6月12日の打設完了式典を受け、建設通信新聞が八ッ場ダム事業における堤体打設の工期短縮技術を伝えています。
◆2019年6月13日 建設通信新聞
https://www.kensetsunews.com/archives/331083
ー八ッ場ダム」打設が完了/2019年秋に試験湛水、2020年春の運用開始目指すー
国土交通省関東地方整備局が、清水建設・鉄建建設・IHIインフラシステム異工種JVの施工で進めている八ッ場ダム(群馬県長野原町)の本体工事が大きな節目を迎えた。2016年8月に開始した本体コンクリート打設が無事終わり、12日に現地で「打設完了式」が盛大に開かれた。今後、放流設備の設置工事や貯水池内の仮設備撤去などを進め、今秋をめどに試験湛水を始める予定。19年度内の完成、20年4月の運用開始を目指す。
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八ッ場ダムは堤高116m、堤頂長290m、堤体積約100万m3の重力式コンクリートダム。流域面積は利根川水系ダムで1位の711km2、総貯水容量は同3位の1億0750万m3となる。
本体工事では、大幅な工期短縮を実現する「巡航RCD工法」を採用。スランプゼロの堤体内部用コンクリートを先行打設し、有スランプの外部用コンクリートを独立・後行打設することで、連続施工を可能にした。
また、監査廊や張り出し部などにプレキャストを活用したほか、常用洪水吐設備を堤体近くの大型構台上であらかじめ組み立て、本体コンクリートが所定の高さに達したタイミングで堤体内に引き込むなどの創意工夫により、打設休止日数を大幅に減らした。3次元データによる測量や締め固め管理、VR(仮想現実)を使った計画検討など、生産性革命に資する先端技術も導入した。
堤体打設を約3年というスピード施工で成し遂げたことについて、関東整備局八ッ場ダム工事事務所の朝田将所長は「発注者と受注者が一丸となって工期短縮に取り組んだ成果」と胸を張った。
—転載終わり—
八ッ場ダムの工期短縮を実現するのに大きな役割を果たしたのは「巡航RCD工法」と呼ばれる技術です。
(写真右=八ッ場ダムの堤体、2018年6月2日撮影)
「巡航RCD工法」は栃木県に八ッ場ダムと同じく国土交通省関東地方整備局が2012年に完成させたダムです。施工業者は鹿島建設と清水建設で、「巡航RCD工法」は施工の中心的な役割を果たした鹿島建設の技術です。
湯西川ダムは堤体積103万立方メートルと八ッ場ダムとほぼ同規模で、実質19ヶ月で打設を完了したとされます。八ッ場ダムは上記の記事によれば、2016年8月に本体コンクリートの打設を開始し、スピード施行で今月打設を完了したということです。
〈参考記事〉
◆東京土木施工管理技士会ー「八ッ場ダムの施工」
朝田 将 (国土交通省関東地方整備局 八ッ場ダム工事事務所 所長)
工藤 卓也 (国土交通省関東地方整備局 八ッ場ダム工事事務所 工事課長)
平塚 毅 (清水建設㈱土木東京支店 八ッ場ダム本体工事建設所 所長)
長谷川 悦央 (清水建設㈱土木東京支店 八ッ場ダム本体工事建設所 副所長)
http://www.to-gisi.com/magazine/75/doc01.pdf
◆湯西川ダム本体建設工事における「巡航RCD工法」採用について
湯西川ダム工事事務所 工務第二課 専門員 杉澤 正江
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000041556.pdf
◆鹿島建設公式サイト
「湯西川ダム本体建設工事」
https://www.kajima.co.jp/news/digest/dec_2010/site/index-j.html
八ッ場ダムの本体工事の入札は2014年1月に行われました。清水建設JVが施工業者と決定するまでには、以下のような経緯がありました。
(写真右=2018年6月2日撮影。打設率7割。)
湯西川ダムを施工した鹿島建設と清水建設が共同企業体を組んだ鹿島建設JVは、施工日数の大幅短縮を可能とすることから、当初から本命とされていました。ところが同年3月1日、鹿島建設は国交省が発注した東京湾トンネル工事で死亡事故を起こしてしまい、本体工事の入札参加資格を失いました。
国交省関東地方整備局は、2019年度完成を目指す八ッ場ダムの本体工事に鹿島建設の技術を必要とすることから、参加資格を失った鹿島建設を入札手続きの重要な節目である「技術提案」(5月2日)に参加させました
この事実を突きとめた赤旗は、7月27日に官製談合としてスクープ記事を掲載しましたが、鹿島建設の技術を共有した清水建設は、新たに鉄建建設、IHIインフラシステムと共同企業体を組み、清水建設JVとして八ッ場ダムの本体工事を落札したことが8月7日の国交省の発表で明らかになりました。
湯西川ダムは民主党政権が発足する前年の2008年に着工され、2012年にダムが完成しました。湯西川ダムの主目的は利根川の大きな支流である鬼怒川の洪水対策でした。鬼怒川にはそれ以前にすでに三基の治水ダムがあり、湯西川ダムは鬼怒川上流の四基目の巨大ダムでした。
しかし、国交省関東地方整備局は湯西川ダム事業に巨額の予算を投入する一方で、鬼怒川下流部の堤防整備を怠りました。この問題は八ッ場ダムの裁判闘争の一環として栃木県の市民らが提訴した住民訴訟で原告側証人(嶋津暉之さん)が指摘したのですが、2015年9月の台風で鬼怒川下流が甚大な水害に見舞われるまで放置されました。鬼怒川水害は巨額の予算を食うダムの限界を示すものでした。
〈参考記事〉
◆八ッ場ダム本体工事の入札不正疑惑(2014年7月31日)
https://yamba-net.org/wp/8348/
◆八ッ場ダム本体工事入札中止の申し入れ(2018年8月6日)
https://yamba-net.org/wp/8376/
◆八ッ場ダム本体工事、清水JVが落札(2014年8月8日)
https://yamba-net.org/wp/8398/
◆鬼怒川水害における上流4ダムの治水効果(2015年12月1日)
https://yamba-net.org/wp/13310/
写真下=八ッ場ダムの堤体打設工事。2018年6月2日撮影。