八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム試験湛水開始の記者発表と各紙報道

 八ッ場ダムの試験湛水が10月1日に始まりました。

写真=湛水開始後3日目(10月3日)撮影。わずかに水が貯まり始めている。
ダム予定地を流れる吾妻川は、東京電力が水の大半を水力発電に利用しているため、水量が少ない。八ッ場ダムを満水にするため、国は東京電力に減電補償金を支払って水利権を買い戻すことになっている。
両岸にある水没住民の移転代替地の地すべりを防ぐため、押さえ盛り土が両側からせり出している。湖面橋となる八ッ場大橋より、下流側にあるダム堤を望む。

 ダム事業者の国土交通省関東地方整備局のホームページに記者発表が掲載されています。
昨日の報道では、午前9時ごろから試験湛水を開始するとのことでしたが、時間を要する閉塞ゲートの設置が完了した時刻として「10時40分より」としたのでしょう。

◆国土交通省関東地方整備局 記者発表
http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/yanba_00000089.html
 
 1 試験湛水を開始した日 令和元年10月1日10時40分より

 2 試験湛水計画
 堤内排水路閉塞ゲート設置(湛水開始):令和元年10月1日
 平常時最高貯水位(常時満水位)到達、降下開始:湛水開始後概ね3~4ヶ月を想定
 ※気象および河川の流況等により変わります。

 記者発表の本文資料に、堤内排水路の閉塞前後の写真や湛水面積3㎢などの説明が掲載されています。
 http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000756360.pdf

 関連記事を紙面より転載します。
 代替地へ移転した水没住民の今の気持ちを伝える記事が目立ちます。
 朝日新聞は以下の記事の最後で、当会の嶋津暉之さんを取り上げています。嶋津さんは1960年代後半、大学院で都市用水の研究をする中で、八ッ場ダムの反対闘争が最も激しかった川原湯温泉を訪ね、水没住民の苦悩を目の当たりにしたことをきっかけに、八ッ場ダムをはじめとする全国のダム問題に取り組んできました。嶋津さんと交流のあった川原湯温泉「やまた旅館」の豊田嘉雄さんのことも取り上げられています。

◆2019年10月2日 毎日新聞
ー八ッ場ダム、試験湛水開始 本格稼働へ最終段階にー

 国が来春の運用開始を目指して長野原町に建設している八ッ場(やんば)ダムで1日午前、安全性を確認するため水をためる作業「試験湛水(たんすい)」が始まった。試験湛水とはダムの本格運用開始前に、試験的に水をため、ダム本体や基礎地盤、周辺の山などの斜面の安全性を確認するもので、漏水状況や地滑り対策箇所などがチェックされる。1952年の計画発表から67年を経て、本格稼働に向けた最終段階を迎えた。

 午前9時ごろ、ダム本体中央下部にある「締切(しめきり)ゲート」の閉鎖作業が始まり、約1時間40分後に吾妻川がせき止められた。
 試験湛水では3~4カ月で満水位(標高583㍍)まで水がたまる予定で、満水位まで水がたまった後は1日約1㍍ずつ水位を下げていくが、最低水位(標高536.3㍍)以下まで下げることはない。

 試験湛水開始を受け、ダム建設に伴い水没する旧川原湯地区から移転しダム本体近くで飲食店を営む水出耕一さん(65)は「一つの区切りが付いたが、実際に水がたまってみないと分からないこともあるはず。何か問題が起きた時にはしっかりと対応してもらいたい」と語った。川原湯温泉協会の樋田省三会長(55)は「無事に試験湛水が始まり、ホッとしているが、陸上競技で言えばスタートの号砲が鳴ったぐらい。前向きになるきっかけにしていきたいと」と話した。(西銘研志郎)

◆2019年10月2日 朝日新聞群馬版
https://digital.asahi.com/articles/ASMB164GQMB1UHNB01C.html
ー八ツ場ダム、水没始めた街 住民「もう後戻りは」ー

  国が建設中の八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)で、試験貯水が1日始まった。ダム本体の下部にあるゲートは午前9時ごろに閉じ始め、午前10時40分には吾妻川の流れをせき止めた。70年近い歳月と国内のダムで最高額の約5320億円を費やし、500世帯近くが暮らした土地は水底に沈む。地元住民たちは今、何を思うのか。

 「長かった」。前町長の高山欣也さん(76)はダム湖を望む高台の自宅前で、そうつぶやいた。八ツ場ダムは戦後間もないカスリーン台風の被害を受け、治水対策として1952(昭和27)年に構想が明らかになった。その時、高山さんは小学生。地元では激しい反対運動が起きた。地元が生活再建を条件にダム建設を事実上受け入れたのは85年。その時点ですでに33年が過ぎていた。同時期に計画された利根川水系のダム群は次々に完成していた。

 ところがその後、八ツ場は工期延長を繰り返し、事業費も膨らみ続け、国内最高額のダム事業になった。

 民主党政権の誕生で、八ツ場ダムの建設中止問題が全国的な注目を集めたのはちょうど10年前の今ごろ。町長だった高山さんは、中止撤回に奔走した。中止になれば補償も下流都県の支援も消え、地元の生活再建は宙に浮く――。そんな住民の不安に後押しされた。

