上毛新聞連載記事「八ッ場新時代~動き出す地域再生」(6)~(8)

 「試験湛水」が開始されたのを機に、地元の上毛新聞が八ッ場ダムを抱える地域のこれからの課題について連載を始めた「八ッ場新時代~動き出す地域再生」は本日(10月12日)の第8回が最終回でした。
 第6回から第8回までの記事を全文転載します。
 これまでの記事については、こちらのページをご参照ください。
 ➡上毛新聞連載記事「八ッ場新時代~動き出す地域再生」

◆6 安全対策 試験湛水の結果 注視(10月10日) 
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/165664

 群馬県の八ツ場ダムに水をためる試験湛水たんすい 。長期にわたる反対運動から「東の八ツ場、西の大滝」と呼ばれた大滝ダム(奈良県)は試験湛水中に地滑りが発生し、地域住民が移転を余儀なくされた。八ツ場でどのような結果が出るか、関係者は固唾かたずをのんで見守っている。

計測や巡視で異変を監視
 ダム堤体のゲートが1日に閉じられ、吾妻川がせき止められた。常時満水位(標高583メートル)まで水をため、その後は原則1日1メートル以内で水を抜いて最低水位(同536.3メートル)まで下げる。早ければ12月末に満水になる見通しだ。

 国土交通省八ツ場ダム工事事務所によると、期間中は計測や巡視によって水位の変動に伴う異変を監視する。堤体は漏水量や変形量、貯水池周辺は地下水位や傾斜などを把握し、地滑りなどが確認されれば安全確保のため湛水を止める。

 ダム建設に反対の立場の市民グループ「八ッ場あしたの会」は、代替地と貯水池周辺の安全対策に問題があると訴え続けている。今年3月に国交省に提出した質問書では、2011年の民主党政権下での検証報告書と比べると、安全対策箇所が5から3、地滑り対策箇所が10から5に減り、工法も安価なものに後退していると主張。超党派の国会議員連盟「公共事業チェック議員の会」も国交省から公開ヒアリングしたり質問書を提出したりした。

 八ッ場あしたの会運営委員で、水源開発問題全国連絡会共同代表の嶋津暉之さん(75)=埼玉県=は「安全対策変更の背景には、ダム建設費用はの節減が考えられる。国による具体的な説明は不十分。地滑りなど危険な状況が発生してからでは遅い」と指摘する。

責任もって国は完成を
 これに対し国交省八ッ場ダム工事事務所の朝田将所長は「11年の検証は、その時点で対策の必要がある箇所を示したもの。その後に調査や検討を積み重ねた上でベストな対策を行っている」と説s名。相当数のボーリング調査を実施し、水を貯めた際の予測もしているという。

 地元住民からは「国を信じるしかない」との声も多く聞かれるが、不安視する人も。水没地区の男性(82)は「水がたまればどこで何が起こるか予測できない部分もあるだろう。地元に影響がないよう、国には最後まで責任を持ってしっかり進めてほしい」と注文を付ける。

写真=水がたまり始めた八ッ場ダム貯水池と水没住民の移転代替地(川原湯地区)。湛水に備えた安全対策工事はまだ終了していないが、見切り発車で試験湛水が始まった。2019年10月10日撮影。


◆7 ダム湖の利用 水面を観光の起爆剤に(10月11日)
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/165935

 緑の山々に囲まれた、面積約3平方キロメートルの水面みなもを水陸両用バスや観光船、カヌーが行き交う―。八ツ場ダム完成後に姿を現すダム湖のイメージだ。観光資源として高いポテンシャルがあるとみて地元の期待は膨らんでいる。

水陸両用のバスを目玉に
 群馬県長野原町が水没地区と議論を重ねた結果、具体的な利用策として、水陸両用バスと観光船の運航、カヌーやカヤック、SUPの貸し出し、バンジージャンプといったアクティビティー(遊び)が決定。ダム湖利用について検討する「八ツ場ダム貯水池水面利用協議会」(会長・萩原睦男町長)が今年3月、町、国、県、消防、警察、地元住民をメンバーに発足し、利用ルールや安全対策などについて話し合っている。

 目玉となるのは、観光船と県内初となる水陸両用バスだ。船は道の駅「八ツ場ふるさと館」近くに整備される水辺公園の浮桟橋を発着点に秋から春にかけて運航される。バスは春から秋にかけてで、車体にはだんご相撲や旧役場庁舎、川原湯温泉の奇祭「湯かけ祭り」など水没5地区を象徴するデザインをあしらう。

