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駿河湾のサクラエビ不漁問題から浮かび上がった日本の河川行政の問題

 駿河湾のサクラエビ不漁問題から浮かび上がった日本のダムや河川行政の問題を論じた記事をご紹介します。
 筆者は以下の記事で、「長年放置され老朽化したダムによる水産資源などへの悪影響は雨畑ダムに限ったことではない」、「東洋一と言われた国土交通省所管の砂防堰堤が土石流を発生させている光景などは、日本の全体の砂防堰堤の効果の限界が垣間見えたかたちだ。」、「山を守るために間伐や植林を継続していかない限り、堆積する砂を防いでも砂を取り除かなければならないという問題意識を持ち、環境的側面から国策として再考すべきだ。」などと問題を指摘し、問題を解決するために法改正が必要と訴えています。

◆2019年9月17日 IRONNA
https://ironna.jp/article/13391
ー「駿河湾の宝石」サクラエビを激減させたのはだれなのかー

 平野和之(経済評論家)

 近年、駿河湾の宝石と呼ばれるサクラエビの不漁が深刻化している。静岡県の地元紙や週刊誌なども報じており、駿河湾に流れる富士川上流(山梨県)にある民間の「雨畑ダム」への不法投棄による汚濁が主因との見方が強まっているようだ。ただ、不法投棄を主因とするには、いささか疑義があり、むしろダム行政の無策や環境問題が引き起こしている可能性が高まっている。そこで本稿では、サクラエビの不漁問題などから浮かび上がった日本のダムや河川行政のあり方などについて考えてみたい。

 山梨県南西部に早川町という過疎自治体がある。過疎なのに珍しく健全な財政状況の自治体で、その背景にあるのは、砂利採取場や採石場、発電所など、川をベースにした多数の開発だ。要するに、それらによる固定資産税が寄与しているわけだ。

 さらに、早川町は甲府と富士をつなぐ縦貫道も通っており、今後はリニア中央新幹線の開通工事に合わせ、さらに固定資産税が増える見通しだ。そもそも早川町のように、過疎化した自治体で、財政が健全である条件は、原発が象徴するように発電関連施設を有しているかどうかという悲しい現実がある。

 本題に戻すが、雨畑ダムは、戦後の国策として鉄鋼業が盛んだったころ、アルミニウム総合メーカー「日本軽金属」(日軽金)の工場が、発電のために建設した。どのような経緯かは定かではないが、特別に50キロにも及ぶパイプラインを通し、発電に利用した水は駿河湾に直接放出されてきた。

 そもそも雨畑ダムの水は、富士川に流れ込むが、日本三大急流の一つだけに、そこに育まれたアユなどは、日本でも指折りの大きなサイズになると有名だ。しかし、そんな富士川も異変が起こっているという。

 昔から富士川は台風が来ると1カ月釣りができないと言われるほど濁り続けてきたが、近年は、台風などの大雨に関係なく濁りが多く、また、台風後は白っぽい濁りが出るようになった。当然、漁獲高も激減し、富士川漁協(山梨県身延町)の収支も打撃を受けている。

 そしてさらに深刻化しているのが、冒頭で触れたサクラエビの不漁だ。地元漁師は富士川の濁りが原因ではないかと思っているようだが、これで騒ぎ出せば、富士川の濁りは昔からあっただけに、乱獲への非難を逃れるための難癖だと指摘されかねないとして、問題視することを避けていたようだ。ただ、深刻さは年々増し、サクラエビの漁獲高はピーク時の10分の1にまで減少し、やむを得ず漁獲制限に舵を切っている。

 こうした中で、地元の静岡新聞が取材を進めるうちに、雨畑ダムに関わる問題が浮上し、調査を開始した。その結果、雨畑ダムの砂利採取場や採石場、リニア、縦貫道など、土砂が大量に流れ込む原因が多数あることが分かった。さらに、静岡新聞のスクープで、雨畑ダムを建設した日軽金から許可を受けている産業廃棄物処理業の「ニッケイ工業」が、大量の汚泥を不法投棄していた疑いも明るみになった。

 この報道によって、一気に雨畑ダムとサクラエビ不漁の関連がクローズアップされ、リニア開発の残土の流出など、早川町をめぐる問題も注目されるようになった。雨畑ダムの上流には、東洋一といわれる砂防堰堤があるが、数年で土砂が満杯になる状態で、すでに無用の箱モノと化している。そもそも、雨畑ダムも9割が土砂で埋まっており、このままでは、集中豪雨などがあれば80ある周辺の集落が水没する懸念もあるという。

