試験湛水が控える八ッ場ダム事業では、ダム湖予定地周辺で地すべり等の災害が起きないよう、安全対策を実施中です。
しかし、2016年の八ッ場ダム事業の計画変更(第五回、事業費の再増額)以降、残事業費が少なくなってきたからか、この3年の間に、計画変更の際の説明資料で示された対策箇所が減らされ、対策工法もより安価な工法に変更されてきました。
写真右=ダム堤右岸側の川原湯地区の代替地では、谷埋め盛り土の三ヵ所で押さえ盛り土などの安全対策工事を行っている。
国土交通省はこうした事実を自ら公表してきませんでしたので、当会では情報公開手続き、公開質問などで国土交通省に説明を求めてきました。国土交通省八ッ場ダム工事事務所は、当会が3月に提出した公開質問書に対して4月に書面で回答しました。
➡「八ッ場ダムの安全対策に関する 公開質問書への国交省八ッ場ダム工事事務所の回答」
国土交通省の回答は質問に正面から答えない箇所が多く、説明も不十分であったため、超党派の国会議員連盟「公共事業チェック議員の会」が改めて5月16日に公開ヒアリングを行い、公開質問書の内容に沿って国交省本省に回答を求めました。
➡参考ページ:「八ッ場ダムの安全対策について、国会の議員連盟、国交省にヒアリング」
公開ヒアリングでは説明が曖昧な点が多かったため、「公共事業チェック議員の会」は文書質問と資料請求を行いました。
その後、5月24日付けおよび6月26日付けで国土交通省から回答がありましたが、これらの回答を当会の専門家チームが分析したところ、いまだ明らかにされていない点が多かったため、「公共事業チェック議員の会」は再質問、再要請を行い、すみやかな回答を求めることになりました。(8月6日)
国土交通省の回答は以下にまとめてあります。(添付資料は割愛します。)
➡国土交通省の回答をまとめた表
再質問と再要請と別紙資料は、以下の文字列をクリックすると表示されます。
〇「八ッ場ダムの代替地安全対策および地すべり対策に関する再質問書」
〇再質問書の別紙1
〇再質問書の別紙2
再質問書(上記PDFデータ)の全文を以下に転載します。
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前回の質問1-1(代替地安全対策を大幅に後退させた理由)について
1-1-1 前回の質問「代替地安全対策について、どのような調査をし、どのような結果が出て、誰がどのような理由で、いつ変更の決定をしたのか、経緯がわかる行政文書を提出してください。」に対する回答は、「・・・八ッ場ダム工事事務所が、上記の基本的な方針に沿って、対策工事の実施に先立ち、実施の要否や工法を決定し、必要に応じて施工しています」ですが、この回答は内容が全く具体的ではありません。ついては、次のことを明らかにしてください。
1-1-2 前回の質問「国土交通省は『技術的な指針等に基づいて行っている』と述べていますが、その『技術的な指針等』とは何かを具体的に示してください。」に対する回答は「河川砂防技術基準(案)同解説(設計編I)、宅地造成等規制法施行令等」ですが、この回答は内容が全く具体的ではありません。ついては、次の3 点を明らかにしてください。
前回の質問1-3(現在の代替地対策工事)について
前回の質問「川原湯地区①、②、③で実施した代替地対策工事の内容がわかる図面(平面図、横断図等)を提供してください。」に対して、平面図、横断図等が提供されましたが、PDFの解像度が低く、小さな字を読み取ることができません。
前回の質問1-4(川原湯地区①、②、③の鋼管杭・深礎杭工法を不採用とした根拠への疑問)について
前回の質問では、盛土の粘土含有率と粘着力の関係、締め固め度と内部摩擦角の関係がかなりバラついているにも関わらず、安全側ではない数値である粘着力c=10(KN/m2),φ=35°を採用した理由を聞いています。ところが、答えは「試験結果を用いて得られた土質定数(c,φ)の数値を採用した」となっており、土質定数の妥当性には一切答えていません。
別紙2のスライド10 の図-4(平成26 年度報告書(日本工営))では締め固め度による粘着力と粘土含有率の関係では、D 値90%以上のデータ9 点による相関式(R2=0.2172)からc=17.2(KN/m2)を採用しています。しかしながら、このグラフからは粘着力の大きいグループと粘着力が小さいグループ(c=2~5 KN/m2)に分かれているのは技術者であれば誰でもわかることです。しかも決定係数はR2=0.2172 なので相関はよくない(一般的にはR2=0.5 以下は寄与率の評価は低い)。
そこで,このような場合,安全側の設計を行うためには粘着力が小さいグループ(c=2~5 KN/m2)を採用するのが基本と思います。
