八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

形骸化した公共事業の戦略的環境アセス

 環境アセスメントとは、道路、ダム事業など、環境に著しい影響を及ぼす恐れのある行為について、事前に環境への影響を十分調査、予測、評価して、その結果を公表して地域住民等の関係者の意見を聞き、環境配慮を行う手続の総称です。
 わが国では1997年に環境アセスメントの手続きを定めた環境影響評価法がようやく成立しましたが、八ッ場ダム事業など法成立より以前から始まっていた事業は対象外とされました。
 環境アセスメントは事業が固まった段階で行うため、対象とされた事業であっても殆ど効力を発揮しないという問題があり、新たに2011年の法改正によって戦略的環境アセスメントが導入されました。戦略的環境アセスは、事業実施段階に至るまでの意思形成過程(戦略的な段階)の段階で行います。
 しかし、戦略的環境アセスは国土交通省の圧力で骨抜きにされているのが実態で、新たなダム事業でも形式的な手続きとなってしまっているのが実態です。

 「公共事業チェック議員の会」と市民団体による国会公共事業調査会(仮称)準備会が3月28日(木)に衆議院第一議員会館内で開かれました。準備会では、この問題について嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員、水源開発問題全国連絡会共同代表、あしたの会運営委員)が簡単な報告を行いました。

 嶋津さんの報告の概要をお伝えします。

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 戦略的環境アセスメント(Strategic Environmental Assessment(SEA))は、事業に先立つ早い段階で著しい環境影響を把握し、 複数案の環境的側面の比較評価及び環境配慮事項の整理を行い、計画の検討に反映させることにより、事業の実施による重大な環境影響の回避又は低減を図るものです。欧米では大分前から導入されていて、日本では2007年度に「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」が策定され、その後、法制化するため、環境影響評価法が改正されて(2013年度から施行)、環境アセスの最初に計画段階で環境に配慮する「配慮書手続」が導入されました。

 しかし、公共事業に関する戦略的環境アセスの実態はまことに憂うべき状態にあります。
 ダムについて例をあげれば、秋田県由利本荘市に建設予定の総貯水容量4680万㎥の大型ダム「鳥海ダム」です。2024年度完成予定の成瀬ダム(秋田県東成瀬村)に次ぐ大型ダムとして国土交通省東北地方整備局が建設を計画しているダムです。完成は2030年度より先のことで、ダムの必要性は希薄だと思います。この鳥海ダムは計画段階環境配慮の手続きをパスすることがまかり通りました。
 
1 戦略的環境アセスメント導入ガイドライン(環境省 2007年4月5日)
 戦略的環境アセスは複数案について環境影響の程度を比較評価することにより行うもので、導入ガイドラインが策定されました。
 「戦略的環境アセス」をお読みください。

2 環境影響評価法の改正:「配慮書手続」の導入(2013年4月1日施行)
 戦略的環境アセスを法制化するため、環境影響評価法が改正されました。
 事業の枠組みが決定する前の、事業計画の検討段階において環境配慮を行う「配慮書手続」が環境影響評価の手続の最初に導入されました。
 「環境アセス法の改正 配慮手続きの導入」をお読みください。

3 国土交通省「公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン」(2008年4月)
 公共事業に関する戦略的環境アセスが環境サイドで行われないよう、国土交通省が「公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン」を策定しました。
 「国交省 公共事業構想段階計画策定ガイドライン」をお読みください。

 このガイドラインの解説に次のように書かれています。

「本ガイドラインが示す計画策定プロセスは、事業実施より前の段階の構想段階の計画策定過程に おいて、環境を含め様々な観点から検討を実施し合理的な計画を策定することとなっており、いわゆる戦略的環境アセスメント(SEA)を含むものとなっている。」

4 国土交通省の告示(2013年3月29日官報 号外第67号)
 国土交通省は、「配慮書手続」を導入する上記の環境影響評価法の改正に対応するため、次のように、公共事業者が作成した書類を環境影響評価法の配慮書に代わるものとする告示を行いました。

 国土交通省告示第323号 公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドラインにより、作成された複数案の比較評価
 国土交通省告示第324号  河川整備計画の目標を達成するための代替案との比較
 国土交通省告示第325号 構想段階における市民参画型道路計画プロセスのガイドラインにより作成された複数の比較案の比較評価
 をそれぞれ環境影響評価法の配慮書に代わる書類とする。

 「国土交通省の告示」をお読みください。

5 鳥海ダム建設事業で計画段階環境配慮書とみなされた書類
 東北地方整備局が作成した「鳥海ダムの河川整備計画比較表」(たった一枚の書類)が鳥海ダム建設事業の計画段階環境配慮書とみなされ、環境アセスの計画段階環境配慮の手続きをパスしました。
 これは、「鳥海ダム+部分的河床掘削・築堤案」と「全川的な河床掘削・築堤案」の比較表ですが、環境面の比較は数行だけです。

6 中部横断自動車道(長坂~八千穂)で計画段階環境配慮書とみなされた書類
 国土交通省関東地方整備局が作成した「中部横断自動車道の検討書」が計画段階環境配慮書とみなされ、環境アセスの計画段階環境配慮の手続きをパスしました。これは、「中部横断自動車道の全線整備案」、「一部旧清里有料道路活用案」、「国道141号(一般道)改良案」の比較表ですが、環境面の比較は数行だけです。

以上のように、環境影響評価法が改正されて「計画段階環境配慮の手続き(戦略的環境アセスメント)」が導入され、複数案の環境面での評価を行うことになったにもかかわらず、国土交通省関係の公共事業では事業者が簡単な比較表をつくるだけでよいことになり、「戦略的環境アセスメント」は完全に骨抜きにされてしまいました。

 国土交通省の圧力に屈して、自らの主導権を発揮できない環境省はなんと非力な省なのでしょうか。