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鹿野川ダム改造が完了していれば、昨年7月の緊急放流は避けられたのか?

 昨年7月の西日本豪雨では、愛媛県を流れる肱川上流で、野村ダムとともに、鹿野川ダムからの緊急放流により、肱川の大氾濫を引き起こし、死者が出ました。両ダムとも国交省四国地方整備局のダムで、流域の被災者からは、その責任を追及する声が今も続いています。
 問題となった鹿野川ダムでは、水害当時、新放流設備を設置する改造事業が進められていましたが、このほど新放流設備がほぼ完成し、12日に試験放流が行われ、流域住民約300人が参加したとのことです。(「洪水吐 試験放流300人見学」3/13読売新聞)

★国交省四国地方整備局 鹿野川ダム改造事業
 http://www.skr.mlit.go.jp/yamatosa/kanogawadam01/

 新放流設備のトンネル洪水吐は、現在の放流ゲートより23メートル低い位置に設置され、毎秒600トンの放流能力があり、洪水調節容量はこれまでの1650万トンから2390万トンに増加します。このため、国交省は「下流の洪水被害を軽減できる」と説明し、マスコミも治水効果の増大を期待する流域住民の声を紹介していますが、西日本豪雨の時に新放流設備があれば肱川の氾濫を大きくした鹿野川ダムからの緊急放流を避けることができたかというと、決してそうではありません。
右画像=国交省四国地方整備局 鹿野川ダム改造事業より

 昨年7月の鹿野川ダムの貯水量の変化をみると、右図のとおり、鹿野川ダムは事前放流を行って(発電用の放流管(最大毎秒28トン)を使用)、豪雨直前は貯水量を749.8万トンに落としていました。有効貯水容量が2980万トンですから、差し引き2230万トンの空き容量が確保されていました。改造後の2390万トンと大差がありません。したがって、改造後であっても、昨年の緊急放流は避けられなかったことになります。

 さらに問題とすべきことは、肱川ではこの鹿野川ダム改造に487億円の公費が投じられ、また、新規の山鳥坂ダムの建設が優先され、その結果、肱川の無堤防地区の河川改修がなおざりにされてきたことです。
 肱川ではダム優先の治水行政が昨年7月の大氾濫を引き起こしたことは明らかです。

◆2019年3月12日 毎日新聞愛媛版
https://mainichi.jp/articles/20190312/k00/00m/040/218000c
ー愛媛・鹿野川ダムで新放流設備が完成 西日本豪雨で氾濫の肱川上流ー

 昨年7月の西日本豪雨で氾濫した肱川(ひじかわ)上流にある鹿野川ダム(愛媛県大洲市肱川町山鳥坂)で、新しい放流設備「トンネル洪水吐(ばき)」がほぼ完成し、12日に試験放流があった。豪雨では大規模放流後に氾濫が起きたが、従来より低い貯水位から放流することで約1.4倍の洪水調節容量を確保でき、治水能力向上が期待される。

 トンネル洪水吐は、ダムの貯水池と下流の河川をトンネルでつないだ放流設備。ダム上部のゲートの23メートル下にトンネルを設けることで、従来よりも約5メートル低い貯水位から洪水調節が可能になる。洪水調節容量はこれまでの1650万トンから2390万トンと約1.4倍に増えるという。6月中旬の出水期までに操作規則を改定した上で運用を開始する予定で、国管理ダムでの運用は全国初になるという。

 ダムを管理する国土交通省四国地方整備局山鳥坂ダム工事事務所の小長井彰祐所長は「洪水が来る前に(より多くの)放流が可能になり、ダムにためられる容量が増える。洪水被害が起こらないようにしたい」と話した。【中川祐一】

