宮城県が水道、下水道、工業用水道の3事業の運営権を一括して民間事業者に売却する制度の導入に向け、25日開会の県議会11月定例会に条例改正案を提出します。宮城県は「20年間で少なくとも200億円の経費が節減できる」と説明していますが、水道事業を民間に委託することにより、水質が悪化したり、水道料金が値上げされても水道事業の中身が県民には見えにくくなる可能性が大きく、県内では反対運動が起きています。
村井嘉浩県知事は水道民営化のトップランナーになりたいという功名心で水道事業の民営化を目指しているようで、危うさを感じさせる宮城県の動きです。
◆2019年11月15日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191115/k10012177921000.html
ー上水道含む水道運営権の民間売却 宮城県が全国初の条例案ー
全国で初となる、上水道も含めた水道事業の運営権を民間企業に売却する方式の導入を目指している宮城県は、企業を選定する際の基準などを盛り込んだ条例の改正案をまとめました。県は、20年間で少なくとも200億円の経費が削減できるとしていて、早期の成立を図る方針です。
宮城県は、上水道と下水道、工業用水の3つの水道事業の施設を保有したまま、運営権だけを民間企業に売却する「コンセッション方式」の導入を目指していて、実現に向けた条例の改正案をまとめました。
それによりますと、売却する企業は公募するとしたうえで、選考の基準として、長期的な経営能力が確保される見込みがあることや、技術や経営資源を活用して運営コストを削減できることなどが盛り込まれています。
このほか、条例には、県が別に基準を定めると明記されていて、県は、3年以上の経験があることや、外国企業の場合は、日本法人の取得が必要なことなども求める方針です。
県は、この方式が実現すれば、20年間で少なくとも200億円の経費削減を見込んでいて、今月開会する県議会に改正案を提出し、早期の成立を図る方針です。
水道事業の運営権の売却をめぐっては、浜松市が下水道で実施していますが、上水道も含めた運営権の売却が実現すれば全国で初めてとなります。
一方、県議会の一部からは「利益を追求する民間企業に任せると、水質の悪化や料金の上昇につながるのではないか」などと、懸念の声も上がっています。
人口減少で水道事業の将来に懸念も
全国的に人口減少が進む中で、水道の使用量は減り続けています。
去年、総務省の有識研究会がまとめた報告書では、水道の使用量は、2000年をピークに減少し始めていて、2065年には、ピーク時から4割減少すると推計されています。
そして、料金収入の減少に加え、老朽化した水道管など、施設の維持管理などにも費用がかさみ、水道料金を引き上げなければ経営が成り立たない自治体も出てくると指摘しています。
水道事業の運営を民間企業に売却する方式をめぐっては、浜松市が去年4月から下水道で導入しましたが、上水道は、水質悪化や料金の高騰を懸念する市民の声の高まりを受けて、導入を延期しています。
宮城県は、4年前から水道事業の運営を見直す検討を始めていて、去年12月、民間の参入を促す改正水道法が成立したこともあって、一気に議論が加速し、全国で初めてとなる方式の実現に向けて、条例の改正案の取りまとめに至りました。
◆2019年11月23日 産経新聞
https://news.livedoor.com/article/detail/17422667/
ー【深層リポート】宮城県、水道事業の運営権を民間に売却へ 災害対応に懸念の声もー
宮城県は、水道事業の運営権を民間に売却する制度の導入に向け、25日開会の県議会11月定例会に条例改正案を提出する。
人口減少に伴って水の需要が減る中で水道設備の更新費用が膨らんでおり、民間のノウハウを活用してコスト削減を図るのが狙いだ。一方、災害時の対応などに懸念があるとして反対の声も上がる。同様の悩みを多くの自治体が抱えるだけに、実現すれば全国初のケースとなる「みやぎ型管理運営方式」の成否は、県民だけでなく全国の自治体関係者が注視している。
コスト250億円削減