 高山さんに代わって2014年から町長を務める萩原睦男さん(48)は「試験貯水が始まったことは一つの節目。いま一番重要なのは3月末にダムを完成させることだ」。萩原さんはダム問題に関わってきた世代と、将来を担う世代の交流を促し、ダム湖を生かした地域活性化を思い描く。

 表裏一体なのが、ダムを受け入れる見返りに造られた公共施設や道路、下水道、公園などの維持管理問題。どう生かし、保っていくか。水没関係五地区連合対策委員会の桜井芳樹委員長(69)は「意識を共有し、各地区が足並みをそろえなければ」と語る。

 代替地への移転で様変わりした地域の中でも、特に川原湯地区の衰退が目立つ。移転前の最盛期には20軒以上あった温泉旅館は、代替地では数軒。地区のダム対策委員長、豊田幹雄さん(53)が経営していた柏屋旅館は11~12年、移転せずに取り壊した。代替地には介護福祉施設を建てた。

 旅館は江戸末期創業で、温泉街で最大規模だった。豊田さんは今年8月、水没予定地を歩いたが、どこにあったか思い出せないほど変わり果てていた。「取り壊した当時は思うところはあったが……。川原湯はダムを生かした観光をやって盛り上げていくしかない」と思いを新たにする。

 代替地で「やまた旅館」を営む豊田拓司さん(67)は、水没する温泉街を懐かしむ。「みんなが幼い頃から慣れ親しんだ場所が水につかってしまう。もう後戻りはできないんだな」

 民主党への政権交代時にはダム以外の道があるという可能性を感じたが、期待は裏切られた。「今は政治にあまり興味はない。国が一度決めたことは何も変わらないから」と、ぽつり。

 07年に亡くなった父・嘉雄さんは生前、ダム反対を貫いた。そんな父に共感はしなかったが、拓司さんは穏やかに言った。「ダムばかり気にかけていた父の墓に、『水がたまり出してダムに一区切りついたよ』と、線香でもあげてやろうかな」(丹野宗丈、泉野尚彦)
     ◇
 〈八ツ場ダム〉 ダム本体の重さで水圧に耐える重力式コンクリートダムで、本体の高さは116メートル。完成後は利水と治水、発電の多目的ダムとなり、総貯水量は1億750万立方メートルで、東京ドーム約87杯分という。

「事実は受け入れる」 建設見直し求めた市民団体
 水問題研究家で、八ツ場ダムの建設見直しを求めてきた市民団体「八ツ場あしたの会」の嶋津暉之さん(75)は「建設反対を訴えてきたが、水がたまり出したことをまずは事実として受け入れたい」と声を落とした。

 嶋津さんは大学院生だった1970年ごろ、反対運動が盛んだった長野原町を訪れて地元への影響の大きさを実感して以来、ダム問題に取り組んできた。「首都圏の水需要が減少傾向にあり、治水効果も非常に小さい」と、一貫して不必要なダムと主張してきた。

 あしたの会は近年、住民が移転した代替地の地盤の安全性などを危惧し、国土交通省に問いただしてきた。嶋津さんは「明確な回答がないうちに貯水が始まってしまった」と批判する。

 09年の民主党への政権交代で建設中止に傾いた計画は、再び息を吹き返してこの日を迎えた。「動き出したら何が何でも止まらないのが公共事業。残念だが、引き続き問題があれば追及していく。八ツ場だけでなく、全国でおかしな計画は止めたい」

◆2019年10月1日 朝日新聞群馬版
http://digital.asahi.com/area/gunma/articles/MTW20191001100580001.html
ーきょうにも試験貯水開始ー

  国が建設中の八ツ場ダム(長野原町)で、試験貯水が1日に始まる見通しになった。3~4カ月で満水位の標高583メートルまで水をためる予定。半年間でダム本体の強度、基礎地盤とダム湖周辺の斜面の安全性などを確認し、異常がなければ来春以降、ダムとして使い始める予定だ。
 国土交通省八ツ場ダム工事事務所が30日、水没5地区の住民にチラシを配布した。これまでは具体的な期日は明らかにしていなかった。気象条件や河川の流況で延期する場合もあるという。
 ダム工事事務所によると、1日は午前9時にもダム本体中央下のゲートを閉じて吾妻川をせき止め、潜水士が潜ってゲートの密閉具合を確かめる。ダム上流域の天候などに左右されて時期は前後する可能性があるものの、1カ月弱で最低水位の標高536メートルまで水がたまり、水没前の姿を残す橋や道路などは水底に沈む見通しだという。
 川原湯温泉の老舗旅館「山木館」の樋田勇人さん(25)は貯水開始の突然の知らせに驚いた様子。「かつて住民が住んだ場所が水に沈んで見えなくなるさみしさ、ダム完成後に普通の生活を取り戻せるのかという不安。それでも何とか前に進まなければいけないという気持ちがあって複雑です」と胸中を吐露した。(丹野宗丈)

