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絶滅危惧種 ニホンウナギのために消費者ができること (海部健三さん、文春オンライン)

 当会も参加している利根川流域委員会では、かつてはわが国有数のウナギの産地であった利根川でのウナギ復活を目指して活動しています。利根川流域委員会が講師としてお話を伺った海部健三さん(中央大学准教授)が、ニホンウナギについて消費者に向けて貴重な提言を行っていますので、ご紹介します。

 「環境回復で最も重要度が高い対策は、堰やダムによる遡上の阻害を解消することである。不要な堰やダムを撤去するか、不可能な場合は魚道を設置するなどして、上流域の生息域を開放する必要がある」など、重要な提言が記されています。

◆2019年2月24日 文春オンライン
https://blogos.com/article/359969/
ー絶滅危惧種 ニホンウナギのために消費者ができること 2019年の論点100 – 海部 健三ー

 ニホンウナギは2014年、国際自然保護連合によって絶滅危惧種に指定された。しかし、持続的利用に向けた対策は遅々として進まない。ウナギをめぐる異常な現状を整理するとともに、消費者が取るべき行動を考える。

 日本で食用として流通するウナギの大部分は養殖されたものだ。飼育下でウナギに卵を産ませて育てることは技術的に難しく、多大なコストがかかる。このため、天然のウナギが産んだ卵から育った子供(シラスウナギ)を捕獲して養殖場で育てる。「養殖ウナギ」と呼ばれていても、元々は野生のシラスウナギだ。

 消費を天然資源に100%頼っていることから、ウナギは再生産する天然資源だと言える。再生産する天然資源は、利用速度が再生産速度を上回らなければ、持続的に利用することができる。

 日本に生息しているニホンウナギの場合、最近の岡山県における研究結果では、2003年から2016年の13年間で、天然ウナギが80%も減少したと報告されている。個体数が減少しているということは、利用速度が再生産速度を上回っているということだ。

 この状況を打開し、ウナギを持続的に利用するためには、利用速度を低減し、再生産速度を増大させる必要がある。利用速度の低減は消費量を削減することによって、再生産速度の増大は河川など生息域の環境を回復することによって実現できる。

  ニホンウナギを養殖している日本、中国、台湾、韓国は、「ニホンウナギ資源の保護」を目的として、2015年より養殖に利用するシラスウナギの上限量を全体で78.8トンと定めている。しかしながら、実際に捕獲されたシラスウナギの量は、例えば2017年が50.5トンと、上限の7割にも届かないのが現状である。

 シラスウナギの上限量は、実際の採捕量に対してあまりにも過剰であり、事実上「捕り放題」の状況が放置されている。

 シラスウナギの捕獲は基本的に禁じられており、採捕には都道府県知事から特別な許可を得る必要がある。また、採捕したシラスウナギは、定められた規則に従って売買しなければならない。しかし、シラスウナギの採捕と流通には、違法行為が関わる場合が多い。

 例えば、2015年には国内のウナギ養殖場に18.3トンのシラスウナギが入った。このうち9.6トンは密漁・密売されたもので、別の3.0トンには密輸が関わっている可能性が強く疑われている。合計すると、2015年に日本のウナギ養殖場に入ったシラスウナギのうち、68.9%に違法行為が関わっていたと推測される。

 違法なウナギと適法なウナギは、流通と飼育の過程で混じり合い、業者でも区別がつかなくなる。老舗の蒲焼き店でも、チェーンの牛丼店でも、高級デパートでも、生協の宅配でも、同じように高い確率で違法なウナギと出会うことになる。

 シラスウナギの採捕と流通に関わる違法行為は、適切な消費上限量を設定するための情報収集を妨げ、ウナギの持続的利用を困難にしている。

 消費速度の低減と合わせて、再生産速度を増大させることも重要である。台湾と香港の研究チームは、1970年から2010年にかけて、ニホンウナギの有効な成育場のうち、76.8%が失われたと推測している。再生産速度の増大には、ウナギが成長期を過ごす、河川や沿岸域の環境を回復させることが効果的だ。

 その一方で、日本では「ウナギに住み場所を提供する」と称して「石倉カゴ」と呼ばれる漁具を河川内に設置する取り組みが目立っている。石倉カゴはあくまで漁具であり、その設置によってウナギが増えるとする科学的な知見は一切ない。予算や時間といったリソースは有限であり、科学的な裏付けのある対策に対して配分すべきだ。

ウナギの放流は避けるべき

 また、日本ではウナギの放流も盛んに行われている。しかし、放流によってウナギが増えるという科学的な証拠はない。そればかりか、ウナギの放流によって、ウナギヘルペスウィルスなどの病原体が拡散することが明らかにされている。

 放流は資源回復に対する効果が不明なだけでなく、ウナギやそれを取り巻く自然環境に対して悪影響を与えることも懸念されるため、可能なかぎり避けるべきだ。特に、「放流は良いことである」という誤った認識を植え付けることになるので、子供に放流を行わせてはならない。

 ウナギを持続的に利用したいと思う消費者は、どのような選択ができるのか。「食べない」という選択もあり得るが、「食べる」場合には、以下の基準に従い、より適切な取り組みを進めている企業や生協の商品を選択することが重要だ。

(1) ASC(水産養殖管理協議会)など国際的に認められている第三者機関の基準に従って、持続可能な養殖を目指している。

(2) 違法に流通したシラスウナギの利用を避ける意思を明確に示している。

(3) 堰やダムによる遡上の阻害の解消など、科学的な知見に基づいた環境回復を進めている。

(4) 石倉カゴの設置や放流など、科学的な裏付けのない取り組みを行っていない(※ただし、汲上げ放流と汲下げ放流は推奨できる)。

 一人一人の影響は小さいが、最終的には消費者の行動が社会の変革につながるはずだ。ウナギ問題の解決を通じて、持続的な社会の実現へ近づくことが期待される。

(海部 健三/文春ムック 文藝春秋オピニオン 2019年の論点100)