◆2019年3月12日 日本テレビ
http://www.news24.jp/nnn/news16401880.html
ー鹿野川ダム トンネル洪水吐試験放流ー

 豪雨などの際の洪水調節機能を高めるために大洲市の鹿野川ダムで、建設が進められている「トンネル洪水吐」の試験放流が行われました。
 12日午前11時から行われた試験放流では、完成を控えたトンネル洪水吐から最大で毎秒38トンの放流が行われ、設備の動作確認や下流の水質確認などが行われました。
 鹿野川ダムの洪水吐は、ダム湖と下流側を繋ぐ全長458メートル直径11.5メートルのトンネルで、現在の放流ゲートより23メートル低い位置に設置されています。
 これによりこれまでより早い段階での洪水調節が可能になり、調節できる容量も現在の1650万トンから2390万トンに増加します。
 山鳥坂ダム工事事務所の小長井彰祐所長は「洪水吐の運用で下流、そして上流の野村も含めて洪水被害ができるだけ、起こらないように、また軽減されるようにと切に願っている」と話しています。
 洪水吐の設置に伴い鹿野川ダムは操作規則の変更を協議していて、6月中旬の運用開始を目指すということです。

◆2019年3月13日 朝日新聞愛媛版
https://digital.asahi.com/articles/ASM3D4RW2M3DPFIB00Q.html?iref=pc_ss_date
ー洪水調節容量1.4倍 鹿野川ダム洪水吐試験放流ー

  国土交通省山鳥坂ダム工事事務所は12日、鹿野川ダム(愛媛県大洲市肱川町)で洪水調整のために建設を進めている「トンネル洪水吐(こうずいばき)」の試験放流を実施し、一般公開した。見学を希望した住民ら約300人が放流する様子を見守った。

 同事務所によると、洪水吐はダム湖から水を抜くトンネルで、全長は約458メートル、内径は11・5メートル。水を放流するダムゲートの下部に建設した。現在は物理的にゲートの高さよりダムの水位を下げられないが、完成後は降雨前に水位をより下げられる。同事務所は「ダムの洪水調節容量を約1・4倍に増やすことができ、下流の洪水被害を軽減できる」としている。

 下流の大洲盆地で浸水被害が繰り返されたために、2011年度から本体工事に着手し、雨量が増え始める今年6月中旬ごろまでの運用開始を予定している。昨年7月の西日本豪雨では鹿野川ダム上流で観測史上最大の雨が降り、ダムの緊急放流(異常洪水時防災操作)が行われ、大洲盆地では大きな被害が出た。工事現場も被災し、今年度内予定だった完成が遅れた。総事業費は約487億円。

 この日は水を流してトンネルのゲートの作動などを確認した。放流を見つめていた大洲市の70代女性は「大洲は再三、水につかってきたから(トンネル洪水吐に)関心があった。水害のないまちにしてもらいたい」と話していた。(佐藤英法)

◆2019年3月14日 産経新聞
https://www.sankei.com/life/news/190314/lif1903140011-n1.html
ー鹿野川ダム試験放流、被害軽減めざすー

 鹿野川ダム(愛媛県大洲市肱川町)の洪水調節容量を増やすための放流設備「トンネル洪水吐(ばき)」工事完成を前に12日、ゲートの動作確認を行う試験放流が地元住民らに公開された。同ダムは昨年7月の西日本豪雨時、緊急放流で基準放流量の6倍の放流を行い、下流域で大きな浸水被害が出た。

 鹿野川ダムは治水・発電を目的に昭和34年に完成した。有効貯水量2980万トンのうち、洪水調節に割り当てられる容量は1650万トン。ダム本体の高い位置に放流ゲートが設置されているため、これまでは事前に貯水位を下げておくことができなかった。

 洪水吐はゲートから23メートル下に設置。ダム上流の呑口で取水し、肱川右岸に掘られた475メートルのトンネルを抜けてダム下流の吐口から最大毎秒600トンを放流する。洪水が起きそうなときは事前放流を行う。完成後の洪水調節容量は従来の1・4倍にあたる2390万トンとなる。

 この日は、試験として吐口から毎秒38トンの水が放流され、住民ら約300人が見学した。ダムを管理する国土交通省山鳥坂工事事務所の小長井彰祐所長は「洪水吐の運用で洪水被害が軽減されることを願う」と説明。放流による流水の濁りや水温など水質調査も行った。洪水吐の運用は6月中旬の予定で、これに伴うダム操作規則については「出水期までに改定したい」としている。

 ダム下流域に住む大洲市徳森の片岡潤子さん(69)は西日本豪雨で床上2メートルの浸水被害を受けた。「あの時ほどの出水に(ダムが)耐えられるか、まだ半分は不安だが、期待したい」と話した。