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ウナギ稚魚の国内漁獲量が過去最低、イオンは新商品発売

 予想されてはいましたが、今年のシラスウナギの国内漁獲量が過去最低になりました。
 ウナギの流通業界では、密猟や密売などの違法行為が常態化していると言われる中、イオンでは明日8日より、適法なウナギのみを扱う新商品の販売を開始します。イオンの取り組みと報道について、ウナギの保全と持続的な利用を目指す生態学者の海部健三氏の論考を紹介します。
 
◆2019年6月5日 日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/060500019/?P=2
ーあなたも食べてる「違法ウナギ」排除 イオン新商品の画期ー

 2019年6月3日、イオンがウナギの新商品を発表しました。ウナギ蒲焼の代替品なども発表されましたが、今回の発表の中で最も注目されるべきは、「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」です。一見何の変哲も無い真空パックのウナギの蒲焼に見えますが、実は日本初の商品なのです。「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」の特徴は、「稚魚(シラスウナギ)の産地までトレースできる」ことにあります。なぜ、「トレースできること」が重要なのでしょうか。

密漁と密売によって支えられる日本の伝統的な食文化
 ニホンウナギは漁獲量の減少が続いており、国際自然保護連合(IUCN)や環境省より、絶滅危惧種に区分されています。人工飼育下で卵を産ませて養殖する技術は商業的に応用されていないため、天然のウナギの子供であるシラスウナギを捕獲して、養殖しています。このシラスウナギの多くに密漁・密売が関与しており、これら違法なウナギが通常の流通を経て、一般の外食店や家庭の食卓に上っているのです。

 日本国内の養殖場で育てられるニホンウナギのシラスウナギは、国内で採捕されたものと、輸入されたものに分けることができます。国内の養殖場から報告された、養殖に用いたシラスウナギの総量から輸入量を差し引くと、その差は国内で採捕されたシラスウナギということになります。2014年末から2015年までの漁期(2015年漁期)を例に計算してみると、国内の養殖場に入ったシラスウナギは18.3トン、輸入された量が3.0トンなので、国内の採捕量は15.3トンです。

 この15.3トンのうち、適切に採捕・報告された量は全国総計で5.7トンでした。これは、国内採捕量15.3トンの、わずか37%でしかありません。残りの63%は、無許可で行う密漁や、許可を受けた採捕者の過小報告(無報告漁獲)など、違法行為によって流通しているのです。

 一方、輸入された3.0トンはどうでしょうか。2015年漁期に輸入された3.0トンのシラスウナギは、ほとんどが香港から輸入されています。香港でシラスウナギ漁が行われていないことなどの状況証拠から、これらのシラスウナギは、台湾や中国本土から香港へと密輸されたものであることが、強く疑われます。国内の密漁や無報告漁獲と合わせると、2015年漁期に国内の養殖池に入れられたシラスウナギ18.3トンのうち、約7割にあたる12.6トンが、密輸、密漁、無報告漁獲などの違法行為を経ていると考えられます。

 違法行為を経たシラスウナギと、適法に流通したシラスウナギは、流通と養殖の過程で混ざり合い、取扱業者でも区別することは難しくなります。最終的に、違法なウナギと適法なウナギは混じり合って、蒲焼店や牛丼店、デパート、スーパー、コンビニ、生活協同組合などを通じて消費者に提供されます。

 シラスウナギの密漁や密売は、暴力団など反社会的勢力の資金源となっているとの指摘もあります。日本の誇るべき伝統であるウナギ食文化が、密漁と密売によって支えられ、反社会的勢力の資金源にもなっている現状は、早急に対策を考えるべき問題です。

「クリーンなニホンウナギ」を実現したイオンの取り組み
 ウナギの養殖や販売を行っている企業や生活協同組合は、シラスウナギの採捕と流通に違法行為が関わっていることを、よく知っています。違法に流通した可能性が高いことを知りつつも、ウナギの販売を続けているのです。これまでは、違法なウナギと適法なウナギは区別されていませんでした。このため、消費者が違法行為の関わったウナギを避けようとする場合、「養殖ウナギを食べない」以外に、消費者の選べる選択肢は存在しなかったのです。この異常とも言える状況を打開したのが、イオンの今回の新商品です。

 2019年6月8日より発売予定のイオンの新しい商品「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」は、正式な許可を得た採捕団体が浜名湖で採捕したシラスウナギを正規ルートで購入し、指定養殖業者が他のルートから仕入れたシラスウナギと混ざらないように育てたウナギです。シラスウナギの採捕と流通に関し、違法行為が関わっている可能性が非常に低い「クリーンなニホンウナギ」と言えるでしょう。持続可能とは言えないまでも、シラスウナギ採捕水域までトレース可能な、「クリーンなニホンウナギ」の販売は、筆者の知る限り日本で初めての快挙です。

