治体のみで、それ以外は買い取り手がつかなく、売れ残りが生じるであろう。他方、民間への委託が実現した地域では、撤退が発生した際の対応、災害発生時の公民のリスク分担など詳細な点まで議論を詰めておく必要がある。料金高騰や水質悪化の懸念も残る。

 水道は空港とは違い、国民の生命に直接関わる必要不可欠な資源である。水道事業の効率化は必要であるが、こうした点を議論せずに「民営化ありき」の政策は避けるべきである。

高崎経済大地域政策学部准教授 小熊仁 さいたま市浦和区
【略歴】運輸調査局副主任研究員や金沢大助教を経て、2017年4月から現職。福島県会津若松市出身。中央大卒。同大大学院経済学研究科博士課程修了。