八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

台風19号豪雨における利根川の前橋、玉村地点の水位

 さる1月30日、群馬県が策定した利根川中流圏域河川整備計画の資料一式が県より開示されました。
 以下の資料は開示資料の一つで、群馬県が管理する利根川中流圏域の河道データです。利根川河口から181.45キロメートル地点となる、群馬県伊勢崎市にある八斗島(やったじま)より5.05㌔上流から、八ッ場ダムが建設された吾妻川と利根川との合流地点のすぐ下流側に架かる大正橋付近までの区間の河道や堤防の状況がわかります。
 https://yamba-net.org/wp/wp-content/uploads/2020/02/6cd7eeae02b94b3266fc9d63c1a50098.pdf

 昨年10月12日に関東地方に襲来した台風19号の豪雨では、利根川の水位が上昇し、流域の自治体では避難指示を出したところもありました。
 利根川支流の吾妻川に建設された八ッ場ダムは、10月1日に試験湛水が始まっており、台風19号の洪水で初めて貯水を行ったことから注目され、台風直後から「八ッ場ダムが利根川流域(首都圏)を救った」との噂が流れました。
右写真=群馬県庁の脇を流れる利根川の濁流。

 当会の嶋津暉之さん(水問題研究家、元・東京都環境科学研究所研究員)が台風19号豪雨の際の水位データと上記の河道データをもとに、利根川中流圏域にある群馬県の前橋と玉村町上福島の観測所地点における水位のグラフを作成しましたので、紹介させていただきます。

1.前橋観測所地点 
 以下は群馬県庁のある前橋地点のグラフです。河道データと同じ標高の数字を使っています。
 (グラフをクリックすると拡大表示されます。)
★利根川前橋の水位変化20201012-13のサムネイル

 群馬県庁のすぐ下流の前橋地点(河口から202.1キロメートル)では、台風19号豪雨で観測された最高水位は標高98・805メートルでした。

 前橋地点(河口から181.45キロメートル)の計画堤防高は103.60メートルです。計画堤防高とは、想定される洪水の最大流量に備えてつくる堤防の高さです。
 右図は国土交通省の「川の防災情報」サイトに掲載されている前橋観測所付近の利根川の断面図です。この地点では利根川両岸の自然の崖が観測所の基準面から14メートル以上の高さまであります。
(右図の利根川の水位はHP掲載時のもので、台風19号豪雨の際は左軸の水位が9.71メートルまで上がりました。)

 上のグラフで示されている標高を観測所の基準面からの高さに直すと、観測最高水位は9.71メートル、計画堤防高は14.505メートルとなります。
 前橋は八ッ場ダムが建設された吾妻川と利根川の合流点に最も近い市街地です。ダムの治水効果はダムから下流へ行くにつれて減衰していきますので、利根川流域で最も八ッ場ダムの恩恵を受けるのは前橋市ということになりますが、前橋地点では利根川両岸の自然の崖が計画堤防高の高さを確保しており、台風19号の豪雨では観測最高水位がこれよりはるかに低かったことから、台風19号のときに八ッ場ダムがあってもなくても洪水が河道から溢れる心配がなかったことがわかります。

2.上福島観測所(玉村町)地点
 次に、前橋から10キロあまり下流の上福島(玉村町、河口から190.73キロメートル)を見てみます。
★利根川上福島の水位変化20191012-13のサムネイル

 河道データには利根川河口から190.73キロの上福島の数字は示されていませんが、190.73キロ地点に最も近い190.80キロ地点では計画堤防高が実際の堤防高より高いこと、190.80キロ地点から190.60キロ地点の区間の河道データで堤防高と計画堤防高のラインが重なっていることから、上福島地点における堤防高は計画堤防高とほぼ同じ高さを確保していることがわかります。
 上福島地点における計画堤防高は73.27メートルですから、台風19号豪雨における観測最高水位71.22メートルより堤防が約2メートル高かったことがわかります。
 実際、台風直後に玉村町で利根川の堤防やサイクリングルードの様子を見に行った人たちも、水位の跡と堤防の天端の高さには2メートルほどの差があったことを確認しています。
 上福島地点では、前橋地点ほどではありませんが堤防に余裕があり、八ッ場ダムがなくとも洪水が溢れることはなかったと考えられます。

写真下=玉村町上福島流量観測所の計測器。利根川サイクリングロードが走り、その左手は竹藪になっている。利根川は竹藪の背後を流れている。昨年10月の台風19号のときには、サイクリングロードが水に浸かったが、サイクリングロードと堤防(右手)の天端には数メートルの標高差があり、洪水が溢れる心配はなかった。

*昨年10月の台風19号豪雨における上福島(玉村町)より下流の利根川の状況については、以下のページで解説しています。
 https://yamba-net.org/wp/49224/
 論座「八ツ場ダムは本当に利根川の氾濫を防いだのか?」(嶋津暉之、2019年10月29日)