資源採掘、ダムなどの人為的な要因によっても地震が引き起こされているという記事を紹介します。
「ダムの建設も167カ所で地震を引き起こしていた。しかもその規模は、数ある原因の中でも群を抜いて大きい。」とあります。
◆2020年3月20日 ナショナル・ジオグラフィック
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200320-00010001-nknatiogeo-sctch
ー人為的な地震は150年間で728件発生、ハザードマップにも【地震のはなし】ー
主な原因は資源採掘とダム、四川大地震とネパール大地震もそうだった
予測のできない天災だと考えられている地震。だが、最近ではそうとばかりも限らないようだ。
2017年に学術誌「Seismological Research Letters」に発表された研究によると、過去約150年の間に、人間の活動が原因の地震が728カ所で起こったという。人間が地殻の活動に影響を及ぼす例があることは以前から知られていたものの、マグニチュード7.9という大地震も引き起こしたという発表は、他の研究者らを驚かせた。
自然に起こる地震と同じく、人為的な地震も命に関わる危険をはらんでいる。そうした地震が人間や環境に及ぼす影響については、ようやく解明が始まったばかりだ。
ダムから核爆発まで原因はさまざま
人間が引き起こす地震の影響は、自然のそれと似ているが、過去に地震活動がほとんど、あるいはまったくない地域で起こる場合が多い。自然地震の大半は、地殻を構成するプレートが集まる場所に多い断層沿いで発生する。しかし、人間の活動が原因の地震は、プレートの境界から遠く離れた場所でも起こる。
地震を引き起こす人間の活動はさまざまだ。
論文によると、世界中で最も多い人為的地震の原因は資源の採掘だ(271カ所の採掘現場周辺に多くの地震が集中している)。地中から資源を取り出すことによって安定性が失われ、あるとき突然に崩壊して地震が引き起こされる。
ダムの建設も167カ所で地震を引き起こしていた。しかもその規模は、数ある原因の中でも群を抜いて大きい。
2008年、中国四川省でマグニチュード7.9の地震によっておよそ8万人の死者・行方不明者が出た。研究者らは、この四川大地震は紫坪埔ダムに貯えられた3億2000万トンの水の重量が引き金になったと考えている。紫坪埔ダムの下には断層線が通っているのだ。
米国の場合、人為的な地震は主に、近年多くの州で導入されている「水圧破砕法(フラッキング)」という石油・天然ガスの採掘が原因と言われている。米地質調査所(USGS)によると、水圧破砕法が引き起こす地震には、直接的なものと、作業の過程で排出される廃水によるものがある。この廃水は再び地中に高圧で戻されるので、さらに奥深くにある岩盤の断層を滑りやすくしてしまう。
研究では、水圧破砕自体による地震が29カ所、水圧破砕後の廃水の注入によるものが36カ所、また何らかの石油・ガス掘削に関わる廃水による小規模な揺れが12カ所で生じていたことがわかった。水圧破砕法による掘削が盛んに行われてきたオクラホマ州の場合、以前は比較的地震が少なかった地域において、年間数百回にのぼる小規模の地震が起こっている。
この他にも、核爆発による地震が22カ所、工事現場での地震も2カ所で確認された。
「人間が行う事業はすべて、地殻の活動に影響を及ぼします」。データを収集した英ダラム大学の地球物理学者マイルズ・ウィルソン氏はそう語る。「たとえば、地中に大量の物質を加えたり取り去ったりすれば、地球がその変化に反応するのは当然のことで、その反応が地震になることもあるわけです」
人為的な地震は増えている
ウィルソン氏が収集した人為的地震の記録は、古いものでは1868年前まで遡る。この記録をまとめたデータベース「HiQuake(Human-Induced Earthquake)」では、地震の日付、地域、マグニチュード、場所、原因などを確認できる。
HiQuakeでは、ユーザーが事例を報告する窓口も用意されている。
データベースによると、論文を発表した2017年までの10年間では、人為的地震が108カ所で発生しており、その規模は比較的小さいものからマグニチュード5.8までさまざまだった。こうした地震の大半が発生しているのは米国とカナダで、原因は地中への廃水の注入だという。
「長期的には、人為的な地震は世界中で増加していくでしょう。地球に影響を及ぼす事業の数と規模は増えていますから」とウィルソン氏は言う。実際のところ、2020年1月の時点でデータベースに登録された件数は1174にまで増えている。
この研究は、自社の事業が環境に与える影響を調べたいというオランダのネーデルランセ・アールドオイリー・マートスカパイ社の委託も受けて行われたものだ。ウィルソン氏は、地震をより深く理解することが、その影響を最小限に抑えることにつながると考えている。
地面を掘り返したり、廃水を地中に注入したりすることをすぐにやめることはできないだろう。それでも、2008年の四川大地震のような大災害に対する備えを充実させることはできるとウィルソン氏は言う。
人為的な地震を含むハザードマップも登場
人為的な地震に備えるそうした手立てのひとつにハザードマップがある。2016年、USGSは人間によって誘発される地震を初めて含めた危険度予測を発表した。対象とする地域は米国中部および東部で、オクラホマ、カンザス、コロラド、ニューメキシコ、テキサス、アーカンソーの各州で暮らす700万人が人為的な地震のリスクにさらされているとした。
特に危険度が高い一帯では、建物にひびが入ったり、倒壊したりする規模の人為的な地震が起こる確率は年間5~12%と見積もられた。これは、地震が多いことで知られるカリフォルニア州のある地域で起きる自然地震の発生確率とほぼ同じだ。
USGSが人為的な地震をハザードマップに加えたのは、先にも書いたように、オクラホマをはじめとする中部から東部でその発生回数が急増し、程度も激しくなっていたからだった。
こうしたハザードマップは、緊急時の対応策や建物の安全基準の作成だけでなく、保険料の算定などにも用いられる。「新たに誘発地震の危険度予測が加えられたことで、危険地帯とされた地域に住む住民や自治体は、事業者が行う石油や天然ガスの産出目的の掘削の影響で、これまで以上に金銭的負担を強いられることになるかもしれません」と、環境保護団体シエラクラブのオクラホマ支部長ジョンソン・ブリッジウォーター氏はナショナル ジオグラフィックに語った。
その後、オクラホマ州では住宅所有者による地震保険への加入率は約10%にまで増えた。これはカリフォルニア州とほぼ同じレベルで、「フラッキングブーム」以前は、オクラホマの地震危険度は低かったことから、住民や環境保護団体はシェールガスやシェールオイルを産出する事業者の責任を追及するべく動き始めている。
2015年には、クリスマス休暇中に2度の大きな地震が州都オクラホマシティとエドモンズを襲い、住宅所有者らが訴訟を起こした。シエラクラブの同州支部も、翌年にカンザスとの州境付近で起こったマグニチュード5.1の地震のあとに事業者を訴えた。
「オクラホマ州の人たちは、地震に備えて保険に入らざるを得ません。けれども、こうした保険料は、当然のことながら家計が支出すべきものではなく、本来ならばエネルギー産業界が負担すべきものだ、と怒っているのです」と、ブリッジウォーター氏は言う。
USGSのハザードマップの予測期間は、2016年から1年間に短縮された。これまでのマップは自然に地震が発生するリスクを長期間にわたって予測したものだった。しかし、現在発生している人為的な誘発地震のように、発生頻度そのものが、当局の政策や市場の変化で大きく変わることになるためだ。
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。世界のニュースを独自の視点でお伝えします。
文=Sarah Gibbens、Sarah Gilman/訳=北村京子、ルーバー荒井ハンナ