神奈川県の相模川では、本州南限のサクラマスの自然遡上を復活させる釣り人達の取り組みが昨年から動き出しているということです。
相模川は河口から5kmのところに寒川取水堰、12kmのところに相模大堰、さらにその上に磯部頭首工があります。いずれも魚道が整備されていますが、サクラマスの遡上に有効かどうかはわかりません。また、相模川本川の上流には城山ダム、相模ダム、支川の中津川には宮ケ瀬ダムがそびえています。
(右図=国土交通省ホームページより、相模川流域図)
河川環境の復活を願う釣り人達の運動によって、川の堰やダムの問題が浮き彫りになっていくと予想されます。
ルアマガに掲載された記事を転載させていただきます。
◆2019年3月4日 ルアマガ
https://plus.luremaga.jp/_ct/17255055
ー相模川に本州南限のサクラマス自然遡上を復活させることができるかー
サクラマスの太平洋側南限と言われる神奈川県・相模川。かつてこの川には、数多くのサクラマス(ヤマメの降海型)が遡上する姿が見られたというが、降海型の魚が生存するのに適さない河川環境であることなど様々な要因が重なり、今は見る影もない。
そんな相模川に、サクラマスを復活させようというプロジェクトが動き出している。相模川・中津川・小鮎川の三川合流地点にて行われたイベントの模様を、トラウトアングラーの木下進二朗さんにレポートしてもらった。
相模川に本州南限のサクラマス自然遡上を復活させることができるか 木下進二朗さん
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■トラウトアングラー
木下進二朗(きのした・しんじろう)
静岡県中部や伊豆地方の川をホームとするトラウトアングラー。
ジャクソンのフィールドテスターを務める。
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相模川に本州南限のサクラマス自然遡上を復活させることができるか
ここ数年「catch&clean」というフィールド清掃活動に参加させていただいているのだが、昨年神奈川県・中津川で行われたこの活動の中で耳寄りな情報をキャッチした。同県相模川水系に“サクラマスを復活させよう”というプロジェクトが進行中とのことである。ここで気になるのは“復活”という言葉だ。
聞くところによると、かつて相模川には多くのサクラマスが遡上していたそうだ。遡上河川としては本州の南限と言われており、相模川に遡るマスはそういった意味でも非常に貴重な存在であることがすぐに理解できた。
今ではダムや取水堰堤が数多く建設され、その数は激減。釣りの対象にするのは難しくなってしまったそうだ。彼らのように、川と海を行き来する魚類の存在は河川環境を映し出すと云われるため、日常的に水道水や電気を使う僕達にとっては耳の痛いところでもある。
ゆかりある地で育ったヤマメを放流したい
さて、件のプロジェクトの発起人となったのは「ZANMAI ORIGINAL HAND MAID LURES」の小平豊さん。イベント開催までの道のりは険しかったと語ってくれた。
まず、皆さんご存知かもしれないが個人が勝手に川に魚を放流する事は、ゲリラ放流になってしまう。そのため、水系を管理している“漁協の承認”が必要になってくる。
さらに、放流をするからにはそのための魚。つまりサクラマスになるヤマメを調達しなければならない。それに伴い資金も必要なのは言うまでもない。
小平さん曰く、漁協へは何度も足を運び、理解を求めるために説明と協議を繰り返したそうだ。そして資金調達については、このプロジェクトに共感した「catch&clean」参加者や、地元ロコアングラーである木岡氏を始めとした有志が「丹沢の釣り人大反省会」と称したチャリティイベントを開催。
神奈川県大和市にお店を構える「くらげ亭」さんに協力してもらい、イベント当日の飲食代を寄付していただくという、この上ないご厚意を承ったのだそうだ。
残念ながら僕は参加することが出来なかったのだが、SNSには未来の相模川を映すかのような明るく楽しそうな写真が数多く掲げられていた。
できるだけ、元の環境に近いものを
放流会を開催するに際し、放流する魚にもこだわった。山梨県水産試験場より発眼卵を購入し、同県忍野村の宮下養魚場に飼育を依頼。
忍野は相模川水源のひとつでもあり、少しでもゆかりのある地で育ったヤマメであることが重要だった。卵から孵ったヤマメは降海型となるように育てられたそうだ。
