八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム、試験湛水一週間

 八ッ場ダムの試験湛水が10月1日に開始されて一週間がたちました。

 ダム予定地を流れる吾妻川は、これまで東京電力がダム下流の水力発電所で利用する水をダム予定地上流(長野原取水堰)で大量に取水してきたため、大雨が降らないと水量がわずかでしたが、試験湛水から一週間たち、東京電力が取水量を減らしたことで、今週に入って一気に水位が上がり始めました。伐採されずに残されている吾妻川の渓畔林は、紅葉を待たずに濁った水に浸かり始めています。
 
 水位の上昇が顕著なダム堤付近では、国の名勝に指定されている白糸の滝周辺の景勝地が水没し、瀧見橋の橋桁も水の底に消えました。
 鉄道ファンによく知られるトラス橋ー第二吾妻川橋梁と第三吾妻川橋梁ーと、これらの鉄橋と並行して走っていた旧国道の八ッ場大橋と千歳新橋も沈もうとしています。週末には台風の襲来が予報されており、さらに水位の上昇が早くなるかもしれません。
 ダム堤周辺の展望台や湖面橋では、刻々と変化する風景を見ようと、観光客が鈴なりですが、群馬版の新聞では、こうした状況に取り残された水没住民の言葉を伝えています。朝日新聞が紹介している富澤さんは川原湯地区の専業農家で、長野原町会議長を務めた方です。冨澤さんの引退後、川原湯地区からは町会議員が出ていません。

◆2019年10月8日 朝日新聞群馬版
https://digital.asahi.com/articles/ASMB75D89MB7UHNB00J.html
ー八ツ場ダム 試験貯水1週間 見学に人波ー

  国が来春の完成を目指す八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)で試験貯水を始めて1週間。ダム周辺では平日の7日も、沈みゆく景色を眺める地元住民や観光客の姿が目立った。ダム本体を間近に見る展望台には一時、行列もできた。

 川原湯地区に住む冨澤吉太郎さん(79)も八ツ場大橋を歩いて水没の様子を見た。「見慣れた橋や木々が更地にならずに案外残されたので、だんだん水につかるのを見るのも嫌だな」

 試験貯水を1日から始めた国土交通省八ツ場ダム工事事務所は、ホームページでダム湖の水位情報の公開を準備中だという。(菅野雄介、丹野宗丈)

◆2019年10月9日 上毛新聞 (紙面記事より転載)
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/165459
ー八ツ場 試験湛水1週間 ダム湖徐々にー

  水をためて安全性を確認する試験湛水(たんすい)が1日に始まった八ツ場ダム(長野原町)について、国土交通省八ツ場ダム工事事務所は8日、貯水状況を発表した。7日午前10時の時点で、堤体付近の貯水位は湛水開始前と比べ約20メートル上昇した。今後は毎週火曜午後2時に、同事務所のホームページで情報を更新する。

 水位の上昇により、かつて巨大クレーンを支えていた堤体前の足場は見えなくなり、旧国道145号も水没し始めた。残されている旧JR吾妻線の鉄橋や旧八ツ場大橋なども間もなく水没する見込み。周囲の展望スペースには、試験湛水の様子を見ようと、連日多くの人が訪れている。

 沼田市から訪れた樋口義幸さん(60)は「草津に行く際に通った国道や、今見えている鉄橋も水没する。寂しい思いもあるが、今しか見られない景色を目にできて良かった」と話した。
 近くの代替地に住む女性(87)は、故郷が水没することに心を痛めながら湖面を見下ろした。「水がたまり始めると知って涙が出てきた」と心境を振り返り、「寂しさやつらい気持ちの方が大きい。ダムで苦労した地元の気持ちも忘れないでほしい」と胸中を語った。

—転載終わり—

写真下=吾妻渓谷の上流端にあるJR吾妻線の旧・第二吾妻川橋梁と旧国道の八ッ場大橋。鉄橋の背後に、湖面に写っているダム堤が見える。白糸の滝の流れていたあたりに、流木止めのオレンジ色のブイが浮かんでいる。2019年10月7日撮影

写真下=吾妻峡・十勝の一つ、白糸の滝の特徴のある滝壺と、多くの観光客が白糸の滝や第二吾妻川橋梁のトラス橋などを鑑賞するために訪れた瀧見橋の橋桁はこの日が見納めとなった。2019年10月6日撮影。

写真下=吾妻川の渓畔林は伐採されることなく水に浸り始めている。2019年10月7日撮影。