 町が定員32人の船を2隻。同40人のバスを1台購入し、船は道の駅、バスは湯西川ダム(栃木県日光市)で同様の事業を展開しているNPO法人日本水陸両用車協会(東京)に運営委託する方針だ。アクティビティーで観光客の対策時間が延びれば、観光消費額の増加につながるだけに、佐藤修二郎ダム担当副町長は「観光客を呼び込む起爆剤にしたい」と期待を込める。

水位さがる夏場不安視

 関係者が不安視しているのは、洪水に備えて貯水位を下げる夏場の景観だ。満水となる冬場より約30㍍水位が下がり、斜面の岩肌がむき出しになる。ダムの宿命とも言えるが、影響を和らげるためにも湖面利用でにぎわいを創出できるかが焦点となる。

 年間を通じた水位の変動に伴う対応も必要だ。水位が下がると沈んでいた橋が姿を現す場所があるため、船やバスの運営業者は水位のデータを把握する必要がある。現在、協議会が詳細なルートについて詰めの議論を行っている。

 ダム湖近くでレストランを経営する川原湯温泉協会の樋田省三会長は「アクティビティーや八ッ場観光の大きな目玉の一つ。周囲の景観も見違えるように良くなると思うので、ダムが水をたたえた姿を早く見てみたい」と期待する。

下図=国交省八ッ場ダム工事事務所がダム予定地区の住民に配布した資料。常時満水位(標高583㍍)より上にある橋はダム湖の湖面橋。ダム完成後、国交省はダム湖観光を住民に推奨してきたが、ダム湖内には撤去されずに残された橋があり、水陸両用バスや観光船を運航する場合、水位の上下に応じた配慮が必要になる。

◆8 工事事務所・朝田所長に聞く 地元の支援 最後まで(10月12日)

 計画発表から67年が経過した八ッ場ダム(長野原町)の建設事業は、水をためて安全性を確認する最終工程の試験湛水に入った。事業主体である国土交通省八ッ場ダム工事事務所の朝田将所長(45)に今後の見通しなどを聞いた。

水没の地域 常に忘れず

 ー試験湛水が始まった。所感は。
 区切りと言われるが、まだ終わっていないというのが率直な気持ち。堤体が水を止める役割を果たしているのか、斜面の地滑り対策がきちんと機能しているのか、積み上げてきたことをしっかり確認するという緊張感がある。一方、地元の方は違った受け止め方をしていると思う。水没地は多くの人が生活し、旧川原湯温泉といった文化があり、雇用や学びの場でもあった。そこは常に心の中に持っていなければならないと思っている。

 ー今後の見通しは。
 過去の吾妻川の流況から3,4カ月で最高水位に達するとみられる。断面がⅤ字なので最初は水位の上昇が早い。紅葉が始まるころにはもっと水位が上がっていると思う。

湛水の判断しっかりと

 ー地滑りなどの変化をどうチェックするのか。
 巡視や計器のデータで堤体や貯水池の斜面で何が起こっているのか毎日確認する。動きが止まったのか、続いているのか、拡大しそうなのか見極めることが重要。湛水を続けて良いのかをしっかりと判断し、しかるべき際には町や地元の方にお知らせする。

 ーダム建設を巡って地元と対立した時期があったが、現在は協力して観光地化に取り組んでいる。
 振り返ってまず思うのは、苦渋の決断をしていただいた地元の方々への感謝。先祖伝来であり、ご自身や子どもたちが生まれ育った土地が水没するのはとても大きなこと。地元の方から信頼を頂けたとは思っていないが、歴代や現在の職員が感謝の気持ちを持って住民の方と接してきたことが今につながっている。

 -ダム完成後に事務所は閉鎖され、堤体近くの管理棟に拠点が移る。現在約70人いる職員の大幅な減少に不安を感じる住民もいる。
 ダム完成後は管理者としての立場だけではなく、政府の窓口としてよろず屋的な役割も果たさないといけない。生活再建の相談にも引き続き応じる。周辺にできる施設を生かすために我々に何ができるのか。地元の方が主役ということを踏まえた上で、国としての支援を最後までやり遂げたい。(終わり)

 この連載は斉藤弘伸、桜井俊大が担当しました。

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写真下=2002年まで、左手の空き地に、水没地区の子どもたちが通う長野原第一小学校があった。沈みつつある吾妻川沿いの旧国道は、川原湯や川原畑の子どもたちの通学路だった。対岸の川原湯地区上湯原と旧国道を繋いだ栄橋も、撮影後に沈んだ。国道が下流からひたひたと水に浸かり、水没したガードレールが白いラインとなって見える。
 栄橋の下流側には、国の天然記念物・川原湯岩脈があり、このあたりは川原湯温泉の観光スポットの一つであったが、この時点ですでに川原湯岩脈(臥龍岩)は水没していた。2019年10月10日撮影。〈参照〉文化遺産オンライン「川原湯岩脈」