 筆者は、長年放置され老朽化したダムによる水産資源などへの悪影響は雨畑ダムに限ったことではないと考える。NHKの『クローズアップ現代+』でも、ダムは今後どうあるべきかという視点で、熊本県にある球磨川のダム撤去事例を解決のヒントとして、問題が起きている雨畑ダムも含めて報じている。

 このように、雨畑ダムをめぐる富士川の濁りやサクラエビの不漁といった多岐にわたる問題に対し、打開策が見いだせないのが現状だ。そこで、課題と打開策を探るため、筆者は静岡新聞の取材班とともに今年7月、現地視察を行った。

 最初にサクラエビ漁の拠点である由比港、さらに日軽金の工場を視察し、濁った水を放出する場所と濁った海を確認した。実際に土石流のような濁りのまま海に放出されており、サクラエビ不漁の主因かどうかは分からないが、水産資源に何らかの影響があることは明白で、パイプラインに濁り水を通すこと自体をすぐにでも止めるべきだと痛感した。

 さらに上流に行くと、富士川と早川の合流点がある。ここで、明らかに早川は白く濁っており、自然では起きない濁りであることは明らかだった。この濁りの原因を探ると、やはり雨畑ダムだけの問題ではないことが分かった。

 要は、濁りの原因は山の荒廃も要因の一つであり、すべてが雨畑ダムではないということだ。特に、東洋一と言われた国土交通省所管の砂防堰堤が土石流を発生させている光景などは、日本の全体の砂防堰堤の効果の限界が垣間見えたかたちだ。

 結局、山を守るために間伐や植林を継続していかない限り、堆積する砂を防いでも砂を取り除かなければならないという問題意識を持ち、環境的側面から国策として再考すべきだということである。

 では、こうした現状を踏まえ、具体的にどう対応すればよいだろうか。

 まずは、水質汚濁防止法の改正が必要だ。同法は飲料水や農業用水が対象で、それ以外は適用されないという抜け穴がある。また、水利権の没収条件の再定義も必要になる。現状では一度許可すれば、その後に問題が発生してもそのまま放置されている。

 さらに、早川町のように残土や土砂などの投棄が多い地域があるが、河川敷での投棄の許可は業者の申請ありきで、不法投棄をチェックする仕組みがない。台風の際などにどさくさ紛れで川に汚水を垂れ流す不正も全国で相次いでおり、砂利採取法や採石法も許可の際だけの法律であり、取り消し基準なども明文化すべきだ。河川敷を監視するルールも必要ではないだろうか。

 一方で、水産資源への影響が放置された要因の一つに、漁協関係の古い体質がある。富士川漁協の関係者によると、ヤマメやウナギ、ニジマスの放流資金は、補償額が増えても単価は上昇していないという。

 だが、アユだけは、補償金額が上がると同時に単価も1・5倍に上昇するといった解せない状況がある。これについて、山梨県に問い合わせたところ、担当者は「知りません、調査をしている途中です」と答えるばかりだ。

 これはこの業界でよくある手口だが、放流のトン数を水増しすることがある。まさに「水商売」と皮肉もいわれるゆえんで、リベートをおとりに無償提供したり、キックバックしたりするケースが横行しているという。今回の富士川の件がこれに該当するかどうかは分からないが、法改正していくべきポイントだろう。

 過去には、他の漁協だが、放流する稚魚をそのまま転売するケースもあった。漁協は、公的な団体にもかかわらず、公益法人法ではなく、漁業法や水産法、協同組合法などによるガバナンスであり、非常に弱く緩い。

 来年、内水面(河川や沼、池など)のガバナンスに関する法律は厳しくなるが、まだまだこれらの問題が解決するには課題も多い。筆者が直接指摘したケースでは、和歌山県の有田川漁協が、入漁権を県の許可を得ずに勝手に値上げし、違法で差し止めされたこともあった。

 逆に、岐阜県の高原川漁協の年券額がいきなり倍になったことなどは、社会通念上はありえない方法で決定され、県がろくに審査もせずに許可してしまったことが要因だった。

 富士川の問題の背景にも、山梨県の担当者のスキルの低さや県の漁場管理委員会の委員選考や審査の形骸化がある。富士川漁協が声を上げず、補償金をもらってだんまりを続けていたことや、高原川漁協のように補償金もらい、放流資金は潤沢だから自分たちでその運営を決めるなど、補償に関するガバナンスや情報公開議決ルールもない。
 