◆2019年10月2日 上毛新聞
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/163852
ー八ツ場ダム 試験湛水開始 計画から67年 3~4カ月で満水見通しー

一面
 計画発表から67年が経過し、建設が最終段階を迎えた群馬県の八ツ場ダム(長野原町)で、国土交通省は1日、ダムに水をためる試験湛水たんすいを始めた。約半年間かけて水位を上下させ、堤体や貯水池周辺の安全性を確認する。気象条件や河川の状況にもよるが、3~4カ月で満水となる見通し。漏水や地滑りなどの異常がなければ、来春以降にダムとして利用を開始する。

 同省八ツ場ダム工事事務所によると、ダム上流面に設置した「締切しめきりゲート」を下げて仮排水路を閉鎖し、同日午前10時40分に試験湛水を開始した。閉鎖作業中、ゲート付近に「八ツ場ダム 湛水開始」と書かれた幕が張られた。

 赤羽一嘉国交相は同日の閣議後会見で、「本年度中のダム完成に向けて着実に事業を進め、地元の皆さまに役立つようにしっかり取り組みたい」と述べた。

 ダム建設に伴い、県は周辺道路の付け替えなど、地元の生活再建事業に取り組んできた。山本一太知事は同日の記者会見で「(生活再建は)大事な問題だと思っている。県として責任を持ってやり遂げていく」と語った。

社会面
八ッ場で試験湛水始まる 「どんな景色に」 観光客  無事完了願う声も
 八ツ場ダムの試験湛水が開始された1日、ダム周辺は多くの観光客でにぎわった。住民は完成の最終段階を迎えたダムの姿を胸にとどめつつ、無事に湛水が完了し、ダムが誘客の追い風となることを願った。

 ダム本体を見渡せる無料の展望台「やんば見放台」(長野原町川原畑)には朝から多くの人が途切れることなく訪れた。工事中から見守ってきたという峯岸和人さん(44)=太田市=は「工事をしている時は昔の景色がなくなってしまうのが寂しかったが、完成したダム本体は想像以上に壮大。これから水がたまってどんな景色になるのか楽しみ」と目を輝かせた。近くでうどん店を営む中島泰さん(70)は「朝から駐車場がいっぱいで、平日なのに週末のようなにぎわいだった。ダム湖を中心に、にぎやかな地域になってほしい」と期待した。

 湛水中は地滑りや漏水などの異常が発生することも懸念され、住民からは無事を願う声が聞かれた。午前9時から行われたゲートの閉塞へいそく作業を見守った同町川原湯地区の60代男性は「水をため始め、ようやく一区切りという感じ。事故なく湛水が完了してくれれば」とした。ダム近くでレストランを営む水出耕一さん(65)は「ダム完成後も住民の生活は続く。完成がゴールではない。ダムがしっかりと機能するまで見守りたい」と話した。


◆2019年10月2日 産経新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191001-00000016-san-l10
ー八ツ場ダムの試験湛水開始ー

 来年3月末に完成予定の八ツ場ダム(長野原町)で1日、安全性確認のため吾妻川の水をためる試験湛水(たんすい)が始まった。問題がなければ来春以降、ダムとして運用。洪水調整を行うほか、群馬、東京、埼玉、千葉の1都3県の水道、工業用水を供給する。

 国土交通省八ツ場ダム工事事務所によると、午前10時にダム本体の上流面の下部に設置した締切(しめきり)ゲートを降下させ、堤内仮排水路を閉め試験湛水を開始した。

 今後3~4カ月かけて常時満水位(標高583メートル)までためる予定。

 その後、1日に約1メートルずつ最低水位(同536・3メートル)まで下げながらダム本体や基礎地盤からの水漏れがないか、観測機器などで貯水池周辺の安全性を監視する。

 昭和27年の計画発表から70年近くがたった現在、ダム周辺は整備され、かつての川原湯温泉街は姿を消した。中央を吾妻川が流れ、旧国道145号が通っていた橋とJR吾妻線の鉄橋が残っているだけだ。

 川原湯温泉協会の樋田省三会長は「生まれ育った故郷がダム湖に沈むのは寂しい。ダム建設がもたらした住民の苦しみ、悲しみも一緒に湖底に沈め、(代替地で)川原湯温泉を再建していくつもり」と話した。

 この日は爽やかな秋晴れの下、ダム工事を見下ろせる展望台「やんば見放台」で多くの観光客らが、水をため始めたダムの様子を撮影していた。

 夫婦で訪れた高崎市の会社員、大谷治さん(43)は「完成したら新たな川原湯温泉を楽しみたい」と話した。

写真=ダム堤の上流側。試験湛水開始前、10/1撮影。

写真=試験湛水3日目。10/3撮影。上の写真より水位が上がっている。

写真=階段の赤い目盛りは標高を示している。標高487メートルあたりか? 報道によれば、「最低水位(標高536.3㍍)以下まで下げることはない。」とのことであるから、この地点はダムがある限り水の中ということになる。 10/3撮影。