メディアが注目したのは「鮭ハラスの蒲焼」だが……
 2019年6月3日に行われたイオンの発表は、多くのメディアで報道されました。しかしメディアから注目を浴びたのは、ニホンウナギにとっても消費者にとっても重要なトレーサビリティーの確立ではなく、同じ発表の場でウナギ蒲焼の代替品として紹介された「鮭ハラスの蒲焼」でした。

 例えば日本経済新聞は2019年6月3日に、「イオン、ウナギ代替にサケのかば焼き 『丑の日』控え」とのタイトルで、イオンの発表が紹介されています 。トレーサビリティーについてはわずか数行が割かれているのみで、タイトル通り、代替品である「鮭ハラスの蒲焼」の紹介に主要なスペースを割いています。

 昨今、ニホンウナギの漁獲量の減少や、シラスウナギ流通に違法行為が関わっていることは盛んに報道されており、小売業の現場を取材している記者の方々がそのことを知らなかったとは考えにくい状況です。このためイオンの発表に関する記事を書いた記者の方々は、今回イオンが販売を開始する「トレース可能な、クリーンなニホンウナギ」の重要性に気づかなかったのではなく、背景を知っている上でなお、報道する重要性は低いと判断したと考えられます。

 「トレース可能な、クリーンなニホンウナギ」の重要性が高くないと判断された理由として考えられるのは、取材に当たった記者の方々が「企業がどのように売り上げを伸ばそうと努力しているのか」に注目しているためではないか、と考えられます。ウナギの漁獲量が減少し、値段も高くなって客足が遠のく中、いかに代替品で売り上げを確保するのか、という視点が、上記の日経新聞の報道にも見られます。

 売り上げを伸ばそうとする努力が盛んに報道されている一方で、持続可能な資源の利用や、違法性の疑われる商材の排除といった、いわゆるサステナビリティーに関する努力については、報道における重要性が低いと判断されているのが現状のようです。

 例えばウナギの密漁や密売の蔓延のような、社会の課題が是正されていくために、報道が重要な役割を果たすことは明らかです。しかしながら今回のイオンの発表に関する報道を見る限り、ウナギの問題が適切に報道されているとは考えにくい状況です。

 ウナギの持続的な利用を考えた場合、代替品の果たせる役割は限定されています。代替品は供給不足や値段の高騰などによって満たされない需要を満たす役割を果たすものであり、ウナギの消費量を削減する効果を持つとは考えられません。これに対して、トレーサビリティーの確立は、違法行為を減少させるだけでなく、適切な報告に基づく漁獲データの収集を通じて、ニホンウナギ資源の持続可能な管理に貢献します。

 目新しさを追求するのではなく、持続可能な社会を目指す視点から、問題の本質を明らかにしていく報道が求められます。

「クリーンなニホンウナギ」はまだごく一部
 イオンによる「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」の発売は、日本のウナギ業界における重要な一歩となるでしょう。しかしながら、課題も残されています。この「クリーンなニホンウナギ」は、イオンが販売しているニホンウナギのうち、ごく一部を占めるにすぎません。現在イオンが取り扱っているニホンウナギの大部分は依然として、違法行為が関わっている可能性の高い、クリーンとは言えないウナギです。

 イオンは2018年に発表した「ウナギ取扱方針」において、2023年までに販売するウナギの100%を、シラスウナギの採捕地までトレースできる、クリーンな商品にすると発表しました。今後イオンの取り組みがどのように進められるのか、注目されます。

 もう一つの課題は、「トレースできる」とする根拠がイオン独自の仕組みに基づいており、第三者機関の検証がなされていないことです。今後、「トレースできるクリーンなウナギ」であることの、客観的な証明が必要とされるでしょう。さらに、「違法ではない」というだけでなく、ニホンウナギの持続可能な利用の実現に向かって取り組んでいくことも当然、求められます。

 まだまだ高いハードルが残されているとしても、期限を切ってトレーサビリティーを確立するとのコミットメントを発表し、実行に移した小売業者または生活協同組合は、私の知る限り、これまで存在しませんでした。大手小売業者からこのような宣言がなされ、実際に結果に結びつけている努力は、称賛されるべきでしょう。イオンのような努力が小売業界に広がることによって、違法行為の横行しているニホンウナギの業界が、変革されていくことが期待されます 。

