1月25日に起きたブラジルのダムの決壊事故は、本日付の時事通信の報道によれば、死者110人、行方不明者238人とのことです。残念ながら、日を追うごとに犠牲の大きさがより深刻になってきているようです。ブラジル発の情報を毎日配信しているニッケイ新聞が詳しく報じており、今日も同紙のサイトには新しいニュースが三本公開されました。→https://www.nikkeyshimbun.jp/
事故を起こした鉱業用ダムの仕組みについて、1/31付けの記事では、「積み上げ式と呼ばれる、鉱滓(鉱山採掘の過程で発生する有毒な汚泥)量の増加に合わせ、堰(せき)を覆いかぶせるように積み上げていく工法で作られていた。この工法は、前の堰の端とその堰によって堆積した鉱滓の上にまたがるようにして次の堰を造るため、新しい堰が小さくて済む。工費は安くて済むが、安全性は低い。」と説明されています。
「今回流出した鉱滓は1270万立方mに及ぶ」(1/29付け)、「(鉱滓が流れ込んだパラオペバ川では)基準値の21倍の濃度の鉛と水銀が検出されたという。・・・ニッケル、鉛、カドミウム、亜鉛が検出されている」(2/1付け)という記述もあり、決壊によって呑み込まれた犠牲者だけでなく、環境に及ぼす影響は甚大です。
◆2019年2月1日 ニッケイ新聞
https://www.nikkeyshimbun.jp/2019/190201-24brasil.html
ー《ブラジル 鉱山ダム決壊事故関連》パラオペバ川で高濃度の鉛と水銀検出=影響におびえる下流域の住民ー
【既報関連】ミナス州の保健局(SES)、環境局(Semed)、農牧供給局(Seapa)が1月30日に連名で、ブルマジーニョのダム決壊事故により流出した鉱滓(鉱物採掘過程で出る有害な汚泥)が流れこんだパラオペバ川の水を飲んだり、触れたり、川の水を使って作った農作物を食べたりして、吐き気、かゆみ、下痢、めまいなどの症状が出た人は近くの保健機関に報告するようにとの警告を出したと、1月31日付現地紙・サイトが報じている。
地元当局は、事故当日の1月25日から29日にかけて水質検査を行った。それによると、基準値の21倍の濃度の鉛と水銀が検出されたという。また、1月26日に別の観測点で行った検査でも、ニッケル、鉛、カドミウム、亜鉛が検出されている。
ミナス州政府は状況を考慮し、状況が正常化されるまで、いかなる用途の水の利用も推奨しない事を決めた。この勧告は、パラオペバ川流域の中でも、ブルマジーニョ市フェロ―カルボン水路と交差する地点から、パラー・デ・ミナス市までの地点が対象で、農産物は川岸から100メートルまでの地域で作られたものが対象となる。
パラー・デ・ミナス市にとり、パラオペバ川は三つの取水源の一つだ。市民たちは鉱滓が流れてくる事を心配している。
1月30日朝には、市の関連企業職員とヴァーレ社の下請け社員らが、泥流入のインパクトを少しでも緩和するため、長さ250メートルに及ぶブイ設置の準備をした。このブイには川底までの高さの特殊な生地がつけられ、フィルターの役目と泥の進行を食い止める機能を果たす。
ブイは川からの取水口を囲むように設置されるが、地元農家のフランシスコ・ダ・シウヴァさん(63)は、汚泥が到達したら「魚や飲み水、家畜はみんな終わってしまう」と語っている。
◆2019年2月1日 ニッケイ新聞
https://www.nikkeyshimbun.jp/2019/190201-23brasil.html
ー地域開発相=ダム監査基準の提出を要請=登録更新と共に90日以内にー
【既報関連】1月25日にミナス州ブルマジーニョで起きた鉱滓ダム決壊事故を受け、国連の人権問題報告官が1月30日、国内各地にあるダムの安全性を精査し、建設や操業の許可の手続きも見直すよう、ブラジル政府に要請したと同日付現地紙サイトが報じた。
報告官らは、既存のダムの安全性が保障されるまでは、新しい鉱滓ダム建設や既存のダムの安全性を脅かすような活動を認めない事も要請した。
他方、グスターヴォ・カヌト地域開発相は、90日以内に各種のダムの監査のあり方と監査基準を見直して提出する事と、ダムや所有企業に関する全国情報システム中の情報を更新する事を各種監査機関に要請し、30日付官報に掲載した。
連邦政府は1月29日に、決壊の危険性が高いダムや決壊が起きた場合の被害が大きいダム3386基を国家機関が監査する事を決めたが、監査内容には、現状精査と、撤去の必要の有無の判断などが含まれている。
地域開発相が出した要請は29日の決議内容を具現化するための第一歩で、各企業は90日以内に、各ダムに関する安全策や保守計画などを見直した上で作成した報告書を提出しなければならない。
1月29日に監査の対象とされたダム3386基は、国家水資源庁(ANA)の「ダムの安全性報告書」に基づいて選ばれた。