ご存知のようにサクラマスになる個体は、自然界で発育が遅れ一度ライバル争いに敗れたものが海へと下る。あえて飼育中のエサの量を抑え発育を遅らせることで、本能的に海に下ろうとするのだそうだ。その目安は8月の時点で、10cm未満の個体だという。
他にも大小様々な課題があったようなのだが、裏側のお話はこのぐらいにしておこう。
釣り人が成果を公表し本州南限のブランドリバーへ
去る2018年11月25日(日)。84名もの参加者たちが、相模川・中津川・小鮎川の3つの川が合流する前の広場に集結した。
この場所が選ばれたのには理由があり、釣り人だけでなく多くの人が利用する広場であれば、カワウが近づき難いという狙いもあるそうだ。それに、河口から15~16km地点にあるこの場所は野生を取り戻した個体が半日程で汽水域にたどり着けるため、ヤマメたちにとっても好都合のようだ。
放流ヤマメを区別する
開始してから間もなく、バケツに移されたサクラマス候補生が参加者に配られた。用意されたのはおよそ3500尾のヤマメ。その内の100尾から油鰭をカットし、区別化を図った。さらにカットした鰭もDNA解析用サンプルとして保管。
昔から「可愛い子には旅をさせよ」というけれど、たった今バケツに受けたヤマメでさえも愛おしく思える。
近くで小平さんの声がしたので、この活動の発起人でもある氏に、唐突に今の心境を聞いてみた。
小平「あとは皆さんが成果(釣果)を見せてください。最終的に目指すのは“放流に頼らない自然回帰のサイクルを取り戻すこと”。それにはまだまだ課題は山積みで、釣り人・漁協・行政が連携することが必要なんです」
課題はあるかもしれないが、これだけたくさんの参加者が集まっているのだから、皆で真剣に取り組むことで、大きな一歩に繋がるはずだ。
いま必要なのは、サクラマスの活動に関するデータを集めること
その後行われた、神奈川県水産試験場の勝呂尚之さんのお話しの中でも具体的に挙げられたのは、サクラマスが戻って来た際の産卵場所の調査と整備は大きな課題とあった。
対策のひとつとして、大規模堰堤やダムのように魚道を設けることが困難な場合において、迂回するための水路の設置がビジョンにあるようだ。
そのためには、小平さんの言う通り僕たち釣り人がまずは成果を公表し、サクラマスの希少性と注目度の高さ、それにおける経済効果をアピールしたいところである。
いつか本州南限の天然サクラマスが遡上する日が来ることも夢ではない
最後に、相模川のサクラマスを釣り上げることが出来た際は次のことを思い出して欲しい。放流当時は体長15cm(40g)程度だったこと。過去の調査から、東は房総半島沖・三浦半島沖。西は紀伊半島沖までを旅して来た可能性があること。
釣り人はついついサイズに目がいってしまいがちだけど、彼等が乗り越えた苦難を想像しリスペクトしてあげて欲しい。
そして、釣果があれば、関係機関(相模川漁連・catch&clean公式ブログ・ザンマイHP)に連絡をいただけると研究材料になるそうなので、ぜひともご協力願いたい。
—転載終わり—
〈参考記事〉
◆2018年11月25日 神奈川新聞
https://www.kanaloco.jp/article/entry-39584.html
ー再びのぼれサクラマス 相模川で復活願う 県内の釣り愛好家が放流ー
相模川に高級魚サクラマスを復活させようと、県内の釣り愛好家団体が幼魚の放流を始める。サクラマスは渓流魚のヤマメが海に下って大きく成長し、再び川をさかのぼってきた魚。相模湖完成前は年間数トン単位の漁獲量があったとされるが、現在は相模川では極めて希少な存在だ。多くのサクラマスがさかのぼれば太公望たちにも大きく注目されるとあって、相模川漁業協同組合連合会(木藤照雄会長)もバックアップしている。
サクラマス復活に思いをはせるのは釣り愛好家団体「キャッチ&クリーン」(本田行照会長、川崎市)。25日に厚木市厚木の三川合流点で幼魚約3千匹を放流する。
県水産技術センター内水面試験場(相模原市緑区)によると、ヤマメの一部が春に海へ下り、翌年3月ごろから川をさかのぼって秋に産卵する。体長は50センチほどに成長するという。「むしろサクラマスの陸封型がヤマメといえる」と同試験場職員。
キャッチ&クリーン発起人の小平豊さん(49)は、「サクラマスは山と川と海をつなぐ存在で、自然のシンボル」とサクラマス復活の意義を説く。