 なお、筆者の研究室(中央大学研究開発機構ウナギ保全研究ユニット)は、インドネシアにおける持続的なウナギ養殖モデルの開発を目指すプロジェクトなどでイオンと協働していますが、研究室としての独立性を確保するため、イオンからは研究費を含む一切の金銭的支援は受けていません。

◆2019年5月30日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45489830Q9A530C1QM8000/
ーウナギ稚魚の減少止まらず、国内漁獲量が最低 19年ー

 ニホンウナギの稚魚、シラスウナギの減少が止まらない。2019年の国内漁獲量は前年を6割下回り、6年ぶりに過去最低となった。稚魚のほか成長した親ウナギも高値が続く。かば焼きなどの店頭価格の高止まりが続きそうだ。

 シラスウナギは日本のほか中国でも不足している

 シラスウナギの漁期は12月~翌年4月まで。19年は3.6トンと2年連続で減少し、過去最低だった13年を3割下回った。ウナギの生態系は明らかでない部分が多く、すみかに適した河川や湿地の減少や海流の変化などを一因とする説がある。

 国産だけで需要を補えず、養殖業者は海外から稚魚を調達している。19年は国内の養殖池に入れたシラスウナギに占める国産ものの比率は2割強。6割ほどだった前の年から大きく低下した。

 日本の輸入増で、中国などでもウナギの稚魚や成魚が不足している。「養殖池にウナギがいない。出荷するものがない」(中国の養殖業者)との声も聞かれる。

 不漁が続き稚魚は高値で推移する。中国産など輸入品を含めた平均取引価格は1キロ250万円前後。極端な高値がついた前年(299万円)を下回るものの、17年の2.3倍。過去5年間の平均と比べても5割近く高い。成魚の卸値も1キロ5000円を超え、前年同期を1割上回る。

 小売り段階に波及する可能性は現時点で小さい。成魚の値上がりで、ウナギ専門店がうな重などの価格を500~1000円ほど引き上げる動きが18年に相次いだ。

 飲食店の間では「これ以上の値上げは消費者離れを加速しかねない」(全国鰻蒲焼商組合連合会の三田俊介理事長)との声が目立つ。今夏の「丑(うし)の日」商戦は前年並みの価格を予定する専門店が多い。

◆2019年5月30日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190530/k10011934781000.html
ーニホンウナギの稚魚不漁 過去最低を6年ぶり更新ー

 国内でのニホンウナギの稚魚の漁獲量が、前の年の半分以下にとどまり、6年ぶりに過去最低を更新しました。一方で、海外からの輸入が増えているため、水産庁は供給や価格に大きな影響はないとしています。

 水産庁のまとめによりますと、去年11月から先月までの今シーズンに国内で漁獲されたニホンウナギの稚魚は、3.6トンでした。

 これは前の年に比べて半分以下にとどまり、これまで最も少なかった平成25年の5.2トンを下回り、6年ぶりに過去最低となりました。
 一方、香港などから稚魚の輸入が大幅に増え、養殖されるウナギの量は去年よりも多いということで、水産庁では「国内でのウナギの供給量や価格には、大きな影響はない」としています。
 ニホンウナギは資源量の減少が懸念されていて、漁を行っている中国や韓国、台湾を含めた国際的な対策を打ち出せるかが課題となっています。

◆2019年5月31日 SankeiBiz
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/190531/mca1905310500003-n1.htm
ーウナギ稚魚6年ぶり最低量 19年漁期、半分以下の国内3.6トンー

 シラスウナギ稚魚の2019年漁期(昨年11月から今年4月までの暫定値)の国内採捕量が3.6トンとなり、6年ぶりに過去最低を更新することが30日、分かった。夏の需要期に向けて輸入で一定の数量を確保するため、価格への影響は限定的とみられるが、絶滅も危ぶまれているだけに資源管理面での国際的な視線は厳しくなりそうだ。

 漁期は一般的に4月末まで。一部地域は5月も続けるため最終的な採捕量は変動の可能性があるが、過去最低だった13年漁期の5.2トンを下回るのは確実だ。

 ウナギ稚魚の採捕量は1970年代後半には国内で50トン前後あったが長期的な減少傾向が続く。今漁期は前年の半分以下となった。養殖ウナギの大半は輸入した稚魚で賄うことになる。

 稚魚のほか成魚の加工品などを海外から輸入しているため、水産庁は「供給に問題はなく価格への影響も小さい」と説明する。ただ、燃料などコスト上昇もあってウナギの小売価格は高止まり傾向が続くとみられる。

 日本はシラスウナギの資源管理強化のため韓国や台湾などと協議しているが、養殖が多い中国は国際会合の欠席を続けており、足並みがそろっていない。