国交省八ッ場ダム工事事務所が昨日、ダム建設事業の最終段階である「試験湛水」が今朝9時から開始する予定であることを、水没地区の住民に書面で伝えました。
試験湛水はダム堤の安全性と共に、ダム湖周辺の地盤の安全を確認するために行われるものです。
八ッ場ダムは地質の脆いところに水を貯めます。マグマによって地下から上昇してくる熱水と岩盤との反応で形成された酸性の熱水変質帯、浅間山の噴火時に流出した泥流が厚く堆積した応桑岩屑流堆積物層、背後の山から岩屑(がんせつ)が剥離して堆積した未固結の崖錐堆積物層などが各所に横たわっています。
写真右=川原湯地区の打越代替地の中央部で行われている谷埋め盛り土の安全対策工事。急崖が押さえ盛り土で埋め立てられている。2019年4月撮影。
水没地にあった川原湯温泉はダム堤の右岸側に造成した打越代替地に移転しましたが、この代替地では30メートル以上の谷埋め盛り土の3箇所で安全対策工事を行ってきました。
中央部の工事現場では、岸壁沿いに八ッ場大橋(湖面橋)に通じる県道が工事のために閉鎖され、谷側に迂回路がつくられました。工事は今も終了せず、県道は閉鎖されたままです。対策工法は当初の深礎杭から、より安価な置換コンクリート+プレキャスト擁壁工に変更したのですが、工事を終了しないまま、見切り発車で試験湛水を始めるようです。
写真右=県道を閉鎖して行っている安全対策工事。工事現場の山側は住宅地。2018年11月撮影。
◆2019年10月1日 上毛新聞 (紙面より転載)
ー八ッ場ダム 試験湛水を開始 きょう予定 計画発表から67年ー
本年度中の完成を見込む八ッ場ダム(長野原町)の建設事業で、国土交通省が1日にもダムに水をためる試験湛水を開始する予定であることが30日、分かった。同省八ッ場ダム工事事務所が水没地区の住民に書面で伝えた。当日の天候や吾妻川の状況から最終判断する。計画発表から67年が経過し、地域に多大な犠牲を強いてきた大型建設事業が、完成に向けた最終段階を迎える。
同事務所は30日、水没5地区の全世帯に「試験湛水開始のお知らせ」とする文書を配布した。1日に湛水を開始する方針のほか、気候条件や河川の状況によって延期になる可能性も示した。併せて、貯水範囲は水位が急に上がり危険になるため、立ち入らないよう注意も呼びかけた。
試験湛水は、水をためて水位を上下させ、ダム堤体や基礎地盤、貯水池周辺の安全性を確認するダム建設の最終工程。常時満水位(標高583㍍)まで水をためた後、1日1㍍以内で水を抜き最低水位(同536.3㍍)まで下げる。
試験湛水中は、計器や巡視により異変を警戒する。ダム堤体と周囲の基礎地盤については、水位の変動に伴う漏水や変形などを監視。貯水池周辺でも斜面や構造物などに変動がないかを確認する漏水や地滑りがあった場合は湛水を止める。
試験湛水により異変が確認されれば、計画が遅れることもある。奈良県の大滝ダムでは2003年、試験湛水中に周辺の家屋や地面に亀裂が発生。37戸が移転を余儀なくされ、計画が約10年遅れた。八ッ場ダムを巡っては、市民団体や超党派の国会議員が「地滑りなどの安全対策に問題がある」として、国に詳細な説明を求めている。
一方、試験湛水の開始方針を受け、同町の萩原睦男町長は「67年の時を経て、ようやくここまできた。国には問題のないようにしっかりと進めてもらい、予定通り3月の完成を迎えたい」と話した。
地元の川原湯温泉協会の樋田省三会長は「大きな区切りであると同時に新たな出発でもある。早くダム湖を見てみたい」と完成に期待を寄せた。
◆2019年9月30日19時8分 毎日新聞速報
https://mainichi.jp/articles/20190930/k00/00m/040/208000c
ー八ッ場ダム試験湛水 1日開始へ 3~4カ月間で満水にー
群馬県長野原町に国が建設している「八ッ場(やんば)ダム」の試験湛水(たんすい)が1日にも始まることが分かった。試験湛水開始で、ダムは3~4カ月間で満水になる見込み。来年春の本格稼働に向けて大きな節目を迎えることになる。
試験湛水とは、ダムの本格的な運用開始前に最高水位まで水をためて、ダム本体や基礎地盤、周辺の山などの斜面の安全性を確認するもので、漏水状況や地滑り対策箇所などがチェックされる。最高水位まで水がたまった後、1日に約1メートルずつ水位を下げていくが、最低水位以下まで水位を下げることはなく、ダムの底部分が見られることはなくなる。
工事関係者によると、1日午前9時ごろにダム本体にある「締切(しめきり)ゲート」と呼ばれる水門を閉めて、ダムに流れ込む吾妻川の流れをせき止める。当日の天候状況などでは中止する可能性もあるという。
国土交通省はこれまで、1日以降に試験湛水を始めることを明言していたが、具体的な期日は公表していなかった。【西銘研志郎】
◆2019年9月30日20時38分 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASM9Z5VT1M9ZUHNB00M.html
ー八ツ場ダム、貯水開始へ 数カ月で満水、橋など湖底にー
国が建設中の八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)で、試験貯水が10月1日に始まる見通しになった。3~4カ月で満水位の標高583メートルまで水をためる予定。半年間でダム本体の強度、基礎地盤とダム湖周辺の斜面の安全性などを確認し、異常がなければ来春以降、ダムとして使い始める予定だ。
国土交通省八ツ場ダム工事事務所が9月30日、水没5地区の住民にチラシを配布した。これまでは具体的な期日は明らかにしていなかった。気象条件や河川の流況で延期する場合もあるという。
ダム工事事務所によると、10月1日は午前9時にもダム本体中央下のゲートを閉じて吾妻川をせき止め、潜水士が潜ってゲートの密閉具合を確かめる。ダム上流域の天候などに左右されて時期は前後する可能性があるものの、1カ月弱で最低水位の標高536メートルまで水がたまり、水没前の姿を残す橋や道路などは水底に沈む見通しだという。
川原湯温泉の老舗旅館「山木館」の樋田勇人さん(25)は貯水開始の突然の知らせに驚いた様子。「かつて住民が住んだ場所が水に沈んで見えなくなるさみしさ、ダム完成後に普通の生活を取り戻せるのかという不安。それでも何とか前に進まなければいけないという気持ちがあって複雑です」と胸中を吐露した。
試験貯水では、過去に奈良県川上村の大滝ダムなどで、水をためた後に周辺に亀裂が見つかった例もある。ダム工事事務所の担当者は「初めてダムに水をためるので、気を引き締めて試験をし、運用管理の安全につなげたい」と話した。(丹野宗丈)