 要するに、今回の富士川については、日軽金に問題が集中しているようだが、やはり国の政策面が一番の課題であることは間違いない。このまま放置すれば、サクラエビや川魚の減少と同様のことが全国各地で発生するだろう。

 そもそも、静岡県は海に面しており、環境意識が高い中で起こったが、これまで問題視されず、地元漁業に多大な影響を与えてしまった。先に記したように、熊本県の球磨川では初めてダムを撤去した例がある。

 老朽化したダムは環境破壊につながるだけに、相当の予算が必要だとしても、不要不急のダムは撤去すべき時代になった。駿河湾のサクラエビ不漁問題を機に、ダムや河川に関する法整備などを進めるべきである。

◆2019年9月16日 産経新聞
https://www.sankei.com/premium/news/190916/prm1909160004-n1.html
ー静岡のサクラエビ不漁と山梨のダムの関係は 川の濁りを両県調査ー

 昨年から記録的不漁が続く駿河湾のサクラエビ漁で、湾から約60キロ離れた山梨県のダムがクローズアップされている。ダム底に堆積した土砂などが湾に注ぐ富士川を濁らせているのが、サクラエビ減少の原因ではないかというものだ。山梨・静岡両県は川の濁りなどを調査しているが、直接の因果関係はいまのところ明らかになっていない。(渡辺浩)

水質調査は見解相違
 注目されているのは、アルミ圧延大手の日本軽金属(日軽金・東京)が山梨県早川町に所有する雨畑ダム。1365万立方メートルある総貯水量の9割以上が土砂で埋まっている。

 静岡県側には、ダムの土砂堆積などによる富士川水系の濁りとサクラエビ不漁に因果関係があるのでは、との疑念が強い。

 静岡県の川勝平太知事は4月、「(不漁との関係が)ないというわけにはいかない。(光合成を阻害された)植物プランクトンや、それを食べる動物プランクトン、魚介類に影響があるのは当然」と発言。由比港漁協(静岡市清水区)は山梨、静岡両県に海への影響を調べるよう求めた。

 そこで両県は合同で5~7月に計9日間、水質を調査。県境付近では4日間、国の基準を上回った。ただ、山梨県側は「濁りは降雨によるもの」との見解を示す一方、静岡県側は「そうとは断言できない」と見解が分かれている。

 不漁には取り過ぎや海水温の上昇も関係しているとみられ、川の濁りとの強い因果関係を立証するのは難しそうだ。

「全部撤去できない」
 そうはいっても、雨畑ダムに問題があるのも事実。ダムは雨畑川の中流にある発電用のダムで、昭和42年に完成。電気は日軽金蒲原製造所(静岡市清水区)に送られている。

 当初の予測では100年かけて半分近くが土砂で埋まる計算だったが、土砂の流入に除去が追い付いていない。上流の川底も上がり、台風の際に民家や道で浸水が発生。国土交通省や県は抜本的対策を講じるよう指導していた。

 このため日軽金は9月3日、国交省や県などとの検討会を県庁で開いて課題を報告したが、敷根功執行役員は記者団に「会社の力だけではどうしようもない。全部の土砂を撤去するのは現実的ではない」と語り、さじを投げている。

 これに対し、山梨県の長崎幸太郎知事は11日の記者会見で「誠意を感じない」と不快感を表明。翌12日に国交省に出向いて日軽金への再指導を求めた。

元県幹部の名前も…
 雨畑ダムをめぐっては、日軽金の事実上の関係会社である「ニッケイ工業」が下流の河川敷に汚泥を不法投棄し、増水で一部が流れ出たほか、同社が管理する河川敷にコンクリート廃棄物が不法投棄されていたことも判明。県は刑事告発も視野に調べている。

 ニッケイ工業は、雨畑ダムの土砂除去のため昭和52年、日軽金が10%出資して設立。社長の三井時男氏は元県幹部で、平成17年に治水課長で退職すると同時に日軽金に再就職し、ニッケイ工業に移った。

 長崎知事は「(三井氏から)県に対して何らかの働きかけがあったとは確認されていない。(OBだからといって)変な疑念を持たれないように、厳格に向き合う」としている。

 富士川水系の濁りは山梨県側でも懸念されている。釣り愛好家でつくる山梨本流釣同好会は今月10日、「ここ10年ほど、濁りが悪化している」として、国交省甲府河川国道事務所に雨畑ダムと川の汚染の因果関係を調べるよう求めた。

 仮にサクラエビとの関係がないとしても、きれいな川を守ることが両県民の願いであることは間違いない。