昨年10月に日本列島を襲った台風19号の豪雨は、試験湛水中の八ッ場ダムの水位を一気に上昇させました。台風通過後、満々と水をたたえたダム湖は大きな話題になり、八ッ場ダムが首都圏を救ったなどのフェイクニュースが流れました。
国土交通省は昨年11月に八ッ場ダムを含む利根川上流ダム群の治水効果について記者発表を行いました。
台風19号から半年たった今、改めて利根川流域の洪水対策を考えるために、国土交通省の記者発表と情報開示資料から判明したデータを踏まえた嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員)の考察を紹介します。
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国土交通省の発表「台風第19号における利根川上流ダム群の治水効果(速報)」(2019年11月5日)と八ッ場ダムの治水効果についての考察
上記の考察の要約
1.上流ダムの治水効果は、中下流に行くにつれて減衰していく。
具体例:2015年9月台風では、上流に4つのダムがある鬼怒川の下流(茨城県)で甚大な水害発生。
2.利根川における八ッ場ダムの洪水ピーク流量の低減率を国土交通省の以下の3通りの計算から検証した結果、八ッ場ダムによる洪水ピーク流量低減率は八斗島地点で8~9%であるが、そこから江戸川分流前の栗橋地点まで流れると、低減率は八斗島地点の1/3~2/5程度まで小さくなり、利根川下流部まで行くと、八斗島地点の1/10~1/7程度まで落ちる。
・八ッ場ダムの費用便益比算定のための計算(2009年)
・八ッ場ダムの費用便益比算定のための計算(2014年)
・ダム検証(2010~2011年)
3.国土交通省は2019年台風19号における利根川上流ダム群の水位低減効果を同年11月5日発表。
〇国土交通省はこの発表で、群馬県伊勢崎市八斗島(やったじま)における八ッ場ダム含む7ダム合計の水位低減効果を約1メートルとしたが、各ダムの水位低減効果と八斗島より下流での効果は発表しなかった。
〇記者発表の元資料を12月9日に国土交通省が情報開示したが、八斗島地点におけるダム調節効果の減衰率は9%以下と、あまりに小さく不自然であった。
まとめ
国土交通省が記者発表した「台風第19号における利根川上流7ダムの八斗島地点での水位低下約1m」の計算には基本的な疑問がある。
➀ 7ダムの効果を計算したのであるから、個別ダムの効果も示せるはずであるが、国交省は個別ダムの効果は求める予定がないとしている。これはこの計算にはその詳細を明らかにできない事情があることを示唆している。
➁ 国交省の計算では、利根川上流7ダムでの洪水調節効果が八斗島地点までの流下でさほど低下せず、低下の割合が9%より小さい数字になっているが、この数字は不自然であり、この計算にどれほどの科学的な根拠があるのか疑問である。
➂ 八斗島地点でダムによる洪水ピーク低減効果が仮にそれなりにあったとしても、その効果は利根川の中下流部ではかなり小さくなっていくから、台風19号についての国交省の計算結果は利根川におけるダムの役割を高く評価するものではない。