北海道では水道事業の経営が厳しく、存続の危機にあることが新聞でクローズアップされています。面積が広く、人口密度が低い北海道の水道は、鉄道と同様、全国の他の地域より条件が厳しいことは想像に難くありません。
北海道では一方で、不要なダム建設が各地で進められています。水需要は減少しているにもかかわらず、建設中あるいは最近完成したダムでも、ダム建設の目的に「水道用水の供給」が入っているダムが殆どです。自治体がさらなる「水道用水」が必要だとしてダム事業に参画し、ダム事業費を負担する根拠は、現実からかけ離れた過大な水需要予測です。
水道事業のダウンサイジングが求められているにもかかわらず、真逆の政策が進められているのですが、こうした事実は殆ど知られていません。新聞はダム事業が水道経営を一層悪化させているという問題もきちんと取り上げてほしいと思います。
右図は、国土交通省北海道開発局のホームページに掲載されている「北海道のダム事業」の図です。この図に掲載されている国直轄のダム事業の他に、国の補助金で建設される北海道営ダム(補助ダム)があります。https://www.hkd.mlit.go.jp/ky/kn/kawa_kei/ud49g700000054b9.html
★建設中あるいは最近完成したダムと水道事業
●国直轄ダム
・夕張シューパロダム 2014年度完成 江別市・千歳市・恵庭市・北広島市の4市、由仁町・長沼町・南幌町の3町に水道用水を給水
・サンルダム 試験湛水中 2018年度完成予定 下川町、名寄市に水道用水を供給
・平取ダム 建設中 2019年度完成予定 平取町、日高町門別に水道用水を供給
・新桂沢ダム 建設中 2020年度完成予定 三笠市と美唄市に水道用水を供給
●北海道営ダム
・当別ダム 2012年度完成 札幌市、小樽市、石狩市、当別町に水道用水を供給
・徳富ダム 2013年度完成 新十津川町、雨竜町、浦臼町に水道用水を供給
・厚幌ダム 2018年度完成 厚真町へ水道用水を供給
◆2019年2月28日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/CMTW1902280100004.html?iref=pc_ss_date
ー未来へのものさし)水道老朽化、存続の危機ー
統一地方選、模索する現場:1
●朝日新聞×HTB
いま、北海道の水道が存続の危機にある。水道管の老朽化でコストがかさむ一方、人口減少で料金収入は減り続けている。
コスト高、値上げ止まらず
世界自然遺産の知床をかかえる羅臼町の水道料金は10立方メートルあたり3360円(2016年)で、一般的な住居地域としては全国で最も高い。一般的な家庭の1カ月の使用量の20立方メートルでみると6360円で全国4番目だ。
東西に延びる海岸沿いに集落が点在する羅臼町では、水道管1キロあたりの給水人口が58人と札幌市の5分の1以下。水道管を維持するためのコストが住民一人ひとりに重くのしかかる。町は1998年度以降、4度の値上げに踏み切ったが、経営状況はなお厳しい。
「ずっと自転車操業が続いている。このままでは、もう水道がもたない。無理だ」。同町建設水道課係長の平尾晃一さん(50)は頭を抱える。水道事業の営業収益は1億6千万円。独立採算が原則とされる水道事業だが、水道管の修繕や借金返済などの費用をまかなえず、町の一般会計から毎年1億円前後を繰り入れるなどして帳尻を合わせている。
水道管は設置から半世紀が経過し、老朽化が進む。17年には水漏れを起こし、200メートル分の修理に1200万円かかった。水漏れ箇所の先にある40世帯に水を届けるためだが、平尾さんは「単純計算でも1世帯30万円。とても水道料金では回収できない」と話す。
町の人口は今年1月現在で約5千人と、10年前と比べて2割も少なくなった。今後も人口は減り続け、料金収入は毎年300万~550万円ほど少なくなる見通しだ。水道管の取り換えや浄水場の建て替えといった設備の更新を控えるが、10億円規模の費用が見込まれる。だが、財政難のなかで一般会計からこれ以上補填するのは難しい。08年度を最後に料金値上げを見送ってきたが、さらなる値上げは避けられそうにない。
広域化、そろわぬ足並み
水道事業の厳しい経営状況は、北海道の自治体に共通している。
広大な供給エリアをカバーする水道管の総延長は地球1・2周分にあたる計4万8千キロ。大半は冬場の凍結を防ぐために地下1メートル以上の深さに埋められており、地下数十センチでも凍結しないほかの地域に比べると維持管理のコストは割高だ。そこに人口減少に伴う料金収入の落ち込みが追い打ちをかけている。
このため、近年は料金の値上げに踏み切る自治体が相次ぎ、道内自治体の平均の水道料金は全国平均より約4割も高い。日本水道協会によると、水道料金ランキング(20立方メートルあたり)で、羅臼町以外にも、夕張市(1位)や由仁町(3位)など、上位10団体に道内の6団体が並ぶ。
人口減に合わせて、水道インフラをどう再構築するのか。
解決策の一つが、市町村の枠を超えた広域連携だ。事業の効率化につながるとして国は後押しするが、ほとんど進んでいない。水道料金が統一されると事実上の値上げになる自治体から不満が出ることが大きい。複数の自治体が一つのゴミ処理施設を共同で使うような広域連携とは異なり、水道管を各家庭に張り巡らせているため、設備の統廃合などの効果が期待しづらいことも背景にある。
民営化も厳しい。昨年12月に改正水道法が成立し、自治体が施設の所有権を持ったまま、運営権を民間企業に売却する「コンセッション」と呼ばれる手法が可能になった。ただ、効率化により一定の収益が見込める都市部が対象とみられ、「地方にとって有利な制度ではない」(道内の自治体)との声が大半だ。
大和証券グループの大和エナジー・インフラの鈴木文彦氏は「人口減少に合わせて水道もダウンサイジングが必要になる」と指摘し、次のように提案する。同じ自治体内でも、給水コストが高い郊外ほど料金が割高になる仕組みを取り入れ、比較的安価な中心部への住み替えを促す。この結果、コンパクトシティー化が進み、コスト削減につながるとみている。
(今泉奏)
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人口減少に歯止めがかからない北海道。このままでは水道や買い物、医療、教育といった生活インフラの維持すら難しくなる。4月の統一地方選を控え、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)を「ものさし」に、深刻さを増す暮らしの課題を探った。
全国水道料金ランキング
(1)夕張市(北海道) 6841円
(2)深浦町(青森県) 6588円
(3)由仁町(北海道) 6379円
(4)羅臼町(北海道) 6360円
(5)江差町(北海道) 6264円
(5)上天草市大矢野地区(熊本県) 同
(7)西空知広域水道企業団(北海道) 6058円
(8)中泊町(青森県) 5907円
(8)上島町(愛媛県) 同
(10)羽幌町(北海道) 5850円
〈2016年時点、20立方メートルあたり。日本水道協会「水道料金表」より。〉