川原湯地区④の盛り土の内部摩擦角は、同じく平成26 年度報告書(日本工営)の図-5( 別紙2のスライド11)に締め固め度と内部摩擦角の相関式からφ=35°を採用しています。ところが,決定係数はR2=0.2867 であり、散布図も考慮すれば相関はよくない(縦に分布しているのみ)。このような場合,安全側の設計を行うためには内部摩擦角が小さいグループ(φ=30°)を採用するのが基本と思います。
前回の質問1-5(川原湯地区①、③で採用したソイルセメント置換盛土工への疑問)について
前回の質問「吾妻川は中和対策がされているものの、弱酸性であり、また、ダム貯水池周辺に分布する熱水変質層から強酸性地下水が浸出することも考えると、酸性水により、セメント成分が溶け出して、ソイルセメント置換盛土の強度が低下していく危険性をあります。5月16 日の国土交通省の説明ではこの問題の認識がなかったようですので、この危険性をどのように認識しているかを明らかにしてください。」に対する回答は「八ッ場ダム貯水池周辺の代替地については、技術的な指針等に基づき必要な安全性を確保することとしております。」ですが、この回答は内容が全く具体的ではありません。
ついては、次のことを明らかにしてください。
ソイルセメント置換盛土後の安全率は川原湯地区①のA断面複合すべりはFs=1.006、円弧すべりはFs=1.026 となっています。杭打ち工などの抑止工を採用しなかったため、安全率は基準値ギリギリの値となっています。これに弱酸性の河川水や酸性の地下水に汚染されるとソイルセメント置換盛土の劣化は相当短期間で発生するのは明らかと思います。
前回の質問1-6(川原湯地区②で採用した置換コンクリート+プレキャスト擁壁工への疑問)について
前回の質問では擁壁背面にある盛土の地震時地すべりの安定度検討がされていない点を指摘したところ、回答はH26 年度報告書(日本工営)の抜粋のみ添付され、L 型擁壁工について地震時の安定性を検討したとしています。
確かにL 型擁壁工そのものの地震時安定度検討は行われていますが、L 型擁壁背面にある盛土全体の地すべりに対する地震時の安定度が検討されていません。基盤岩(八ッ場火山岩類)の上に盛土された土は、せん断強度が極端に違うので、盛土部のみ地震時にすべり出す可能性が大いにあります。
前回の質問1-8(信頼できるデータに基づかない長野原地区③の除外への疑問)について
前回の質問「この図に示された大柏木トンネル発生土等の4 点の盛り土材料は、実際に長野原地区③の盛り上に使われたものかどうかを明らかにしてください。」に対する回答は、
「大柏木トンネル発生土、橋場地区護岸工事、三平地区代替地整備工事、付替国道145号石畑地区その2の盛土材料は、長野原地区③の盛土に使用しています。」ですが、この回答は内容が具体的ではありません。
ついては次のことを明らかにしてください。
前回の質問2-1(地すべり対策を大幅に後退させた理由)について
前回の質問「地すべり対策について、どのような調査をし、どのような結果が出て、誰がどのような理由で、いつ変更の決定をしたのか、経緯がわかる行政文書を提出してください。」に対する回答は、
「八ッ場ダム貯水池周辺の地すべり(応桑岩屑流堆積物などの未固結堆積物を含む)に対しては、技術的な指針等に基づき必要な安全性を確保することとしており、必要に応じて対策工事を実施するとともに、試験湛水により安全性を確認することとしています。」ですが、この回答は内容が全く具体的ではありません。
ついては、次の2 点を明らかにしてください。
前回の質問2-3(現在の地すべり対策工事)について
前回の質問「二社平、勝沼、白岩沢、久々戸、横壁で実施した(または実施中の)地すべり対策工事の内容がわかる図面(平面図、横断図等)を提供してください。」に対して平面図、横断図等が提供されましたが、PDFの解像度が低く、小さな字を読み取ることができません。さらに、横断図はすべり面が記入されていないため、対策工の工事効果を判断することができません。
ついては、次の資料の提供をお願いします。
前回の質問2-5(川原湯(上湯原)等4地区を対策不要とした理由への疑問)について
前回の回答では「軟岩F 以上」としていますが,正確には軟岩F が99.7%、やや強度のある軟岩E がわずかに0.3%しかありません(軟岩の中で最も強度があるのはDランク)。F以上というのは言葉のまやかしです。
708 カ所の針貫入試験の中では、F ランクの中でも一軸圧縮強度の小さい平均値1~2(MN/m2)が201 カ所(全体の28.4%)、2~3(MN/m2)が444 カ所(全体の62.7%)、3~4(MN/m2)が61 カ所(全体の8.6%)、やや強度があるE ランク(5~10MN/m2)は応桑岩屑流堆積物のok(r)の試料数2 カ所のみ(全体の0.3%)です。つまり、全体の99.7%は軟岩の下位から2 番目のランクのF ランクになっています。しかもその中で3MN/m2(旧表示では30kgf/cm2)以下が全体の91%を占めており、とても強度がある軟岩とは言えません。