みやぎ方式では上水道と下水道、工業用水道の3事業の運営を民間に委ねる一方、設備の所有権は県に残して事業の最終責任を県が持つ。一般的にはコンセッション方式と呼ばれる。県は令和2年3月に事業者の公募に乗り出し、4年4月に運営権を民間に移すスケジュールを描く。
なぜ、運営権を委ねる必要があるのか。県の担当者は「現行制度のままでは水道料金の値上げがやむを得なくなる状況にあるため」と話す。
県の試算では給水量は20年後に現在の約80%、40年後には約70%に落ち込む。浄水場や水道管などの設備は昭和30年代に整備されたものもあり、更新には莫大な費用がかかる。「給水量の減少で収益は減っており、将来の財政負担を考えると改革は避けられない」と担当者は強調する。
県は3事業の運営権を民間に移せば、委託期間の20年間でコストを約250億円削減できるとしている。公募では長期的な経営能力などを選定基準とする方針だ。
「リスクが不安」
9月に県が行った意見公募(パブリックコメント)では「地元企業との連携や雇用などで地域の持続的な発展への貢献が期待できる」と評価する声があった一方、「民間企業に託さなければ運営できない理由が理解できない」「利潤追求や倒産などのリスクがある民間に委ねるのは不安」といった批判も寄せられた。
水道事業の民営化に反対する団体「命の水を守る市民ネットワークみやぎ」は「情報公開や説明が不十分だ」として、運営方式の素案を非公開で議論している有識者の会合を、原則公開にすることなどを要求。共同代表を務める徳島大の中嶋信名誉教授は「公共サービスの基本である住民福祉が、営利団体の事業活動では後回しになる可能性が高い。どのようなルールにするのか十分な議論が必要だ」と訴える。団体事務局の小川静治氏は「災害時に民間事業者が俊敏に対応できるのか大いに懸念がある」と指摘する。
10月の台風19号では県内各地で浄水場が被災し、断水が起きた。東日本大震災の被災地だけに、災害時の混乱に対する住民の不安は大きい。
全国で曲がり角
自治体の水道事業は全国で曲がり角に直面している。厚生労働省によると、法定耐用年数(40年)を超えた全国の水道管の割合は平成18年度は6%だったが、28年度には14・8%に拡大。給水原価が料金よりも高い「原価割れ」の上水道事業者は3分の1を占め、特に給水対象の人口が1万人未満の事業者は半数近くが原価割れとなっている。
政府は水道事業の基盤を強化する対策に乗り出し、広域化による規模拡大とコンセッション方式の促進を柱とする水道法改正案が30年12月に成立。宮城県の計画通りに進めば水道3事業での同方式の導入は全国の先駆けとなる。
県は民間事業者に現状と同等の水質を求め、専門家でつくる「経営審査委員会」(仮称)がチェックする体制を整える方針を示している。ただ、日常生活への影響が大きい水をめぐる改革だけに県民の関心は高く、不安は解消されていない。フランスでは民営化後に住民の反対が広がって再公営化した先例もあり、紆余(うよ)曲折も予想される。
■コンセッション方式 行政が公共施設などを保有したまま、運営権を民間企業に運営権を売却・委託する民営化手法の一つ。平成23年の民間資金活用による社会資本整備(PFI)法改正で導入された。行政側が売却資金を得られるとともに、民間のノウハウを生かして収支やサービスが改善されるメリットが期待される。関西、大阪、仙台の各空港のほか、浜松市の下水道処理施設などで導入されている。
【記者のひとりごと】
水道事業を抜本的に見直して自治体の業務が効率化され、水道料金の高騰を抑えられれば住民のメリットは大きい。だが、自然災害が多い日本では、諸外国にましてライフラインの安定的な維持が求められることは論をまたない。以前の取材で、東日本大震災で被災した自治体の水道関係者が「被災したから仕方ない、では済まされない。水道は強くあらねばならない」と話していたのを思い出す。数多くの災禍を経験した宮城県だからこそ、重要な行政サービスとして、安心・安全な水を提供し続ける方策を探り続けてほしい。(千葉元)
◆2019年11月18日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52309320Y9A111C1L01000/