同グループは相模川などのクリーン活動を続ける中で、相模川漁連傘下の中津川漁業協同組合と連携しながらサクラマス復活運動の準備を進めてきた。募金を呼び掛け、山梨県忍野村の養殖業者から仕入れる幼魚の費用を賄った。目印として放流魚のアブラビレという小さなヒレをカットし、来年、川をさかのぼるかどうかを調べる。
サクラマスは福井県の九頭竜川、富山県の神通川、秋田県の雄物川などが有名。同試験場によると、太平洋側では神奈川県が南限とされる。
相模川では本流に1947年に相模ダム、65年に城山ダム、支流の中津川にも2000年に宮ケ瀬ダムが完成し、サクラマスなどの魚がダムの上下を行き来できなくなった。中下流部にはいくつもの堰(せき)があり、魚道の一部は魚が通りにくい所もあるという。上流部で相模川漁連がヤマメを毎年放流しているものの、サクラマスの姿は極めて少ない。ただ、まれに、サクラマスとみられる魚が釣れることもあるという。
小平さんは「サクラマスが遡上(そじょう)するようになれば、釣り人の間からものすごい反響があるだろう」と話し、相模川漁連も「若い世代が釣りに目を向けてくれるのでは。魚がさかのぼれる魚道の整備も必要だ」としている。
同試験場では「放流してもすぐ翌年にサクラマスが遡上するとはいえず、長い取り組みになるので頑張ってほしい」とエールを送っている。
◆2018年11月27日 神奈川新聞
https://www.kanaloco.jp/article/entry-39687.html
ーサクラマス復活願い 相模川へ幼魚3千匹放流ー
相模川にサクラマスを復活させようと、釣り愛好家団体の「キャッチ&クリーン」(本田行照会長、川崎市)は25日、相模川の三川合流点(厚木市)で、サクラマスの幼魚に当たるヤマメ約3千匹を放流した。「森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト」と題し、会員や市民ら約80人が参加。サクラマス復活を願いながら流れにヤマメを放った。
サクラマスは渓流魚のヤマメの一部が海に下り、成長した後、再び川をさかのぼり上流で産卵する。ヤマメが持つ楕円形の模様がなくなるなど、見た目が大きく変わる。体長も20センチ程度のヤマメと比べて、サクラマスは50センチほどにも成長する。相模湖建設以前には、相模川で年間数トンもの漁獲があったとされるが、現在では極めて珍しい。
同団体発起人の小平豊さん(49)が、相模川漁業協同組合連合会(木藤照雄会長)などに働き掛けて、初の放流にこぎ着けた。養殖業者から運び込んだ3千匹のうち、100匹を標識魚として小さなアブラビレをカットした後、手分けして流れに放流した。親子連れの参加者もいて、小さなバケツでヤマメを放流した子どもは「バイバイ」と声を掛けていた。
小平さんは「とにかくサクラマスとなって帰るのを祈りたい。早ければ来年3月から遡上(そじょう)してくれるのでは」と期待する。ただ、現状の川には、堰(せき)の魚道が十分に機能していないところもあるという。相模川漁連の木藤会長は「サクラマス回帰の夢を乗せた第一歩。サクラマスだけでなくアユ、ウナギなどの魚も川を上下できる魚道の整備が不可欠」と指摘していた。
◆神奈川県公式サイト 「相模川の歴史」より
魚の危機
魚から見るとどうでしょう。魚の歴史(チョウザメは2億年から4億年、メダカは100万年)は人類(数万年)よりはるかに長いものがあります。つい最近(50年ほど前)までは、今よりはるかに自然が豊富で、魚の数や種類は多かったと思われます。それが、戦後の高度経済成長に伴う都市化の進行で河川改修、水質汚濁等の面からみると魚の生息環境は急激に悪化してきました。
支流では住宅や向上が増え、護岸がコンクリートで固められ(三面護岸)、絶滅していった魚(ミヤコタナゴ、ヤリタナゴ、タナゴなど天然域絶滅種とゼニタナゴ、スナヤツメ、メダカなど絶滅危惧種)もいるだろうし、いてもやっと生きながらえているだけで絶滅寸前(単純な、限られた魚種組成、数)に追い込まれています。
本流を川の上流から下流に向かって歩くと、そこに住んでる魚の種類が変わってきます。水の流れの状態(瀬や淵)や水温などそれぞれの魚が、それぞれに適した場所に生息し、棲み分けています。国内外から移植された移入種が殖え、昔から生息していた在来種の一部が絶滅しかかっている問題があります。
大きなダムではその上に魚が上れません。多くの取水堰には魚道が敷設されていますが、十分機能しているとは言い切れません。このことは魚類の上下流への移動や分布、繁殖行動に影響を与えています。