地域開発相の要請を受け、国家電力庁は1月30日、5月までに約130の水力発電ダムの監査を行うための特別班結成を決めた。この監査はサンパウロ州やリオ・グランデ・ド・スル州などの州関連機関と協力して行われる。国内の水力発電ダム616基中、437基が同庁の管轄下にある。
他方、緊急監査の対象となる3386基中、207基は国家鉱業庁管轄下の鉱滓ダムで、内70基は、ブルマジーニョやマリアーナで決壊したダム同様、積み上げ式と呼ばれる手法が使われている。チリなどは積み上げ式は建設禁止にしているが、今回の事故後、ミナス州もこの手法のダム建設を禁じる事を決めた。
ミナス州で最も危険度が高いのは、リオ・アシマの金鉱ミナ・エンジェニョのダムだ。同金鉱は11年末に活動を停止したが、ダムの鉱滓は放置されたままで、住民はマリアーナなどの二の舞になる事を恐れている。
◆2019年2月1日 ニッケイ新聞
https://www.nikkeyshimbun.jp/2019/190201-21brasil.html
ー《ブラジル》ダム決壊事故続報=ブラジル全土で350万人が危険地域に?!=決壊の懸念あるダムのそばに居住=「こんなこと、ブラジル以外では考えられない」とドイツ人教授ー
【既報関連】ミナス州ブルマジーニョの鉱滓ダム決壊事故から1週間が経過した1月31日、同日付現地紙が、「国内でダム決壊事故発生の危険がある市に住んでいる人は350万人に上る」と報じた。
国家水資源庁(ANA)が17年末にまとめた報告書では、全国で2万4千基を超えるダムの内、45基が「事故の懸念あり」と評価された。45基のダムは13州、30余市に存在。これらの市の人口は総計350万人に上る。
事故の懸念があるダムには、穴、ひび割れ、滞留物の漏れ、安全書類が存在しない、などの問題が見られた。
ダム管理体制は一元化されておらず、全ての監査機関がANAにデータを送ったわけではないので、危険なダムの実数は45より多い可能性もある。
事故の懸念があるダムを持つ市の内、最も人口が多いのは、カンポ・グランデ市(マット・グロッソ・ド・スル州)、カリアシカ市(エスピリト・サント州)、ペロタス市(リオ・グランデ・ド・スル州)だ。サンパウロ州にもアメリカーナ市、ピラポラ・ド・ボン・ジェズース市に危険なダムがある。ただし、「事故の懸念あり」とされてはいなかったブルマジーニョ市のダムが決壊したため、潜在的なリスクを抱えている国民の数は350万人より多い。
15年11月のマリアーナでのダム決壊事故後、ミナス州議会には「ダムと居住地域の距離を最低10キロとする」との法案が提出されたが成立しなかった。ドイツ人のミナス州連邦大学地理学教授は、「ダムと居住地域がこんなに近いなんて、ブラジル以外では考えられない」としている。
幹部に届くか断罪の手?
1月30日昼、オニキス・ロレンゾーニ官房長官は、「責任は誰かのCPFに届かなくてはいけない」との表現で、「責任の所在が曖昧にされずに、罪に問われなくてはいけない」という趣旨の発言をした。
監査に関わった現場の職員だけでなく、企業や幹部も法的責任を問われうるが、企業の幹部が法廷で断罪されるのは簡単ではない。
3年以上前に発生したマリアーナでのダム決壊事故でも、合計21人の企業幹部、経営審議会委員、職員らが殺人、環境犯罪、傷害などの罪に問われているが、未だに一審判決さえ出ていないのが実情だ。
1月29日にはヴァーレ社職員3人と、下請け会社職員2人が30日の期限付逮捕となったが、刑法学者のアントニオ・カストロ氏は、「早く誰かを処罰せよとの国民感情に流されたもので、真に処罰されるべき人物への追及の手が逸(そ)れている」と批判した。
また、事故の2日後にブラジル入りし、救助、捜索活動を援助していたイスラエル軍が、事故発生から1週間となった1月31日に撤収した。同日午後2時半現在の死者は99人で、救出された生存者は192人、所在や無事確認は395人、行方不明者は257人だ。
◆2019年1月31日 ニッケイ新聞
https://www.nikkeyshimbun.jp/2019/190131-21brasil.html
ー《ブラジル 鉱山ダム決壊事故続報》発生6日目の死者84人、不明者276人に=ヴァーレが類似ダムの全廃を宣言=健康被害にも注意呼びかけー
【既報関連】ミナス州ブルマジーニョの鉱滓ダム決壊事故発生から5日目の29日、ダム所有者のヴァーレ社は、崩壊したダムと同じ工法で建てられた全てのダムを廃止し、それらのダムに近い鉱区での採掘も中止する事を決めたと、30日付現地各紙が報じている。
今回決壊したダムは、15年11月にマリアーナで決壊したダム同様、積み上げ式と呼ばれる、鉱滓(鉱山採掘の過程で発生する有毒な汚泥)量の増加に合わせ、堰(せき)を覆いかぶせるように積み上げていく工法で作られていた。