ー宮城県、水道事業の改正条例案 200億円削減の効果求めるー
宮城県は18日、水道事業の運営を民間委託する「コンセッション方式」の導入効果について、民間事業者に約200億円のコスト削減効果を求めることを明らかにした。20年間の長期契約を結ぶことで民間のノウハウやスケールメリットを生かした削減を期待する。事業開始は2022年1月としていたが、制度移行のための準備期間を設けて同年4月に変更した。
コンセッション方式では上下水道と工業用水の3事業の施設を県が所有したままで、運営権を一括して民間事業者に売却する。新方式を導入した場合、総事業費は3067億円と従来に比べて約250億円のコスト削減ができる見通し。民間事業者には約200億円の削減効果を求めている。
実施方針案では事業者選定の条件を設けた。外資系企業の場合は日本法人の取得が必要で、水道事業では3年以上の運営実績があることなどを条件とした。水質の基準については現在と同じ水準を求めている。県や第三者からなる経営審査委員会によるモニタリングを実施し、水質や財務状況などを確認・監視する。
県は同日、11月議会定例会に提出する条例の改正案を示した。事業者の公募手続きや業務範囲、利用料金の設定などについて改正案をまとめた。議会で改正条例が成立した後、20年3月から運営事業者の公募を始め、21年3月には優先交渉権者を決める方針だ。
◆2019年11月19日 毎日新聞宮城版
https://mainichi.jp/articles/20191119/ddl/k04/040/189000c
ー水道民営化へ実施案 県、20年間で250億円削減ー
自治体が水道事業の認可を受けたまま運営権を民間委託する「コンセッション方式」の県内導入をめぐり、県は18日、実施方針案を公表した。事業費について担当者は導入後20年間で約250億円分の削減効果があると説明。事業者の選定を経て2022年4月に事業を開始する方針を示した。
10月1日に改正水道法が施行されたことを受け、県は上・下水道、工業用水の3事業一体の委託を可能にする条例案を県議会11月定例会に提出。可決されれば来年3月に事業者の公募を始める。
事業全体の削減幅約250億円のうち、業者側には約200億円の削減を求める方針。コスト削減などで各自治体への卸売価格は1立方メートルあたり10~20円下がる見込み。事業者については、1日当たりの処理能力2・5万立方メートル以上の浄水施設を連続3年以上運転管理した実績などを要件とする。
一方、同方式導入を巡ってはコスト削減による水質悪化などを懸念する市民の反発も根強い。田代浩次・県水道経営課長は「県の経営審査委員会を設置し経営を監視する。民間ノウハウの活用やIT化などでコスト削減しつつ、これまで通りの水質を維持する」と説明した。【遠藤大志】
◆2019年11月24日 河北新報
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201911/20191124_13009.html
ー「水道民営化止めよう」市民350人、仙台で集会ー
水道3事業の運営を民間に委ねる「みやぎ型管理運営方式」への慎重な議論などを求める市民団体主催の集会が23日、仙台市青葉区の肴町公園であった。
県内の9条の会や市民連合みやぎなどの約100団体でつくる県民運動連絡協議会みやぎが実施。約350人が参加した。
集会では、水道民営化による経営の実態やコスト削減効果などについて、県の説明が不足していると指摘。情報公開や県議会での十分な議論を求めた。
命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ(仙台市)の小川静治さん(69)は「パブリックコメントで寄せられた意見のうち、賛成はわずか。多くの県民が疑問の声を上げているにもかかわらず村井嘉浩知事は根本的な議論もなく推し進めようとしている」と主張。「県民の意思を反映しない政策は絶対に許してはいけない。丁寧な説明を求めていこう」と呼び掛けると、参加者から大きな拍手が起こった。
集会後、参加者は横断幕を掲げて中心商店街などを行進。「水道民営化をみんなの力で止めよう」などと訴えた。