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論考「2019年台風19号と利根川・八斗島地点についての検討」

 昨年10月の台風19号による豪雨は、各地に甚大な被害をもたらしました。
 利根川本流では水位がかなり上昇したものの、堤防破堤などの水害が発生しなかったことから、台風襲来当時から現在に至るまで、試験湛水中の八ッ場ダムのおかげだとのフェイクニュースが流されてきました。

 当会では、台風直後の10月13日に、利根川中流域の埼玉県栗橋地点における八ッ場ダムの水位低減効果が17センチメートルであったとする嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員)の考察をホームページで公表しました。
 その後、国土交通省は11月5日、栗橋地点より51km上流の群馬県の八斗島(伊勢崎市)における利根川上流7ダムの水位低減効果について記者発表を行いました。しかし、八ッ場ダムなど個々の水位低減効果については公表せず、八斗島より下流での効果についても説明がありませんでした。
 台風19号から半年がたちましたが、その後、国交省から新たな発表はありません。

 このほど、嶋津さんが国土交通省の発表や情報公開資料を踏まえ、八斗島地点における八ッ場ダムの水位低減効果を試算した結果を新たな考察としてまとめましたので、紹介させていただきます。
 以下の考察によれば、八斗島地点における八ッ場ダムの水位低減効果は16~30㎝という計算結果であったとのことです。
 ダムの洪水調節効果は下流へ行くほど減衰しますので、栗橋より上流の八斗島での治水効果は栗橋地点より高いはずですが、予想外に低い数字となりました。これは、八斗島と栗橋の両地点における利根川の河道構造の違い、特に八斗島地点では利根川の川幅が広いことによるものではないか、とのことです。
 以下の文字列をクリックするとPDFデータ(3ページ)が開きます。

2019年台風19号と利根川・八斗島地点についての検討
 https://yamba-net.org/wp/wp-content/uploads/2020/04/563f7dc7ef8c37008d0537ed671b405e.pdf

〈参考ページ〉「国交省の発表と八ッ場ダムの治水効果についての考察」
 

 2019年台風19号と利根川・八斗島地点についての検討
                              
                 嶋津暉之
   

(1)八斗島地点の観測最高水位

 2019年台風19号における八斗島地点の観測最高水位は、図1の通り、4.11m(基準面からの高さ)であった。八斗島地点の計画高水位は5.28mで、余裕高は2mであるから、観測最高水位は計画堤防高に対して3m以上の余裕があり、越水の危険性は全くなかった。なお、八斗島地点のはん濫危険水位は4.80mであるから、はん濫危険水位に対しても約0.7mの余裕があった。
 なお、利根川の堤防の余裕高は八斗島付近から下流は2mとなっている。余裕高は計画高水流量10,000㎥/秒以上の区間は2mと定められている。八斗島付近の実際の堤防高は計画堤防高より高くなっている。

(2)八斗島地点の水位と流量の関係

 八斗島地点における近年(1998~2017年)の年最高水位と年最大流量の関係は図2の通りで、水位と流量との間でほぼ一定の関係式が得られる。図2においてこの関係式に対する2019年台風19号時の最高水位と最大流量〔注〕の関係を見ると、最高水位4.11mに対して国交省速報の最大流量12,776㎥/秒〔注〕は右の方、すなわち、大きい方にずれている。この関係式を当てはめると、台風19号時の最高水位4.11mの流量は約11,800㎥/秒になるから、国交省の速報値12,776㎥/秒は約1,000㎥/秒大きくなっている。この点で、国交省速報の最大流量がどこまで妥当な数字なのか、疑問がある。
 また、国交省が定めている利根川河川整備計画では、八斗島地点の河道目標流量は14,000㎥/秒で、これに対応する八斗島地点の計画高水位は5.28mである。これを図2にプロットすると、近年の水位流量関係式から見た河道目標流量に対応する水位は計画高水位より50㎝程度低い。これは河床の低下によって水位が計画値より低下してきていることを意味している。
 八斗島地点より約51㎞下流の栗橋地点(江戸川分岐点)では利根川中流部の河床が上昇して、流下能力が低下してきている傾向があるが、八斗島地点では逆に河床の低下傾向を読み取ることができる。この河床低下がこの付近の河道形態によるものか、河床掘削作業の結果であるのかは不明である。

〔注〕国交省速報の最大流量は、2019年11月5日に国交省関東地方整備局が発表した「台風第19号における利根川上流ダム群の治水効果(速報) ~利根川本川(八斗島地点)の水位を約1メートル低下~」の計算資料(2019年12月9日情報開示)による。

(3)国交省の既存資料から見た八斗島地点の八ッ場ダムの効果

 国交省は2009年3月と2014年3月の八ッ場ダムの費用便益比算定および2012年3月の八ッ場ダム検証で八ッ場ダムによって利根川の洪水ピーク流量をどの程度削減できるかの計算を行っている。2009年3月の八ッ場ダムの費用便益比算定で行った計算結果は図3の通りである。
 2019年台風19号洪水において八ッ場ダムによって八斗島地点でどの程度の水位低下になっていたかを図3の計算結果を使って試算してみることにする。
 台風19号洪水の洪水規模は1/50~1/100と考えられる。図3をみると、1/50~1/100の八斗島地点のピーク削減率は4.2~7.6%である。
 図2に示した近年の洪水の水位流量関係式から台風19号時の最高水位4.11mに対応する最大流量を求めると、約11,800㎥/秒である。八ッ場ダムがない場合に上記の4.2~7.6%の割合で最大流量が大きくなるとすると、11,800㎥/秒÷(1ー0.042~0.076)=12,300~12,800㎥/秒となる。
 この流量に対応する水位を図2の水位流量関係式から求めると、4.27~4.41mとなる。実績最高水位4.11mとの差は16~30㎝である。
 (1)で述べたように、八斗島地点の計画高水位は5.28mであるから、八ッ場ダムがない場合の水位4.27~4.41mは計画高水位を約0.9~1.0m下回っている。
 したがって、上記の計算では八斗島地点では八ッ場ダムがなくても越水することはなく、十分に安全側にあったことになる。