この工法は、前の堰の端とその堰によって堆積した鉱滓の上にまたがるようにして次の堰を造るため、新しい堰が小さくて済む。工費は安くて済むが、安全性は低い。
これらのダムの廃止に伴う費用は50億レで、ヴァーレ社の鉄鉱石採掘量は年間4千万トン(10%)低下する。
ヴァーレ社社長のファビオ・シュヴァルツマン氏は、ベント・アルブケルケ鉱山動力相、リカルド・サレス環境相らとの会合後、積み上げ式ダムの廃止を発表した。同社長は、現在も残っている積み上げ式鉱滓ダムは10基で、全てミナス州内にある事、これら10基の中には新たに鉱滓を受け入れていたダムは一つもない事を明言した。
同社はマリアーナでの事故以降、積み上げ式鉱滓ダムを段階的に廃止する方針だったが、ブルマジーニョでも事故が発生したせいで計画を前倒しし、今後1~3年で廃止する事にした。
現在、国内には2万4千基以上のダムがあり、その内790基が鉱滓ダムだ。
連邦政府は29日、決壊の危険性が高い、または決壊した場合の被害が大きいダム3386基を国家機関が監査すると発表した。この内の205基は鉱滓ダム(積み上げ式は70基)で、これらが最優先で監査される。だが、鉱滓ダムの管理を担当する国家鉱業庁(ANM)には監査官が35人しかおらず、早急に監査を終えるのは困難だ。
また、ミナス州保健局は28日夜、「流出した鉱滓に触れると健康に悪影響を及ぼしうる」と警告を発表。書面には、鉱滓に触れた食物を食べない事、鉱滓が流入したパラオペバ川の水に触れない事、同川の魚を釣ったり、食べたりしない事などが書かれている。
また、吐き気やかゆみ、めまい、下痢などの症状が出た場合は、近くの医療機関にすぐ報告し、鉱滓と接触したかも伝えるようにとも、呼びかけている。
事故現場周辺では、事故発生から6日目の30日も救出作業が続いている。同日昼過ぎまでに確認された死者は84人、その内身元が判明したのは67人、救出された生存者は192人、所在や無事が確認されたのは391人で、行方不明者は276人を数える。
◆2019年1月29日 ニッケイ新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190129-00010002-nikkey-s_ame
ー《ブラジル》鉱山ダム決壊で60人が死亡=プール5千杯分の有毒な泥水が鉄砲水に=行方不明者もまだ292人=「取りうる全ての対策を」とボウソナロ大統領ー
ブラジル南東部ミナス州のブルマジーニョで25日、鉱山ダムが決壊した。この事故により、大量の鉱滓(鉱山採掘の過程で発生する有毒な汚泥)が周辺地域へ急激に流出し、市街地やバスなども丸ごと飲み込んで、多数の死者、行方不明者を出したと、26〜28日付ブラジル各紙が報じている。
28日昼までに発見された遺体は60人分で、19人の身元が判明している。192人が救出され、382人の無事も確認されたが、行方不明者はまだ292人おり、家を失った人は135人に達している。
同州では15年11月にもマリアーナで同様の鉱滓ダム決壊事故が発生し、ブラジル史上最大の環境破壊を引き起こした。
事故当日、ボウソナロ大統領(社会自由党・PSL)は、地域開発省、環境省、鉱山動力省、ミナス州政府らと共同で、対策本部の設立を宣言、「少しでも被害を食い止めるため、必要な手段は全てとる」と語り、政府官報には、緊急非常事態宣言の発令も記された。同大統領は事故の翌日にヘリで上空を視察後、「惨状を見て、感情を抑えられなかった。残念だが犠牲は増えるだろう」と語った。
事故から三日目の27日早朝5時半ごろには、決壊したダムの隣のダムにも決壊の危険性があるとの警報が鳴り、近隣住民は高台への避難を余儀なくされた。捜索、救出作業も、ほぼ10時間中断された。
一人の生存者も発見できなかった27日の作業後、指揮に当たった災害救助隊の隊長は、「時間と共に、生存者発見の可能性はどんどん低くなる」「遺体の多くは発見できないかも」と語った。
今回流出した鉱滓は1270万立方mに及ぶ。これは、長さ50m、横幅25m、深さ2mのオリンピック用プール5080杯分だ。
流れ出た鉱滓は、低地の他のダムもあふれさせ、採掘された鉱物を運搬する線路、鉄橋、ヴァーレ社のダム管理センター、居住区域も次々に直撃した。
鉱滓はまた、事故現場から8キロ以上離れたパラオペバ川にも大量に流れ込み、流域汚染が懸念される。同川下流にはレチーロ・バイショ水力発電所がある。同発電所は28日、汚水到達による機材損傷などを懸念し、運転を停止した。
また、司法当局は26〜28日に、損害賠償や復旧作業費徴収のため、ヴァーレ社口座を凍結。28日現在の凍結総額は118億レアル(3540億円相当)に上っている。